「介護老人保健施設入居中は他の病院を受診できない」と聞き、不安に感じている方も少なくないでしょう。
介護老人保健施設入居中の他科受診はできない場合もありますが、条件次第では認められます。
この記事では、他科受診ができない理由や認められるための条件、医療保険が利用できるサービスなどを中心に説明していきます。
また、介護老人保健施設入居中の他科受診についてのよくある質問についてもまとめたため、ぜひ参考にしてください。
老健(介護老人保健施設)の他科受診は施設負担となる
介護老人保健施設の利用者が、病院やクリニックへ診察にかかる「他科受診」でかかった費用は、原則施設負担です。
介護老人保健施設には医師が常駐しており、療養上の処置や内服薬・外用薬の処方などの基本的な医療ケアは、施設内で行われます。
そのため、緊急性の高いオペなどの定められた医療行為以外は、医療保険での請求ができず、施設側の負担となります。
介護老人保健施設に入所となる際に、「かかりつけ医にはかかれなくなります」「高額な薬は内服できなくなります」などの説明を受けた方もいるでしょう。
これは、かかりつけ医にかかった際の医療費や、内服薬代が施設負担になるためです。
中には、自費での診察であればよいと思い、外出中に施設に無断で病院にかかる方もいます。
しかし、自費であっても介護老人保健施設の利用者が病院に受診した際の料金は、すべて施設負担となります。
無断での受診は、施設側とのトラブルの原因となるため絶対にやめましょう。
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老健(介護老人保健施設)入所中の他科受診について
介護老人保健施設入居中の他科受診は基本的にはできません。
しかし、施設内での治療が困難と常駐の医師が認めた場合には、他科受診が可能です。
ここからは、以下の内容について詳しく説明します。
- 介護老人保健施設入居中に他科受診が認められる場合
- 他科受診の流れ
- 他科受診時の規定
介護老人保健施設入居中で、他科受診を希望している方はぜひ参考にしてください。
老健(介護老人保健施設)で他科受診が認められる場合
介護老人保健施設では、常駐している医師が認めた場合に限り、他科受診が可能です。
介護老人保健施設では、原則施設常駐の医師がかかりつけ医となります。
そのため、かかりつけ医である施設の医師が認めない限り、他科受診はできません。
具体的には、施設の医師が利用者を診察し「緊急性がある」「専門的治療が必要」などの理由で、施設内での診療が不可能と判断した場合のみ他科受診ができます。
眼科や精神科などにかかる必要のある症状は、専門性が強く、他科受診が認められるケースが多いです。
利用者の診察をせずに、不要な他科受診をさせてはいけない決まりがあるため、他科受診の前には、必ず施設の医師が診察を行います。
そのうえで、入院治療が必要か、通院での治療でよいかは受診先の医師ではなく施設の医師が決定します。
他科受診の流れ
介護老人保健施設入居中に他科受診をする場合には、常駐している医師に「診療情報提供書(依頼書)」を書いてもらわなければなりません。
他科受診をする利用者は、施設の医師に記載してもらった診療情報提供書(依頼書)と、介護保険の被保険者証を持参し受診します。
受診先の医師は診療情報提供書と被保険者証の2点で、患者が介護老人保健施設の利用者であると確認します。そのため、受診の際には必ず持参しましょう。
また、診療情報提供書には、利用者の生年月日・既往歴・要介護度・身体状況などの基本情報のほかに、他科受診を依頼する理由や、通院希望か入院希望かなどが記載されています。
受診先の医師は、診療情報提供書の内容を見て診察を進めていくため、非常に重要な書類です。
他科受診時の規定
介護老人保健施設の入居者が他科受診をする場合は、施設の医師と受診先の医師が連携しなければなりません。
そのため、以下の4つの規定が定められています。
- 施設医師は、往診を求める場合または医療機関に入所者を通院させる場合には、保険医に対し、診療状況に関する情報の提供を行うこと
- 保険医は、介護老人保健施設の入所者を診療する場合には、施設医師から介護老人保険健施設での診療状況に関する情報の提供を受けるものとし、その情報により適切な診療を行うこと
- 保険医は、入所者を診療した場合には、施設医師に対し入所者の療養上必要な情報提供を行うこと
- 施設医師は、保険医から入所者の療養上必要な情報の提供を受けるものとし、その情報により適切な診療を行うこと
(参考︰病院・診療所で行われる医療(他科受診))
介護老人保健施設利用者の治療代や治療薬は、すべて施設負担となるため、高額な治療や治療薬は使用できません。
そのため、施設の医師は他科受診先の医師へ、できるだけ安価な治療や治療薬を処方してほしい旨を伝えます。
- 関連記事介護老人保健施設(老健)には長期入所できる?ずっと入所できない時の対処法も解説!カテゴリ:介護老人保健施設更新日:2023-06-27
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老健(介護老人保健施設)入居者に医療保険を利用できるサービス一覧
介護老人保健施設は、施設内で行なわれるサービスで、すでに介護保険を利用しているため、それ以上の介護保険サービスは利用できません。
しかし、医療保険を利用したサービスは受けられます。
サービス内容は、大きく分けると以下の3つが対象です。
- 認められた医療行為
- 特定保険医療材料
- 在宅療養指導管理材料
ここからは、介護老人保健施設入居者が医療保険で利用できるサービス内容について、詳しく説明します。
認められた医療行為
介護老人保健施設の入居者が、医療保険の利用が認められている医療行為を表にまとめました。
分類 | 項目 | 併設保険医療機関 | 併設保険医療機関以外の保険医療機関 |
基本診療料 | ・初診料
・再診料 ・外来診療料 |
不可 | 可 |
医学管理等 | 診療情報提供料 | 不可 | 可 |
その他 | 不可 | 不可 | |
在宅医療 | 往診料 | 不可 | 可 |
・在宅自己腹膜灌流の薬剤料
・在宅療養指導管理の特定保険医療材料料および材料加算 |
可 | 可 | |
その他 | 不可 | 不可 | |
検査 | 検体検査
・呼吸循環機能検査等のうち心電図検査、負荷心電図検査 ・負荷試験等のうち肝および腎のクリアランステスト、内分泌負荷試験、糖負荷試験 |
不可 | 不可 |
その他 | 可 | 可 | |
画像診断 | 可 | 可 | |
投薬 | 以下の内服薬または外用薬
・抗悪性腫瘍剤(悪性新生物に罹患している患者に対して使用された場合のみ) ・抗ウイルス剤(B型肝炎またはC型肝炎の効能もしくは効果を有するものお よび後天性免疫不全症候群またはHlV感染症の効能もしくは効果を有するもの のみ) |
可 | 可 |
その他 | 不可 | 不可 | |
注射 | 以下の注射薬の費用
・ダルベポエチン(人工腎臓または腹膜灌流を受けている患者のうち腎性貧血 状態にあるものに投与された場合のみ) ・疼痛コントロールのための医療用麻薬 ・インターフェロン製剤(B型肝炎またはC型肝炎の効能もしくは効果を有す るもののみ) ・血友病の治療に係る血液凝固因子製剤および血液凝固因子抗体迂回活性複合 体 ・抗ウイルス剤(B型肝炎またはC型肝炎の効能もしくは効果を有するものお よび後天性免疫不全症候群またはHIV感染症の効能もしくは効果を有するも ののみ) |
可 | 可 |
その他 | 不可 | 不可 | |
リハビリステーション | ・脳血管疾患等リハビリテーション料
・運動器リハビリテーション料 ・摂食機能療法 ・視能訓練 |
不可 | 不可 |
その他 | 可 | 可 | |
精神科専門療法 | 不可 | 不可 |
処置 | 下記以外 | 可 | 可 |
・整形外科的処置
【一般処置】 ・創傷処置 ・手術後の創傷処置 ・ドレーン法(ドレナージ) ・腰椎穿刺 ・胸腔穿刺(洗浄、注入および排液を含む) ・腹腔穿刺(洗浄、注入および排液を含む) ・喀痰吸引 ・高位浣腸、高圧浣腸、洗腸 ・摘便 ・酸素吸入、酸素テント ・間歇的陽圧吸入法 ・肛門拡張法(徒手またはブジーによるもの) ・非還納性ヘルニア徒手整復法 ・痔核嵌頓整複法(脱肛を含む) 【救急処置】 ・救命のための気管内挿管 ・人工呼吸 ・非開胸的心マッサージ ・気管内洗浄 ・胃洗浄 【泌尿器科処置】 ・膀胱洗浄(薬液注入を含む) ・留置カテーテル設置 ・嵌頓包茎整復法(陰茎絞扼等) 【栄養処置】 ・鼻腔栄養 ・滋養浣腸 |
ふか | 不可 | |
手術 | 下記以外 | 可 | 可 |
・創傷処置
・皮膚切開術 ・デブリードマン ・爪甲除去術 ・ひよう疽手術 ・外耳道異物除去術 ・咽頭異物摘出術 ・顎関節脱臼非観血的整復術 ・血管露出術 |
不可 | 不可 | |
麻酔 | 下記以外 | 可 | 可 |
・静脈麻酔
・硬膜外ブロックにおける麻酔剤の持続的注入 |
不可 | 不可 | |
放射線治療 | 可 | 可 | |
病理診断 | 可 | 可 |
(参照:厚生労働省「介護老人保健施設入所者に対して医療保険から算定できる医療サービスの概要について」)
他科受診の際に自身が必要な医療行為が、医療保険の対象になるのかどうかを確認してください。
特定保険医療材料
特定保険医療材料とは、施設内での処置の際に使用する医療・衛生材料のうち、価格が決まっており、医療機関が計算する処置料金などとは別に計算できる医療材料を指します。
特定保険医療材料は以下の通りです。
- 腹膜透析液交換セット
- 在宅中心静脈栄養用輸液セット
- 在宅寝たきり患者処置用気管内ディスポーザブルカテーテル
- 在宅寝たきり患者処置用膀胱留置用ディスポーザブルカテーテル
- 在宅寝たきり患者処置用栄養用ディスポーザブルカテーテル
- 回路を含む在宅血液透析用特定保険医療材料(ダイアライザー、吸着型血液浄化器)
(参照:厚生労働省「介護老人保健施設入所者に対して医療保険から算定できる医療サービスの概要について」)
上記の医療材料は医療保険が適用されるため、施設側の負担なく使用可能です。
在宅療養指導管理材料
在宅療養指導管理材料とは、ある程度病状が安定している入居者が、在宅復帰する際に、自宅で使用する医療機器や、処置材料を指します。
在宅療養指導管理材料は、以下の通りです。
- 血糖自己測定器加算
- 注入器加算
- 間歇注入シリンジポンプ加算
- 注入器用注射針加算
- 紫外線殺菌器加算
- 自動腹膜灌流装置加算
- 透析液供給装置加算
- 酸素ボンベ加算
- 酸素濃縮装置加算
- 液化酸素装置加算
- 呼吸同調式デマンドバルブ加算
- 在宅中心静脈栄養法用輸液セット加算
- 注入ポンプ加算
- 在宅成分栄養経管栄養法用栄養管セット加算
- 間歇導尿用ディスポーザブルカテーテル加算
- 人工呼吸器加算
- 経鼻的持続陽圧呼吸療法用治療器加算
- 携帯型ディスポーザブル注入ポンプ加算
- 疼痛管理用送信器加算
- 携帯型精密輸液ポンプ加算
- 気管切開患者用人工鼻加算
(参照:厚生労働省「介護老人保健施設入所者に対して医療保険から算定できる医療サービスの概要について」)
これらの指導の際に使用する物品に関しては、医療保険の対象となるため、施設の負担はありません。
- 関連記事老健(介護老人保健施設)の薬は持ち込みなの?入所後の薬のシステムについて徹底解説!カテゴリ:介護老人保健施設更新日:2023-02-22
老健(介護老人保健施設)入居中の他科受診に関する疑問
ここからは、介護老人保健施設入居中の方が、他科受診に関して気になる疑問について答えていきます。
具体的な質問内容は、以下の4点です。
- 外出中、自費での他科受診ならしてよい?
- かかりつけ医には引き続きかかってよい?
- 他科受診したい場合には誰に言えばよい?
- 送迎は施設スタッフがしてくれる?家族に頼む?
施設のスタッフには聞きにくい場合もあるでしょう。ぜひ、他科受診に関する疑問を解決してください。
外出中に自費での他科受診ならしてよい?
自費であっても、施設の医師から許可の出ていない受診は控えましょう。
介護老人保健施設利用者の受診は、施設の医師の許可なく利用者の自費で受診した場合であっても、施設側の負担となります。
保険を利用せずに自費で受診すると、治療代や治療薬代が非常に高額になる可能性があります。
後々のトラブルになり兼ねないため、受診を希望する場合には、自費であっても医師の許可を得るようにしましょう。
かかりつけ医には引き続きかかってよい?
介護老人保健施設では、入居前にかかりつけ医であった病院への受診でも、他科受診となるため控えましょう。
介護老人保健施設に入居後は、施設の医師がかかりつけ医となります。
ただし、介護老人保健施設は在宅復帰が目的の施設のため、退所までの平均期間が6カ月間と比較的短期間です。
退所後に再診できるよう、施設入所のため休診する旨をかかりつけ医へ伝えておくとよいでしょう。
他科受診したい場合には誰に言えばよい?
入居中に他科受診したい場合には、まず施設のスタッフに伝えましょう。
他科受診を希望している旨を施設スタッフから医師へ伝えてくれます。
他科受診希望を聞いた医師が利用者を診察し、他科への受診が必要と判断した場合のみ、他科受診が可能です。
ただし、入居後の内服薬・点眼・外用薬などは、施設の医師が処方してくれます。
そのため、いきなり他科受診希望の旨を伝えるよりも、まずは施設内でしてもらえる処置について相談してみるとよいでしょう。
送迎は施設スタッフがしてくれる?家族に頼む?
送迎に関しては、施設によって異なるため事前に確認しておきましょう。
家族による送迎が必要な場合もあれば、施設スタッフが対応している場合もあります。
ほかにも、送迎に関しては施設スタッフが行い、家族には付き添いが依頼される場合などもあります。
通院が必要になった場合など、病院への送迎や付き添いが頻回になる場合もあるため、他科受診時の対応については必ず知っておきましょう。
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老健(介護老人保健施設)入居後の他科受診は条件次第で可能
介護老人保健施設入居後の他科受診は、施設内の医師が許可した場合に限り可能です。
他科受診の際にかかる費用はすべて施設側の負担となります。
あまりにも施設側の負担が大きくなってしまうと施設の運営が厳しくなるため、頻回な受診や高額な治療薬は断られる場合がほとんどです。
しかし、利用者には負担が生じないため、施設側の経営については理解しにくいのが事実です。
そのため、他科受診を希望する利用者と、頻回な受診は避けてほしい施設側では、意見の相違が発生しやすいです。
トラブルに発展させないためにも、普段から施設側とのコミュニケーションを図っていくとよいでしょう。
介護老人保健施設での診察代や治療代は、すべて施設側の負担となるため、あまりに高価な薬は使用できません。詳しくはこちらをご覧ください。
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