人生100年時代に突入した今、人生の主役である自分が生きたいように生きる、自分の人生の舵は最期まで自分で取る!これは、誰もが願うことです。
薬袋 淳子 教授
岐阜医療科学大学 看護学部 学部長
教授医学博士研究キーワード:在宅高齢者 認知症 健康寿命
日本エンドオブライフケア学会理事
山梨大学医学部社会医学講座、国際医療福祉大学を経て、岐阜医療科学大学に勤務し10年が経ちます。
人生の主役である自分がどう生きたいのか、そして最期をどう迎えたいのか、自分が生きたいように生きることができるためにを考えて、取り組んでおります。
現在は、認知症に移行させないための研究をメインに行っております。
私は、自分の人生の舵は最期まで自分で取る!をテーマに、各地で講演会を行っております。その際、「目指せ、何歳まで生きたいですか?」と問うと、「誰かのお世話になってまで生きたくない」と答える方が大半です。
歳をとり、できなくなった事を人に頼るのは当たり前で、そもそも社会とは、人という不完全な個が、できることをして、他の人のできないことを補いあい、全体としてうまく回るようにするものなのです。この「そもそもの社会」に遠慮しない社会でなければなりません。
しかし、人に迷惑をかけたくないと思うことは当然です。可能な限り心身ともに健康でいる、そして、人生の舵を自分で取る、そのためのキーワードは、「認知症」です。
「認知症」とは、様々な脳の病気により、脳の神経細胞の働きが徐々に悪くなり、認知機能(記憶、判断力など)が低下して、社会生活に支障をきたした状態をいいます。認知症の中で最も多いのはアルツハイマー型です。
世界的に有名な医学雑誌『ランセット(Lancet)』が2017年に発表した論文では、アルツハイマー型認知症の『自分次第で改善できる9つのリスク要因』を明らかにしました(Lancet. 2017;390:2673-734.)。そのうち、高年期(65歳超)では、喫煙、抑うつ、運動不足、社会的孤立、糖尿病の5つがリスク要因でした。
つまり、年を重ねれば誰もが認知症になるのではなく、生活習慣がカギになるということです。そして、特に重要なことは、認知症の多くは、「軽度認知障害(MCI: Mild Cognitive Impairment)」の時期を通過することです。このMCIを見過ごすと、約半数は5年以内に認知症に移行するといわれているのです。
そこで、私たちは2020年から「脱!MCI」に取り組んでおります。これは、地域で生活されている高齢者に対して、スクリーニング検査を行い、MCIを見つけ、健常に戻っていただくという取り組みです。この取り組みに参加された1期生259名のうち、MCIが疑われた人は68名(26.2%)で、1年後に健常に戻った人は52名(76.5%)でした。
どんな取り組みが効果的であったのかを分析した結果、効果の高さと継続のしやすさの上位は、「昨日の日記」「明日を考える」「声出し読み」「握力体操」でした。認知症予防の取り組みはたくさん行われており、メディアでも紹介されています。
しかし、その多くは、継続性に課題を残しています。私たちは、効果があったとされるものをノートに列挙し、毎日チェックしていただきました。
その結果、ほぼ毎日できたことが、「昨日私は、何をしてどうだった」を記録すること、「明日何をしよう?」と、寝る前に考えること、新聞のコラムなど「文章を声に出して読む」こと、「ボールをニギニギ、逆から数えて20回」することでした。
簡単なようですが、毎日行うことは容易ではありません。とにかく行ってください、とお願いして挑戦していただいた結果、これらが習慣化されて今では毎日のルーティンになったとおっしゃる方がほとんどでした。比例して、認知機能が回復し、「脱!MCI」が達成されたのです。
一方で、3~7日に1回程度の取り組みでは、認知機能の回復は認められませんでした。
私たちは、現在も「脱!MCI」を目指した取り組みを行っております。参加いただいている方は700人を超えました。この成果が、数年後に“認知症罹患者激減”として表れると信じております。
支える側も支えを必要とする側も、人生の主役である自分が生きたいように生きることができるように、そして最期まで自分の人生の舵取りができるように、これからも医療の専門家として、地域で生活する皆様に寄り添ってまいります。
【参考】
チェックノート
このノートを使い、700名以上の方が、認知症予防に取り組んでいます。