運動教室でできること

運動教室でできること
日々の適度な運動は健康的な生活を送るうえで大切です。高齢者においては特に重要です。本コラムでは高齢者が運動教室でできることと、それにより得られる効果について解説します。
井上 哲朗 教授
国際武道大学 体育学部 体育学科
健康運動指導士、上級トレーニング指導者
日本体育・スポーツ・健康学会、日本体力医学会、日本介護予防・健康づくり学会、日本体育測定評価学会、千葉県体育学会 など
金沢大学大学院教育学研究科保健体育専攻修了後、国際武道大学体育学部助手、講師、准教授を経て現職。長年、近隣自治体の健康増進教室等において、体力測定や運動指導を行っている。大学では、健康系関連の授業を担当し、フィットネストレーナー志望の学生の教育を行っている。専門は健康体力学。
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はじめに

日本の高齢者の割合は年々増加しています。2019(令和元)年の65歳以上の人口の割合は28.4%であり、2025年には29.8%、2040年には34.5%になる見込みです。高齢者の割合の増加に伴って、要介護者数も増加傾向にあります。要介護の認定者数は2021(令和3)年度で689万6千人であり、増加の一途をたどっています。

平均寿命の延伸とともに健康寿命も伸びてきています。健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」です。2019(令和元)年の平均寿命は、男性81.41歳、女性87.45歳に対して、健康寿命は、男性72.68歳、女性が75.38歳であり、平均寿命と健康寿命との差は、男性8.73歳、女性12.07歳となっています。男女とも、平均寿命と健康寿命には10年前後の差があり、人生の最後半は、要介護・要支援が必要となっています。この平均寿命と健康寿命の差を短縮することが社会的な課題となっています。男性の差は、短縮傾向にありますが、女性の差は横ばい状態です。

要介護になってしまう原因としては、運動器疾患の割合が高くなっています。要介護の原因は骨折・転倒、関節疾患、脊髄損傷を合わせて24.8%になります。しかし、運動をすることによってメタボリックシンドロームをはじめとする生活習慣病や、ロコモティブシンドロームフレイルサルコペニアといった高齢期の運動器疾患の予防に繋げることが可能です。

高齢化が進行する現代において、運動を継続することは高齢者の健康寿命の延伸に有効な手段です。

フレイルとは

フレイル(Frailty)とは、虚弱という意味であり、加齢に伴って、さまざまな臓器機能の変化や予備能力の低下が起こり、外的ストレスに対する脆弱性が亢進した状態で、種々の障害(日常生活自立度低下、転倒、独居困難、合併症憎悪、入院、死亡など)に陥りやすくなった状態のことをいいます。

自立性は失われていない段階ですが、加齢により身体の余力が低下して、感染症や外傷などの急なストレスがかかることが起こった後に、場合によっては要介護になってしまう可能性がある状態です。

フレイルは、自立と要介護状態の中間に位置する状態であり、健康な状態に戻れる可能性と、要介護になる可能性の両方をもっている状態です。しかし、要介護状態となった場合には、フレイルの状態に戻すことは、ほぼ困難です。

運動教室参加の意義

運動がもたらす効果として、 体力の維持・増進、生活習慣病やメタボリックシンドロームの予防、運動器疾患やロコモティブシンドロームの予防、血糖値の改善、抵抗力の向上、骨の強化、認知症の予防などがあげられます。そして、その結果、健康寿命を延伸させることができます。

運動教室では、前期高齢者自立度の高い高齢者については、生活機能の維持・向上を目指すことを目標とし、長期間運動を継続し、習慣化できるようにしていくことが重要です。そうすることによって、健康寿命を延ばし、フレイル予防、介護予防にもつながります。

後期高齢者要介護リスクの高い高齢者については、運動によって、現在の健康状態をできるだけ維持し、要介護の予防につなげることが重要です。

介護予防は「要介護状態の発生をできる限り防ぐこと、または遅らせること、要介護状態にあってもその悪化をできる限り防ぐこと、さらには軽減を目指すこと」です。単に高齢者の運動機能などの改善だけを目指すものではなく、心身機能の改善や環境調整などを通じて、高齢者個人の生活機能(活動レベル)や参加(役割レベル)の向上をもたらし、それによって一人ひとりの生きがいや自己実現のための取り組みを支援して、生活の質(Quality of life)の向上を目指すものです。これにより、国民の健康寿命をできる限り延ばすとともに、真に喜ぶに値する長寿社会を創ることをめざしています。

運動を集団で行うことによって、他者との関わりや集団内の役割などを行うことで、社会的活動を経験することができ、認知機能の低下を防ぐこと(または遅らせること)ができます。

運動教室で行う運動について

加齢とともに多くの体力要素全般が低下していきます。要介護になった臓器別原因の25%は運動器に関する障害です。また、要介護になった原因の13%は、「骨折・転倒」です。

高齢になると、筋肉量が低下します。加齢による筋力低下の本質は、筋の萎縮によるものです。特に下肢の筋肉量の低下は、上肢の筋肉量の低下よりも大きく、30歳以降は、太腿(ふともも)の筋肉では、年に0.5~1.0%減少していきます。つまり、70歳では、体重は変わらなくても、身体を支えている太腿(ふともも)の筋肉が40%減少する可能性があります。

65歳以降では歩行速度が少しずつ遅くなり、男性80歳以降、女性75歳以降になると日常生活に支障をきたすようになってしまいます。歩行速度は年齢による筋力・バランス能力の低下との関連があり、その他にも骨折や脳卒中などとの関連もみられ、歩行速度が速い人ほど健康寿命も長くなっています。

運動教室では、筋力トレーニング、バランストレーニング、有酸素運動、柔軟性トレーニングを中心として行われることが多く、筋力トレーニングでは、自分の体重を負荷とする自重トレーニングを中心に、下半身と体幹のトレーニングを行うことが必要です。下半身の筋肉を中心とした筋力トレーニングを行うことによって、転倒予防に効果があります。

種目として、スクワットフロントランジクランチなどを行います。また、ランジウォークや片足立ちなどのバランストレーニングを行うことによって、転倒率も下がります。有酸素運動に関しては、ローテンポのエアロビックダンスやステップ台を使ったエアロビックダンスを行ったりもします。

私たちが行っている運動教室でも、教室前と教室後体力測定を行い、参加した高齢者は、多くの体力測定項目で向上がみられています。

運動教室に参加することのメリット

運動教室に参加することのメリットとしては,肥満,心筋梗塞,糖尿病,高脂血症,動脈硬化,高血圧,骨粗鬆症など,メタボリックシンドロームをはじめとする生活習慣病やロコモティブシンドローム、フレイルやサルコペニアといった運動器疾患の予防に繋げることが可能です。さらに、集団で運動を行うことによって認知症の予防にも繋がります。私たちが行っている運動教室では、時には講義なども行い、運動の重要性を説明すると、受講者の運動に対する意識や効果が向上します。

また自治体レベルでは、運動教室に参加することによって医療費が抑えられます。ある町の住民を対象にして,運動プログラム(講演会,メディカルチェック,体力検査,運動処方などを含む)を実施したときの医療費の推移を,周辺の町村のそれと比較したところ、運動プログラム実施中には、医療費が周辺の他の町村のより明らかに低く抑えられたとする研究結果が報告されています。

私たちが行っている運動教室に長年参加している高齢者の体力は、年齢が進んでも低下が少なく、ほぼ維持されており、運動による効果がみられます。

まとめ

高齢者にとって、孤独・孤立と運動不足が健康を脅かすリスクがあります。また、個別よりも集団で行う運動プログラムが脳機能の維持・向上に良い影響を及ぼすことがわかっており、認知症に対しても、運動と社会的なつながりが重要です。したがって、集団で行う運動教室への参加は、高齢者にとって重要であると考えられます。

【引用・参考文献】
内閣府:令和5年版高齢社会白書
健康・体力づくり事業財団:健康運動指導士養成講習会テキスト、2023.
厚生労働省:介護予防マニュアル第4版
池上晴夫:運動生理学、朝倉書店、1995.
池上晴夫:健康面からみた運動の功罪、筑波大学体育科学系紀要17、23-30、1994.
谷本芳美、他:日本人筋肉量の加齢による特徴、日本老年医学会雑誌47-1、42-52、2010.
井上哲朗、他:長期間運動を継続している高齢者における縦断的体力推移、国際武道大学紀要33,63-66、2017.
井上哲朗、他:地域における健康・体力づくりの企画と実践・成果、国際武道大学武道・スポーツ研究4、67-76、2023.
谷口有子、他:半年間の運動教室に参加後に自主サークルにて7年間以上定期的に運動を継続した中高齢者の形態・体力の変化、国際武道大学紀要31,137-140.2015.
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