介護保険を申請しているものの、「どうすればいいのか」といった利用方法や「何のサービスが使えるのか」といったサービス内容が分からない方が多くいます。
ここでは、介護保険サービス利用者と介護保険サービスに関わる専門職(ケアマネジャー、ソーシャルワーカー、ケアワーカー)として重要なこと、さらに双方が信頼関係を築くには何が必要であるかを考えていきたいと思います。
関西福祉科学大学 社会福祉学部 福祉創造学科
博士(臨床福祉学)、社会福祉士、介護支援専門相談員
日本社会福祉学会、日本福祉文化学会など
急性期病院で医療ソーシャルワーカーとして約5年勤務。主に介護保険サービス等を利用しながら在宅復帰に向けた相談支援を行ってきた。現在は関西福祉科学大学にて社会福祉士養成に取り組んでいる。研究キーワードは家族福祉、スクールソーシャルワーク。
1、介護保険サービス利用者について
介護保険サービスの利用者や家族は、介護が必要な状態になり、不安な思いを抱えていることが少なくありません。そんな時に、介護保険サービスの選択を迫られた場合、冷静な判断ができにくく、戸惑うことがあります。人は弱い時に限って大きな決定を迫られたりするものです。自己決定を行う必要性がある時、その選択の権利が大きくなればなるほど、その人はその決定に対して大きな責任を負うことになるでしょう。弱っている時であれば、無理に「強く」なれと言われることや、責任の大きな立場に置かれるようなことは、多くの場合避けるべきです。「もっと弱くあればよいのだ、もっと弱くあってよい。」1)と伝えることが重要なこともあります。
2、介護保険サービスに関わる専門職について
介護保険サービス利用者は、専門職からのアドバイス等を活用しながら、自分自身を主人公としてケアプラン、そして提供されるサービスを主体的に活用し、生き抜いていくという姿勢が大事であるといわれています。2)そのため、専門職には、介護保険サービス利用者がどのようなサービスを求めているか、利用者自身が自分で決定できるように自己決定を尊重しながら、正しい情報を提示し、不安やつらさを共有しながら、一緒に考えていくという姿勢が求められます。
特に情報提供は、正確であることはもちろんのこと、簡単で着実に、わかりやすい言葉を用いて、情報を繰り返し伝えることが専門職に求められます。
3、利用者と専門職の信頼関係について
信頼関係について、岸見(2008)は以下のように述べています。
「対人関係のあり方が対等な関係を前提とした協力関係へと根本的に変われば、そこに信頼関係が生まれる。あるいは、反対に、対人関係のあり方を変えるために、信頼関係を築く必要がある。
人が人を信頼するとは一体どういうことだろう。すべてが明々白々に知られているのであれば、信じる必要はない。信頼するとは、目下起こっていることや、これから起こることについて、未知なことがある時、その知られていないことを主観的に補完することである。」3)
介護サービスに関する諸問題についても、このことはあてはまります。信頼を寄せるには、一定の基本的な特徴に関しては事態に通じており、すでに一定の情報を得ている、ということが信頼の基盤です。新しい方法、新しいサービスが多くできてくることによって、その情報の氾濫についていけなくなってきた時、私たちはどのようにすれば良いのでしょうか。そこでは介護保険サービス利用者と専門職との関係性が、鍵となります。専門職は介護保険サービス利用者との人格的な関係性を深めていき、介護保険サービス利用者も、ここでは人格的な交流を持ち、「サービスを消費」する手段的コミュニケーションのやり取りだけに終始すべきではありません。
また、ピアサポートの実践も今後注目されるところです。個別支援と共に、介護保険サービス利用者(とその家族)同士の経験の分かち合い、学び合い、支え合いという相互支援力=ピアサポートを培うプログラムがさらなるプログラムサービスの開発につながることが期待されています。
1)立岩真也『弱くある自由』 青土社 2000年 P.43
2)栃本三郎 『介護保険 福祉の市民化』 家の光協会 1997年 P.209
3)岸見一郎『アドラーに学ぶ』 アルテ 2008年 P.96-97
【参考文献】
荷出翠・山戸隆也(2016)「介護保険サービスの利用者と専門職の関係性に関する一考察」『社会福祉科学研究』5:57-66.