高齢者にこそ必要な筋力トレーニング

高齢者にこそ必要な筋力トレーニング

近年、さまざまな分野で筋肉の重要性が認められ、スポーツの補強から健康増進まで多種多様な目的で筋力トレーニング(筋トレ)が行われるようになっています。

しかし、筋トレの実施が多くの高齢者に幅広く定着しているとはいえません。筋肉の機能を維持、あるいは衰えた筋肉を強化するための筋トレは、高齢者にこそ取り組んでほしい運動です。

渡邊 裕也 准教授
びわこ成蹊スポーツ大学 スポーツ学部
健康運動指導士/NSCA認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト/教員
日本体力医学会/日本サルコペニア・フレイル学会 等
東京大学大学院 総合文化研究科 広域科学専攻 博士課程修了、博士(学術)。京都府立医科大学 医学部 博士研究員、同志社大学 スポーツ健康科学部 助教、公財)明治安田厚生事業団 体力医学研究所 研究員を経て、2023年よりびわこ成蹊スポーツ大学 スポーツ学部 准教授。専門はトレーニング科学、応用健康科学。
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介護が必要になる主な理由

要支援あるいは要介護の認定を受けた者(認定者)の数は増加し続けていますが、人々が認定者になる主な理由は何でしょうか?厚生労働省の報告によると、介護が必要になった主な原因は、1位が認知症(17.6%)、2位が脳血管疾患(16.1%)、そして3~5位が高齢による衰弱(12.8%)、骨折・転倒(12.5%)、関節疾患(10.8%)です。3~5位の原因は筋肉、骨、関節といった運動器に関連しており、これらを合計すると36.1%に達し、認知症や脳血管疾患を上回ります。これは、運動器の問題が日本人の生活の質(Quality of life:QOL)を著しく低下させていることを示しています。したがって、介護予防には運動器の状態を良好に保つための取り組みが非常に重要となります。

図1.介護が必要になった主な原因(厚生労働省2020より作成)

加齢に伴う筋肉量の低下

筋肉は加齢とともに衰えます。具体的にどれくらい筋肉が細くなるのかを見てみましょう。各年代の男性の太ももの筋肉を詳細に調べた研究では、筋肉サイズは50歳くらいまである程度維持されていますが、60歳を過ぎると急落することが示されています。10~20歳代の筋肉サイズを基準に各年代を比べると、50歳代では約9%低くなっているに過ぎませんが、70歳代では約26%、80歳代では約43%も低くなっています。このため、高齢期を迎える前、または体力の低下を自覚する前からの対策が重要です。ただし、高齢期になってからでも遅すぎることはありません。高齢者においても筋トレを行うことで筋肉を十分に強化できることは古くから知られています。

図2.各年代の外側広筋(太ももの筋肉)のサイズ(Lexell J et al. 1988より改変)

介護予防のための筋トレの戦略

筋トレでは、日常生活の活動以上の強い負荷を鍛えたい筋肉に直接与えることで、筋肉の量を増やし、筋力を高めることができます。特に介護予防では、加齢によって衰えやすい下肢体幹の筋肉を強化することが主目的となります。このため、大腿四頭筋(太ももの前)、大殿筋(お尻)、大腰筋(脚の付け根)などの筋肉が筋トレの主なターゲットとなります。ただし、最大の効果を追求するのではなく、筋肉の量や機能を維持すること、あるいはその低下を緩やかにすること自体が高齢者にとっては十分な効果といえます。

介護予防のための筋トレプログラム

筋トレが多くの高齢者に広く普及するためには、プログラムの有効性や安全性とともに、特別な道具を必要としない汎用性も重要です。そこで我々の研究グループでは、スロートレーニングを応用したプログラムを推奨しています。

スロートレーニングでは、鍛える筋肉に力を入れたまま、ゆっくりの速度(1回あたり7秒程度)で筋トレを行うことで、軽微な負荷でも十分な効果が期待できます。これを、スクワットなど自体重を負荷として利用するトレーニングに応用することで、どこでも手軽に効果的な筋トレを実施できます。下肢や体幹の筋トレ種目であるスクワットやレッグレイズは、介護予防に特に有効です。各種目とも6~10回を2セット程度、週2~3回のペースで継続的に行うことで、下肢や体幹の筋肉をしっかり強化できます。また、要支援や要介護の認定を受けた後でも、適切な筋トレを行うことで身体機能の改善が可能です。できる範囲で積極的に取り組みましょう。

図3.スクワットおよびレッグレイズの実施方法〔(公財)明治安田厚生事業団より作成「2023」〕

レッグレイズは椅子に座って片脚ずつ行うことも可能です。

おわりに

日本人の平均寿命が延び、いわゆる「人生100年時代」を迎えていますが、平均寿命と健康寿命の差は、男性で約9歳、女性で約12歳もあります。これは、人生の最終段階で10%以上の時間を自由な活動に制約がある状態で過ごすことを意味しています。筋トレに励むことで、このような自由な期間を短縮し、より質の高い生活を送ることが期待できます。

【参考・引用文献】
・Lexell J et al. What is the cause of the ageing atrophy? Total number, size and proportion of different fiber types studied in whole vastus lateralis. J Neurol Sci. 84: 275-94, 1988.
・Tanimoto M et al: Effects of low-intensity resistance exercise with slow movement and tonic force generation on muscular function in young men. J Appl Physiol, 100: 1150-1157, 2006.
・厚生労働省:2019年国民生活基礎調査の概況, 2020.
・渡邊裕也: 下肢と体幹の筋がよくわかる基礎ノート. 杏林書院, 2022.
・公財)明治安田厚生事業団: スロートレーニング(DVD). 2023.
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