介護を業務とする職種がはじめて成立したのは、1963年に制定された「老人福祉法」(昭和38年法律第133号)からである。その後、高齢化社会の進展により、2000年に介護保険制度が開始され、措置から契約へと移行し高齢者への介護サービスの質が一層問われることになった。介護保険制度の開始から24年が経ち、現在はサービスの質と共に介護人材の量を確保する必要に迫られている。
介護人材の確保の取り組みの一つに、「介護の仕事の魅力発信などによる普及啓発に向けた取組」がある。介護職員自らも介護に魅力を感じ発信することが必要である。そのために、一人一人が介護とは何かということを今改めて問いてみてはどうだろうか。
小田原短期大学 保育学科
介護支援専門員/教員
日本介護福祉学会/日本保育学会
老人保健施設、特別養護老人ホームにて12年間勤務。その後、県立保健福祉大学大学院にて社会福祉学を学ぶ。専門学校、4年生大学にて介護福祉士、社会福祉士の養成に従事しながら介護の現場にも携わってきた。
現在、小田原短期大学 保育学科専任講師。専門は介護福祉学。
介護に代わるものはあるのか
介護人材の不足によるIT化やロボットの導入などがすすめられているが、人による介護には代替えできない部分が大きい。そのため、給与や待遇面などの早急な改善が常に求められている。今後、介護職員が不足することで介護難民のさらなる増加も予測される。
介護が、ただ単に命をまもるだけというものにならないためにも、介護の意味を考えてみよう。
介護とは何かを今改めて考える
介護とは何かということが問われたとき、介護には明確な定義はない。
1963年「老人福祉法」において介護を業務とする職種が登場したときの介護は、命をまもるための入浴・排せつ、食事等の身体介護をおこなうという狭い意味の介護だった。身体介護を何のためにおこなうのかという目的のなかには、介護することの意味づけがなければならない。命をまもるというだけの意味であるならば、決められたことをおこなうレベルであり生理的欲求を満たすだけの介護となってしまう。
たとえば、食事において3食何カロリーとらなければいけないと決められているからそれを提供するということだけではなく、まずは、命をまもるという部分と、その人の人生に彩りを添えるという意味がある。食事を通して、たいせつな出来事やもの、温かい感情を思い出すきっかけにすることもできる。
そのとき介護する者が何を願ってどんな行動をとったのかによって、それに付随して、思考、思いが広がることもある。食べるという行為には、この先も生きていきたいという一人一人の願いがある。その願いを介護する者がわかっていくことができれば、その人の生きる気力、さらには、生命力を高めることにつなげていくことができるのである。
「何のためにその介護をおこなうのか」その意味が見出せる介護とは、介護される者一人一人の人生に意味づけができる介護である。それは、介護がきっかけとなり、介護される者が、温かいものを思い出したり人生のその時々の思いが広がったりすることである。そのようなことが介護することの意味へとつながっていくのである。
介護される者の弱さと強さ 介護する者の弱さと強さ
介護される者の弱さとは、―人では生きることができない他人の手を借りなければ生きられない弱さであり、強さとは介護される哀しみを受け入れ、自分の存在価値を問い続けながらも行動しようとする強さである。介護する者の弱さとは、介護される者の弱さや願いを知りながら、それに十分に応えることができない弱さ・未熟さである。そして、強さとは、その弱い、未熟な自分を受け入れ誰かのために誠実に向きあいたいと願い、何とか乗り超えようとする強さである。
介護の場面において、たとえ大切に育ててくれた親であったとしても認知症になり介護が必要になったとき、ついひどい言葉をいってしまうことがある。また、虐待にもつながることもある。家族はひどい言葉をいった後に、ひどく情けなくなり自責の念にかられてしまう。
それは家族だけのことではない。介護される者も思い通りにいかない苛立ちから、介護する者にきつい言葉をいってしまうこともある。人間としての醜い部分にもしっかりと目を向け受け容れていくことで、はじめて自分の醜さを許せるのである。
生きる強さを支える
今年95歳になる要介護度5の母は、訪問診療、訪問介護、訪問看護等のサービスを利用しながら一人暮らしを続けている。施設入所を事あるごとに勧められたが、その度に拒み続けてきた。母の口癖は「負けてたまるか」である。ほぼすべての身体介護を必要とするがその言葉には生きる強さがある。介護とは「生きる力」を支える仕事でもある。
【参考・引用文献】
- 老人福祉法(昭和38年07月11日法律第133号)
- 介護人材確保の取り組み 介護の仕事の魅力発信などによる普及啓発に向けた取組(厚生労働省)
- 武山美子(2012) 「介護従事者に求められる介護観について」-澤田信子教授が考える介護論をインタビューから分析する-神奈川県立保健福祉大学大学院社会福祉領域社会福祉学科修士論文(未公開)