• くらし
  • 【公開日】2024-04-04
  • 【更新日】2024-04-04

win-winの仕掛けで世代を超えた地域づくり
~高齢者と若者、支えあう地域の取り組み~

win-winの仕掛けで世代を超えた地域づくり<br>~高齢者と若者、支えあう地域の取り組み~
少子高齢化が深刻な現代では、高齢者と若者がより良い関係を築いていくことは大切な事です。本コラムでは高齢者と若者が共生するより良い社会を目指すために実例を含めて解説します。
齋藤 征人 教授
北海道教育大学 函館校 国際地域学科
社会福祉士
日本社会福祉学会・日本地域域福祉学会・日本教育支援協働学会 など
北海道医療大学大学院看護福祉学研究科博士課程を単位取得満期退学後、高知女子大学、帯広大谷短期大学、社会福祉法人帯広福祉協会などを経て、2014年から現職。
専門は、ソーシャルワーク・地域福祉。函館市地域包括支援センター運営協議会会長、北斗市総合戦略検討・推進会議会長など公職多数。
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急がれる地域暮らしを支える体制の整備

わが国では、団塊の世代と呼ばれる第一次ベビーブームに生まれた人が75歳以上となる2025年を目標にして、誰もが住み慣れた地域で安心して暮らし続けるための生活支援体制の整備が急がれています。地域暮らしの困りごとはさまざまですから、それらへの対応は公的サービスだけで十分とはいえません。自分の力だけで解決が難しい、些細な困りごとが積み重なっていくことで、住み慣れた地域での暮らしをあきらめざるを得なくなります。

こうした些細な困りごとは、専門家の手が必要なものばかりではありません。ゴミ出しの手伝いや電球の交換、買い物への同行や代行、話し相手になることなど、地域住民の工夫次第で行政に頼らず解決することが可能です。地域住民が無理なく工夫できることを探し、やってみること。その代わりしっかりと行政に支えてもらわなければならない専門性の高い部分に限られた財源を活用してもらうこと。こうした行政と地域住民の有機的な連携・協働こそが、持続可能性の高い地域をつくっていくのではないでしょうか。

北海道江差町「まちづくりカフェ」の試み

江差町は北海道の南西部に位置し、函館から車で2時間程の、日本海に面した町です。

2022年夏、あるNPO法人が設立認可を受けました。その名を「まちカフェ江差」と言います。2016年から江差町内の課題解決について世代を超えて話し合ったワークショップ「まちづくりカフェ」から生まれた民間団体で、住民主体で地域課題の解決に取り組むことを目的として立ち上げられました。地域の困りごとは地域住民が自分ごととして理解しており、その解決に行政の力を頼るのではなく、自分たちの手で解決していこうと「地域の食を支える事業」「健康づくり事業」に取り組んでいます。

この「まちカフェ江差」の前身であるワークショップ「まちづくりカフェ」は、自分たちが暮らしやすい町にするためにはどうしたらいいか、地域の互助体制の強化のためには何が必要か、多様化する地域の生活課題を住民の互助によって対応していくための学習と意見交換の場です。中学生からシニア世代まで幅広い年齢層の住民がさまざまなアイディアを持ち寄り、楽しみながら学ぶカフェスタイルのワークショップで、2016年から6年間続けられました。1回のワークショップは約90分間。参加者が少し話し足りないと感じるくらいの時間配分が長続きの秘訣です。

win-winの仕掛けで世代を超えた地域づくり

近年の地域づくりの主力は、町内会や自治会、老人クラブなどのシニア世代でした。しかし、そうした皆さんも高齢化し、徐々に地域活動から退いていくなか、こうした活動をどのように次の世代に引き継いでいくかは大きな課題となっています。そんななか「こども民生委員」を委嘱する例や、自治会の役員を中学生が務める例、地域福祉コーディネーターを大学生が担う例など、若者を巻き込んだ地域づくりが全国で試みられています。ある地域では、通学途中の中学生が、地域の高齢者のごみ出しを手伝う例などもあります。

若者を地域づくりの現場に迎え入れることに、地域の側にはどんなメリットがあるのでしょうか。地域コミュニティとのつながりが薄くなりつつある若者が、住民と一緒に地域課題の解決に取り組もうとするその姿勢が、住民たちに感動を与えることがしばしばあります。若者と一緒に活動を共にする高齢者の中には、若者があたかも心の通う「仲間」になっている気がすると語る人もいるほどです。しかしこうした関係は、どちらか一方が支える、もう一方が支えられるといった関係では成立しませんし、一方に過重な負担が生じても長続きしません。とりわけ高齢者と若者が支えあうということは、双方にとってメリットがある、つまりwin-winである仕掛けであるときに成立するのものではないでしょうか。

自分のできることで誰かのためになること

2015年の改正介護保険法施行によって生活支援体制整備事業が盛り込まれ、全国の各市町村に「生活支援コーディネーター(地域支え合い推進員)」や「協議体」と呼ばれる、地域づくりを住民主体で進め、互助活動を創出していく体制が整備されました。現在、地域の高齢者のニーズと地域資源の状況を把握しながら、生活支援の担い手の養成やサービスの開発ニーズとサービスのマッチングなどが全国各地で取り組まれており、いくつかの優良事例も現れ始めています。先に紹介した江差町での取り組みもその一つといえるでしょう。

こうした地域づくりのなかに、次世代を担う若者を迎え入れることが今後ますます広がっていくことを期待したいと思います。大人同士の話し合いは、とかく後ろ向きな議論になりがちで、アイディアに行き詰まることも少なくありません。しかし、そこに若者がいるだけで議論は前向きになり、「目からうろこ」の新鮮なアイディアが、地域の課題解決の第一歩につながります。そして何より若者との地域づくりはシニア世代の心を豊かにし、健康づくりとフレイル予防にも効果的です。

筆者の周囲にも、長年勤めた仕事を早期退職後、地域活動などにも参加せず、悠々自適な生活をしているうちに、やがてご近所さんとの接触も少なくなり、退職後10年ほどで認知症を発症した方がいます。人との接触や地域活動は、ときとしてわずらわしく感じることもありますが、心身の健康維持には有効です。ましてやそれが誰かのためになれるなら、これほどよいことはありません。皆さんも自分の無理なくできることで誰かのためになることを、周囲の人と一緒に始めてみるのは如何でしょうか?

【参考文献】

  • 齋藤征人(2022)「地域生活課題の解決に向けたワークショップの展開―生活支援体制整備事業と江差『まちづくりカフェ』の試み―」北海道教育大学函館校国際地域研究編集委員会編『国際地域研究Ⅳ』大学教育出版, 61-72.
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