親の薬の管理や介助に困ったら?
~調剤薬局の薬剤師に頼ってみよう~

親の薬の管理や介助に困ったら?<br>~調剤薬局の薬剤師に頼ってみよう~

高齢者は加齢とともに全身の機能や免疫力、抵抗力などの低下から、様々な病気を発症しやすくなります。そのため病院へかかる機会も増え、その度に薬が処方されることもあります。高齢のご家族を在宅で介護をしている皆さんの共通の困りごとの一つに、この薬の管理があげられます。特に認知症の場合は、薬の管理は記憶や身体機能に比べ早い段階で介助が必要になることがわっています。(1 ? 溝神文博(2020)「認知症患者・家族に対する服薬支援の方法」老年期認知症研究会誌vol.23 03-23-02 p13-15. )

そこで、ここでは介護をしているご家族を悩ます薬の管理と介助が楽になるであろう方法について、まずは薬の基礎知識と調剤薬局の薬剤師に相談できることを整理してみましょう。

林 和歌子 准教授
城西国際大学 福祉総合学部 福祉総合学科
日本社会福祉学会会員、老年社会科学会会員
“佛教大学大学院社会学研究科社会福祉専攻終了、社会福祉学修士、社会福祉士
大学卒業後、杉並区社会福祉士協議会勤務。その後、城西国際大学にて社会福祉士、介護福祉士の養成教育に従事。2008年より介護福祉コースコーディネーターとして介護福祉士養成に携わる。”

1.薬の基礎知識

①薬の目的

身体にはもともと持っている病気を治す「自然治癒力」があります。ところが病気やウィルスによってその自然治癒力が十分に働かなくなってしまったときに、薬を飲むと自然治癒力が回復し、身体は健康な状態に戻ることが期待できます。

②副作用

薬には、症状や病気に作用する働きと、それ以外の好ましくない働き(副作用)があります。副作用のない薬はないと言われています。体質や体調、飲み合わせなどによって起きやすくなる場合もありますので、普段と異なる症状がある場合はすぐに薬剤師や医師などに相談が必要です。

③薬の正しい飲み方

・コップ1杯の水かぬるま湯で飲む
薬は水に溶けると吸収がよくなり、よく効くようにできています。また冷たい水より、常温やぬるま湯の水が最も溶けて効果が現れやすくなります。水の量が少なすぎてもスムーズに胃まで運ばれず、薬の効果が弱くなったり、粘膜を傷つけてしまうことがありますので、十分なお水で飲みましょう。

・用法・用量を守る

薬の効き目は決められた時間、用量で服用することによって効果が現れるように調整されています。飲み忘れたとき、一度にまとめて飲んだりすると副作用が出やすくなり危険です。飲み忘れた場合の対応については、薬剤師に相談が必要です。

薬を飲む時間
食前:食前30分~1時間
食後:食後30分以内
食間:食後2~3時間くらい。服用後2時間は食事をしない。
就寝前:寝る前30分~1時間前

・他の薬との組み合わせ

2種類以上の薬を同時に飲むと、それぞれの薬の作用によっては効き目が強くなりすぎて副作用を起こしたり、効き目が弱くなることがあります。処方箋の薬は、薬剤師が厳しくチェックしています。医師が気付いていない場合は、処方する前に相談し、薬の変更を相談します。

ドラッグストア等で売られている市販薬やサプリなどを飲むときは、トラブルを防ぐためにも日頃の行きつけの調剤薬局やかかりつけ薬剤師に相談をしながら使用しましょう。

・ほかの食品との食べ合わせ

薬の中には食品との相性の悪い組み合わせのものがあります。例えば、グレープフルーツジュースや、牛乳、納豆、コーヒーやコーラなどには、飲み合わせの悪い薬があります。食後などに薬を飲むときは、薬剤師に相性の良くない食べ物や飲み物を教えてもらい食べ合わせに注意しましょう。

2.在宅で介護をしている家族が感じている服薬介助に関する負担

在宅で介護をしているご家族を対象に行ったある調査によれば、高齢者が薬を服用する回数は一日に最大6回、薬の数は最大で13種類もありました。その調査では、ご家族がおこなっている服薬介助のうち、51%は「服薬準備」で、34%は「薬を口の中に入れる」や「飲み込みの確認」など直接介助をおこなっていました。そして、介助をしている家族の約7割は服薬介助を負担と感じているという結果が出ていました。(2 ? 鈴木弘道、中田智雄(2013)「介護者が感じる服薬介助負担のアンケート調査」社会薬学V0l.32 No.2 p48-53. )これだけの回数と数を服用することになれば、当然その管理と服薬の介助をするご家族は大変になってきます。

3. 薬の困りごとと薬剤師に頼れること

ここからは、具体的な薬に関する困りごとを挙げて、薬剤師に相談しながら解決できる方法を見ていきましょう。

①困りごと:

・薬の数が多くて、どのタイミングで何を飲めばいいのかわからない
・飲み忘れてしまったり、飲んだかどうか忘れてしまうことがある
・指先が動きづらく薬を包装シートから取り出せない

〇薬剤師に相談してみよう:一包化(その1)
一包化とは、複数の薬を処方されているときに、飲む時間ごとにまとめて包装することです。調剤薬局で個々の容器から取り出して一つにまとめてくれるので、時間になったらその袋を破って飲むだけになります。また、袋に氏名、服用時間、薬の名前なども印字することができるので、飲み間違えや、飲み忘れにも有効です。薬の種類が多くてお困りのご家族はぜひ薬剤師に相談してみましょう。

②困りごと:

・複数の病院を受診していて違う薬局から薬をもらっている

〇薬剤師に相談してみよう:一包化(その2)
違う病院を受診していたり、同じ病院でも診療科によって受診日が違うため、薬は別々にもらうということもあります。既に処方されている薬でも、まとめて一包化にしてもらうこともできます。ぜひ調剤薬局へ相談をしてみてください。

▶一包化にするためには
一包化をするには医師の指示が必要なのですが、薬剤師にも相談ができます。薬剤師は、患者から相談があった場合は、その場で医師に確認をして、必要と判断されれば一包化をすることができるのです。薬局によっては印字する内容なども相談にのってくれるところがあります。
※一包化には自己負担がかかります。
※薬の種類によっては、一包化できない場合があります

③困りごと:

・錠剤が大きくて呑み込めない
・粉薬がむせる
・薬の量が多くて困る
・味が嫌い

〇薬剤師にしてみよう:服用形態の選択や変更
高齢になると飲み込みが難しくなることがあります。飲み込みに時間がかかると、すぐに飲みこめば感じないはずの嫌な味をより感じる場合があります。その場合も、薬剤師に相談すると代替案を提示してもらえますので、服用の方法を相談してみましょう。

▶服用形態の選択や変更するには
医師の指示は必要ですが、薬剤師にも相談できます。薬剤師は、医師に問い合わせをして薬の形態大きさ、貼り薬、座薬、軟膏、クリームなどへの変更を提案ができます。また、薬によっては粉砕や、ゼリー、オブラートなど、薬の飲み方の工夫についても相談にのってくれます。

④困りごと:

・数か所から処方を受けていて、医療機関同士で情報共有をしてほしい
・長期間、同種類・同量の薬を処方されているので減らせないだろうか
・薬が余ることがある
・以前、薬の副作用があった

〇薬剤師に相談してみよう:かかりつけ薬剤師(薬局)
かかりつけ薬剤師とは、3年以上の薬局経験があり、国が定めた要件を満たす専門的知識を備えている人です。患者さんの薬を一括して管理してくれます。過去の病気の治療状況や薬の効き具合、飲み合わせや、アレルギーや副作用の状況などについても継続的に把握をしてくれます。サプリメントや市販の薬などとの飲み合わせについても確認をしてくれるなど、なんでも相談にのってくれる薬剤師です。夜間や休日も電話などで対応してくれたり、必要に応じて自宅を訪問して薬の整理をしてくれたりするサービスを提供しています。

▶かかりつけ薬剤師(薬局)を決めるには
2020年に全国の薬局を対象におこなった調査では、かかりつけ薬剤師としての役割を発揮できる薬剤師を配置している薬局数は全国の薬局の約75%でした。(3 ? 厚生労働省(2022)「薬局薬剤師に関する基礎資料」第2回薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ資料 参考資料3(https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000910808.pdf,2024.3.13確認) )いつも相談にのってくれる調剤薬局や、便利な場所にある薬局などで、かかりつけ薬剤師になってもらえるか、相談をしてみましょう。
※かかりつけ薬剤師には自己負担がかかります。

⑤困りごと:

・介護が必要のため薬局へ行くことが難しい

〇薬剤師に相談してみよう:訪問薬剤師(在宅薬剤師)
訪問薬剤師(在宅薬剤師)は、通院や薬局へ行けない方を対象に、訪問薬剤師が、自宅まで薬をもって来てくれて、薬の飲み方や管理の方法などのアドバイスなどもしてくれます。お薬カレンダーに薬をセットしてくれ、残った薬の整理もしてくれます。月に4回まで利用できます。

例えば、一人暮らしや認知症の利用者の場合、薬剤師が週に1回自宅へ訪問し、1週間分の薬をお薬カレンダーにセットしてくれます。その後ヘルパーや訪問看護師が訪問時に服薬状況を確認して、服薬介助をおこなうことができます。介護保険の限度枠外サービスですので、限度枠を超えていても1割負担でサービスを利用できます。
このように様々な介護保険サービスに薬剤師の支援を組み合わせることで、一人暮らしの利用者でも正しく服薬をおこなうことができます。(医療保険では在宅患者訪問薬剤管理指導、介護保険では居宅療養管理指導とよびます)

▶訪問薬剤師(在宅薬剤師)を利用するには
訪問薬剤師(在宅薬剤師)については医師やケアマネジャーへの相談はもちろん、薬剤師にも相談できます。2020年に行った全国の薬局を対象にした調査では、在宅訪問をおこなっている薬局は全国の薬局の約4割でした。(4 ? 厚生労働省(2022)前掲資料 )いつも相談にのってくれる調剤薬局で在宅の訪問に対応ができるか相談をしてみましょう。薬剤師から医師やケアマネジャーへ連絡をして、必要な手続きを経て訪問が開始されます。
※訪問薬剤師(在宅薬剤師)には自己負担がかかります。

⑥困りごと:

・いまは元気だけど、この先具合が悪くなったら薬の管理が心配
・ニュースで、災害時に持病の薬がなくなり困ったと聞いた

〇薬剤師に相談してみましょう:お薬手帳
まだ薬の管理は一人でできているけれど、この先もし介護が必要になったら難しいかも、と心配をしている人もいます。また、災害時などは普段の持病の薬を持ち出せなかったり、避難中に薬が無くなってしまったらどうしよう、と心配をする人もいます。その時に役立つのがお薬手帳です。お薬手帳は服用していた薬の履歴を1冊にまとめ、最新の処方された薬が分かることが大切です。多くの薬局ではお薬手帳にシールを薬剤師が貼ってくれますから、お薬手帳を忘れずに持参しましょう。また、もし忘れたらもらったシールを、忘れずに張り付けておきましょう。

▶お薬手帳をもらうには
お薬手帳は全国の調剤薬局でもらえます。1冊目がいっぱいになってしまったら、2冊目ももらえますので窓口で聞いてみましょう。またスマートフォンで使える便利なお薬手帳アプリもあります。

まとめ

病院の薬をもらう時に行く調剤薬局の薬剤師は、薬を必要とする人たち支えてくれる専門家です。そして、地域の医療福祉を支える医師や訪問看護師、ケアマネジャー、ヘルパー等と同じ医療福祉の専門職です。もし薬のことで困ったら無理に飲ませようとしないで、ぜひあなたの町の薬剤師に相談をしてみてください。ご本人やご家族の状態に合わせて、一番いい方法を一緒に考えてくれます。ご家族の服薬介助の負担を減らせる具体的な方法が、きっと見つかります。

【引用・参考文献】

(1).溝神文博(2020)「認知症患者・家族に対する服薬支援の方法」老年期認知症研究会誌vol.23 03-23-02 p13-15.
(2).鈴木弘道、中田智雄(2013)「介護者が感じる服薬介助負担のアンケート調査」社会薬学V0l.32 No.2 p48-53.
(3).厚生労働省(2022)「薬局薬剤師に関する基礎資料」第2回薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ資料 参考資料3 (https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000910808.pdf,2024.3.13確認)
(4).厚生労働省(2022)前掲資料