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  • 【公開日】2024-02-28
  • 【更新日】2024-02-28

社会的孤立を深める高齢者の向き合い方

社会的孤立を深める高齢者の向き合い方
近年の日本では孤独・孤立を感じる高齢者の数が増えており、社会的孤立は生きがいの低下や孤独死といった問題を引き起こします。本コラムでは社会的孤立を深める高齢者との向き合い方を紹介します。
高井 逸史 人間科学研究科長/教授
大阪経済大学人間科学部/大阪経済大学大学院 人間科学研究科
理学療法士
日本理学療法士学会、日本老年医学会
岸和田市にある寺田万寿病院に理学療法士として16年勤務。その後は堺市にある医療系大学に着任。旧大阪市立大学と連携し、堺市泉北ニュータウンの高齢者の介護予防と孤独・孤立対策に従事。大阪経済大学に着任後も地域の健康格差や情報格差の解消を目指し、行政や企業と連携し、住民を真ん中にした課題解決に取り組んでいます。
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1.社会的孤立の現状

OECDによる2005年の調査によると、日本は、「友人、同僚、その他の人」との交流が「全くない」「ほとんどない」と回答した人の割合が15.3%と、OECDに加盟している先進国20カ国中でワースト1位となっています(図1)1)孤独・孤立を感じている高齢者は30%以上と言われており、国内においては約1092万人の高齢者が孤独・孤立の状態であると推計されます。

図1 社会的孤立の状況(OECD諸国の比較)1)
友人、同僚、その他宗教、スポーツ、文化グループの人と全く、あるいはめったに付き合わないと答えた比率(%)

令和4年版高齢社会白書によると、65歳以上の一人暮らしの割合は、2020 年では男性 15.0% 、女性 22.1%、さらに2040年の推計値では、男性20.8%、女性24.5%と、特に男性の方が増加の伸びが高いことが知られています2)

次にひとり暮らしの人を対象とした近所とのつきあい程度をみると、「親しくつきあっている」と回答した割合は、男性では 16.7% 、女性では 34.6%と、男性は女性の半分にすぎません。また「つきあいはほとんどない」と回答した割合をみてみると、男性では 13.7%、女性では8%と、男性の方が女性より約 1.7 倍多い。このようにひとり暮らしになると、明らかに男性の方が近所とのつきあいが少なることが分かっています。

後ほど詳しく説明しますが、女性はこれまで育児や子育てなどを通じ、 近所とのつきあいがあるため、ひとり暮らしになってもこれまで通り、近所とのつながりを継続することできます。一方、男性の多くは定年まで地域とのつながりがほとんどなく、定年後も自治会など地域活動に参加せず、配偶者に先立たれると、多くの場合地域から孤立する恐れがあります。今後もひとり暮らしの男性が増える中、いかに近所とのつながりを構築することができるか、男性高齢者の社会的孤立は深刻な地域課題であるといえます。

2.家族とのつながりを深める

地域とのつながりのみならず、職場( 会社)や親せきとのつきあいを重視する人も年々減少しており、「家族が一番大切」という人は年々増加しており、夫婦や子供など、家族の人間関係をより重視する傾向が強まっています3)(図2) 。

今日の日本では、都市部に人口が集中することにより、地域のつながりを意味する地縁や親族とのつながりを意味する血縁というセーフティーネットは形骸化し、家族のみの閉ざされた内向きの人間関係の傾向が強いです。高度経済成長期を中心とする人口増加の時代では、戦前までの家父長を中心とした家制度や村社会の弱体化した「縁」を補完していたのが、会社への「帰属意識」や「連帯感」による「社縁」です。グラフを見ると 1973 年から 1993 年までの 20年間は「職場での深いつきあい」は減少傾向にあるものの、「社縁」がもっとも多かった時代です。働いている現役世代は終身雇用が保証されており、生活保障の恩恵を受けていました。住むところの提供にはじまり、家族旅行や会社主催の運動会の開催など、当時は会社と家族の関係は「社縁」という深いつながりが築かれていました。しかし、2000年以降バブル経済の崩壊後は、リストラや早期退職など人員削減、非正規雇用の大量採用が行われるなど,「社縁」といった言葉はもはや現代では死語に等しいかもしれません。

図2 希薄化する職場・親せき・地域とのつきあいと高まる家族の大切3)

3.社会的孤立がもたらす問題点

平成23年版高齢社会白書による高齢者の社会的孤立がもたらす問題点を取り上げます4)

1)生きがいの低下

誰とも会話をしない、近所づきあいをしない、困ったときに頼る人がいないといった、社会から孤立した状況が長く続くと、生きがいを喪失し、生活に不安を感じることにもつながります。近所づきあいがほとんどない人、困ったときに頼れる人がいない人は、生きがいを感じていない割合が高いと報告されています。

2)高齢者の消費者被害

詐欺など消費者被害が深刻な問題となっていますが、これには高齢者の孤立化が関係している可能性があります。詐欺を防ぐには、日ごろ不安や悩みを話せたり、ちょっとした相談ごとができる居場所や人間関係をつくることが重要です。

3)高齢者による犯罪

犯罪を繰り返す高齢者には孤立化の傾向が認められます。前科・前歴や受刑歴などがある人ほど、初犯者に比べ、単身者が占める割合が高く、また、親族や親族以外の人との接触機会が少ない。つまり、孤立化を防ぐことは安全・安心な社会を築く上でも重要と言えます。

4)孤独死

東京23区内における一人暮らしで65歳以上の人の自宅での死亡者数は、2007年~2009年まで3年続けて2,000人を超えている。また、単身の居住者が誰にも看取られることなく(独)都市再生機構の賃貸住宅内で死亡したケース(自殺や他殺を除く)は、21(2009)年度に665件、65歳以上に限ると472件となり、2000年度に比べ全体で約3倍、65歳以上で約4倍に増加しています。

孤独死の男女比は男性が83.1%、女性が16.9%となっており、男性が圧倒的に孤独死をする傾向が強いことがわかります。しかも死亡時の平均年齢は61歳という数値が出ており、比較的若いことが伺えます。こうした背景には、喫煙やアルコール摂取を上手くコントロールできず、身体に不具合があっても医療機関を受診せず、近隣のみならず親族からも距離を取る「セルフネグレクト」に陥ることが明らかになっています。

4.「男らしさ」が孤独を深める

「健康長寿ネット「高齢者の孤立は男性問題か?」を参照しまとめました5)。2024年現在、私も来年還暦を迎えるが、特に高齢期の男性は、いまだに「孤高」であることが美徳と考える人は少ないと思います。高倉健のように無口で群れない人が、男らしく、究極的にかっこいいと高齢世代では今でも根強く支持されています。「男」と「孤独」でネット検索すると、「かっこいい」「もてる」「魅力」など、ヒットします。孤独の本では、「孤独が男を作る」「孤独のすすめ」「孤独が君を強くする」など、どれも孤独を礼賛するものが目立ちます。

女性より男性が孤立に陥りやすいという研究調査の結果があります6)

社会的なジェンダーの視点から、男性の問題を扱う「男性学」という研究分野においては、「男らしさ」とはどういうものかということについての議論が重ねられてきました。これまでの議論をまとめると、男性は、強くあることや自立することを求められています。また、他人との感情的な共感能力に欠けていたとしても、クールで冷静であることが評価されます。周りの人と関わりを持って、助けてもらいながら生きるよりも、ひとりで自立して強く生きていくのが「男らしい」ことだとされています。

女性が若いうちから不連続な職業経歴や家庭役割の中で、友人や近所の人、子どもの親同士など多様な人間関係を形成しやすいのに比べて、男性は現役時代に1つの仕事を中心とした生活を送ってきて、地域での人間関係は希薄です。そのため定年後の人間関係は一緒に暮らす妻だけに限られてしまい、ひと昔に妻にまとわりつく”濡れ落ち葉”とやゆされることもありました。今でもスーパーに買い物に行くと、高齢男性がレジ―の近くで妻の買い物が終わるのを腕組みして、じっと待っている光景をよく見ます。

5.男性高齢者の孤独・孤立を予防する

地域とのつながりが少ない中、孤独をこよなく愛する男性高齢者をいかに外出させるか。本当に難しいテーマです。当の本人たちは問題とはあまり認識していません。たばこを吸う人に将来肺ガンになるから、禁煙しましょうと啓発してもさほど効果がないのと同じです。外出しないと、健康被害を招き将来孤独死になりますと注意を促しても恐らく、だれも外出はしません。地域には地域包括支援センターという相談する公的機関があります。地域のイベント情報や居場所に関する情報も入手できます。一度ご相談することをお勧めします。これまでに上手くいった取り組みでは、男性限定の料理教室、コーヒー講座、写真講座など男性が好む趣味を扱った講座が人気です。私がこれまでに関わった活動を幾つか紹介します。

1)神社仏閣巡り

一概に言えませんが、男性高齢者は歴史に興味をもつ方が多く、ウォーキングイベントの企画に携わっていますが、近くの神社仏閣を通るコースを設定します。お寺さんであれば事前にご住職に会い、地域の歴史を話していただくようお願いします。ウォーキングイベントひとつとっても、楽しみ方に性差があります。女性はおしゃべりを楽しみながら歩くし、男性はひとりで黙々と歩き写真を撮る傾向があります。

2)居酒屋をオープンする7)

堺市泉北ニュータウンにNPO法人が運営する地域レストランがあります。近隣に食事をするところがなく、特に単身の男性高齢者は食事に困ることが多く、レストランではランチを提供し、お弁当の配達もしています。ここでは定期的に定例会が行われており、男性高齢者の居場所がないことが話題になりました。すると、お酒を提供すれば、ふらっと外出してくれるのではという意見があり、居酒屋をオープンすることになりました。すると、普段あまり外出しない単身男性が、お酒をお目当てにレストランに立ち寄るんです。それもひとりふたりではありません。居酒屋を周知するのに時間はかかりましたが、今は仕事帰りの現役世代の男性も常連客でにぎわっていると聞きます。ちなみに居酒屋を切り盛りしているのは自治会の会長さんです。

3)男会を設立する

図3 ちぐさ男会(左から脇尾さん、田川さん、豊島さん、藤田さん)
図4 ちぐさ男会のチラシ
図5 ZOOMの様子
右上が筆者.三谷ファミリークリック主催で月1回、 ZOOMのおしゃべりをしました.皆さんいい笑顔です.
図6 ちぐさ男会のグループLINE

図3写真の中央男性は、男会の中心人物である豊島さん。いつも笑みを浮かべており、現役のキリスト教会牧師さんです。自らも教会でおしゃべりカフェを運営しています。母体となる「みんなの応援室 ちぐさのもり」は、もともと堺市鳳大社近くにある三谷ファミリークリニックの三谷院長が2013年に立ち上げました。さらに地域に男性が集う居場所がないということで、2019年7月に男性の井戸端会議をめざし「ちぐさ男会」が設立しました。図4はちぐさ男会のチラシです。

男性高齢者はお互いになかなか馴染めません。会を重ねるごとに発言が増え、少しずつお互いを知ることになり、メンバーから承認されれば、メンバーの一員です。話題は政治、経済が多く、時には熱くディスカッションすることも珍しくありません。そんな時豊島さんが目を細めスマイルの表情を浮かべながら話題を変えます。すると緊張した雰囲気が一変し、和やかな雰囲気になります。豊島さんはボスとかリーダー的な存在ではなく、メンバー同士の仲介や、イベントの調整など、男会をゆるくまとめる役割を担っています。

コロナ禍の時は、対面で集まることができず、三谷ファミリークリックが主催で毎月ZOOMの居場所を開催しました(図5)。私も2021年から参加しました。ZOOMで体操をし、健康に関するお話を提供しました。また、中国籍の留学生も参加させていただき、学生の故郷をテーマに発表会をしました。さらにコロナ禍で情報交換する目的で2022年3月グループLINEを立ち上げ、現在のところメンバーは20名です。女性もいますし、デイサービスや子ども食堂関係者、私もメンバーです。デジタルの苦手意識を克服するため、協力しています。

図6のLINEメッセージは、コロナが落ち着き、対面で居場所を再開しましたが、メンバーが集まらず、豊島さんがLINEで皆さんに呼びかけたものです。こうしたデジタル化を上手く活用することで、会えなくともお互いの意思疎通を図り、孤独・孤立を防ぐことにつながります。ぜひともご家族の方からスマホ講座に参加するよう促してほしいです。

 

【参考文献】

1)Society at a Glance: OECD Social Indicators 2005 Edition

2) 令和4年版高齢社会白書、2023

3)統計数理研究所「日本人の国民性調査」、NHK放送文化研究所「第10回「日本人の意識」調査(2018)結果の概要」

4) 平成23年版高齢社会白書、2012

5) 公益財団法人長寿科学振興財団「健康長寿ネット「高齢者の孤立は男性問題か?」https://www.tyojyu.or.jp/net/topics/tokushu/koreisha-koritsu/koreisha-koritsu-danseimondai.html(2024年1月21日)

6)斉藤雅茂・藤原佳典ほか「首都圏ベッドタウンにおける世帯構成別にみた孤立高齢者の発現率と特徴」『日本公衆衛生雑誌』57(9)、2010、785-795)

7)森一彦、高井逸史ほか「 ほっとかない郊外~ニュータウンを次世代につなぐ~」大阪公立大学共同出版会、2015年10月

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