• 在宅介護
  • 【公開日】2024-02-28
  • 【更新日】2024-02-28

高齢者が抱えるごみ出しへの課題、支援の受け方

高齢者が抱えるごみ出しへの課題、支援の受け方

国立環境研究所が2017年5月に「高齢者ごみ出し支援ガイドブック」を発行し、また環境省も2021年3月に「高齢者ごみ出し支援制度導入の手引き」をまとめました。私は、前者には協力者として、後者には検討会座長として関わりましたので、これらをベースに高齢者のごみ出し支援の動向をまとめます。

松本 亨 教授
北九州市立大学 環境技術研究所
廃棄物資源循環学会、環境科学会、日本環境共生学会など
九州大学大学院を修了後、株式会社野村総合研究所、九州大学を経て、2001年より北九州市立大学に勤務。環境省高齢化社会に対応した廃棄物処理体制構築検討委員会座長、高度資源循環・デジタル化推進協議会運営委員、北九州循環経済ビジョン推進協議会代表等を務める。専門は、資源循環、環境システム工学。
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高齢者が抱えるごみ出しの現状と課題

総人口に占める65歳以上人口は、2019年10月1日現在で28.4%に達しています。「日本の将来推計人口」によると、2036年には高齢化率が33.3%、つまり国民の3人に1人が65歳以上になると推計されています。また、65歳以上の一人暮らしの者は男女ともに増加傾向にあり、1980年には65歳以上人口に占める一人暮らしの割合は男性4.3%、女性11.2%でしたが、2015年には男性13.3%、女性21.1%となっています。さらに、2040年には男性20.8%、女性24.5%と、男女ともに2割を超えると推計されています。

この間、65歳以上の者の要支援・要介護者等数は増加の一途をたどり、特に75歳以上での割合が高くなっています。介護保険制度における要介護又は要支援の認定を受けた人(以下、要介護者等)は、2008年度末452万人から2017年度末628万人と増加しました。要介護者等は、65歳以上人口の約18%を占めています。

以上のような高齢者を取り巻く状況を背景として、高齢者のごみ出しの問題が社会課題となりつつあります。高齢者のごみ出しについて、次のような問題が指摘されています。まず、高齢者が無理に自分でごみ出しを続ける場合のリスクです。高齢者がごみ袋を持って階段を降りたり、雨や雪の日に傘とごみ袋で両手を塞がれた状態で集積所まで歩いたりすることで、転倒の危険性が高まります。転倒による怪我や骨折をきっかけに、自立歩行ができなくなったり、寝たきりになってしまったりすることもあります。

次に、不適切なごみ出しをすることです。高齢者にとって市町村のごみ出しルールに従うことが難しく、不適切なごみ出しがされてしまう場合があります。例えば、ホームヘルパー(訪問介護員)にごみ出しをお願いしても、市町村の多くは収集日の朝の決められた時間帯にごみを出すことになっており、その時間に合わせてホームヘルパーに来てもらうことが難しい場合には適切でない日時にごみ出しをすることになります。家族の場合も同様で、やむを得ず収集日でない日にまとめてごみを出したり、自宅にごみを持ち帰って自分の市町村の収集日に出したりといった対応をせざるを得ないことがあります。

最後は、ごみを出すことができなくなることです。ごみが家にたまると住環境が不衛生となり、さらに進行するとごみ屋敷になることも懸念されます。また、不衛生な住環境は高齢者のセルフ・ネグレクトの状態の1つとされますが、こうした状況がさらに高齢者の社会的孤立を深めるという悪循環になる可能性があります。

市町村による高齢者ごみ出し支援の現状

近年、市町村による「高齢者のごみ出し支援制度」が注目されています。ごみ出しが困難になった高齢者に代わり、ごみ出しを手伝い、収集する仕組みです。高齢者宅からごみを預かりごみ集積所まで運ぶ支援や、さらに清掃工場や資源化センターまで運ぶ支援などがあります。支援を行う主体や支援の範囲などにより、様々な取り組みが行われています。この制度の担い手としては、市町村の廃棄物部局や高齢者福祉部局、さらに地域コミュニティの団体などのケースがあります。

市町村の廃棄物部局が所管するごみ出し支援制度は2000年以降に導入が進み、2021年1月時点では34.8%の市町村が普通ごみ、資源物、粗大ごみのいずれかについて支援制度を運用しています。市町村の規模別にみると、規模が大きい市町村ほど取り組みが進んでいるようです。
制度の利用者にとって気になるのは、次の3点だと思います。

①対象者

制度を利用する利用者の範囲について、年齢、世帯構成、要支援・要介護認定などを要件としている市町村が多いようです。「65歳以上」が85%と多く、また76%が何らかの世帯構成を要件としています。要支援・要介護認定の状況では、「介護認定の状況は要件に含まない」(46.8%)が5割弱であり、約半数が何らかの介護認定を要件としています。さらに特例を設けている市町村もありますので、居住地の市町村に確認が必要です。

②収集方法

支援対象となるごみの種類、支援の範囲、分別方法等も市町村によって異なります。「普通ごみ」および「資源物」については、玄関前から清掃センターまで運ぶ市町村が多く、次が集積所までです。一方、「粗大ごみ」では、家の中から清掃センターまで運搬してくれる市町村が他のごみと比べると多いようです。マンションやアパートからの収集については、約9割の市町村が行っており、運搬の起点は、玄関ドアの前からが最も多く、5割を超えています。

収集頻度については、「普通ごみ」、「資源物」ともにほぼ半数の市町村が、週1回の収集を行っています。

③安否確認(声掛け)の有無

ごみ出し支援の際に、多くの市町村では声かけ等による安否確認が行われています。アンケート調査結果によると、「高齢者のごみ出し支援」における声かけの方法は、「毎回」(34.0%)が最も多く、次に「ごみ・資源物が出ていない時のみ声かけを行う」(18.9%)となっています。安否が確認できなかった場合は、市町村の担当部局または収集を委託されている事業者に連絡を行い、まず利用者宅、次に緊急連絡先に連絡をすることになっています。

ごみ出しに関連して受けられる支援内容

介護保険の生活援助では、ごみ出しの時間に合わせてホームヘルパーに来てもらうことが難しく、また1回あたりの生活援助が20分以上と決められているために、ごみ出しのためだけに利用することができないなどの課題があります。さらに、要介護認定は受けていないが集積所が自宅から遠いなどの理由から支援が必要な場合もあります。このように、齢者のごみ出しの問題は、現行の介護保健制度では全てを解決することはできないようです。

介護保険の枠組みとは別に、社会福祉協議会シルバー人材センターが、高齢者の生活支援事業を独自に行っているところが多いようです。こうした事業では、電球の交換や買い物などの支援とともに、ごみ出しを少額の利用者負担で依頼できる場合があります。

行政に頼らない、地域コミュニティによる共助の取組みとしては、自治会・町内会やNPOなどが住民のボランティアを募って支援したり、マンションの管理人が高齢の住居者を対象に支援したりするなどの例があります。また、市町村から普通ごみの回収を委託されている一般廃棄物収集運搬業者が、社会貢献活動の一環として自主的に高齢者支援に取り組んでいる事例もあります。

ごみ出しに関連する最新事例

環境省の手引きでは、市町村のごみ出し支援の形態として、①直接支援型、②コミュニティ支援型、③福祉サービスの一環型の3類型に分類されています。

①横浜市や札幌市のように、数千規模の世帯を対象に、高齢者等のごみ出し支援事業を実施している大都市が存在しています。

②では、高齢者等のごみ出し支援を行う団体に対して自治体が補助金を交付するケース(千葉市)、市が委嘱する「ごみヘルパー」が高齢者等のごみ分別及び搬出を支援する制度を設置しているケース(新潟県上越市)などがあります。

③は、前述の社会福祉協議会やシルバー人材センターの取り組みに対して、市町村が補助金を出すケースです。

東京都武蔵村山市のように、ごみの排出者責任明確化とともに、高齢者を含むごみ出しが困難な世帯の負担軽減を意図して、ステーション(集積所)回収から戸別回収に変更する市町村もあるようです。

最後に、一時的なモデル事業ではありますが、全てのごみ収集車にGPS端末を取り付け収集ルートと収集時間を管理し、収集車が集積所に到着した時点で支援者(介護ヘルパー)にメールで通知する取り組みを実施した事例があります(京都府亀岡市)。このような先進技術の導入も含め、今後ごみ出し支援制度が全国的に展開されることが望まれます。

【参考文献】

老人ホームの
知りたいことがわかる
種類を診断 料金を診断 空室を確認
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