家族がアルツハイマー型認知症と診断されて「どんな病気なのだろう?」「治るのかな?どう対応したらよいのだろう?」など、さまざまな不安や疑問を持っている方もいるでしょう。アルツハイマー型認知症は認知症の中で最も多いとされるものですが、現時点では完治させる方法が見つかっていないといわれています。
ただ、適切な治療や日頃の対応によっては進行の抑制は可能といわれているのです。この記事では、アルツハイマー型認知症の特徴から原因・症状、治療方法まで徹底解説します。対応方法についても紹介するので、参考にしてください。
アルツハイマー型認知症の基礎知識
アルツハイマー型認知症は、脳神経の変性による脳の萎縮で生じるとされており、認知症の中で最も多いといわれています。
まずは、アルツハイマー型認知症の基本的な特徴について解説を行っていきます。
認知症の中で最も多い
認知症とは脳の傷害や病気により認知機能が著しく下がった状態を指したものです。65歳以上のおよそ20%が認知症になると言われています。具体的には以下のような症状が挙げられます。
- 覚えていたことを忘れてしまう
- 新しいことを覚えられない
- 自分がどこにいるのかわからない
- 家族や知り合いを認識できない など
一口に「認知症」といっても、実はいくつかの種類があります。
主な種類は、以下の通りです。
- アルツハイマー型認知症
- レビー小体型認知症
- 脳血管性認知症
- 前頭側頭葉型認知症
アルツハイマー型認知症は上記の中で最も多く、認知症全体の67.6%※を占めています。また、アルツハイマー型認知症には64歳未満に起こる「若年性アルツハイマー型認知症」も含まれており、アルツハイマー型認知症と似通った症状を呈するものの原因は未だはっきりとわかっていません。
※出典:厚生労働省「認知症施策の総合的な推進について」
老化にともなう「物忘れ」とはどう違う?
65歳以上の方に見られる認知機能の低下として「老化にともなう物忘れ」も挙げられます。老化にともなう「物忘れ」と「アルツハイマー型認知症」は症状が似ており、区別が難しいこともしばしばあります。
そこで以下の表に「物忘れ」と「アルツハイマー型認知症」の違いをまとめてみました。以下をもとに、どのように違うのか確認してください。
アルツハイマー型認知症 | 物忘れ | |
日常生活 | 日常生活に支障が出る | 日常生活への支障はない |
本人の自覚 | 本人に忘れている自覚がない | 本人に忘れている自覚がある |
記憶 | 全体的に忘れる(例:晩御飯を食べたことそのもの) | 部分的に忘れる(例:晩御飯に何を食べたか) |
探し物 | 自分では見つけられない /「誰かに盗られた」と他人のせいにするいう被害妄想がある | 自分で見つけられる |
学習能力 | 新たなことを覚えられない | 新しいことも問題なく学習できる |
ただの物忘れだと思っていても、上記の症状が見られる場合はアルツハイマー型認知症の可能性があります。物忘れの程度や頻度がひどくなっている場合には、一度病院へ受診するとよいでしょう。
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アルツハイマー型認知症の原因
ここまで紹介してきたように生活に大きな影響を与えるアルツハイマー型認知症ですが、何が原因となって発症するのでしょうか。
実はアルツハイマー型認知症の原因は未だはっきりとわかっておらず、日夜研究が進められています。そこでここからは、現時点でアルツハイマー型認知症の原因ではないかと考えられている要素について詳しく解説します。
脳内へのアミロイドβ沈着
アルツハイマー型認知症を引き起こす要因として最も有力視されているのが「アミロイドβの沈着」です。
アミロイドβは異常なタンパク質で、脳内に蓄積すると正常な神経細胞が破壊され脳が萎縮を起こすといわれています。これにより、認知機能の低下が起こると考えられています。
アミロイドβの沈着及び除去については株式会社エーザイが治験の成功を発表しました。2022年夏くらいには発売になると考えています。(出典:株式会社エーザイ「抗アミロイドβ(Aβ)プロトフィブリル抗体「レカネマブ」について、1,795人の早期アルツハイマー病当事者様を対象としたグローバル大規模臨床第Ⅲ相CLARITY AD検証試験において、統計学的に高度に有意な臨床症状の悪化抑制を示し、主要評価項目を達成」)
生活習慣・基礎疾患
高血圧や糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病と関連があるのではないかといった報告もあります。特に糖尿病との関連は非常に深いといわれており、実際に糖尿病患者の認知症リスクは通常の2〜4倍である※とされています。
必ずしも生活習慣病とアルツハイマー型認知症との間に相関関係があると断言できるわけではありませんが、生活習慣病にならないよう健康的な食生活や適度な運動が、アルツハイマー型認知症の予防につながるといえそうです。
※参照元:生活習慣病と認知症-日本老年医学会雑誌 50巻6号
遺伝性も示唆されている
アルツハイマー型認知症は、99%が家族や親戚などとは無関係に発症する疾患※で、遺伝と関係した発症があるのは1%程度であると知られています。※参照元:アルツハイマー型認知症ー遺伝・危険因子ー-Kuwana ophthalmology+ neurosurgery clinic
ただし、アルツハイマー型認知症の6割近くが関与している「家族性アルツハイマー病」と呼ばれている認知症は全体の6割程度あると言われており、原因である「APOE」という特定の遺伝子型を持っている人はアルツハイマー型認知症を発症しやすく、発症年齢も若くなりやすい傾向があるのです。
アルツハイマー型認知症を引き起こす可能性のある遺伝子は150種以上※報告されていますが、中でも最も危険とされているのがアポリポ蛋白E(ApoE遺伝子)です。しかし、この有無を判断する遺伝子検査をアルツハイマー型認知症の診断に用いる意義は低いとされており、現時点では推奨されていません。
アルツハイマー型認知症に現れる基本的な症状
ここからは、アルツハイマー型認知症の具体的な症状をみていきましょう。
アルツハイマー型認知症の症状は、脳細胞の死滅に起因する「中核症状」と本人を取り巻く環境によって生じる「周辺症状」の2つに分かれています。
中核症状には、記憶障害や理解力・判断力の低下、見当識障害などがあります。見当識障害とは、人・時間・場所がわからなくなるものです。
周辺症状には、徘徊・幻覚・被害妄想などが挙げられます。どちらの症状もアルツハイマー型認知症の大半に起こるため、理解しておくとよいでしょう。
アルツハイマー型認知症の経過
アルツハイマー型認知症にはさまざまな症状がありますが、すべての症状が同時期にみられるわけではありません。時間の経過とともに、出現する症状は異なります。
ここからは、アルツハイマー型認知症の経過について解説します。
初期は物忘れに近い
アルツハイマー型認知症の初期は、軽度の認知機能低下から始まります※。初期に見られる主な症状は以下の通りです。
- 新しいことを学習してもほとんど覚えていない
- 日常生活の中での作業に時間がかかる
- 物をなくしやすい
- 家族や友人などの名前を思い出せない など
上記のような症状がわずかに見られ始めるものの、この段階での日常生活への支障はほとんどありません。
この症状を呈し始めた方の約半数が、5年ほどでさらなる症状の進行が見られると報告されています。この段階ならアルツハイマー型認知症の進行抑制が十分に可能とされているので、早期発見できるよう家族の様子には気を配っておきましょう。
※初期症状としてMCI(軽度認知障害)の症状を記載していますが、厳密にはアルツハイマー型認知症と軽度認知障害は別の病気です。ここでは、アルツハイマー型認知症が初期段階にMCIと診断されることが多い※2とされているため、MCIの症状を記載しています。
※2 認知症ねっと「第72回 認知症と診断されたら~ADとVDの経過と対策~」
中期では認知機能がさらに低下し、日常生活でのサポートが必須となる
アルツハイマー型認知症が中期になると、以下のようにさらなる認知機能の低下がみられるようになります。
- 最近の出来事について記憶できない
- 夕食の計画や支払いの管理など複雑な作業ができない
- 場所や日付の正確な認識が難しい など
上記のような症状が見られるため、自立した生活が困難となり日頃の生活にサポートが必要となります。妄想や徘徊、幻覚なども起こり始めるため、日常生活においての介護や支援は不可欠なものと考えてよいでしょう。
後期は徘徊・被害妄想なども現れ、手厚いサポートが必要になる
アルツハイマー型認知症の後期には、重度の認知機能低下がみられ日常生活での手厚いサポートが不可欠となります。
- 最近の出来事について全く認識できない
- 着衣やトイレ、食事などあらゆることに介助が必要である
- 被害妄想や幻覚、徘徊がひどくなる など
末期になると人物や場所を完全に理解できなくなり、会話が成り立たなくなってしまいます。また身体を制御する能力も失ってしまい、やがて寝たきりになるといわれています。そのため、食事やトイレなど日常生活を送るうえで必要な動作すべてにおいて介護が必要になるのです。
この状態になると食事の飲み込みにも問題が生じ栄養摂取も困難になるため、身体が徐々に衰弱へと向かっていきます。希望している方には胃ろうや皮下点滴といった延命治療を行い始めるタイミングでもあり、看取りなど今後について考える必要があるといえるでしょう。
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アルツハイマー型認知症の治療は進行を遅らせるもので完治は見込めない
ここまで紹介してきたように、アルツハイマー型認知症は進行とともに深刻な症状を引き起こすものです。しかし、アルツハイマー型認知症の治療には現時点で完治を見込める方法がありません。
アルツハイマー型認知症の治療は、あくまでも進行を遅らせるものとなっており、薬物治療と非薬物治療の2種類に分かれています。
薬物による治療
現在、アルツハイマー型認知症を完治させる薬は未だ開発されていません。以下の薬で進行抑制が図られています。
- コリンエステラーゼ阻害薬
- NMDA受容体拮抗薬
コリンエステラーゼ阻害薬は「アセチルコリン」と呼ばれる神経伝達物質の分解を防ぐものです。アセチルコリンは神経同士の情報の受け渡しを仲立ちする物質で、減少すると脳内のネットワークがうまくいかなくなってしまうとされており、アルツハイマー型認知症では脳内のアセチルコリンが少ない傾向にあるとされています。
そのため、記憶障害や見当識障害などが生じるとされているのです。アセチルコリンは、コリンエステラーゼと呼ばれる酵素によって分解されるといわれています。そのため脳内のアセチルコリンの分解を抑えられるよう、アリセプトやレミニールといったコリンエステラーゼ阻害薬が用いられているのです。
NMDA受容体拮抗薬は、「NMDA受容体」と呼ばれるグルタミン酸の受容体を阻害するものです。アルツハイマー型認知症の方の脳内ではグルタミン酸の分泌が乱れており、それにより情緒の不安定さが生じると考えられています。
NMDA受容体拮抗薬を用いてグルタミン酸の受容体を阻害し乱れを矯正すれば、精神状態の安定や認知機能の改善が期待できるとされています。
薬物を用いない治療
薬を用いずにアルツハイマー型認知症の改善を図る方法もあります。具体的な方法としては、以下のようなものが挙げられます。
回想法 | 昔の記憶を回想し、脳の活性化・精神の安定を図る |
音楽療法 | 楽器の演奏や歌唱、昔よく聴いていた音楽を聴く方法 |
園芸療法 | 植物の世話を通じリラックス効果や達成感を得る |
こういった治療は本人や家族が在宅での生活を穏やかに進められるようにするためで、認知機能の改善を積極的に期待するものではない点を押さえておきましょう。
アルツハイマー型認知症の方への上手な対応方法
アルツハイマー型認知症を発症した方を持つ家族の中には、本人にどのように対処したらよいのかわからない方も多いのではないでしょうか。そこで、ここからは家族がアルツハイマー型認知症になった際に家族がとるべき行動を解説します。
本人の気持ちに寄り添ったサポートをする
アルツハイマー型認知症の方と暮らしていくうえで大切なのは「本人の気持ちに寄り添ったサポートをすること」です。
家族からすると、今までできていた事柄ができなくなったり困った行動をとったりする本人は見ているだけでストレスが溜まるでしょう。しかし、ストレスや不安を最も抱いているのはアルツハイマー型認知症を発症した本人です。
家族が不快感を態度に表してしまうと、本人は大きなストレスを抱えてしまうでしょう。叱る・声を荒げる・会話の腰を折るなどといった行動はせず、本人の主張・気持ちに寄り添い1人の人間として尊厳を守った対応を行うのが大切です。
近所の方にも助けてもらえるように声をかけておく
アルツハイマー型認知症は、症状が進行すると目的もなく外へ出てうろうろと歩きまわる「徘徊」が見られるケースも多いとされています。
徘徊は、行方不明になったりケガをしたりなどさまざまなリスクがあるため、本人が外出しようとする様子を見かけたら一緒に歩くなどの対応が必要です。
ただ、家族が気づかないうちに外へ出てしまうケースもあるでしょう。このような場合に備え、日頃から近所の方へ事前に本人の状態を話をしておいたり地域包括センターに連絡したりなど、徘徊しても無事に家へたどり着けるような体制を整えるのが大切です。
本人が薬を忘れずに飲めるように工夫する
先述のように、アルツハイマー型認知症は進行防止のために用法を守った服薬が大切です。しかし、アルツハイマー型認知症の方は1人では薬の管理ができないケースも多くみられます。
そのため、本人が薬を飲み忘れたり飲みすぎたりしないように1回分の薬をまとめて袋に入れておくなど工夫してあげるとよいでしょう。毎回薬を飲むまで見届けるのもよい方法です。
ただ、家族だけで毎回確認するのは大変だと思うので、看護師や介護士に自宅へ来てもらい薬を飲み終えるまで見てもらうのもよいかもしれません。
本人にとって過ごしやすい環境を作る
アルツハイマー型認知症の方と暮らしていくうえで大切なのが、本人にとって過ごしやすい環境づくりです。
具体的には、以下のような対応が有効といわれています。
- 時計をアナログからデジタルに変更する
- トイレの場所を見てわかるように「トイレ」「便所」と書いた札を付ける
- ガスコンロを加熱防止コンロに替える など
上記はあくまでも一例です。人によって分かりづらいと感じる点は異なるため、本人の様子を見たり話しをしたりしている中で困りごとを把握し、できる限り穏やかに過ごせるよう調整してあげましょう。


カレンダーやメモを使用して大切なことを忘れないように工夫する
大事な予定や忘れてはいけないことなどは、メモやカレンダーを利用して本人がわかるように書いておくとよいです。
例えば、アルツハイマー型認知症の方に多い「すでに買ってきてあるものを再度買ってきてしまう」といった症状が見られる場合、冷蔵庫のドアなど本人がよく確認する場所にメモを張っておいたり、買い物に行くときにメモを渡したりするとよいでしょう。
アルツハイマー型認知症に適切な対応を行い、進行抑制に努めよう
今回の記事では、アルツハイマー型認知症について網羅的に解説を行いました。アルツハイマー型認知症は認知症の中で最も多いですが、完治させる方法は見つかっていません。進行によってさまざまな症状が見られるため、接する家族は介護や強い忍耐力が必要となります。本人の症状を落ち着いて観察し、進行抑制はもちろん本人ができる限り穏やかに過ごせるよう適切に対処していきましょう。
アルツハイマー型認知症に関するよくある質問
Q1 アルツハイマー型認知症になった家族へはどう接したらよいですか?
A1 アルツハイマー型認知症になると、認知機能の低下によりさまざまな症状があらわれます。認知症の進行に伴い症状が重くなってくると、発症前とは随分変わった状態になる可能性もあり、家族としても大きなストレスがたまるでしょう。このときに大切なのは「現在の状態」と「以前の姿」を比較しないことです。以前までの姿と照らしてイライラするのではなく、本人の気持ちに寄り添って接しましょう。
Q2 アルツハイマー型認知症は完治しますか?
A2 現在のところ完治できる治療法は見つかっていません。ただ、治療によって進行抑制は可能とされています。
