「認知症の家族が入浴中に暴れて困っている」「これ以上家族だけで、認知症家族の入浴介助の負担を抱えきれない」
認知症を患うご家族が、入浴の際に暴れてしまうため、困っていませんか。介護の負担を強く感じている方も多いでしょう。認知症になるとお風呂を嫌がる高齢者は少なくありません。
認知症の方がお風呂を拒むのは理由やこだわりがあっての行為です。しかし、介護する家族にとっては衛生面や健康面が気になりますよね。しかし、介護の負担も大きいでしょう。本記事では、認知症の方が入浴を拒む理由や暴れた際の対処法を解説します。
入浴介助を行うサービスも紹介しているため、認知症の方の入浴介護に悩んでいる方は参考にしてください。
認知症の方が入浴を拒否し暴れる理由
まずは、認知症の方が入浴を拒んで暴れてしまう理由を解説します。以下の5つです。
- お風呂の入り方を忘れてしまっている
- 入浴に恐怖を感じている
- すでに入浴したつもりでいる
- 体力がなくなり入浴が困難
- 自分の生活ペースを崩されることへの嫌悪感
認知症の方が入浴を拒んで暴れてしまう理由はさまざまです。それぞれ具体的に解説するので参考にしてください。
お風呂の入り方を忘れてしまっている
認知症の方のなかには、お風呂の入り方を忘れてパニックになっている場合があります。
認知症になる前までは自然にできていた行為や、手順を忘れてしまう「実行機能障害」の疑いがあるため、本人を責めるのはやめましょう。
実行機能障害になると、入浴の一連の行動を忘れてしまうケースは多いです。認知症により、脳の指令と身体活動がスムーズに行えてないからです。無理に急かさず、本人のペースに任せてお風呂に入ってもらいましょう。
入浴に恐怖を感じている
認知症になると、入浴に恐怖を感じるようになるケースもあります。
お風呂に入る生活習慣は記憶に残っているものの、お風呂に入る動作が怖くて仕方がないのです。特に身体を洗う際は、お湯をいきなりかけられたり、シャワーで視界を遮られたりなど、高齢者からしたらびっくりする行為が突然始まります。
はじめはゆっくり丁寧に、一つひとつの入浴動作を細かく説明するよう心がけてください。 少しずつ入浴の恐怖心を取り除いていきましょう。
すでに入浴したつもりでいる
認知症になると、脳の司令がうまく行えなくなり記憶障害になる方が多いです。
そのため、入浴を拒否する方のなかには、すでにお風呂に入ったと勘違いしている場合もあります。
本人が勘違いしている場合は「今日はまだお風呂に入っていないよ」「今からお風呂に入りましょうか」などと、優しく丁寧に伝えましょう。決して声を荒らげず、優しく説明しながらお風呂まで誘導する行為が大切です。
体力がなくなり入浴が大変
認知症の方に限らず、高齢になると身体の筋肉量が著しく低下するため、体力がなくなり入浴が大変になります。
洋服を脱いで身体を洗い流し湯船に浸かって身体を拭いて、再び洋服を着るといった一つひとつの動作が大変になっているのです。
さらにお風呂に入る際に家族が急かしてしまうと、プレッシャーを感じて混乱してしまいます。時間がかかっても、本人のペースに合わせて入浴のサポートをしていきましょう。
自分の生活ペースを崩されることへの嫌悪感
高齢の方は、長い年月をかけて身体の衰えを受け入れ、体力がなくても生活できる仕組みを作っています。しかし、認知症の症状によって記憶障害が起こり、普段の生活習慣が複雑になってしまう方も少なくありません。
例えば、本人は休憩中のつもりでいるのに、家族から入浴を強制されると当然、拒否反応を示します。このように自分の生活ペースを崩されるのが嫌で、嫌悪感を示す方も多いです。お風呂の時間になっても入浴を拒否する場合は、あえて時間をおいたあとに入浴を促すのも1つの対処法です。
認知症の方が入浴を拒否した際の対処法
次に、認知症の方が入浴を拒否した際の対処法を紹介します。以下の5つの対処法です。
- 決して怒らず優しく誘導する
- お風呂に入るメリットを伝える
- お風呂から出たあとの楽しみを伝えておく
- お風呂に入るまでの手順を一つひとつ手伝う
- まずは足湯やシャワーなど部分浴から始める
認知症の方が入浴を嫌がるときは、優しく丁寧に接して対処するのが基本です。それぞれの対処法に注意すべきポイントもあります。1つずつ解説していくので参考にしてください。
決して怒らず優しく誘導する
認知症の入浴介護の基本は、決して怒らず優しく誘導する心遣いです。
特に軽度の認知症の方は言葉の意味をきちんと理解しているので、命令口調で入浴を促されるとストレスを溜めてしまいます。「早く入りなさい」や「入らないとダメだよ」といった、強制的かつ無理強いする言い方は控えてください。
次で紹介しますが、否定的な言葉ではなくお風呂に入るメリットなどポジティブな言葉を意識しましょう。
お風呂に入るメリットを伝える
先に、お風呂に入るメリットを伝えるのもおすすめです。
「身体がキレイになってさっぱりするよ」と、健康を保つのに必要であると伝えたり「お風呂にゆっくり浸かってリラックスしよう」と、ストレス解消に役立つといったメリットを伝えたりするのがいいでしょう。
お風呂に入る=キレイになるといったように、ポジティブな言葉でうまく誘導してください。
お風呂から出たあとの楽しみを伝えておく
お風呂に入るメリットと同じように、お風呂から出たあとの楽しみを伝えておくのも有効的な誘導方法です。例えば、本人の好きなアイスや冷えたビールを用意しておき「お風呂から出たあとに一緒に楽しもう」と伝えるのもいいでしょう。
頑張ったあとに小さなご褒美を用意しておくだけでも、自ら進んでお風呂に入ってくれる可能性が高くなるので参考にしてください。
お風呂に入るまでの手順を一つひとつ手伝う
認知症になるとお風呂に入る手順を忘れてしまう方は多いです。そのため「お風呂に入って」と抽象的な言葉は控え、一つひとつ具体的に説明しましょう。
「まずは脱衣所にいって服を脱いでね」や「お風呂のドアを開けてかけ湯をしようね」など、具体的に短く伝えるだけでも高齢者は安心できます。
介護を担う家族にとっては時間がかかってしまい大変かもしれませんが、優しく丁寧に入浴のサポートに取り組んでみてください。
まずは足湯やシャワーなど部分浴から始める
裸のままお湯をかけられるのに、不快感や恐怖を感じている場合もあります。
特に、脱衣や裸になる行為に拒否反応を示す場合は、シャワーで足の汚れだけ流したり足湯だけ入ってもらったりなど、部分浴から始めていきましょう。初めは、温かいタオルで身体を拭いてあげるだけでも大丈夫です。まずは部分浴から徐々に慣らしていきましょう。
認知症の方が入浴中に暴れた際の対処法
ここからは、認知症の方が入浴中に暴れてしまったときの対処法を3つ紹介します。
- 事前に安全対策をしておく
- 距離をとって様子を伺う
- 入浴のすべてをケアせず時には本人に任す
介護中のご家族が入浴中に暴れてしまうと、本人はもちろん介護している家族も怪我してしまう可能性があります。
そのため冷静に対処するのはもちろん、事前に安全対策をし、ご家族が暴れてもすぐに対応できるような環境づくりが大切です。
事前に安全対策をしておく
認知症の方がお風呂で暴れ回ると、転倒して大怪我につながる可能性があります。そのため、暴れたときに怪我しないよう以下の3つの対策を事前に準備しておくのがおすすめです。
- 浴室内に滑り止めマットを設置
- 必要最低限のものしか置かない
- シャワーの場合は暖かいお湯を出しておく
滑り止めマットはネット通販はもちろん、ニトリなどの家具屋やホームセンターで購入できます。また、暴れたときに物を投げてしまう高齢者もいるので、シャンプーなど必要最低限の小物以外は片付けておきましょう。
ほかにも、シャワーを使用する場合は先に温かいお湯を出しておかないと、冷たい水にびっくりしてしまう高齢者も多いので、準備しておくのがおすすめです。上記の3点を注意しておくだけでも、冷静に対処できるでしょう。
距離をとって様子を伺う
認知症の方がお風呂で暴れだしたら、まずは冷静になり距離をとってください。癇癪を起こして興奮している状態のときに、力ずくで抑え込もうするのは逆効果です。さらに興奮し、暴力的になってしまいます。暴れだした瞬間にスッとお風呂から出て、暴れている本人が怪我しないかだけ観察し、静観しましょう。
認知症の方が暴れているのは誰かを傷つけたいわけではなく、不安や恐怖でパニックになっているだけのため、数分もすれば収まる可能性があります。
暴れている本人も介護者も怪我しないように、物理的に距離をとって見守る行為に徹してください。
入浴のすべてをケアせず時には本人に任す
認知症の方が、お風呂のときだけ介護者に強い嫌悪感を示す場合は、なるべく自由に任してみましょう。どうしても心配で、一つひとつの動作に口をだしたくなる気持ちはわかりますが、人によっては逆効果です。特に認知症の初期段階だと、お風呂の意味や入浴の仕方を覚えているため細かなアドバイスに苛立ちを覚える方は少なくありません。
そのため、本人の意思を尊重してまずは極力任せ、苦手な動作のみサポートしてあげましょう。本人の自尊心を傷つけないよう、本人のペースに合わせてください。
家族だけでは対処できない場合はプロに頼る
ここでは、家族だけでは対処できない場合に利用できる認知症介護に最適なサービスを紹介します。以下の4つです。
- 訪問介護
- 訪問入浴介護
- ショートステイ
- デイサービス
毎日介助を続けていると疲弊し、疲れが溜まって介護者が鬱気味になってしまう場合もあります。介護の負担を減らすためにプロに頼るのもひとつの方法です。ここで紹介する4つの介護サービスの利用を検討してください。
訪問介護
訪問介護はホームヘルパーが利用者の自宅を訪問し、入浴のサポートをするサービスです。入浴する前の着替えから入浴後のケアまで、入浴の動作をすべてサポートします。訪問介護で利用できるのは入浴介助のサービスだけではなく、利用者と介護者が安全に、介護の負担を軽減し生活していくためのアドバイスや食事のサポート、トイレのサポートまで対応します。
訪問介護を利用できるのは、要介護1〜5と認定された方のみです。訪問介護は介護保険が適用されるため、費用も安く抑えられます。家族のみの介護に限界を感じた場合は、訪問介護の利用を検討してください。
訪問入浴介護
訪問入浴介護とは、看護職員が利用者の自宅に訪問し入浴サポートをするサービスです。
先ほど紹介した訪問介護との大きな違いは、看護職員が対応する点です。ホームヘルパーだけではなく、医療従事者である看護職員も同伴するため入浴後に健康チェックまで行います。またお家に浴槽がない利用者のために、専用の浴槽を運び入れ設置から後片付けまで対応します。訪問入浴介護は要介護1〜5または要支援1〜2の認定を受けた方のみです。
訪問入浴介護は、自宅に浴槽がなくて入浴ができない方やデイサービスなどに通えない方を対象にしたサービスのため、当てはまる方は参考にしてください。
ショートステイ
ショートステイは最短1日から利用可能な介護サービスです。
デイサービスは日帰りのみの対応のため夕方までの対応ですが、ショートステイは1日〜30日まで連続して滞在可能です。そのため、冠婚葬祭など急な予定ができた際に、認知症のご家族を預けられるため、安心して用事を済ませられます。
また、ショートステイは入浴介助はもちろん、食事やトイレ、レクリエーションなど、日常生活を網羅してサポートするため、宿泊でも安心してご家族を預けられます。ショートステイは要介護1〜5、要支援1〜2の認定を受けた方のみです。
家族間のみの介護に限界を感じている場合は、ショートステイの利用も検討してみましょう。
デイサービス
デイサービスとは日帰りで、朝から夕方まで介助サポートを行うサービスです。入浴のほかに食事やトイレのサポートをはじめ、利用者同士のイベント、レクリエーションなど利用者同士の交流も楽しみながら、介護サポートを受けられます。
また、デイサービスは送迎車での送り迎えがあるため、ご家族が施設まで送り迎えする必要はありません。デイサービスの利用条件は、要介護1〜5の認定を受けた方のみです。
寝たきりの方や車椅子の方でも対応するため、息抜きに外に出てコミュニケーションを取りたい方におすすめです。
認知症の方が入浴時に暴れる際は優しく対処しよう
本記事では、認知症の方がお風呂で暴れてしまう理由や対処法について解説しました。入浴介護に悩んでいる方はぜひ参考にしてください。
認知症の入浴介護の基本は、命令口調にならず優しく丁寧に接していくことです。怒りっぽい口調で接すると逆効果になるので、本記事の内容を参考に冷静に対処してください。
入浴介護に限らず家族間だけの介護に限界を感じている場合は、介護サービスを活用し、介護の負担を軽減させましょう。