関西女子短期大学 歯科衛生学科
歯科衛生士 社会福祉士
日本歯科衛生学会 日本歯科衛生教育学会
障害者施設併設歯科診療所、保健センター勤務を経て、2008年より関西女子短期大学勤務。
2020年、関西福祉科学大学大学院社会福祉学研究科博士後期課程にて博士(臨床福祉学)取得。
高齢者の口腔衛生状態に関する研究を続けており、現在は口腔機能低下を早期に発見できるシステム構築を目指した研究を行っている。
口の中には、多くの細菌が常在しています。口の中の細菌が原因となってむし歯や歯周病になることは、周知のことと思います。近年、この細菌は口の中の病気のみではなく、全身の健康にも関わっていることがわかってきました。特に高齢者で注意したいのが誤嚥性肺炎です。年齢とともに喉の周囲の筋力の低下が起こり、飲み込む機能(嚥下機能)が低下し、誤嚥が起こり飲食物や唾液が気管に入ってしまうリスクが増加します。つまり、誤嚥性肺炎は誤嚥リスクの高まっている高齢者で、発症しやすい疾患であると言えます。
2011年、肺炎は日本人の死因の第3位になり、今なお死因の上位に位置しています。高齢者の肺炎の多くが誤嚥性肺炎であると言われています。誤嚥性肺炎の予防で重要と考えられるのが、日々の口腔ケアです。口の中に多く存在する細菌数は、正しい口腔清掃を実施することで少なくすることができます。口の中の細菌数が少なくなれば、誤嚥性肺炎の発症リスクを低下させることが期待できます。そのため、日々の口腔ケアはむし歯や歯周病の予防のみではなく、全身の健康維持のためにも必要なのです。
口の中に歯がなくなってしまっても、経管栄養でお食事を行っていても、口腔ケアは引き続き必要です。歯がなくなっても口の中の細菌はなくなりませんし、口の中は細菌が好む湿度と温度に保たれているので、細菌が繁殖しやすい環境です。舌や粘膜にも細菌が付着しています。「食べる」、「話す」などの口の機能を使うことで、舌や粘膜が活発に動きます。それによって唾液が分泌されます。
唾液には様々な働きがあり、その一つとして自浄作用(洗浄する能力)がありますので、若年者の方はあまり舌や粘膜の清掃を意識されないと思います。しかし、「食べる」、「話す」などの口の機能が低下する、使用する頻度が低下すると自浄作用が働きにくくなり、細菌が繁殖しやすくなります。舌や粘膜は非常に繊細ですので、舌用ブラシや柔らかい歯ブラシを使用して舌や粘膜の清掃を行うことをお勧めします。
入れ歯を使用している方は、入れ歯にも細菌が付着します。入れ歯を清掃する際は、必ず入れ歯を口の中から外して清掃してください。また、入れ歯を支えている粘膜も清掃してください。市販の入れ歯洗浄剤を使用することも効果的ですが、あくまで補助的なものです。汚れた入れ歯を入れ歯洗浄剤に入れても、汚れが全て取り除けるわけではありません。歯ブラシや入れ歯用ブラシで入れ歯を磨いたうえで使用してください。
「かかりつけ歯科医」をご存知でしょうか。口は生活を行う上で重要な役割を担っています。口の中の環境は日々変化しますので、定期的に口腔ケア方法を専門家に確認してもらうことが、効果的な口腔ケア実施には必要であると考えます。ぜひ、口の中のお困りごとは「かかりつけ歯科医」にご相談ください。