高齢者の活動レベルにあわせた社会参加の形

高齢者の活動レベルにあわせた社会参加の形
高齢者の「社会参加」と聞くとどのような活動を思い浮かべますか?「友人と会う」「ボランティア活動に参加する」のような活動だけではなく、身体に無理のない範囲で「介護専門職の人と話す」ことも高齢者にとっては大きな意義があります。本コラムでは高齢者の活動レベルにあわせた社会参加の方法を紹介します。
太田 健一 助教
日本福祉大学 福祉経営学部 医療・福祉マネジメント学科(通信教育)
作業療法士/教員
日本社会福祉学会、日本作業療法士協会など
愛知県内の病院に約10年間勤務。現在は大学にて、ソーシャルワーカーの養成に従事している。
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1.社会参加の意義

高齢者の健康のために大切なことはなんだろう。多くの人は最初に「運動」を思い浮かべるかもしれない。これはもちろん、とても重要である。しかし、運動のみで健康長寿は達成されない。健康のポイントとして、以下のように表現されることがある。

  • 「体力、栄養、社会参加」の3本の矢1)
  • 「運動、認知、参加(社会参加)」の3つの柱2)
  • 「運動、栄養、口腔(口の動き)、社会参加」の4つの柱3)

このように、運動のほかに、いずれにも「社会参加」という言葉が入っており、これが健康に対して重要な役割を担っていることが分かる。また、社会参加は健康だけではなく、高齢者の幸福感、生活の満足度にも良い影響を及ぼすことから4)、高齢者にとって大変意義があると言える。

2.社会参加とは

それでは、高齢者にとって意義があると言われる社会参加とは、どのような意味だろう。定義に一般的なものは無いが、例えば、以下のような定義がある。

社会参加とは、社会または地域社会における他者との相互作用を提供する活動に人が参加すること(Levasseur, M et al.)5)

難しい表現ではあるが、具体的には、「友人・近所・親戚と会う、出かける」、「地域のグループ(町内会、老人クラブなど)で活動する」、「趣味、稽古ごとに出かける」、「ボランティア活動を行う」などが社会参加にあたる1)。つまり、ただ運動をするだけではなく、他者と会う、地域で活動を行うなども、健康に大切であり、これらは高齢者の幸福感、生活の満足度にも良い影響を及ぼす。

3.もう一つの社会参加の意味 ~介護が必要な高齢者の社会参加のために~

前の項目では、社会参加の具体的な内容が挙げられた。ここで一つ疑問があるとすれば、「趣味、稽古ごとに出かける」、「ボランティア活動を行う」などは、ある程度健康で動くことができる高齢者しかできないのではないか、という点である。介護予防に努めることで、介護が必要な状態(要介護状態)になることを遅らせることはできるが、人は必ず歳を重ね、いつかは介護が必要になる。この疑問点を考えるために、社会参加のもう一つの意味について確認をする必要がある。

社会参加にかかわる多くの研究では、「自分のことを自分で決めること(自律性)6)」、「やりたいことをやること(前向きな姿勢)7)」、「家族や集団の一員であると感じること(所属感)8)」が社会参加に含まれるとされている。医療・保健・福祉の分野では、社会参加を広い意味で捉え、「参加」という言葉を専門用語として用いるが、自律性、前向きな姿勢、所属感などは、自分が自分の人生・生活に「参加」するという当たり前のこと(人権というレベル)を指している。自分のことが自分でできなくなり、介護が必要になると、自分の人生・生活におけるあらゆる選択を、家族や専門職が決めるということも少なくないだろう。介護が必要な高齢者の社会参加にはこのような視点が必要になるが、これも踏まえて、次項目の社会参加の方法へ進む。

4.社会参加の方法

(1)日常生活に制限がない高齢者

日常生活に制限がない「まだまだ元気」といった高齢者は、一般的な社会参加としてイメージされる「外出を伴う活動」、「他者と交流する活動」への参加が健康に良い影響を及ぼす。

例)町内会・自治会に出かける、ボランティアの場に出かける、スポーツの場に出かける、収入のある仕事に出かける、趣味活動の場に出かける、など。

また、自宅内で食事の用意をはじめとした「役割」を持つことも社会参加の一つである。

例)料理のメニューを考えて作る、家族の食事のために買い物をする家計の管理を行う、など。

(2)日常生活に制限がでてきた高齢者

日常生活に制限がでてくると、外出の頻度は減ってくるだろう。まずは、人の助けを借りながら、方法を変えながら、身体に無理のない範囲で、これまで行ってきた活動を続けられないか、考えてみよう。

例)送迎を家族や友人にお願いして出かける、杖や歩行器を使用して出かける、直接は会えないが、自宅で趣味活動を続ける電話(テレビ電話)を使って他者と交流する(相談をしたり、相談にのったり、近況報告したり)、できる家事はなるべく続ける、など。

(3)日常生活に介護が必要な高齢者

日常生活に介護が必要になると、さらに外出は減少し、自宅内の生活で精一杯かもしれない。また、自宅で生活をすることができずに、施設に入所する場合もあるだろう。ここでも、形を変え、方法を変え、できる限りこれまでの活動を続けることが理想である。

例)介護保険を利用してデイサービスに出かける(無理に交流をしなくても、行くだけでも有意義)、自宅や施設に来てくれる専門職との交流を楽しむニュースや新聞で社会に触れる、など。

一方で、もう健康ではないのだから社会参加もできないし、する意味もないと思う人もいるかもしれない。しかし、これ以上健康が悪化しないために(専門用語で3次予防という)、また、何より、どれだけ介護が必要になっても、最後まで自分の人生を幸福に生きる権利がある。「もう一つの社会参加の意味」を思い出して、自分の人生・生活に「参加」するという視点を持って、社会参加(参加)の形を考えてみよう。

例)本人や家族が、その人がどのような生活がしたいのか考える…安心できる生活?怒られない、指図されない生活?食べたいものを時々リクエストできる?好きなスポーツチームをテレビで応援する?自分のことを考えてくれていると存在感を感じることができる生活?

★家族や介護職員など、第三者が考える時のポイント

  • 誰しもいつか、介護が必要な状態になるだろう。価値観は人それぞれだが、まずは自分が同じ状況だったら、どのような生活がしたいか考えてみよう。
  • 当然、本人の希望をそのまま叶えられないことがあるだろう。違う形でも、どんな形なら、少しでもその想いを満たすことができるか、考えてみよう。家族も自分の生活・人生があるので、無理に犠牲になる必要はない。
  • 介護を必要とする高齢者本人が、「周囲に迷惑をかけない生活」を希望することも多いだろう。それはどのような生活か(なるべく自分のことは自分で行う?など)考えてみよう。その際、本人が嫌な想いを我慢してでも、ということがあれば調整する手立てがないか、考えてみよう。意外と、周囲に大きな負担をかけることなく、少しの工夫でできることもある。
  • 本人と意思の疎通が困難な場合、その人がどのような生活がしたいのか考えることが難しい場合もあるだろう。正解かどうか分からなくても、考える・想像する・追及するプロセス(過程)を続けることが大切である(本人さえ分からない場合も多々ある)。

5.まとめ

高齢者の方へ

高齢者人口の増加は続き、2040年頃にはピークに達すると言われています。誰もが疾患、障害、認知症を抱えて生活していくことになります。「いやだな」と悲観的な感情を持つ人がいるかもしれませんが、健康度が落ちて介護が必要な状態になることは当たり前のことです。そんな時、自分ならどんな生活がしたいだろう、安心して生活するためには何が必要だろう、少しでも幸せに生活するためにはどうしたらよいだろう、社会参加(参加)の形を変えながら、広げながら、自分の人生に「参加」してみてくださいね。

介護をしている(予定がある)ご家族の方へ

繰り返しですが、家族にも自分の生活・人生があり、それを犠牲にしては意味がありません。ただし、もしかしたら、そんなに負担を感じない方法で、何かできることがあるかもしれません。専門職など、周囲を頼りながら考えることができると良いですね。

【参考文献】

1) 東京都健康長寿医療センター研究所 健康長寿新ガイドライン策定委員会編・著(2017)「健康長寿新ガイドラインエビデンスブック」東京都健康長寿医療センター.

2) 牧迫飛雄馬(2019)「老年健康科学 運動促進・知的活動・社会参加のススメ」ヒューマン・プレス.

3)  東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加とヘルシーエイジング研究チーム監修(2023)「ヨコハマ版 地域で取り組む! フレー!フレー!フレイル予防 応援ガイドブック」横浜市健康福祉局 地域包括ケア推進課

4)  中川 威(2018)高齢期における主観的幸福感の安定性と変化―9年間の縦断研究―,老年社会科学40(1),22-31.

5) Levasseur, M. Richard, L. Gauvin, L. et al. (2010) Inventory and Analysis of Definitions of Social Participation Found in the Aging Literature: Proposed Taxonomy of Social Activities,Soc Sci Med. 71(12):2141-9.

6)  Nay, R. Bauer, M. Fetherstonhaugh, D. et al. (2015) Social participation and family carers of people living with dementia in Australia. Health & Social Care in the Community. Health Soc Care Community. 23(5):550-8.

7)  Mars, G. M. J. Kempen, G. I. J. M. Mesters, I. et al. (2008) Characteristics of social participation as defined by older adults with a chronic physical illness. Disabil Rehabil. 30(17):1298-308.

8)  Bärwalde, T. Hoffmann, L.  Fink, A. et al. (2020) The Adolescent Concept of Social Participation-A Qualitative Study on the Concept of Social Participation from Adolescents with and without Physical Disabilities. Qual Health Res. 33(3):143-53.

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