「住宅型有料老人ホームの設置基準を知りたい」「他の有料老人ホームと何が違うのか」
有料老人ホームの運営を考えるにあたって、最初の疑問がこれらでしょう。押さえておくべき「基本のき」となります。
また、有料老人ホームを検討する方にとって、運営側のことを理解していると、施設を見極める視点が増え、失敗も少なくなります。
この記事は、厚生労働省の資料をもとに住宅型有料老人ホームの設置基準をわかりやすくまとめました。参考になさってください。。
住宅型有料老人ホーム設置基準
「住宅型有料老人ホーム」は有料老人人ホームの3類型の1つです。
【有料老人ホームの類型】
- 介護付き有料老人ホーム
- 住宅型有料老人ホーム
- 健康型有料老人ホーム
有料老人ホームの根拠法は「老人福祉法」です。その第29条第1項で規定されている有料老人ホームの設置・運営に関して、
厚生労働省によって「有料老人ホームの設置運営標準指導指針」が決められています。。詳細を見ていきましょう。
なお、資料を元にして分かりやすいように一部解釈により言い回しを変更している部分がありますのでご了承ください。
参照:厚生労働省「有料老人ホームの設置運営標準指導指針について」
住宅型有料老人ホームの設置者
有料老人ホームの設置者は、「社会的信頼のある経営主体」となっています。
具体的には下記などが挙げられます。
- 法人格を有する民間事業者
- 地方公共団体
- 社会福祉法人
- 医療法人
- 財団法人
特別養護老人ホームや介護老人保健施設などの「介護保険施設」とは異なり、株式会社をはじめとした民間の事業者が設置者となることができます。
大手企業では、ベネッセスタイルケアやニチイホームだけでなく、綜合警備保障(株)の関連会社である「ALSOK介護」や「レオパレス21」も、住宅型有料老人ホームを経営しています。
住宅型有料老人ホームの立地基準
立地については、「高齢者が健康で安全な生活が維持できる場所を選ぶこと」とされています。
具体的には下記の通りです。
- 交通の利便性が良い
- 医療機関と連携しやすい
- 「地域の環境」や「災害」からの安全性が確保されている
有料老人ホームは入居者の生活の場です。
住宅地から遠距離であり、外出がしづらい環境は避けることが明記されています。
住宅型有料老人ホームの建物設置基準
厚生労働省の指導指針には、建物の基準として、「入居者が安全で快適な生活が送れる設置基準」が明記されています。
具体的には下記の通りです。
- 入居者が快適な日常生活を営める規模にする
- 建築基準法、消防法による基準を満たし災害、ガス漏れなどの事故に備える
- 採光や換気などの保健衛生に配慮する
- 入居者の身体機能のた低下や障害が生じた場合にも対応できるように配慮する
必要な設備についても細かい決まりがあり、おおよそ下記の通りです。
【必要な設備】
必要な設備 | 詳細 | 概要 |
一般居室 | · 個室· 1人あたりの床面積は13㎡以上
· 隣室を隔てる壁は天井まで届き、遮音性について基準を満たしていること |
必ず設置する |
介護居室 |
|
|
一時介護室 |
|
|
浴室 | 身体の不自由な者が使用するのに適したもの | 居室内に設置しない場合、すべての利用者が利用できる数を設ける |
洗面所 | ー | |
便所 | 居室内又は居室のある階ごとに居室に近接して設置する
緊急通報装置等を備える 身体の不自由な者が使用するのに適したもの |
|
食堂 | ー | 設置者が提供するサービス内容に応じ、次の共同利用の設備を設ける |
医務室または健康管理室 | 医務室は医療法施行規則に準ずる | |
介護・看護職員室 | ー | |
機能訓練室 | ||
洗濯室 | ||
汚物室 | ||
健康・生きがい施設
(スポーツ・レクリエーションをするための施設、図書室など) |
||
事務室、当直室 | ー | |
廊下 | 廊下は個室などの状況により1.4〜1.8mの幅とする |
入居者の快適な生活のためにもこれらの基準を満たしているか参考にしましょう。
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住宅型有料老人ホームの人員配置、研修、衛生管理等の基準
<職員の配置>
有料老人ホームの職員の配置については入居者の数や、サービスの内容に応じて下記の職員を配置することとなっています。
- 管理者
- 生活相談員
- 栄養士
- 調理員
住宅型有料老人ホームでは介護サービスを提供しないため、介護職員、看護職員などの配置義務はありません。
ただし、入居者の実態に則し、夜間の介護、緊急時に対応できる数の職員は配置しなければなりません。
<研修>
職員に対しては、採用時、採用後も定期的に研修を実施することが定められています。
住宅型有料老人ホームにおいては、特に生活相談員について、高齢者の心身の特性、実施するサービスのあり方や内容、介護に関する知識等の研修を行うことと明記されています。
<衛生管理等>
衛生管理等の基準は、下記のような職員の就業環境に関することが指針として挙げられています。運営事業者として職員を守る義務があることがわかります。
- 職員の心身の健康に留意し、定期的に健康診断を実施すること
- 就業中の衛生管理について十分な点検を行うこと
- 職場におけるセクシャルハラスメントやパワーハラスメントの内容、それらを行なってはならない方針を明確化し、職員に周知・啓発すること
- ハラスメントを受けた際の相談窓口を定め、職員に周知すること等の必要な措置を講じること
- 入居者や家族からの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)防止のための相談・対応体制の整備等、必要な対策を講じること

住宅型有料老人ホームの運営基準
ここでは、運営上の細かな決まりについて見ていきます。
①管理規定の制定
事業を運営するためには、全体を管理するためのルールを決める必要があります。
具体的な項目は下記の通りです。
- 入居者の定員
- 利用料
- サービスの内容
- 費用負担について
- 介護を行う場合の基準
- 医療を要する場合の対応
これらを含み、入居者に対して説明事項を提示している資料なら「管理規定」として扱うことができます。
②名簿の整備
緊急時に迅速に対応できるように、入居者、入居者の身元引き受け人などの連絡先を記載した名簿を整備しておく必要があります。
③帳簿の整備
下記について帳簿にまとめておくことが明記されています。
- 有料老人ホームの修繕、改修の実施状況
- 前払金、利用料、その他入居者が負担する費用の受領の記録
- 入居者に提供した下記のサービスの内容
- 食事の提供
- 洗濯、掃除等の家事の供与
- 健康管理の供与
- 安否確認又は状況把握サービス
- 生活相談サービス
- 緊急時にやむ得なく行った身体拘束についての下記の内容
- 身体拘束の態様
- 時間
- その際の入居者の心身の状況
- 緊急やむを得ない理由
- 家族からの苦情の内容
- 提供したサービスにより起こった事故についての下記の内容
- 事故の状況
- 事故に際して採った処置の内容
- 提供サービスを委託する場合はその事業者の情報と契約内容、サービスの実施状況
- 設備、職員、会計、入居者の状況に関する事項
なお、これらを記載した帳簿は2年間保管します。
④個人情報の取り扱い
名簿や帳簿における個人情報は、個人情報保護法における「個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」を遵守することとされています。
⑤業務継続計画の策定等
コロナなどの感染症や地震などの自然災害発生時において、入居者に対する処遇を継続的に行うため、及び非常時の体制で早期の業務再開を図るための「業務継続計画」を策定することが指針として挙げられています。
それを有効に機能させるために、下記のことが指導されています。
- 策定した業務継続計画に従い必要な措置を講じること
- 職員に業務継続計画を周知し、必要な研修及び訓練を定期的に実施すること
- 訓練は机上及び実地を適切に組み合わせること
- 定期的に業務継続計画の見直しを行い、必要に応じて変更すること
⑥非常災害対策
火事や風水害、地震等の非常災害に関する対策として、下記の項目が挙げられています。
- 具体的な計画を立て、関係機関への通報、連携体制を整備すること
- それを定期的に職員に周知し、定期的に避難訓練や救出その他必要な訓練を行うこと
- 避難訓練等は地域住民の参加が得られるように連携に努めること
⑦衛生管理等
感染症の発生、又はまん延しないように下記の措置を講じることとしています。
- 感染症の予防及びまん延防止のための対策を検討する委員会を概ね6ヶ月に1回以上開催し、その結果について職員に周知徹底を図ること
- 委員会への参加はリモートでも可能
- 委員会は、感染対策の知識を有するものを含み、幅広い職種で構成されることが望ましい
- 感染症及びまん延防止のための指針を整備すること
- 職員に対し、感染症及びまん延防止のための研修及び訓練を定期的実施すること
- 訓練は机上及び実地を適切に組み合わせること
⑧緊急時の対応
⑤〜⑦に掲げたもの以外に、事故、災害、急病、負傷について、迅速かつ適切に対応できるように、実際に起きたことを想定して具体的な計画を立てることが規定されています。
また、頻度には言及がありませんが、定期的に避難等の必要な訓練を行うことも明記されています。
計画の策定、訓練の実施にあたっては、⑤〜⑦に定める計画や訓練と併せて実施しても差し支えありません。
⑨医療機関などとの連携
医療機関との連携は重要です。入居者の健康管理と適切な医療を受けられるように、具体的に下記のように規定されています。
- 入居者の急変時に備え、医療機関と協力する旨とその内容を取り決めておくこと
- 歯科医療機関と協力する旨とその内容を取り決めておくように努めること
- 協力医療機関と協力歯科医療機関との協力内容、それぞれの診療科目、協力科目等について、入居者に周知しておくこと
- 入居者が適切に健康診断や健康相談が受けられるように、協力医療機関による医師の訪問や嘱託医の確保などの支援を行うこと
- 入居者が医療機関を自由に選択することを妨げないこと。協力医療機関はそこでの診療を誘引するものではない
- 入居者を患者として紹介する対価として医療機関から金品を受領すること等により、入居者を診療を受けるように誘引してはならない
⑩介護サービス事業所との関係
入居者が自由な選択肢を持って、適切な介護サービスを受けられるよう支援するために、他の介護サービス事業所との関係については下記のように明記されています。
- 近隣の介護サービス事業所には入居者についての情報共有を行う
- 特定の事業者を利用するように誘導しない
- 入居者の希望するサービスを妨げない
⑪運営懇談会の設置など
運営懇談会とは「事業の透明化」の観点から入居者、入居者の家族、第三者の学識経験者、地域の民生委員などを交えて行う運営に関する報告会です。
開催にあたっては、入居者や家族に周知し、参加できるように配慮する必要があります。参加についてはリモートも可能です。
内容としては下記の通りです。
- 入居者の状況
- サービス提供状況
- 管理費、食費を含めた収支等の内容
代替の措置を行っている場合を除き、運営懇談会は実施する義務があります。
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住宅型有料老人ホームのサービス内容に関する基準
有料老人ホーム設置者は、入居者に対して下記のサービスを行うとされています。
- 食事サービス
- 生活相談・助言
- 健康管理と治療への協力
- 介護サービス
- 安否確認・状況把握
- 機能訓練
- レクリエーション
- 身元引受人への連絡等
- 金銭等管理
- 家族との交流・外出機会の確保
介護サービス、機能訓練は、「介護サービスを提供する有料老人ホームにおいては」と補足されています。介護サービスを提供しない、「住宅型有料老人ホーム」では、その限りではありません。
高齢者虐待の防止、入居者保護の観点からは、下記の施策を講じることとされています。
- 高齢者虐待を受けた入居者の保護のための施策に協力すること
- 虐待防止のための対策を検討する委員会を定期的に実施し、その結果を職員に周知徹底すること
- 虐待防止のための指針を整備すること
- 職員に対し虐待防止のための研修を定期的に実施すること
- これらを適切に行うための担当者を置くこと
- 苦情処理体制の整備をすること
また、身体拘束や行動制限はやむを得ない場合を除き、行ってはいけないことになっています。緊急やむを得ず身体拘束等を行う場合は、その記録を残す必要があります。また、身体拘束等の適正化のための委員会の定期的な開催、指針の整備、職員への定期的な研修も実施しなければなりません。
なお、「有料老人ホーム設置運営標準指導指針」には、その他に「事業収支計画」「利用料等」「契約内容等」「情報開示」「電磁的記録等」についても言及されています。
住宅型有料老人ホームで実際にあった運営基準違反
ここからは実際にあった運営基準違反を見ていきましょう。
監査に入り実地指導を受けた実際の指摘事項になります。知らず知らずに運営基準違反をしていることもありますので、こちらを参考に十分に注意してください。
特に、施設と同じ運営会社が介護サービス事業所を施設に併設して運営しているケースは注意が必要です。
人員基準違反
● 有料老人ホーム併設の訪問介護事業所において、サービス提供責任者が、併設施設の夜勤職員として勤務していた。(利用者40人未満)
<指導内容>
サービス提供責任者は常勤職員で、指定訪問介護に専従とされており、有料老人ホームとの兼務は認められないため、勤務 体制を見直すこと。
● 有料老人ホーム併設の通所介護事業において所生活相談員が併設施設の管理者を兼務している事例があった。(生活相談員1名)
<指導内容>
生活相談員は、営業日ごとにサービス提供している時間帯を通して配置する必要があり、当該事業所は、生活相談員が1名しかいないため職員の兼務は認められないことから、勤務体制を見直すこと。
管理規定内容との相違
● 相部屋について、管理規程において「ご家族やご親戚の方、又は介護人、看護師等の方を対象」と明示しているが、実態は全室とも他人同士の相部屋となっていた。
<指導内容>
それを改善するとともに、相部屋は夫婦の場合のみ認められていることから、管理規定の同居者に係る記載を見直しすること。
管理規程において定めている入居数を超えて入居させているため、改善すること。
非常災害対策について
● 非常災害対策計画(マニュアル)を策定しているが、記載内容の具体的な取り組みが行われていなかった。
<指導内容>
計画の見直しを含め、適切に実施すること。
● 非常対策計画(マニュアル)を策定しているが、自然災害に関する記載が無い
<指導内容>
事業所に併せた具体的な計画を作成の上、職員間での共有を図ること。
運営懇談会について
● 運営懇談会が設置されていない
<指導内容>
運営懇談会は、有料老人ホームの運営について事業者から定期的に報告する場であるとともに、入居者からの要望や家族間の意見交換、交流を行う場でもあるため、設置すること。
協力医療機関について
● 入居者個々のかかりつけ医に相談し、指導を受けているとして、施設としての協力医療機関を定めていない
<指導内容>
入居者の病状の急変等に備えるため、あらかじめ医療機関と協力する旨及びその協力内容を取り決めておくこと。
身体拘束等について
● 身体拘束等の適正化のための指針を定めているが、一般的な内容である
<指導内容>
施設に併せた具体的な指針を定めること。
● 身体拘束等の適正化のための委員会の開催や職員研修等が実施されていない
<指導内容>
適切に実施すること。
入居契約書について
● 入居契約書の重要事項(居室番号、家賃相当額等)の記載漏れが散見された
<指導内容>
適切に作成すること。
住宅型有料老人ホームでの特定の介護サービスの強要について
住宅型有料老人ホームでは、入居者が介護サービスを利用する場合に外部の事業所と契約をして利用します。
その際に住宅型有料老人ホーム側からの要求で、入居者の意思に沿わない不適切な介護サービスを提供されることがあります。具体的には下記のような事例です。
● 住宅型有料老人ホームと同じ事業者が運営するデイサービスを週5日利用するよう提案された。自宅にいたときはデイサービスの利用は週2回だったため、「入浴日の週2回利用で十分」との希望をケアマネに伝えたら、「他の入居者にも毎日利用してもらっています。デイに行かないと食事が取れませんよ」と取り合ってもらえなかった
● 体調が悪く部屋で休みたいと伝えても、「デイサービスで休んでください」と言われ、毎日1階にあるデイサービスに連れていかれる。毎日行くことになっているデイサービスを減らしてほしいとケアマネに相談しても、取り合ってもらえない。
● 入居後のケアマネが事前に決まっているにもかかわらず、ケアプランの説明がされないまま入居。契約時には住宅型有料老人ホームから「まかせてください。大丈夫ですよ」と言われたが、介護サービスの内容に関する希望や説明のお願いを伝えても回答がなく解決しない。本当はケアマネからしっかり説明を受けたい。
● 入居契約時に、値引き(月額1〜2万円)することを条件に介護サービスの利用を強要された。契約書上は本来の正当な金額表示であり、値引きに関する文章は存在しない…。
● 住宅型有料老人ホームの事業者から、「うちの介護保険サービスを利用して、外出などをホームの都合に合わせてくれれば料金を毎月1万円値引きすると言われた。
● 専門的なリハビリを受けたくて通所リハビリを利用したいとケアマネに伝えたが、外部の介護保険サービスは利用できないと言われ、住宅型有料老人ホームと同じ事業者が運営しているデイサービスの利用を継続させられた。
介護サービスの選択権は利用する側にあり、故意に誘導したり、強要することは運営基準違反となりますので注意しましょう。
まとめ
本記事では以下のことを解説しました。
- 住宅型有料老人ホームとは
- 住宅型有料老人ホームの設置基準・運営基準
- 実際にあった指導・違反例
運営基準は、入居者や家族が安心して生活するためには重要です。本記事で紹介した内容は最低限の基準になります。
入居者の快適な生活のためにもこれらの基準を満たしているか、介護サービスの提供に不自然点がないか確認しましょう。
住宅型有料老人ホームの人員基準は、管理者、生活相談員、栄養士、調理員の配置のみで、夜間の緊急対応に問題がなければ良いという程度になります。介護サービスは外部の事業所が提供するので、看護・介護職員については人員配置の義務はありません。詳しくはこちらをご覧ください。
他の施設とは異なり、設置主体は「民間事業者」でも可能です。また、「地方公共団体」「社会福祉法人」「財団法人」「医療法人」も設置することができます。詳しくはこちらをご覧ください。