近年、認知症の方やその家族が気軽に交流できる場所として、認知症カフェが注目されています。
ここでは、認知症カフェの役割や活動内容等、利用方法などについてお伝えしていきたいと思います。
愛媛大学 大学院医学系研究科 看護学専攻
保健師・助産師・看護師/教員
日本公衆衛生学会・日本健康学会・日本看護科学学会
看護師・産業保健師として従事したのち、東京大学大学院医学系研究科博士後期課程にて博士(保健学)を取得。2019年より愛媛大学大学院にて看護師・保健師教育に従事。専門領域は、地域看護学、高齢者保健。
1.認知症カフェとは
認知症カフェとは、認知症と診断された方(疑いのある方も含む)とそのご家族、保健医療介護福祉の支援者、地域の人々等、誰もが気軽に集まり、情報交換や様々な支援を受けることができる場所です。「認知症カフェ」という名称で開催されている国や地域もありますが、「オレンジカフェ」、「アルツハイマーカフェ」「メモリーカフェ」というように様々な名称で開催されています。
「カフェ」という名称の通り、誰もが気軽に参加でき、お茶やコーヒーなどの飲み物の提供を受けながら、認知症に関する講義を受けたり、健康についての学習ができたり、介護や医療についての情報交換や交流を行う場となっています。
ただし、一般的なカフェとは異なり、公民館や地域のコミュニティセンターなどの一室を利用して、月に1~2回程度の頻度で、1回につき2時間程度の開催とされています。また、認知症カフェでは、一般的に1日につき100~200円程度の利用料や飲み物代を支払うことで、飲み物や軽食(お菓子)が提供されます。
2.認知症カフェの始まりと役割
認知症カフェは、1997年にオランダの臨床心理学者ベレ・ミーセン(Bere Miesen)によって創設された「アルツハイマーカフェ」が起源です。これは、認知症患者とその家族が情報共有と支援を受けるための場として設けられ、リラックスできる環境で社会的なつながりを保ちながら交流できることを目的としています。
このモデルは世界中に広がり、イギリス、アメリカ、日本など多くの国で文化やニーズに合わせてアレンジされています。認知症カフェは、情報交換の場を超え、認知症に対する社会的な認識や理解を深める役割も果たしています。
認知症カフェの名称、活動内容は世界各地で異なりますが、主な役割は変わりません。
<認知症カフェの役割> 安全で魅力的な集いの場を提供する。 認知症と共に生きることを支援する。 同じような経験をしている仲間とつながる。 仲間になることで、人々に力を与える。 会員に思いやりのある支援、教育、認識を提供する。 友人や家族を支える社会的つながりを築く。 |
3.我が国における認知症カフェ
日本でも認知症の人々が社会とつながりを持ち続けるための重要な取り組みの一つとして導入され、2004年に最初の認知症カフェが開設されたとされています。その後、2012(平成24)年の認知症世作5か年計画(オレンジプラン)によって、認知症の人とそのご家族を支援する方策として、「認知症カフェ」の設置・運営が推進されました。
そのため、このオレンジプランにちなんで、「オレンジカフェ」という名称で運営されている認知症カフェもあります。オレンジプラン以降、国内外での認知症に関する調査研究の推進や情報の共有を背景に、全国各地で多くのカフェが開かれるようになり、認知症カフェは、地域社会における認知症の人々とその家族への支援の枠組みを提供し、認知症の人々とそのご家族の生活の質の向上に貢献しています。
日本では、2021(令和3)年の時点で、47都道府県1,543市町村(88.6%)にて、7,904カフェが運営されています。認知症カフェは、行政、社会福祉協議会、NPO法人等、様々な団体によって運営されていますが、いずれも専門のスタッフやボランティアが運営を支え、参加者一人ひとりに寄り添ったサポートを提供しています。
4.カフェの活動内容
認知症カフェの活動内容は、地域によって異なりますが、多くの認知症カフェで行われている主な活動内容は以下の通りです。
1)情報提供や学習の機会:医療専門家や社会福祉士等の専門職が認知症の基本的な知識、症状の管理方法、家族介護、利用可能な地域の社会資源について講和を行い、学習する機会を提供します。認知症のある方とご家族のサポートの機会にもなっています。
2)レクリエーション活動:音楽や脳トレ、体操など、認知症の人々やご家族、地域の人々が楽しめる創造的な活動を行います。認知症の人々が感情表現を促し、自尊心を高める助けとなります。
3) 参加者同士の交流:カフェのリラックスした環境が、地域住民同士の交流やコミュニケーションの場を提供します。
4) 認知症に関する無料相談:保健医療福祉介護の専門家への相談やアドバイスを受けることができます。
5)グループディスカッション:認知症に関するテーマに基づいた討論が行われ、認知症のある方のご家族の経験や感情を共有する場となっています。
5.認知症カフェの利用方法
認知症カフェの利用条件は、特に設けられていない場合がほとんどです。基本的に、事前の予約や申し込みは不要ですが、カフェによっても異なりますので、事前に確認されるとよいでしょう。
お住いの地域の認知症カフェに関する情報は、お住いの自治体や地域包括支援センターから入手することができます。お住いの地域で開催されている認知症カフェが、それぞれどのような活動目的で運営されているのかを確認したうえで、認知症カフェを利用されることをお勧め致します。
認知症の本人様が参加したくない場合、無理に参加を促す必要はありません。ご家族以外にご近所の方やご友人、ヘルパーさん等からお誘いいただくことも参加を促す機会になります。
また、ご本人が一緒でなくともご家族だけでもご利用いただけます。介護や医療について相談したり、介護を行う上での有用な情報を得られたり、他の介護者の方との交流の機会にもなります。ぜひお気軽に参加されてみてはいかがでしょうか。
・武地一:認知症カフェハンドブック, クリエイツかもがわ,2015.
・奥村典子,藤本直規:もの忘れカフェの作り方,徳間書店,2013.
・矢吹 知之:認知症カフェ読本:知りたいことがわかるQ&Aと実践事例,中央法規出版, 2016.
・厚生労働省:認知症カフェ
・Alzheimer’s Disease International (ADI):Alzheimer Cafés,https://www.alzint.org/what-we-do/policy/dementia-friendly-communities/alzheimer-cafes/
・Alzheimer’s Speaks:Memory Cafes,https://alzheimersspeaks.com/memory-cafes/