今回は、成年後見制度の仕組みなど、これだけは知っておきたいことについて事例を交えながらご説明いたします。
種智院大学 人文学部社会福祉学科
大学教員
日本社会福祉学会、日本地域福祉学会、種智院大学仏教社会福祉学会
1977年関西大学 社会学研究科 修士課程を修了(社会学修士)。種智院大学 仏教学部 助教授を経て2007年から人文学部教授。
大阪府市民後見人養成・活動支援事業企画委員、大阪府枚方市「ひらかた権利擁護成年後見センター」運営委員会委員長など。
「認知症高齢者を地域で支える権利擁護の現状と課題」(日本仏教社会福祉学会会報、2019年)等。
高まる成年後見制度のニーズ
認知症でひとり暮らしの伏見さん(85歳)は、最近症状が進み何度も通帳を失くしたり、ガスを使うのも危うくなってきました。遠方の県にいるひとり娘の京子さんが時々電話をしますが、会話が成り立たないことも多くなってきたので市役所に相談をしました。そこで成年後見制度についての説明を受け、母親である伏見さんに成年後見人をつけてもらうよう家庭裁判所に申立てをしました。その結果、後見人に弁護士が選ばれ、預貯金の管理やヘルパー派遣契約を行い伏見さんの生活は安定しました。
頼れる身寄りがいない高齢者や、伏見さんように子どもがいても遠方に住んでいて預金の引き出しやサービスの利用契約など日常生活で困ったことがあっても頼ることが難しい高齢者が増加し成年後見制度のニーズが高まってきています。成年後見制度は判断能力が不十分な人の権利を守り、自分らしい生活を続けていけるように家庭裁判所が選んだ後見人が法律的に支援する制度です。
成年後見制度の仕組み
この制度には2種類の制度があります。ひとつは、すでに判断能力が不十分な場合に、本人や親族が家庭裁判所に申立てをして後見人を選んでもらう「法定後見制度」です。伏見さんの場合がそうです。
ここまで後見人と言ってきましたが、正確に言うと、法定後見制度は、判断能力の低下の程度が軽い順から重い順に「補助」、「保佐」、「後見」の3類型があります。支援をする人を補助人、保佐人、後見人と呼びます。ここでは、これらをひっくるめて「後見人等」と言うことにします。
もうひとつは、将来自分の判断能力が不十分になった場合に備えて、前もって自分の選んだ人と後見の契約を結んでおく「任意後見制度」です。法定後見制度は家庭裁判所が後見人等を選ぶものであるのに対し、任意後見制度は当事者どうしの契約によります。
後見人等は何をしてくれるのか
では、後見人等は何をしてくれるのでしょうか。ひとつは、本人が持っている財産の管理です。預金の引き出しなどの財産の管理、給付金や年金等の申請です。もうひとつは、福祉や医療など生活に必要な契約や手続き等を行います。介護保険サービスの利用契約、病院の入退院手続きや、本人が安心して生活できるように環境を整えること等です。悪徳商法の被害にあうのを防いでもくれます。ただし、食事や身体の介助をすること等は後見人等の活動には含まれていません。
成年後見制度がより身近になるには
伏見さんのような認知症の高齢者が700万人になろうとしていますが、成年後見制度を利用している人は約24万人(知的障害者、精神障害者を含む)にとどまっており利用が進んでいません。そこで、成年後見制度を必要とする誰もが利用できるようにするため多くの市町村では「成年後見支援センター」等を設置して、成年後見制度の正しい知識を市民に知らせ、家庭裁判所への申立ての相談窓口も設けています。さらに講演会等も開催して成年後見制度が市民により身近なものになるよう取り組んでいます。
もっと詳しく知りたい人のために
人生100年時代を迎え、成年後見制度は将来に備える有効な選択肢の一つと言えるでしょう。もっと詳しく知りたい人には、「成年後見 早わかり(動画も掲載)」(厚生労働省)のサイトがお薦めです。