デザインにおいて高齢者が住み続けられるまちをつくるためにできることといえば、バリアフリーやユニバーサルデザインがあります。皆さんはバリアフリーやユニバーサルデザインという言葉を一度は聞いたことがあると思いますが、改めて確認してみましょう。
東京造形大学 造形学部
TZU DESIS Lab.ディレクター、一般社団法人Spedagi Japan理事、タイ国立キングモンクット工科大学トンブリ校建築デザイン学部客員研究員
2003年東京造形大学造形学部環境計画デザインマネジメント卒業。 2013年タイ国立マヒドン大学大学院環境資源研究科博士課程修了。 専門は「サステナブルデザイン論」「サステナブル社会論」。 地域資源をキーワードに東南アジアや多摩地域をフィールドにサステナブルなモノづくりやサステナブルな社会のあり方について研究。グッドライフアワード(環境省)やキッズデザイン賞(経済産業省)受賞。
バリアフリー・ユニバーサルデザインについて
バリアフリーとは、障がいを持つ人や高齢の方の日常生活の中にあるバリア=障壁をフリー=取り除き、障がいを持つ人や高齢の方でも使いやすく、快適に暮らせるようにまちや物のデザインを考えることです。身近な例としてバリアフリー住宅やノンステップバス、道路の誘導用ブロック、思いやり駐車場等は皆さんにとっても馴染みのあるデザインではないでしょうか。
一方、ユニバーサルデザインは障がいを持つ人や高齢の方だけでなく、すべての人を対象にしており、「障害を取り除く」のではなく「障害そのものが生じない」ように誰にとっても使いやすい施設や製品を設計段階から考えることです。身近な例としてピクトグラム(絵文字)を用いた案内サイン、誰でもトイレ、自動ドア、幅の広い歩道等があります。
極端な言い方をすれば、バリアフリーは対処療法的で、ユニバーサルデザインは原因療法的な取り組みと言えます。バリアフリー・ユニバーサルデザインで実現しようとしている社会の姿とは、自立した個人が社会参加し生き生きと暮らせる社会の実現です。高齢の方や障がいを持つ人だけでなく、あらゆる人が自立し、尊厳を持って生きることができる共生社会・平等社会を目指していると言えます。
お互いをケアし合う関係づくりのデザインへ
バリアフリー・ユニバーサルデザインの取り組みや目指している社会の実現はとても重要ですが、高齢者が住み続けられるまちを考えると十分とは言えません。なぜなら、やっぱり人間一人では生きていけないからです。高齢者が住み続けられるまちをつくるためには「お互いをケアし合う関係づくりのデザイン」が大切になってくると思います。
介護サービスのように互酬性にもとづいた関係(介護サービスを提供する人・お金を支払いサービスを受ける人)はケアし合うというよりは、サービス提供者と受益者という一方的な関係といえます。もちろん介護サービスがしっかりあるまちは、高齢者が住み続けるためには無くてはならないものです。
一方、何か物をあげたり、できることをしてあげたりする等、贈与にもとづいた関係が豊かに広がっている地域も高齢者が住み続けられるまちでは大切だと思います。贈与は相手に見返りを求めません。贈与にもとづいた関係を育むためには友情や信頼がなくてはなりません。
そのためにデザインができることは、世代を越えて人々が集まり、出会い、会話を交わし、一緒に何かを始める(例えばウォーキング、ガーデニング、ゲーム、釣り、クッキング等)きっかけが生まれるように状況や環境、物をデザインし、小さな「コミュニティ」をたくさん育むことを通して「私たち」という感覚を醸成することです。必ずしもお金をかけて新しい場所や物をつくる必要はありません。既にある場所や物を生かすこともできます。友情や信頼の土台が築かれていれば、結果的にお互いをケアし合う関係が生まれてくると思います。
しかし、デザイナーに全部任せて状況や環境、物を用意さえすればいいというわけではありません。皆さんの関与も大切になってくると思います。例えば、年齢や世代間の壁、経歴の違いを越えて、他者に労りや気遣いの言葉を投げかけることや挨拶すること等です。なぜならこれらは誰もができる見返りを求めない行為であり、お互いをケアし合う関係づくりのはじめの一歩となるからです。
まとめ
高齢者が住み続けられるまちをつくっていくには、バリアフリー・ユニバーサルデザインの取り組みや介護サービスのように互酬性にもとづいた関係に加え、お互いをケアし合う関係を生むデザインも重要になっていくと思います。そのためには、人々が友情や信頼を築くきっかけ・機会をデザインし、コミュニティを育み「私たち」という感覚を醸成することに加え、年齢の壁や経歴の違いを越えて他者に労りや気遣いの言葉を投げかけることや挨拶することが大切になってくると思います。