近年、注目されている若者と高齢者における世代間交流は、様々な面で影響を及ぼしています。本コラムでは「世代間交流」の観点で、その必要性から実際の例まで紹介します。
松山東雲女子大学 人文科学部 心理子ども学科
博士(社会福祉学)、社会福祉士(日本と韓国)
日本社会福祉学会、日本地域福祉学会、日本福祉教育・ボランティア学習学会など
韓国で地域福祉の拠点機関である社会福祉館で社会福祉士として約5年勤務。実践現場で感じたことを研究としてまとめたいという思いから日本福祉大学大学院に進学し、修士課程・博士課程を修了。現在は松山東雲女子大学にて社会福祉士養成に取り組んでいる。研究キーワードは地域福祉実践、世代間交流、相互作用、高齢者の生きがい。
1.世代間交流の希薄化がもたらす問題点と交流の必要性
今日、若者と高齢者の意図的な世代間交流が注目されています。全国各地で福祉施設や学校、保育園、幼稚園、公民館、高齢者サロン、子ども食堂等で高齢者と子ども・若者との交流が企画・推進されています。その背景としては、核家族化および産業の発展による世帯構造の変化が考えられます。
世帯構造の変化を見てみると、祖父母、父母および子が一緒に暮らす3世代世帯は、昭和29(1954)年には44.6%を占めていましたが、平成16(2004)年には1割を下回る9.7%を記録し、令和4(2022)年には3.8%にまで急減しました。一方、令和4(2022)年現在、単独世帯、夫婦のみの世帯、夫婦と未婚の子のみの世帯、ひとり親と未婚の子のみの世帯といった2世代以下で構成される世帯は、90%を超えています1)。
このような世帯構造の変容は、従来の3世代世帯の家庭の中で家族生活という自然な形で行われていた高齢者と子ども・若者間の世代間交流を難しくしています。例えば、祖父母とは離れて暮らしているために、祖父母と孫の間に生活の中で行われていた日常会話はなくなってきています。
また、従来では地域共同体が機能していましたので、家族内での世代間交流だけでなく、地域におけるお祭りや行事に参加することによって行われる世代間交流や、近所のおじいさんやおばあさんとの親密な関係形成による家族並みの交流も活発に行われていました。
しかし、産業の発展につれ、地域における近所付き合いやコミュニケーションも次第に希薄化してきました。そのため、地域の課題や行事に関心を持って参加する子どもや若者も減少しており、地域で暮らしている高齢者との自然な交流も減少してしまいました。
世代間交流の希薄化は、家族の間での物理的・情緒的な隔たりをもたらしているだけでなく、地域における伝統や文化の継承にも影響を及ぼしています。さらに、世代間の理解不足や葛藤の深化は、年金制度や医療保険制度、介護や育児にかかわる社会制度等、社会保障制度の見直しをめぐる世代間利害関係の調整にも影響を与えています。
このような問題点を解消するために、様々な分野で世代間交流を進めるための意図的な努力が展開されています。
2.高齢者にとっての若者の見え方
以前は親密圏内で意図しなくても自然な形で交流が行われ、相互理解や継承を深めていましたが、世帯構造の変化や産業化の進展により、祖父母世代と孫世代とのかかわりが減ってしまった現在では、お互いをどのように認識しているのでしょうか。ここでは、高齢者が最近の子ども・若者に対して、いかに感じているかについて2つの異なる側面から述べます2)。
まず、高齢者は最近の子ども・若者に対して、「町でよく見かけている」もしくは「スマホ等の機械に夢中になっている学生さん」という風に感じることが多いようです。また、近隣の学生さんに声をかけると、「嫌がる表情をされる」という印象を強く受けられるそうです。いずれの回答からも、高齢者は現在の若者に対して距離感を覚えているのが現状であるように見えます。
次に、高齢者は、子育ての経験や孫が幼い時に補助的に育児をした経験を持っており、また、職場で若者を育ててきた経験も有しています。しかし、孫の成長や本人たちの加齢に伴い、祖父母としての役割も喪失するようになります。さらには、退職に伴い、職場からも次世代への継承という役割が途絶えてしまいます。高齢者は自身の役割の断絶を惜しむ傾向が強く、このような気持ちは、高齢者の子ども・若者に対する関心や期待感としてとらえることができます。
上述のように、子ども・若者に対して距離感と期待感という複雑な両価感情を抱いていますが、一方、社会からは高齢者の役割に対する期待が非常に高いといえます。例えば、伝統文化の継承をはじめ、社会経験の伝授、子育てや教育における役割まで、様々な領域において期待されているのです。
3.世代間交流のメリット
核家族化や産業の発達により、高齢世代と子ども・若者世代間の交流は日に日に減少しています。それは社会の分絶、知や経験の断絶を招きかねない問題として危惧されています。そのため、今日においては世代間交流の必要性が各分野から強調されており、意図的に世代間交流を進めようとする動きが展開されています。世代間交流のメリットについては、次にようにまとめることができます3)。
1:子ども・若者世代へのメリット
子どもと若者が持つ高齢者に対するイメージは、自身の経験に影響され成長とともに低下していきますが、高齢者との継続的な交流を通して高齢者への理解が深まり肯定的なイメージが維持されるという効果が示されています。また、世代間交流によって社会化スキルの向上、対人関係の学習、自尊感情の向上、学業に対する関心の向上、自己効力感の上昇、多様な人間関係の経験、コミュニケーションの大切さの理解とコミュニケーション能力の向上といった効果も多くの研究から報告されています。
2:世代間交流がもたらす高齢者へのメリット
若い世代との交流は高齢者に対して、将来を担う世代とのスキル・知識・経験を分かち合う機会や、コミュニティとのつながりを保ち続ける機会を与えてくれます。それによって高齢者にとっては、人生の満足度の向上、社会的に有意義な役割の獲得、子ども・若者世代に対する理解増進、人間関係の広がりと社会的孤立の予防、地域共生意識の向上、健康度の維持・向上につながるといったメリットが生まれます。実際に、「元気や刺激になる」、「過去を回想するきっかけになり自己評価・理解につながる」といった声が多数寄せられています。
3:世代間交流の社会的効果
社会の発展のためには、前の世代から将来世代への継承が必要不可欠になります。それは学校教育システムを通して間接的に学ぶことも可能ですが、フォーマル又はインフォーマルな関係に関わりなく直接的なかかわりの形成と維持によって継承されることも非常に多いです。高齢者は長い人生の中で蓄積してきた素晴らしい経験を持っていますが、そのほとんどは記録としては残されておらず、直接的なかかわりによる伝達や伝授が行われなければ、高齢者が持つ多くの経験は消滅されてしまいます。世代間交流は、高齢者の様々の経験を次世代につなぐ社会的なメリットを有しているといえるのです。
4.世代間交流の類型および交流の場の例
ここでは多様な高齢者が参加できる交流に焦点を当て、世代間交流を分類したうえ、具体的な交流の場を紹介します。世代間交流は、大きく「活躍型」「参加型」「協働型」に類型化することができます。
①交流活動の担い手となる「活躍型」
「活躍型」は、高齢者が地域の小中高学生や子育て世帯のために、自分自身の経験や強みを活かして、シニアボランティアとして積極的に活動にかかわる形を指します。具体的には、次のようは例が主要活動として挙げられます。
(具体例)
・小中高校での学習支援活動
・地域の歴史や文化を後世代に伝える活動
・外国人学生のための日本語教育支援
・地域での子育てサポート
・児童館等での交流活動
・子ども食堂の運営やボランティア活動、など
②交流活動を受ける側となる「参加型」
「参加型」とは、交流活動を行う担い手は主に子どもや若者であり、高齢者はその交流活動を受ける立場として参加する形をいいます。子どもや若者が地域の高齢者福祉施設や高齢者サロン等に訪問して行う交流が最も代表的な例です。
(具体例)
・高齢者の話し相手
・歌や演奏等の公演活動
・高齢者の身体活動の補助
・スマホやタブレット等IT機械の使い方を教える活動、など
③掲げられた活動目標の達成を目指す「協働型」
「協働型」は、様々な地域活動に多様な世代の参加を促し、同じ目標に向かって協働することにより、高齢者と子ども・若者の間に交流が生まれる形です。
(具体例)
・お祭り
・防災訓練
・環境保全活動
・市民合唱団
・市民劇団、など
5.まとめ:世代間交流の活性化のために求められるもの
伝統や文化、技術等が次世代に継承され豊かな社会として発展し続けるためには、世代間交流が十分に行われることが欠かせませんが、上述のように世帯構造や産業構造の変化により、当たり前のように思われていた自然な形での交流ができなくなりました。
そこで、社会福祉協議会や高齢者福祉施設、児童福祉施設等地域の福祉施設、小中高校、地方自治体等が、高齢者のためにも、子ども・若者のためにも、社会のためにも必要性が認められている世代間交流を進めるために動き出しています。それだけに重要性が高い世代間交流であるにもかかわらず、交流の活性化には課題も少なからず抱えているのが現状です。
実際に、子どもや若者は「上の世代との交流は学びでもあるが、苦痛でもある」と感じている場合も多くみられます4)。それは高齢者側においても同様で、世代間交流を通じた未来世代への貢献に対して前向きにとらえていますが、「話が合わないかもしれない」といった消極的な姿勢を示す場合もあります。
このような心配を乗り越えるためには、両世代がお互いに学びを与える会話体験を重視した世代間交流の推進が求められます。また、高齢者と子ども・若者世代の気持ちや置かれた状況を理解しながら世代間交流プログラムを企画・推進するためには、ソーシャルワーカーのようなキーパーソンの存在が何より必要であると考えられます。
【参考文献】
1)厚生労働省(2022)「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/index.html、2024年3月20日閲覧)
2)崔恩熙(2020)「地域の若い世代とのかかわりによる高齢者の意識変容のプロセスの検討―Generativityの視点を用いて―」社会福祉学会中部ブロック『中部社会福祉学研究』第12号、pp.89-99.
3)崔恩熙(2021)『子ども・若者とかかわる地域活動が高齢者の生きがいに与える影響及び支援に関する研究―ジェネラティヴィティの視点から』日本福祉大学福祉社会開発研究科2020年度博士論文
4)福澤涼子(2023)「上の世代との会話は学びか、苦痛か―効果的な世代間交流のあり方とは―」第一生命経済研究所『LIFE DESIGN REPORT』2023.10.