親が認知症になると、判断力の低下や思い込みによりお金のトラブルが増えることはよくある話です。金銭管理の必要性を感じ、親の銀行口座の預金の管理をどのようにすればよいか悩むご家族も多いでしょう。
認知症の親の介護費用や生活費・食費など、生活していれば必ずお金は必要です。親が認知症になった場合の正しいお金の取り扱い方を知っておくと、心の負担は軽くなるでしょう。
本記事では、親が認知症になった場合の正しい貯金の引き出し方について解説しています。お金の管理をするうえで、家族間の金銭トラブルを起こさない対策についてもご紹介しますので、お金の管理に困っている方はぜひご覧ください。
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認知症の親の貯金を下ろす方法はある?
親が認知症になった際に、血縁関係である子どもでも親名義の貯金を勝手に引き出すことができないのをご存じでしょうか。金融機関では、原則として口座を所持する本人しか資産を動かせないことになっています。
キャッシュカードを家族が預かり管理しているケースもありますが、この方法を続けるのはやめた方がよいでしょう。銀行側から何らかの連絡が入り、本人以外が口座を利用していると発覚した場合に、口座の利用停止や制限がなされる可能性があります。
家族が親の貯金を下ろすためには、正しい手続きを踏むことが大切です。引き出し方についてはいくつかあるため、本人の意思や家族の生活様式に合わせた方法を選ぶとよいでしょう。
引き出し方の詳細に関しては、以下で6つご紹介しています。参考にしてください。
認知症になると口座を凍結される可能性がある
銀行は、口座に不審な引き出し履歴があると確認のために口座名義者に連絡を行います。それ以外にも、セールスや自動引き落としの失敗などで連絡が入る場合もあるでしょう。
このように、何らかの理由で銀行側から連絡が入った場合、おそらく認知症であることが銀行側に伝わります。親が認知症である事実を銀行側に知られた場合、資産の管理能力がないと判断され、口座利用の大幅な制限や、最悪の場合口座が凍結されることがあります。これは、銀行口座の不正使用、詐欺被害などから資産を守るための措置です。
一度、口座の制限や凍結がなされてしまうと、契約内容の変更や定期預金の解約などが家族ではできなくなります。このような事態に陥った場合、親の医療費や介護費、生活費などのお金は、家族が立て替えなければなりません。家族内でトラブルにもなりかねないため、口座凍結などの手段がとられる前に、正しい引き出し方を知る必要があります。
認知症の親の口座凍結や使用制限がかかった場合の対処法
認知症などの判断能力の低下が原因で口座凍結されてしまうと、本人や家族ではどうすることもできません。唯一の解決方法は、成年後見制度の一つである法定後見制度を利用することです。
法定後見制度を利用するためには、家庭裁判所へ申し立てしなければなりません。必要書類の準備・面接日の調整などやるべきことも多く、利用を開始するまでには時間を要します。おおよそ2〜3ヶ月は見込んでおいた方がよいでしょう。
法定後見制度の利用を開始するまでは、生活費や介護費用などの必要経費は家族が立て替えなければなりません。高額な費用を立て替えることになるため、まずは口座凍結させないための対策や、正しい親の預金の引き出し方を知る必要があります。可能であれば、親が元気なうちから話し合っておくのが一番です。

認知症の親の貯金を下ろす正しい方法
口座凍結させることなく、正しく親の貯金を下ろすにはどのような方法があるのでしょうか。ここでは、6つの制度やサービスをご紹介します。
各家庭の状況で、どの方法が利用しやすいかは変わります。それぞれの特徴を知り、本人・家族ともに納得の行く方法を選びましょう。
成年後見人制度の利用
成年後見制度とは、認知症などで判断能力が低下した方を守るための制度で、契約締結や財産管理などを本人に代わって行います。成年後見制度は、口座凍結や制限がかかった場合の唯一の解除方法でもあるため、覚えておきたい制度の一つです。内容により「法定後見」と「任意後見」の2つの種類があり、詳細は以下のとおりです。
法定後見 | ・認知症などの判断能力が不十分な場合に利用
・後見人は家庭裁判所が選出 ・後見人は家族以外が選任される可能性もある ・財産管理が家族の希望通りにならない場合もある |
任意後見 | ・本人の判断能力が十分な状態で後見人を選出
・後見人や契約内容は本人が決められる ・認知症になったら、家庭裁判所へ任意後見監督人の選任の申し立てが必要 ・任意後見監督人は、基本的に弁護士や司法書士などの第三者が選ばれる |
家族信託の利用
家族信託とは、本人(委託者)が信頼できると考えている家族(受託者)に財産の管理を任せる方法です。委託者が認知症や病気などで判断能力を失ったあとに財産管理を可能にする制度であるため、判断能力がある状態での契約が必要となります。将来への備えとして、家族内で準備を進めておくとよいでしょう。
また家族信託を希望する際は、司法書士や弁護士への相談が必要です。利用のためには、相談料・コンサルティング料などが発生します。信託財産の額によって料金が変動しますが、費用相場はおおよそ50〜100万円程度です。
決して安い金額ではないので、財産の金額やほかのサービス・制度との内容を比較して慎重に検討する必要があります。
代理人を金融機関に届出
一部の金融機関では、家族が本人の財産を管理する仕組みの一つとして「任意代理人」制度を設けています。本人が元気なうちに任意代理人を金融機関に届け出ておくことで、認知症になった場合に代理人が貯金を引き出したり、口座を解約したりできるため大変便利です。
利用するためには、本人の判断能力が十分な状態で、代理人となる家族と一緒に金融機関の窓口で手続きを行います。しかし、すべての金融機関でこの制度を取り扱っているわけではありません。また、制度の内容も金融機関ごとに異なります。
正しく親の貯金を引き出す手続きを踏まなければ、口座凍結のリスクも他人事ではありません。事前に利用している金融機関へ、確認・相談するのがよいでしょう。
金融機関で家族カードを発行
任意代理人と似たような方法として、「家族カード(代理人カード)」を発行する方法もあります。こちらは任意代理人とは異なり、ほとんどの金融機関で利用できる方法です。家族カードを発行できるのは、本人と生計を同じくする家族となり、発行を希望する場合は、本人とその家族が金融機関で手続きを行います。
注意点は、本人の判断能力が低下した場合に利用できなくなる点です。家族カードは、本人の判断能力がある状態で本人と並行して家族が利用するカードです。この特徴から、将来に備えて本人の意思のもと必要となる費用を家族に託しておきたい場合などに利用するとよいでしょう。
家族カードも任意代理人と同じく、金融機関によって取り扱い内容は異なるためご注意ください。
日常生活自立支援事業の利用
認知症や知的障害者などにより判断能力が不十分な方に対して、本人や家族との契約に基づいて福祉サービスの利用援助を行うのが日常生活自立支援事業です。地域の行政機関や福祉関係者などにより構成された社会福祉協議会がこの事業を行っており、大変信頼度の高いサービスです。
詳しいサービス内容の例は、下記のとおりです。
- 福祉サービス利用に関する情報提供や相談
- 預金の出し入れや預金の解約の手続き
- 各種支払いの手続きや代行
- 日常生活に必要な事務手続き
- 通帳や印鑑、証書などの保管(貴金属や骨董品などは不可)
預金の出し入れのほか、家族が「やってもらえると助かる!」と感じるサービスが多数そろっています。利用するためには費用がかかりますが、さまざまな手続きや管理、情報提供が受けられるのであれば、ぜひ利用したい魅力的なサービスです。
資産継承信託の利用
資産継承信託とは、万が一に備えて資金を銀行などに預けておき、前もって設定した条件で本人や家族がお金を引き出せるようにしておくサービスです。認知症や病気などで本人が預金を引き出せなくなった場合でも、事前に指定した家族が本人に代わってお金を引き出すことできるため、高額な介護費用などを家族が立て替える必要もなく安心です。
また判断能力が低下した場合だけでなく、本人が死亡した際にも煩雑な相続手続きをとることもありません。すでに指定した受取人が資金を受け取れるように準備が整っているため、葬儀費用などの急な支払いにも対応ができます。
こちらの制度も、元気なうちに前もって手続きを取る必要があるため、認知症になる前の対策がいかに重要かが分かります。
親が認知症になるリスクは高い!早めの対策を
親が認知症になった場合のリスクは分かっていても「まだうちの親は元気だから大丈夫」と、安心している方は多いものです。認知症はいつなるか誰にも分かりませんが、厚生労働省が認知症の有病率について出している興味深いデータがあります。
そのデータでは、認知症の有病率は70代前半では3.6%と低めですが、70代後半では10.4%、80代前半では22.4%、80代後半では44.3%と急速に増加します(※)。この結果から、「まだ元気だから大丈夫」ではなく「いつかは認知症になる可能性が高い」と意識を帰ることが大切です。
万が一に備えて早めの対策をとるのが、家族が抱えるお金の悩みを軽減する大切なポイントです。

(※)参照:認知症施策の総合的な推進について「一万人コホート年齢階級別の認知症有病率」|厚生労働省
認知症の親の貯金管理で家族間トラブルを起こさない対策
認知症になった親の代わりに、お金の管理をしてくれる家族は必ず必要です。しかし、家族が本人に代わってお金の管理をする場合、トラブルとなるケースも少なくありません。
親の貯金管理をめぐってどのようなトラブルが起こる可能性があるのか、トラブルを回避するためにも知っておくとよいでしょう。
あらかじめ資産の全体像を把握する
本人しか知らない口座やクレジットカードなどがあると、管理する家族は資産の全体像がつかめずにどの出費にどの程度のお金を割り当てるか、資金計画がうまくいきません。また後々新たな資産が見つかっても、報告しない・されないなどのトラブルを招く可能性があります。
しかし、認知症になったあとに資産を把握するのは、本人の記憶も定かではなく困難です。本人の判断能力がある元気なうちに、親の資産の全体像を家族みんなで把握しておきましょう。お金は親であってもデリケートな問題なので、確認を取りづらいと思う方もいるかと思いますが、親と自分を含めた家族が将来困らないためです。理由を分かってもらい、話し合いましょう。
お金の使い道は詳細に記録する
適切にお金を管理していても、使い道が不透明な場合は家族に不信感を与えてトラブルに発展する可能性があります。お金の使い道を聞かれたら、すぐにいつ・何に使用したかが答えられるようにすることが大切です。
領収書などを保管しておいたり、ノートやパソコンに記録を残したりと使い道の詳細を証拠として残しておきましょう。また貯金残高などをチェックして、ある程度収支が合うようにしておくとほかの家族も安心です。
面倒に感じるかもしれませんが、管理者自身が正しくお金が管理できているかの確認にもなります。親のお金を管理する以上、責任をもって担当しましょう。
管理者は一人でも情報は共有する
親のお金の管理をする家族は、基本的に一人かと思います。複数で担当すると、使用用途の把握ができない・連携不足で支払いや振込が遅れるなどの問題も発生するため、複数よりも一人の方が管理がしやすいでしょう。
しかし、ほかの家族になんの情報共有もせずに管理していると、あらぬ疑いをかけられる場合があります。1~2ヶ月に1回でもかまいません。「介護費用と消耗品で今月は〇〇円使ったので、貯金の残高は〇〇円です」のように、収入や支出状況は簡単でよいので共有しておくと、ほかの家族も安心です。
一人で管理するのが苦に感じる場合は、振り込みは別の家族に依頼する、日常生活自立支援事業サービスを利用するなどの策を講じましょう。
本人の意思を元気なうちに確認しておく
本人が元気なうちに話し合いができる場合は、お金の管理方法や管理を任せたい家族・お金の使い道について希望を聞いておくとよいでしょう。本人の意思であれば、希望内容に家族が少々不満を持っても「本人の意思だから」と納得できる場合も多いものです。
また前もって話し合っておくことで、事前に手続きを行えば利用できるお金の管理方法が増えて選択の幅が広がります。いざ親が認知症になって、そこからすべてをスタートするのに比べると、家族にも心の余裕があり余計なトラブルを招くリスクも減るでしょう。
「親はいつまでも元気」といった考えはやめて、リスクに備えて話し合いをするのが大切です。
認知症による口座凍結に備えて家族の生活に合わせた方法を選択しよう
親が認知症になると、血縁関係にある家族でも貯金を下ろすことができません。最悪の場合、銀行口座が凍結されるリスクもあるため、正しい方法で親の貯金を下ろす方法を知ることは大切です。本記事では6つの方法をご紹介しました。制度やサービスの内容、費用などを踏まえて、それぞれの家庭に合った方法を選択しましょう。
いつまでも親が元気とは限りません。厚生労働省のデータで示したとおり、年齢が高くなるにつれて認知症の有病率は急激に高まります。親が元気なうちから将来のお金の管理方法について話し合うことで、本人の希望に沿った管理や家族の心構えができるため、事前の話し合いは大変重要です。家族内のトラブル予防にもなるでしょう。
認知症の親の貯金の引き出しや金銭管理に悩む家族の方は、ぜひ紹介した内容を参考に自分の家庭に合った方法で解決へと導いてください。
基本的に、預金の引き出しは口座を持つ本人のみで、たとえ家族であっても引き出しはできないとされています。認知症であると銀行側が把握した場合は、引き出し等の取引を制限されるため早めに管理方法の検討をした方がよいでしょう。詳しくはこちらをご覧ください。
成年後見人制度の利用を進めるのが一般的です。判断能力がある場合は、任意後見制度で本人の希望する人や要望に沿うことが可能です。その他にも、家族信託や金融機関に代理人申請をする方法などがあります。詳しくはこちらをご覧ください。