日本では、貧困に陥って生活保護を受ける高齢者がどんどん増加し続けています。社会全体の高齢化はもちろん、一人暮らし世帯の増加といった、老後の環境変化も関係しています。
高齢者の生活保護を受ける要因としては、健康状態の悪化(世帯主の傷病等)は少数となっており、経済状態の悪化(収入や貯蓄等の減少・喪失)が大半を占めています。健康は維持できていても、お金がなくなって生活できない・・・そんな高齢者が増えているのです。
その背景にはどんな問題があるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
生活保護とは
生活保護とは、受給を希望する人が、換金できる資産や働ける能力を全て活用しても生活することに困窮する場合に、健康で文化的な生活を保障する制度です。
この制度の目的は、生活保護法に定められている「最低限度の生活の保障」と「自立を助長すること」の2つです。「最低限度の生活の保障」では、衣食住の保障はもちろん、医療福祉の扶助も行われます。また、「自立を助長すること」では、困窮している人が将来的に自立できるよう、就職に必要な技能習得費などが給付されます。
また、一般的には知られていませんが、生活保護を受けている方でも入居できる介護施設は存在します。
生活保護を受ける高齢者の割合
生活保護を受けている高齢者はどれくらいいるのか、ここではその割合を見ていきましょう。
全体の5割以上が高齢者
2022年3月の「生活保護の被保護者調査」(厚生労働省)によると、生活保護を受ける人のうち65歳以上の高齢者の割合は半数を超えています。そのうち約9割(月平均84万2820世帯)が一人暮らし世帯となっており、10年前の2012年3月(66万723世帯)に比べると1.27倍になっているのです。
貧困率は27%に上っている
2016年度の調査では、高齢者の貧困率は約27%に上っており、高齢者世帯の4世帯に1世帯以上が貧困ということになります。この状況は、今後さらに拡大していくと思われます。
専門家は、高齢者の貧困率が増加しているのは、少子化や結婚後独立する核家族の増加により、その親である高齢者が一人暮らしもしくは夫婦のみで暮らすパターンが増えていることを指摘しています。つまり、高齢者だけで生活することによって、子ども世帯からの扶助を受けにくい環境が作られているのです。
高齢者の生活保護受給率が高い理由
なぜ高齢者の生活程受給率が高いのか、ここではその理由を見ていきましょう。
年金だけでは生活が厳しいから
厚生労働省の「令和3年版高齢社会白書(内閣府 」によると、収入の8割以上を公的年金や恩給が占めている高齢者が6割いるとされています。
また、同じく厚生労働省が発表した「令和2年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」では、2020年度の年金の月額平均は厚生年金で14万6,145円、国民年金では5万6,252円となっています。高齢者1人が1ヶ月生活するのに必要な金額は12~15程度と言われているのに対し、国民年金のみを受給している高齢者は5万円台の年金しか受給できていないということになります。そのため、国民年金しか受給していない高齢者は、貧困になる可能性が非常に高いといえるのです。
国民年金で入れる老人ホームはあるかどうかについて気になる方はこちらの記事もご覧ください。
退職金が少ないから
「退職金・年金に関する実態調査結果」を年度別に見ていくと、2021年9月に発表された60歳の方の退職金額は約2243万円、2018年9月の発表では約2256万円、2016年9月発表では約2274万円になっていました。この調査からは、年々退職金が減少傾向であることが見てとれます。退職金の算定に主に用いる基本給が少しずつ減っていたり、退職金支給の条件が悪くなっていることなどが理由で、1人あたりの退職金が減少しています。現役時代に想定していたよりも少ない退職金になってしまい、老後の計画が狂ってしまうのです。
病気など規定外な出費があるから
歳を重ねると、若い頃よりどうしても病院にかかりやすくなります。日本は国民皆保険であり、国民健康保険や後期高齢者医療制度によって、医療費の自己負担は抑えられていますが、手術や入院を伴う長期入院となると医療費の負担は軽くありません。そうすると、少ない年金では足りなくなり、貯蓄から切り崩して賄うことになるので、現役時代に貯蓄する余裕のなかった人だと困窮状態に陥ってしまいます。
ローンが残っているから
晩婚化が進むことで、マイホームを購入するタイミングが遅くなっています。そのため、定年を迎えるまでにローンを払い終えることができない人が増えているのです。また、老後を過ごすため家をバリアフリーにしたり、老朽化を改善するリフォームが必要になり、歳をとってからリフォームのためにローンを組む人もいます。収入がない中で毎月ローンを払い続けることができなくなり、泣く泣くマイホームを手放す場合もあるのです。
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高齢者が生活保護を受けるための条件
高齢者が生活保護を受けるには、どのような条件があるのでしょうか。
年金を含めた世帯収入が基準額よりも少ない
最も大きな基準となるのは、世帯収入が基準額よりも少ないことです。厚生労働省が定めている地域ごとの最低限度の生活に必要な基準額を算定し、現在の世帯収入と比較して基準額よりも少ないことが条件です。なお、年金を受給中の場合は、この年金は収入と見なされ、生活保護費から差し引かれます。
また、世帯ごとの収入で比較することになるので、世帯を共にしている家族に他の収入がある場合、その金額を足したものが基準額を超えると、生活保護を受けることができません。
資産は全て生活費に充てる
換金できる資産がある場合は、全て売却して生活費にしなければなりません。資産として見られるのは、10万円以上の現金や預貯金だけでなく、土地不動産、生命・医療保険、自動車などがあります。
ただし、住宅は持ち家の場合、居住地で保有を認められている基準額を上回っていると売却を促されます。売却した代金でしばらく生活をして、その代金が底を突いてきたら(預貯金が数万円まで減ってきたら)、生活保護の申請ができるようになります。つまり持ち家であっても、基準額以下の家であれば保有したまま、生活保護が受けられることになり、生活保護が開始すると固定資産税は法定免除になります。持ち家を保有したまま生活保護を受ける場合は、家賃に当たる住宅扶助の支給がなくなるわけです。
自動車は、近くに電車やバスなどの公共機関がなかったり、障害があって通院などに必要な場合は、認められることがあります。
能力に応じた仕事をしている
シルバー人材センターなど高齢者を雇ってくれる事業を活用し、能力に応じた仕事を探すことが求められます。そして、その就労収入が基準額に満たなければ、生活保護を受けることができます。就労収入の他に年金受給がある場合は、それらを足したもので計算されます。
扶養義務者からの扶養を活用する
生活保護を受けようとする際には、配偶者、また子供や兄弟など扶養義務のある3親等の親族から、できる限り援助を受けられるようお願いすることが求められます。ただ、扶養義務者に扶養能力があったとしても、仲が悪かったり、疎遠であることなどを理由に扶養の意思が得られないなど、どうしても援助を受けるのが無理な場合は、生活保護を受けることができます。
他の制度を活用する
生活保護以外の法律や制度の給付がある場合は、それを優先して生活費に充てます。それでも足りない部分を、生活保護で補うようになります。
特に高齢者は、軍人恩給や遺族年金の申請漏れで受給できていない場合があります。一度、申請漏れの法律や制度がないか確認してみましょう。
高齢者がもらえる生活保護の扶助と金額
ここでは、高齢者が生活保護で受けられる扶助とその金額について見ていきましょう。
日常生活に必要な費用の生活扶助
食糧費や被服費、燃料費、家具費など、基準生活費と呼ばれる部分が対象です。
その金額は地域によって差があります。東京都だと、68歳の高齢者単身世帯で80,870円。68歳と65歳の高齢者夫婦世帯だと120,730円になります。また、地方だとこれより1~2割程低くなります。寒冷地の場合は、光熱費の増加しやすい11月から3月は加算されることもあります。
家賃や住宅維持費などの住宅扶助
借家や借間に居住する保護者に対して、敷金や契約更新料を補填するものが支給されます。東京都23区の場合、世帯人数ごとの上限人数は下記の通りです。
世帯人数 | 上限金額 |
単身世帯 | 53,700円 |
2人世帯 | 64,000円 |
3~5人世帯 | 69,800円 |
また、住宅維持費も認定された場合は支給されます。居住する家屋の補修や修理、雪下ろしに必要な経費を補填するものが、年間の上限額12万円とされています。
医療サービスを受けるための医療扶助
生活保護が適用されると、健康保険制度から抜けることになります。そして生活保護受給者専用の医療券が支給され、自己負担はゼロで医療を受けられます。医療費は現物給付となるので、医療機関に直接支払われるため高齢者にとっては欠かせない扶助といえます。
医療機関にかかる人が、住んでいる地域の福祉事務所に相談し、医療券を発行してもらいます。その医療券を病院で提出すると、診察を受けることができます。受診する病院は国や市区町村で指定されている病院が原則になりますが、最近ではかなり多くの病院が医療券に対応しています。
介護サービス利用のための介護扶助
介護保険サービスの利用にかかる経費を補填するものが支給されます。現物給付となるので、介護サービスを利用した場合に介護事業者、あるいは介護施設に直接支払われます。生活保護受給者が施設介護を受ける場合は、原則として特別養護老人ホームの多床室に入所します。在宅介護でも施設介護でも、生活保護者は介護扶助によって支えてもらえます。
介護扶助を受けるためには、要介護認定によって「要介護」「要支援」の基準を満たしていることが条件になります。要介護認定を受けたあと、診断や審査によって要介護度が決定され、指定の介護支援事業者などとケアプランという介護計画書を作成します。そして、その内容に合わせた介護扶助を受けるようになります。
生活保護受給者が利用できる介護保険サービスについて詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧ください。
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生活保護を受けることについてのメリット・デメリットなどについて知りたい方はこちらの記事もご覧ください。
葬祭をするための葬祭扶助
葬儀などの葬祭にかかる経費を補填するものが支給されます。実費支給となり、大人は206,000円以内、小人は164,800円以内とされています。死亡確認、遺体の運搬、火葬、納骨といった、葬儀にかかわることが当てはまります。
このほかにも、教育扶助、出産扶助、生業扶助といったものがありますが、母子家庭のように、子どもがいる世帯は人数による加算もありますので、子どものいない世帯よりも支給額は多くなります。
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高齢者の生活保護に関するQ&A
ここでは、高齢者の生活保護について、よくある疑問を見ていきましょう。
老人ホームには入居できるのか?
生活保護を受給していても、入居できる老人ホームはあります。費用面から、公的な施設である特別養護老人ホームが第一候補に挙がりますが、入居待ちの場合が多いため、有料老人ホームも検討しましょう。全国有料老人ホーム協会が行ったアンケートでは、全体の3割が生活保護者向けのプランを提供しています。
生活保護受給までの手続きの流れは?
生活保護はすぐに受給できるものではなく、実際の手続きの流れとしては、いくつかのステップを踏む必要があります。
事前の相談
制度の説明を聞き、各種社会保障施策など紹介や助言を受けます。それでも生活保護が必要となる場合は、次に申請の手続きを行います。
保護の申請
申請するにあたって下記を調査します。
・預貯金、保険、土地不動産、自動車などの資産調査
・配偶者や第三等身までの親族といった扶養義務者による扶養の可否の調査
・年金などの社会保障、就労収入などの調査
支給額の決定
支給額の算定方法は下記の通りです。
保護費支給額=最低生活費-収入認定額
最低生活費=生活扶助+住宅扶助+教育扶助+医療扶助+介護扶助+出産扶助+生業扶助+葬祭扶助
収入認定額=就労収入+その他収入(年金などの社会保障給付)+扶養義務者からの扶養
基本となる生活扶助は、厚生労働省の「生活保護地域等級」から、食費・衣類などの個人費用である第1類と、水道光熱費、家具家電といった世帯費用である第2類の表を確認して計算します。
生活保護の受給
生活保護の受給が開始されれば、「働かなくても生活できる」と考える人いますが、病気やけがで働けないことを証明しない限り、求職活動を促されます。。ただし、65歳以上の高齢者になると実際に一般的な就労可能な年齢を超えているため、強く就労指導を受けることはありません。
保護費は毎月初めに銀行振り込みか、福祉事務所などの窓口での現金支給になります。
条件をよく確認してから生活保護を申請しよう
高齢者の生活保護受給者は年々増加傾向にあり、これからより深刻になってくるでしょう。
高齢者にとって生活保護を受けることは恥ずかしいと思う人が多く、高齢者による万引きなどの窃盗件数が急増しており、一度服役したあとの再犯率も高いのです。衣食住が保障されている刑務所は居心地がいいと感じるという問題もあります。
しかし、一定の条件を満たせば、生活保護を受けていても老人ホームに入ることができます。生活保護は、生活が困窮する人を助けるための社会保障制度です。どうしても困ったときには、まず相談してみましょう。
そのほか、介護に必要な費用が払えない場合の対処法について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
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全国有料老人ホーム協会が行ったアンケートでは、全体の3割が生活保護者向けのプランを提供しています。詳しくはこちらをご覧ください。
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