親が定年を迎えると始まる老後生活。「うちの親、ちゃんと老後資金の蓄えはあるのだろうか…」と不安に感じていませんか?
厚生労働省の資料(総務省「家計調査」)によると、65歳以上の夫婦2人が生活していくために必要な1ヶ月の生活費は約25万円とされています。

出典:総務省(家計調査)
食費や光熱費はもちろん、医療費や交通費などを含めると、質素に暮らしていても20万円ほどはかかってしまいます。さらに介護や病気のリスクも重なれば、お金が足りなくなることもあるでしょう。
そこで本記事では、「親の老後にお金がない」となったときに、子どもが取るべき具体的な対策や、今すぐ親子で確認しておくべきポイントについて詳しく解説します。
お金がない親の老後の備えとタイミング
親の経済的ピンチに備えるためには、適切なタイミングで必要な対策を実行することが重要です。
以下の表で、今の状況に合わせて「いつ・何をやるべきか」を把握しておきましょう。
ここからは、表で挙げた4つの段階ごとに、具体的にどのような対策を進めていけばよいのかを詳しく解説していきます。
退職前
- 年金受給見込額の確認
- 現在の貯蓄額や借金の有無の把握
- 退職金の使い道の話し合い
親が定年退職を迎える前は、老後資金の全体像を把握する絶好のタイミングです。
親の年金が毎月いくらもらえるのか、現在の預貯金はどのくらいあるのか、あるいは住宅ローンなどの借金が残っていないかを確認しておきましょう。
また、まとまった退職金が出る場合は「生活費の補填にするのか」、p家のリフォーム代にするのか」など、老後の生活を見据えてどう活用するのかを親子で話し合っておくことが大切です。
退職後〜介護前(親が元気なうち)
- 兄弟間の役割分担の決定
- 実家の固定費(通信費や保険など)の見直し
- 少額からの資産運用の検討
親が元気なうちは、将来のトラブルを防ぐための準備期間です。親の介護が必要になった際、実家の近くに住む子供が「物理的サポート(介護・手続き)」を担い、遠方の子供が「金銭的サポート(費用負担)」を担うなど、兄弟間で役割分担を決めておきましょう。
親が元気なうちに全員で話し合うことで、特定の子供に負担が集中するのを防げます。
また、家計の負担を減らすため、使っていないサブスクリプションや割高な通信費、重複している保険など「固定費の見直し」を行うのも効果的です。
親に生活防衛資金以外の余剰資金がある場合は、NISA制度などを活用したインデックス型の投資信託などで、無理のない範囲で資産運用を始めることも選択肢の一つとなります。
介護の予兆あり
- 地域包括支援センターへの相談・連絡先の確認
- 公的制度の利用条件の把握
- 親の希望(在宅か施設かなど)のヒアリング
親の体調や認知機能に不安を感じ始めたら、早急に介護に向けた情報収集を始めます。
まずは、実家のある自治体の「地域包括支援センター」の場所と連絡先を確認し、現状の不安を相談しておきましょう。
同時に、いざという時に自分のお金を多く持ち出さずに済むよう、どのような公的制度が利用できるのか、どのような条件を満たせば使えるのかを事前に把握しておくことが重要です。
また、親自身が在宅での介護を望むのか、施設への入居を希望するのかなど、本人の意思を確認しておくことも欠かせません。
介護開始・入院時
- 高額療養費や各種公的制度による負担軽減策の実行
- 自身(子)の介護休業制度などの確認
実際に介護や入院が始まった際は、月々の費用負担をいかに抑えるかが最優先となります。
「高額療養費制度」や「高額介護サービス費制度」などの公的制度を速やかに申請し、経済的な負担を軽減しましょう。
また、親のサポートをする子供自身が離職に追い込まれないよう、勤め先の「介護休業制度」や「介護休暇」の内容を確認し、自分の仕事と親の介護を両立する体制を整えることが大切です。
次章では、いざという時に申請できる具体的な公的制度の種類とその詳細について解説していきます。
親の老後資金がない時に申請できる公的制度一覧
老後や介護にかかる負担を減らせる公的制度がいくつかあります。
主に利用を検討するのは、主に以下の6つです。
生活保護
資産や収入が最低生活費を下回る場合に、生活費や医療費、介護費が全額支給または免除される最終的なセーフティネットです。
ただし、生活保護を受給するためには、親の収入(年金など)と資産(預貯金、持ち家など)が、国が定める最低生活費の基準を下回っているのが条件です。
【制度を利用するための主な条件】
- 預貯金や土地・家屋などの資産を売却等して生活費に充てること
- 働くことが可能な場合は、その能力に応じて働くこと
- 年金や手当など、他の公的制度を活用してもなお生活費が不足すること など
【親が元気なうちにやっておくべき事前準備】
- 預貯金や不動産、生命保険などの資産状況を漏れなく把握しておく
- 生活保護を利用することに対する本人の意見を聞いておく
生活保護の申請を行うには、親が実際に居住している自治体の福祉事務所へ直接出向き、相談員へ状況を説明して手続きを進めます。
生活保護の受給が決定すれば、生活費の支給に加えて、医療費や介護保険サービスの利用料も自己負担なし(無料)で利用可能になります。
生活福祉資金貸付制度
低所得者世帯を対象に、無利子または非常に低い利子で必要な資金を借りられる国の貸付制度です。
生活保護を受給する水準には至らないものの、一時的に生活費や医療費、介護費用が不足して困窮している世帯が利用できる貸付制度となります。
【制度を利用するための主な条件】
- 必要な資金を他から借り受けることが困難な「低所得世帯」であること
- 身体障害者手帳などの交付を受けた者が属する「障害者世帯」であること
- 65歳以上の高齢者が属する「高齢者世帯」であること など
※上記いずれかの世帯に該当し、お住まいの市区町村の社会福祉協議会で対象と認められる必要があります。
【親が元気なうちにやっておくべき事前準備】
- 実家のある自治体の「社会福祉協議会」の連絡先を調べておく
- 子供自身が連帯保証人になれるか検討し、返済を見据えて家計状況を整理しておく
連帯保証人を立てることができる場合は無利子で、立てられない場合でも年1.5%などの低い金利で借り入れることが可能です。
利用目的は規定されており、生活再建のための「総合支援資金」や、緊急的な医療費・介護費にあてる「福祉資金」など、親の具体的な困窮状況に合わせて資金の種類を選択します。
参考:生活にお困りで一時的に資金が必要なかたへ「生活福祉資金貸付制度」があります。 | 政府広報オンライン
高額療養費制度
1ヶ月間にかかった医療費の自己負担額が、年齢や所得に応じた上限額を超えた場合、超過分が払い戻される制度です。
【制度を利用するための主な条件】
- 公的医療保険が適用される診療費であること
- 1か月間(月の初めから終わりまで)の自己負担額が対象であること
- 年齢や所得水準に応じて定められた自己負担限度額を超過していること など
【親が元気なうちにやっておくべき事前準備】
- 親が加入している健康保険の種類と、保険証の保管場所を把握しておく
- 親の所得区分から「1ヶ月の自己負担限度額」の目安を計算しておく
あらかじめ加入している健康保険組合や市区町村の窓口で「限度額適用認定証」を申請し、病院の支払窓口に提示すれば、最初から上限額までの支払いで完結します。
認定証がない場合でも、後日申請を行えば上限を超過して支払った金額は払い戻しが可能です。制度を利用するにあたっては、まず親の適用区分と上限額を確認しておきましょう。
高額介護サービス費制度
1ヶ月に利用した介護保険サービスの自己負担額が上限を超えた場合、超過分が払い戻される制度です。
親の介護度が重度になり、デイサービスや訪問介護、ショートステイなどの介護保険サービスを頻繁に利用するようになっても、月々の費用負担には所得に応じた上限が設定されています。
【制度を利用するための主な条件】
- 公的介護保険が適用されるサービスを利用していること
- 1か月間の自己負担額の合計が、所得に応じた上限額を超過していること
- 施設の居住費・食費、日常生活費等(保険適用外)は合算に含まれないこと など
【親が元気なうちにやっておくべき事前準備】
- 自治体からの支給申請書を見落とさないよう、重要書類の保管場所を作っておく
- 還付金の振り込み先となる、親名義の口座をどれにするか決めておく
自己負担額が上限を超過した月の翌月以降に、自治体から支給申請書が郵送で届くため、必要事項を記入して返送手続きを行いましょう。
初回の申請手続きを完了させれば、次回以降上限を超えた月は自動的に指定口座へ超過分が振り込まれます。
参考:公的介護保険で自己負担額が高額になった場合の軽減措置とは? | 公益財団法人 生命保険文化センター
親の老後のサポートで悩んだときの主な相談先
親の老後に関する悩みは多岐にわたります。主な相談先は以下の5つです。
- 地域包括支援センター
- 各自治体の福祉課
- 社会福祉協議会
- ファイナンシャル・プランナー(FP)
各相談先について詳しく解説します。
地域包括支援センター
親の介護や生活全般に不安を感じた際の、最初の総合相談窓口です。
地域包括支援センターは、高齢者が住み慣れた地域で生活を継続できるよう、包括的な支援を行う機関です。「親の様子が少しおかしい」「何から手をつければいいのか全くわからない」といった、漠然とした初期の段階での相談に最適です。
センターには保健師、社会福祉士、主任ケアマネジャーなどの専門職が配置されており、それぞれの専門性を活かして親の心身の健康や生活環境を総合的に評価し、最適な解決策を提示してくれます。
介護保険の申請代行や、親に合ったケアマネジャーの紹介など、具体的な実務サポートも直接受けられます。
利用には親が住民票を置いている市区町村のホームページから担当エリアの地域包括支援センターを検索し、電話で相談予約を入れましょう。
各自治体の福祉課
生活保護の申請や、生活困窮に関する具体的な行政手続きを進める際の窓口です。
市区町村の役所に設置されている福祉課や生活支援課などの窓口は、各種公的制度の申請・受理を直接行う行政機関です。
地域包括支援センターで相談した結果、「生活保護の申請が必要」と判断された場合などは、最終的にこの窓口で手続きを行うことになります。
窓口で相談する際は、現在の親の資産状況や収入、支出を正確に把握できる書類を事前に準備して持参すると、手続きをスムーズに進めることが可能です。
制度の名称がわからなくても、現状の困窮状況を具体的に伝えることで、利用可能な制度を案内してもらえます。
社会福祉協議会
生活福祉資金貸付制度などの資金相談や、地域での生活支援ネットワークを活用したい場合の窓口です。
社会福祉協議会は、行政とは異なる立場で地域福祉を推進する民間の非営利団体です。
公的制度の要件から外れてしまう世帯に対して、生活福祉資金貸付制度などを通じてきめ細かい資金援助や生活支援を行います。
親に一時的な立て替え費用が必要になり、低金利での貸付を希望する場合は、社会福祉協議会が直接の相談・審査窓口となるでしょう。
社会福祉協議会では、資金面でのサポートはもちろん、地域ボランティアによる安否確認や家事援助、外出支援など、地域ネットワークを活用した柔軟なサポートも提供しています。
ファイナンシャル・プランナー(FP)
親の資産活用や、親子の家計の切り離しなど、具体的なお金のシミュレーションを相談したい場合の専門家です。
ファイナンシャルプランナー(FP)は、家計管理や資産運用、税金、保険など、お金に関する幅広い知識を持つ専門家です。
親に持ち家などの不動産資産がある場合、リバースモーゲージ(自宅を担保にした融資)やリースバック(自宅を売却後も賃貸として住み続ける仕組み)の活用など、専門的な知識が必要な資産整理の判断をサポートしてくれます。
親のお金が足りず援助を検討している場面でも、FPに相談することで自分の子どもの教育資金やローンなど、自身の家計に対する影響度合いなども整理できます。
法テラス
法的な扶養義務の範囲や、兄弟間のトラブルなど、法的な境界線を知りたい場合の無料相談窓口です。
法テラス(日本司法支援センター)は、国が設立した法的トラブル解決のための総合案内所です。
「親の介護費用を出せない自分は罪に問われるのか」といった強い不安や、「長男ばかりに介護と費用を押し付けられている」といった兄弟間のトラブルに対して、正しい法解釈や対応策を提示してくれます。
参考:法テラス
まとめ:一人で抱え込まず、使える制度や専門家を頼ろう
親の老後資金が不足していても、子供が自身の生活を犠牲にしてまで全ての面倒を見る必要はありません。民法上の扶養義務は、ご自身の生活水準を維持した上で、余力がある範囲内でサポートを行えばよいと明確に定められています。親を金銭的に援助できないことに対して、過度な罪悪感を抱く必要はありません。
本記事で解説した通り、日本には高額な医療費や介護費の負担を軽減する制度や、生活困窮時の最終的なセーフティネットである生活保護など、様々な公的支援が用意されています。これらの公的制度を正しく理解し、要件を満たすものを確実に申請することが、親子共倒れを防ぐための最大の防衛策となります。
親のサポートで行き詰まりや不安を感じた際は、まずは親が住む地域の「地域包括支援センター」へ相談してください。専門家が客観的な視点で状況を整理し、必要な行政窓口や支援へと確実につなぎます。
一人で抱え込まず、利用できる公的制度や専門家の力を賢く頼りながら、ご自身の人生と親のサポートの両立を図ってください。