加齢が進むと食欲が落ちやすいといわれています。介護している人が「お腹がすかない」「食事を取りたくない」という風に食欲不振になってしまったら、どうしたら良いのでしょうか。できるだけ今までのように食事を摂ってもらうためにはどうしたらいいのかと、頭を悩ませる人も多いでしょう。
食欲が低下する要因は、老化による身体的なものから、ストレスを感じることによる精神的なものまでさまざまなものがあり、根本的に改善するためにはその要因を理解することが必要です、そして、食べる人の食欲が湧きやすくなるように環境面や調理面の工夫をしつつ、食事が楽しめるようにすることが大切です。
無理しすぎず、取り入れられるところから参考にしてみてください。
高齢者が食欲不振になる原因
高齢者が食欲不振になるのはなぜか、それは老化によって運動量が低下することによって筋肉量や基礎代謝が低下することで食欲不振に陥るという病気以外の原因と、風邪やインフルエンザ、十二指腸潰瘍などの病気が原因で食欲不振に陥るという二つの原因が考えられます。
高齢者の食欲不振の原因をまとめると以下の11の原因が考えられます。
- 体の老化によるもの
- 味覚や嗅覚の変化によるもの
- 嚥下障害によるもの
- ストレスによるもの
- 生活習慣によるもの
- 認知症によるもの
- 内蔵機能の低下によるもの
- 薬の副作用によるもの
- 口腔状態の悪さによるもの
- 体の病気によるもの
- 老人性鬱によるもの
第一章では、高齢者が食欲不振になる原因について紹介していきます。
体の老化によるもの
加齢が進むと、食べ物を消化する際に最初の段階で必要となる唾液が減少し、さらには胃の中の消化酵素の分泌も減ってしまいます。そのため、食べ物の消化が進まないばかりでなく、便秘になりやすくなり、空腹を感じにくい状態になるのです。
また、高齢者になると膝関節や腰などの痛みで家にこもることが多くなり、それによって活動量が減少します。つまり、生きる上でのエネルギーの必要量が低下してしまうので、身体が食事から摂取しなければならないエネルギー量も減ってしまうのです。
味覚や嗅覚の変化によるもの
歳をとるにつれて、味覚や嗅覚は変化していき、味を感じる細胞数が減少することで機能そのものが衰えてしまう場合もあります。その中でも、甘味に比べて、塩味、酸味といったものが鈍りやすく、好き嫌いが増えてしまうようです。若い頃は好きだったものが食べられなくなるのは、味覚や嗅覚の変化が原因と考えられます。
また、高齢者の陥りやすい生活習慣病の対策として、減塩などの制限食を食べている場合は、味付けが薄いためさらに食が進みにくくなります。
嚥下障害によるもの
食べ物を食道や胃に送り込むことを嚥下(えんげ)といいます。加齢により筋力や喉の炎症が起こることで嚥下障害が起こり、食事中に喉に詰まってむせ込んでしまったり、固形物が飲み込みにくくなってしまいます。そのため、食事の時間が楽しくなくなり、食欲の低下に繋がるばかりでなく、誤って気道に詰まるといった窒息の危険性も伴います。
さらに、嚥下だけではなく歯でかみ砕く力も弱まってしまうことにより、固いものが食べられなくなります。そうすると、入れ歯を装着したり、食事形態をペースト状に変えなくてはいけなくなり、それらが組み合わさってさらなる食欲の低下を招きます。
ストレスによるもの
高齢になると、今まで周りにいた家族や友人など身近な人との死別、施設への入居など環境の変化によるストレスが多くなります。
こうした過度なストレスがかかると不安感・孤独感を抱くことが多くなり、認知症や老人性うつにもなりかねません。そして、認知症になると1人で食事ができなくなったり、老人性うつでは何もかも無気力で寝たきりになるなどといった症状が出るため、結果的に食欲の低下を招くことに繋がります。
生活習慣によるもの
生活習慣が不規則になると自律神経が乱れるので、食欲がわきにくくなります。
具体的には睡眠不足や運動不足、食事の偏りなどが考えられます。早寝早起きをしている高齢者でも老化などの原因で睡眠が浅くなったりすると睡眠不足に陥ることもあります。
また、家族の他界などで引きこもりがちになってしまっているケースなどでも、運動不足などの生活習慣の悪さから食欲不振になることがあります。
認知症によるもの
認知症になると寝たきりになることなどがあります。寝たきりになると筋力が低下するため、介護なしで座ることなどが難しくなります。一人で食事をとることができなくなり、消化器官が衰えていくことによって食欲不振に陥ります。
また、認知症になると食べ物をうまく認識できなくなったり、箸などの食器をうまく使えなくなったりして食事に関わる脳の機能も低下します。
認知症は高齢者の無気力や無関心を引き起こすこともあるので、その点からも食欲不振を招くことがあるのです。
内蔵機能の低下によるもの
内蔵機能が低下すると、胃や腸の消化吸収機能がうまく働かなくなるので、消化不良や下痢・便秘などになりやすくなります。
食道の動きが悪くなることによって逆流してしまったり、胃の機能が低下するとあまり食べていない状態であっても胃が苦しくなることもあるので、食欲不振に陥るのです。
薬の副作用によるもの
抗がん剤や抗生物質などの薬の副作用で食欲不振に陥ることもあります。また、直接的な食欲不振への影響がなくとも、味覚が変わったり食事中の眠気などで食欲不振になることもあります。
薬の服薬などが始まったタイミングで食欲不振になった場合などは、薬による副反応を疑いましょう。
口腔状態の悪さによるもの
口腔状態が悪いと嚥下や咀嚼がうまくできなくなるので食欲不振になることがあります。
具体的には、唾液の分泌量が低下して口の中が乾燥し、入れ歯や差し歯の状態が悪いと咀嚼をしづらくなることなどを指します。
食べること自体へのストレスを招くこともあるので、口腔状態の悪さが食欲不振の原因となることもあるのです。
体の病気によるもの
食欲不振に陥る体の病気としては、風邪やインフルエンザ、慢性胃炎や胃潰瘍などの消化器官系の病気やがん、心不全などの病気の原因も考えられます。
食事中に頻繁にむせている場合や食後の喀痰が増えたら誤嚥性肺炎のリスクもあり、誤嚥性肺炎は高齢者の自覚症状が無いことがあるので注意が必要です。
老人性うつなどの精神の病気によるもの
老人性うつなどの精神の病気で食欲不振に陥ることもあります。
高齢になると身内の不幸や孤独感などで老人性のうつ病にかかりやすくなります。近所に地域コミュニティを作っていないケースでは、引きこもりによる生活習慣の悪化と相まって食欲不振に陥ることもあります。
また在宅での介護でご本人の食欲不振にお悩みの場合、高齢者の食事にこだわった老人ホームに入居するのもひとつの手です。
高齢者の食べやすいソフト食やミキサー食はもちろん、毎日3食ホテルで修行を積んだシェフ手がける食事を堪能できる施設も存在します。
施設選びには多くの選択肢がありますが、お悩みの際にはケアスル介護で相談してみることがおすすめです。
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高齢者の食欲不振の改善策
予防する方法については述べましたが、既に食欲不振に陥っている場合には、どうしたらよいのでしょうか。ここでは、高齢者の食欲をアップさせる方法について、見ていきましょう。
好きなものをメニューに入れる
高齢者がよく好んで食べるものであれば、塩分や糖分の高いものでもたまにはメニューに取り入れることで、食事を楽しめるようにしましょう。また、濃い味を好む場合は、すべての料理を薄味にするのではなく、煮物を炒め物に変更したり、塩分以外の薬味や香味野菜の活用で味つけを工夫します。
毎日だと栄養に偏りがでるので、食欲が落ちてきたように感じたら、食欲を取り戻す目的で試してみると良いでしょう。
少量ずつ盛り付ける
食べ物を山盛りにすると、食べる前から食べきれない印象を与えてしまいます。小皿を用意し、1つ1つの量を減らして小分けに盛り付けるよう意識しましょう。
また、食事のメニューをおかず・副菜・ごはん・汁物とバランス良く作ることで、味のバリエーションを感じ、飽きることなく食べることができます。
食べやすい形を意識する
嚥下やかみ砕く能力が低下している場合、できるだけ柔らかい物を選んだり、食材を小さく切る・煮込むといった調理方法を変えることで食べやすくなります。茶碗蒸しやゼリーなど喉越しの良いものや、食材をミキサーにかけてペースト状にし、再び元の状態に近づけて形作るソフト食といった高齢者向けの介護食を利用するのも良いでしょう。
その場合、急に食事形態を変えるといったことは避け、医療機関などに相談し、食べる人の状態に合わせて検討する必要があります。また、食べやすさを意識するあまり、すべて細かく刻んでしまったりペースト状にしてしまうと、見た目が損なわれてしまい、かえって食欲が低下する可能性があるので、できるだけ見た目は一般の食事に近づけるところから始めましょう。
高齢者が食べやすい食事について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
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彩などの見た目も工夫する
食事は味だけではなく、目でも楽しむことができます。料理自体を赤や緑を使って彩り豊かなものにするよう心がけましょう。また、ひな祭りにはちらし寿司、冬至にはかぼちゃ料理など、季節を感じさせる食材をメニューに取り入れたり、盛り付ける食器をおしゃれなものにするなど、見た目をおいしそうに見せる工夫をしましょう。
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高齢者の食欲不振を予防する対策
高齢者の食欲不振について、原因や症状について説明しました。できれば食欲不振にならないよう、事前に予防したいですよね。ここからは、食欲不振を予防する対策について見ていきましょう。
1人で食べさせない
食事をするときはできる限り1人ではなく、家族と一緒に食べるようにしましょう。1人だと不安感・孤独感が湧いてしまうことがありますが、他の人と食卓を囲んで食事することで、会話が弾んだり安心感が生まれ、食欲が湧いてくることがあります。
また、テレビをつけると気が散ってしまい食事に集中できないので、落ち着いた音楽を流すといった環境にするのも効果的です。
食事が始まることを伝える
認知症によって認知機能が低下すると、食べ物が認識できなくなることがあります。そのため、無理に食べ物を口に運ぶと、何かわからないものを食べさせられていると感じ、余計に食欲が低下してしまう恐れがあります。それを防ぐためには、食事が始まる前にこれから食事をすることをしっかりと伝えたり、どんな料理なのかを丁寧に説明してあげるようにしましょう。
姿勢に気を付ける
姿勢の悪い状態で食事をすると、食べ物を飲み込みづらくなったり、喉に詰まってむせてしまい、食べることに対して不安を抱くようになります。食事をするときは、テーブルの場合は椅子に深く座り、床に足をついて安定させ、リクライニングの場合は身体の状態に合わせて角度を調整し、飲み込みやすい姿勢になるよう心掛けましょう。
食べたいときに食事を出す
基本的には朝・昼・晩の3食、規則正しく食べることが理想ですが、食欲の低下が起こっているときは、食べたいタイミングで小出しにしても大丈夫です。本人が食事の話題に触れたり、空腹を感じていそうなタイミングでさっと提供できるよう、レトルトなどを用意しておくのも1つの手です。
また、最近では糖分が少なく栄養価の高いおやつも多いので、補色としてこまめにおやつを食べるのも良いでしょう。
高齢者が食欲不振のままでいるとどうなる?
高齢者が食欲不振のままでいると、低栄養になります。低栄養とは、食事から栄養の摂取量が減少することで、身体を動かすために必要なエネルギーや健康維持に必要な栄養素が不足してしまうというもので、特に75歳以上の後期高齢者に多く見られるようです。低栄養になると皮膚の炎症や骨がもろくなるなどの症状が起ります。
低栄養と診断される可能性が高い状態としては、数週間〜半月などの短期間で体重が急激に減っていること、BMIが18.5未満といったことが挙げられます。この低栄養状態が続くと、下記のような症状が現れます。
皮膚の血行不良
低栄養になると、目に見えて体重の減少が起こります。それによって、皮膚と骨の間にある筋肉や脂肪がなくなり、寝ているときや座っているときに骨が皮膚を圧迫し、皮膚の血行不良が起こりやすくなります。そして、血行不良即ち血の巡りが悪化すると、床ずれを引き起こすこともあります。
骨が脆くなる
骨の原料であるカルシウムも、大切な栄養素の1つです。カルシウムが不足することで、骨粗しょう症による骨折などのトラブルが起こりやすくなります。骨粗しょう症が進行してしまうと、治療してもなかなか改善するのが難しいため、症状が悪化する前にできるだけ予防することが大切です。
免疫力が落ちる
果物に含まれるビタミンCや、緑黄色野菜に含まれるビタミンAなど、免疫力を高める栄養素が不足すると、ウイルス・細菌による風邪や肺炎になりやすくなります。特に野菜類は、歳を重ねるにつれて好き嫌いが増えることが多いため、意識して摂取するようにしましょう。
低血糖による意識障害
米、麺類、パンなどの主食から摂取する炭水化物が不足すると、低血糖を引き起こします。低血糖になると、体内の血糖値が下がり、めまいや吐き気、集中力の低下といった症状が起こります。特に糖尿病の治療を行っている人は、血糖値を下げる作用のあるインスリンを投与していることが多いため、さらに注意が必要です。
このほかにも、低栄養になるとさまざまな症状が起こり、最悪の場合命の危険にも繋がります。低栄養にならないためにも、できるだけ食欲不振にならないよう予防したいものです。
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高齢者が食欲不振になった場合の注意点
それでは最後に、高齢者が食欲不振になった場合の注意点について、見ていきましょう。
無理に食べさせるのはNG
最も気を付けなければならないのは、無理に食べさせることです。食べなければならないというストレスが溜まると、ますます食欲不振に繋がってしまいます。なぜ食べられなくなったのか、要因を見極めることが大切です。要因がわからない場合は、医療機関で相談するなどして、身体的・精神的な状態をしっかりと把握します。怒ったり焦ったりせず、おおらかな気持ちで見守り、臨機応変な対策を心掛けるようにしましょう。
消化に悪い繊維質のものは避ける
食欲不振がある人は、消化機能が弱っている場合が多いです。そのため、タケノコやゴボウ、根菜類などの繊維が固い野菜類や、脂身の多い肉や揚げ物といった、消化に悪いものは避けるようにしましょう。
なお、このようなものがどうしても食べたい場合は、調理方法を工夫する必要があります。固い肉の場合は叩いて柔らかくする、繊維のある野菜は繊維を直角に断ち切るといったことで、噛む力や嚥下する力を補うだけでなく、消化しやすくする効果があります。
水分をこまめに補給させる
食欲の低下により食事を取れていないと、食べ物から摂取できるはずの水分が不足してしまい、最悪の場合には脱水症状を引き起こす可能性もあります。特に暑い夏場などは、お茶や水、スポーツドリンクなどの水分をこまめに摂取させるように心掛けましょう。
また、嚥下する力が弱くなると、サラサラした汁物も飲み込みづらくなります。そのため、必要に応じて水溶き片栗粉などでとろみをつけることによって、飲み込みやすくしましょう。
口内ケアを心掛ける
あごや歯茎に合わなくなった入れ歯の隙間に食べ物のカスが詰まりやすくなったり、唾液が減少して口内細菌が繁殖してしまうと、虫歯などの口内トラブルを引き起こします。
食後は口内に異常がないか確認するのはもちろん、歯磨きやうがいを念入りに行ったり、舌についている舌苔という白い汚れを取り除いたりして、丁寧なケアをするよう心掛けましょう。
改善が見られない場合は専門家に相談する
上記のような対策を行っても、どうしても食事量が回復しなかったり、体重が著しく減少することがあります。その場合は、無理に食べさせるといったことはせず、かかりつけ医や介護士、管理栄養士などの専門家に相談しましょう。
高齢者がなぜ食欲不振になったのか冷静に判断しよう
介護している人の食欲がなくなると、どうしたらいいのか心配になってしまうでしょう。食欲が低下する要因はさまざまで、家庭内で改善できることもあれば、医療機関にかかる必要があることもあり、冒頭でもお伝えした通り、まずはその要因を理解することが大切です。
食事がお互いにストレスになってしまわないよう、適切な予防策を知って、楽しい時間にしましょう。
そのほか日常のヘルスケアについて知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
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