介護業務は肉体労働・頭脳労働・感情労働すべてを含む仕事です。感情労働は、「嬉しい」「楽しい」といった感情を出すことを求められています。反対に「怒り」や「悲しみ」などの感情は抑制する必要があるなど、適切又は不適切な感情が定められている労働です。
まさに、介護施設で働く専門職の方々はプロフェッショナルですが、そこは人間です。利用者さんの暴言・暴行があっても、ぐっと我慢して「病気からくるもの」と解ってはいてもストレスのかかる職業です。
身延山大学 仏教学部 仏教学科 福祉学専攻
日本生活支援学会
中央鉄道病院(現在のJR東京総合病院)高等看護学園卒業後鉄道病院、佐藤病院や訪問看護の経験20年以上、介護専門学校で11年教員経験し現在に至る。
実際の声
筆者の勤務する大学の介護福祉学専攻の卒業生9名にアンケートを取りました。
介護施設に勤務して、利用者からの暴言・暴行を受けたかについての質問
「暴言・暴行を受けた」が8名、受けなかったが1名であった。どのような内容であったかに対して「叩かれた、引搔かれた」が8名全員であった。「暴言(汚い・死ね・消えろ)を吐かれた」が6名。「髪の毛を引っ張られた」が4名。「蹴られた」が3名。「つねられた」「噛みつかれた」「唾を吐かれた」「鉛筆で刺そうとした、ボールペンでつつかれた」がそれぞれ2名の記入があった。「お茶の入っているコップを投げられた」「就寝を促したとき、ティッシュ箱で頭を叩かれた」「歩行器を振り回した」はそれぞれ1名の記入があった。
その時どんな気持ちだったかに対して「「イラッとした」「認知症の方だから仕方がない」がそれぞれ2名の記入があった。「この仕事をしている意味があるのかと思った」「辞め
てしまおうかと思った」「疲労のピークの時、早く死んでしまえばいいのにと思ってしまった」「そっとしておこうと思った」「怖い」「驚いた」「腹立たしいが落ち着いて介護している」「仕事だから仕方がない」「作り笑いをして作業するロボットだと思い込むようにしている」「むなしい」はそれぞれ1名の記入があった。
その時の気持ちをどう静め、問題に対処したかについて、「同僚や上司に相談・アドバイスを受ける」「難しい事例に遭遇した時、他の職員に対応してもらう」「利用者のことを考え、対応する」がそれぞれ3名であった。「休日など仕事のことを忘れるようにしている」が2名。「仕事だから仕方がないと、自分に言い聞かせている」「病気だから仕方がない、むしろ可哀想な人だと思うようにしている」「事実は上司に報告したが、気持ちが収まらなかった」「酒量が増え、うつ病になり転職した」「環境を変えたり、勉強を続けたり、職場以外で介護や福祉職の人と話をして気持ちの安定を図った」「抵抗せずされるがままにしていた」はそれぞれ1名の記入があった。
ストレス対処法は
①「他者に話をすることによる発散」嫌なことがあったときは職場の同僚に聞いてもらうと楽になる。しんどい時には上司に言ってスッキリする。問題解決に至らなくても、職場の同僚や上司に話を聞いてもらうことで楽になる。
②「気分転換や趣味による解決」ストレス解消は友達と音楽を聴きながらお酒を飲む。それぞれの趣味を活用して気分転換を図ることで気持ちを切り替えている。
③「オン・オフの切り替え」休みの日には仕事のことは考えないと決めている。仕事のことは職場のみで考える。職場を出たら別の世界観で生きる。気分の切り替えを上手に行うことで感情コントロールを行っている。
④「研修・主体的学習による解決」研修に行って刺激を受けるとモチベーションが上がる。最初は研修やスーパービジョンを受けることにあまり意味を感じなかったが、それがきっかけとなって発見があり視点が変化し、良い刺激となって仕事継続の意欲に繋がる。
介護の仕事を選ぶ人々は、心優しい気持ちや誰かの役に立ちたいと願い希望に胸を膨らませて仕事に就いています。
介護の仕事は、マイナスの3Kではなくプラスの新しい3K(感謝、感動、希望)を目指し努力していってほしいと思います。