認知症の方と向き合うときに、理解できない行動が増えると心身ともに疲れてしまいます。認知症の方でも入居できる施設を検討したいけれど、在宅介護も頑張りたいと思っている方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、認知症の方が発症する可能性の高い周辺症状について解説します。周辺症状を知り、認知症の方が起こす行動に対して向き合う参考にしてください。
認知症の周辺症状について学ぼう
認知症の周辺症状は「BPSD」と略され、別名「行動・心理症状」と言われています。「BPSD」は「Behavioral and psychological symptoms of dementia」の頭文字をとったものです。
認知症の方が周辺症状を引き起こすと、このような精神症状が現れます。
- 強い不安
- 妄想
- 幻覚
- 誤認
- 抑うつ
酷い場合だと暴言や暴力に発展してしまうため、介護も困難を極めます。周辺症状が強く出るのは認知症当事者の性格や周辺環境が関係しており、要因は1つではありません。
しかし、周辺環境やまわりのサポートが認知症患者に適したものであれば、周辺症状を軽減・消失できるとされています。認知症患者が自分の力で周辺症状を治せるケースはほとんどありません。周囲の方のサポートが非常に重要です。
中核症状と周辺症状の違い
周辺症状とよく似た言葉に「中核症状」があります。中核症状では以下の障害が見られるようになります。
- 物忘れが多くなる(記憶障害)
- 時間や場所、人がわからなくなる(見当識障害)
- 家事ができない(実行機能障害)
- 言葉がわからない、出てこない(言語障害)
- 日常的な簡単な動作ができない(失行)
- 左右どちらかにあるものを認識できない(失認)
中核症状は主に脳の精神神経に障害をきたし、脳細胞が正常に機能しなくなる症状です。周辺症状はこの中核症状が起きると段階的に発症する症状であり、中核症状を経ずに周辺症状を引き起こすことはありません。ただ、認知症になると中核症状は必ず表れてしまうだけでなく、進行を抑制できても完全に症状を無くすのは難しいと言われています。
もちろん、中核症状を引き起こしたからといって必ずしも周辺症状を引き起こすとも限りません。置かれている環境に満足感があったり不安・悲しみなどの要素があまりない場合は中核症状だけで済むケースもあります。
周辺症状の原因や発症する時期
周辺症状を引き起こす原因は「認知症当事者が置かれている環境」です。
例えば、「また無くしたの?」「なんで覚えられないの?」「いい加減にしてよ!」など強い言葉をかけ続けてしまうと、ストレスを抱え込むようになります。不安や恐怖、焦りを感じた結果、周辺症状の発生、悪化に繋がってしまうのです。
以下のような行動はネガティブなアクションと呼ばれ、周辺症状の悪化に繋がります。
- 否定
- 疑い
- 叱る
- 無視
- 何かを強制
精神状態が不安定になると周辺症状の悪化に繋がります。つまり、周辺症状を引き起こさないためには周囲のサポートが必要になります。
そして、周辺症状は認知症進行度合いにかかわらず引き起こす可能性があります。認知症末期の方が周辺症状を引き起こす場合もありますし、まだ初期にもかかわらず周辺症状を引き起こすケースもあります。
周辺症状の進行過程と変化の流れ
周辺症状には、前兆期、初期、中期、末期と呼ばれる進行過程があります。それぞれの、具体的な周辺症状には以下のようなものがあります。
時期と特徴 | 主な周辺症状 |
前兆期 | ● 軽度認知症障害(MCI)● 軽いめまいや不安、頭痛 |
初期(1〜3年) | ● 昨日の出来事を忘れてしまう● 無気力状態が続く
● 判断力が鈍くなる |
中期(2〜10年) | ● トイレや着替えなどの日常生活ができなくなる● 妄想や幻聴に襲われる |
末期(8〜12年) | ● 寝たきり状態● 介護者とのコミュニケーションが困難になる
● 失禁や異食などの症状が現れる |
周辺症状が末期になると、寝たきりの状態となり介護者とのコミュニケーションが思うようにできなくなります。一方で、周辺症状前兆期では軽いめまいや不安に襲われる程度で日常生活に大きな支障をきたすケースはあまりみられません。
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認知症の方の周辺症状への対応方法
多くの認知症患者は中核症状や周辺症状に悩まされます。周辺症状によりどのような症状が出るのかは人それぞれです。介護者は臨機応変に対応する必要があります。場合によっては、今までにないような症状が出てしまうケースもあるでしょう。
特に問題になりやすい言動として、以下のようなものが挙げられます。
- 外出先で迷ってしまう
- 不潔な行動・言動をとるようになる
- 多動衝動が起きる
- 不安や軽いめまい、無気力状態が続く
- 幻覚や幻聴に悩まされる
- 介護者に暴力や暴言を振るう
認知症当事者によりどういった言動をするのかは大きく異なります。その方にあった対応をしていきましょう。それでは、それぞれどのように対応すればいいのか詳しく解説していきます。
周辺症状による行動への対応法
周辺症状で見られる代表的な行動は以下の通りです。
- 外出先で迷う
- 不潔な行動・言動を取る
外出先で迷うのは中核症状の見当識障害により方向感覚を失っていることが原因です。目的がなくふらふらしているのではなく「家へどうやって帰ればいいのかがわからない」状態になっています。また、コミュニケーション能力も低下しているため、家へ帰る方法を他人に聞くのも困難な状態です。
この場合は、外出する際に付き添う・所持品に名前や電話番号を記載するといった対応が効果的です。地域の方にあらかじめ認知症だと伝えておくと、迷子になった場合、保護してくれるケースもあります。
また、不潔な行動・言動をとるのは汚物だと認識できていないためです。見当識障害や実行機能障害でよく見られる症状で、排泄に間に合わずにそういった行動・言動を取ってしまうケースもあります。この場合は、定期的にトイレへ誘導を促したり、ポータブルトイレを設置するといいでしょう。
周辺心理症状による精神状態への対応法
多くの周辺症状で見られる代表的な精神症状は以下の通りです。
- 強い不安や焦燥感を覚える
- 幻聴や妄想がひどくなる
- 暴言や暴力を振るうようになる
強い不安や焦燥感を覚えてしまうのはよくある症状の一つです。心の視野が狭くなってしまっており、人に聞いて解決してもらうなどごく当たり前のことができません。そのため、介護者から認知症患者に対して「どうしたの?」と声をかける必要があります。不安・焦燥感を増幅させないためにもストレスを与えないようにしましょう。
また、幻聴や妄想がひどい場合、症状自体を否定してはいけません。「そんなものいないよ!」「何が見えているの?」と認知症患者を不安にさせるような発言をしてしまうと、ストレスがかかり、さらに幻聴や妄想がひどくなってしまいます。介護者自身にも見えたり、聞こえている体で話を聞いてあげましょう。
暴言や暴力は、感情のコントロールができなくなっているときによくみられます。介護者にも危害が及ぶため、いったんその場を離れてケアマネージャーや医師に相談しましょう。プロのアドバイスを受けて、暴言や暴力をどう対処すればいいのか、原因はどこにあるのかを模索することが大切です。また、介護者自身がストレスを溜めてしまうのを避けるためにも、周囲の人たちに相談をすることが大切です。
認知症の周辺症状は治療できる?
「認知症の症状が強くて困っている」「なんとか治せないの?」と疑問や悩みを持つ方も少なくはありません。アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症など、脳の変性がともなう認知症自体は治す術がありません。しかし、以下の方法によって周辺症状などの症状を緩和できます。
- 薬物療法
- 個々の症状に応じた治療法
認知機能の低下が軽微な場合、薬物療法よりもここの症状に応じた治療法をとるケースも少なくありません。それほど、本人の精神状態や周囲の環境が症状の緩和に大きく影響しているのです。
それでは、具体的にどのような治療を行うのか、詳しく解説していきます。
薬物療法
薬物療法では、興奮状態になる「過活動症状」を抑える治療法と気分が落ち込む「低活動症状」を抑える治療法があります。それぞれの症状により使用する薬は以下のように異なります。
- 過活動症状:抗精神病薬や抗てんかん薬
- 低活動症状:セロトニン再取り込み阻害薬やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬
薬が効いてきたら徐々に薬の種類を変え、なるべく副作用が少ない薬を重点的に使い、治療していきます。
また、最近、漢方薬の効果に注目が集まっており、幻覚や多動衝動、異常行動などの症状を改善できるのではないかと言われています。漢方薬の中でも「抑肝散」がこれらの症状改善に期待されています。ただ、薬物療法は精神的な症状に対して効果が期待できるものであり、行動異常にはあまり効果が期待されていません。行動異常への効果は個々の症状に応じた治療法が有効です。
個々の症状に応じた内容
薬を使用して治療する方法もあれば、薬を使わない「非薬物療法」により周辺症状が改善するケースもあります。代表的な方法は以下のようなものがあります。
- 回想療法
- 音楽療法
これらの治療法は薬を全く必要としません。体への影響を考えないため、薬の使用に抵抗感がある認知症患者でも治療を進めることが可能です。
回想療法では、認知症患者の経験談を聞いたり楽しかった思い出などを話してもらうことで精神的な安定を取り戻してもらうことができます。また、コミュニケーションを積極的に取ってもらうと脳の活発化も期待できます。
音楽療法は、認知症患者が大好きな音楽を聴いたり歌ったり、一緒に演奏することで精神的にリラックスしてもらうことが可能です。さらに音楽に合わせてダンスなどで体を動かし、身体能力の改善も期待できます。
周辺症状を軽減する方法
周辺症状は「認知症患者の周辺環境」に大きな影響を受けます。
周囲にいる人たちが認知症患者に対して酷い言葉を投げかけたり、時には軽い暴力をふるってしまうと周辺症状が悪化する可能性があります。逆に、周囲にいる方々が認知症患者に対して優しく丁寧に接していれば、周辺症状が悪化するケースはほとんどありません。
しかし、どうしても、「なぜこのような行動をとるのか理解できない」「なぜ暴言を吐かれないといけないの」と介護者がストレスを抱えることも少なくありません。
それにより認知症患者にさらにきつく当たってしまう方も多くいますが、逆効果です。たとえそれが理解できない行動・言動だったとしても認知症患者はその意味をしっかりと理解できません。介護者が「なぜそのような行動をするのか」をしっかり考え、ケアマネージャーや医師の協力も仰ぎながら適切に対応していく必要があります。
「否定しない」「優しく冷静に接する」ことが大切です。
認知症介護に疲れたら?
どんなに体が丈夫な介護者でも、毎日毎日認知症患者と向き合っていると気が滅入ってしまいます。実際、介護に疲れて心身の調子を崩す方も少なくありません。それほど認知症の方の介護はストレスになります。精神的だけでなく、暴力を振るわれるなど肉体的にも厳しい状況になる方も多いでしょう心身ともに限界を感じる前に、老人ホームへの入所を検討していきましょう。
認知症の方でも入りやすい代表的な老人ホームは以下の3つです。
- グループホーム:認知症患者を対象としている老人ホーム
- 住宅型有料老人ホーム:バリアフリーなどの設備が充実している老人ホーム
- 介護付き有料老人ホーム:手厚い介護サービスを受けられる老人ホーム
- サービス付き高齢者住宅:高齢者が安心できる住居として利用できる老人ホーム
- 特別養護老人ホーム:要介護度が思い方に向けた公的な老人ホーム
施設に入所すると、介護者の負担が大幅に低減され、お互いに程よく距離感を保てます。認知症の方の対応で精神的に参ってしまう前に老人ホームへの入居を検討しましょう。
また、本人が何をしでかすかわからない状態のときも老人ホームへの入居をおすすめします。家族に専門的な知識が無かった場合、本人の急な言動に対応できないケースがあります。
認知症の周辺症状は対応次第で症状が良くなるかもしれない!
認知症の周辺症状の多くは「認知症の方の周辺環境」が原因です。
周囲の環境により、周辺症状が軽くなる場合もあれば、逆に悪化してしまう場合もあります。自身の行動が大きな影響を与えると介護者は理解しなければなりません。
しかし、対応に疲れ、限界を感じる場面もあるかもしれません。心の余裕がないときは、どうしても優しくできない方も多いでしょう。認知症介護に疲れたと感じたら老人ホームへの入居を検討しましょう。介護をしている中でストレスを感じてしまうのは心身ともによくありません。
介護施設へ入所すると家族の負担も大幅に軽減され、お互いに程よく距離感を保てます。まずは近所にどんな施設があるか、調べてみてはいかがでしょうか。
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