ご家族は主治医に胃ろうの造設手術を勧められて漠然とした不安を抱えていませんか。
- 「胃ろうの手術ってどのように行われるのだろうか…」
- 「胃ろうの手術を受けたあと、どう管理すればいいの?」
このような悩みを抱えている方は多いでしょう。
手術後にかかる費用や胃ろう管理の注意点など知っておくべき内容は多いです。分からない点や不安な点が積み重なると心身共に疲弊して、ご家族も疲弊してしまいます。
不安を少しでも減らせるようにこの記事では、胃ろうの手術費用や自宅での管理方法、尊厳のある生活について解説します。
胃ろうとはどんな状態?
胃ろうとは、口から食べ物を食べると誤嚥性肺炎を起こしやすい方や食べるのが困難な方に対して、手術により胃に穴を開けたうえで直接胃に栄養を注入する方法です。胃ろうが必要な方の多くは以下の方です。
- 身体機能が低下している方
- 重度の認知症の方
- 食べ物を飲み込めない方
- 誤嚥性肺炎を繰り返している方
同居している家族であれば「最近ご飯のときよくむせるようになってきた」「飲み込みにくそう…」などが気になるでしょう。
形の大きな食材や繊維質の食材を口から出したり残したりします。同居でない場合は「久しぶりにあったらだいぶ痩せたような気がする」と感じたり、生ごみに飲み込みにくい食材の食べ残しが多かったりなどで気づく場合もあります。
胃ろう手術費用はいくらかかるの?
厚生労働省によると、胃ろう造設手術は60,700円、造設時の嚥下機能評価加算は25,000円で、合わせて85,700円かかるとされています。
手術の費用だけではなく入院すると、治療代やベッド代、食事代等がかかります。胃ろうの手術を受けたあとにかかる費用は以下のとおりです。
- 診察代
- チューブなどの交換代
- 栄養剤費
通院や胃ろうの管理などのため、さまざまな費用が発生します。
①診察代
胃ろうの手術後は定期的に通院しなければならず、その都度診察代がかかります。
令和4年度の診療報酬改定で、訪問診療について見直しがされ、在宅患者の訪問診察料は8,880円となりました。
また、看護師による胃ろうのカテーテルやボタンの交換は1回2,500円です。24時間体制の訪問看護ステーションも制度化されて、在宅での生活を続けながら医療に支えられる状況は現在では特別ではありません。
②チューブ類などの交換代
チューブ類などは定期的に交換しなければならないため、交換代も発生します。
胃ろうのカテーテル交換法の診療報酬は200点で2,000円です。そのほか、診察代や材料費がかかります。
胃ろうには4つの種類があります。
- ボタン型バンパー
- ボタン型バルーン
- チューブ型バンパー
- チューブ型バルーン
チューブが身体の外に出ているかで分けられ、チューブ付きがチューブ型、チューブがついていないのがボタン型です。
バルーン型は1回の交換当たり9,000円弱程度で、バンパー型は1回の交換当たり20,000~22,000円程度(ガイドワイヤーのありなしでも価格が異なる)。1回あたりの金額はバンパー型のほうが高くなりますが、交換頻度がバルーン型よりも低くなるため低コストに抑えられます。
③栄養剤費
医師の処方によって出された栄養剤は、保険適用です。1mlは1キロカロリーです。1日に1,200キロカロリー必要な方の場合は、1か月あたり20,000円から35,000円程度です。
リハビリを行う方でリハビリ時の食べもの以外は栄養剤を使用します。そのため、ほかに食費はかかりません。
栄養剤だけでこれだけ費用がかかると感じた方もいるかもしれませんが、保険適用であり上限負担額適用です。

胃ろう手術後の入院期間は1~2週間程度
胃ろう手術期間は、主治医の医療方針や患者の方の状態や回復状況によりますが、多くは1週間から2週間です。手術前から退院まで実際はどのような経過をたどるのでしょうか。
入院前の生活は医師に指示がなければ特に制限はありません。入院に備えて心身ともに健康を保ち入院に備えます。入院後手術前日は、夜は食事や飲水が制限され、胃の中を空の状態にします。入浴やトイレも自由です。
手術当日は、診察や点滴を終えてから手術となります。
手術後のトイレは、ベッド上で尿器や便器を使用するなど安静を保たなければなりません。経過を見て数日後から栄養剤が開始となります。
この際に介護を担うご家族や患者本人に胃ろう管理の説明がされ、病院内で実施してから退院となります。
ここで紹介したのは一例であり、手術後の状況や管理の習得状況により入院期間は変わるため注意しなければなりません。
胃ろうの自宅管理における5つの注意点
胃ろう管理は、医療的ケアであり注意すべきポイントがあります。自宅での管理における以下の5つの注意点について解説します。
- 誤嚥しないための注入時の姿勢
- 乾燥予防のための口腔ケア
- 嘔吐しないための適切な投与速度
- 感染予防のための入浴
- 皮膚トラブルの対処法
ご本人、もしくは家族が自宅での管理を担います。
①誤嚥しないための注入時の姿勢
誤嚥しないための姿勢が重要です。
注入時は、上体を30度程度起こさなければなりません。寝たままの姿勢では逆流するリスクがあるためです。
嚥下困難な方であれば、栄養剤の逆流は命のリスクにもつながります。リクライニング式のベッドがある場合は注入しやすい角度にしましょう。
しかし、リクライニング式のベッドが無い場合は事前にその旨を主治医に伝えましょう。福祉用具専門員に相談するとアドバイスを貰えます。レンタルや購入等環境を整えたうえで、自宅で管理しなければなりません。
栄養剤注入後も、30分から1時間程度は上体を起こしたままで安静にしましょう。
②乾燥予防のための口腔ケア
胃ろうの方は、口から食べ物を食べる機会が無いもしくは少ない状態です。唾液の分泌が減り乾燥が進み、衛生状態が保たれません。そのため、口腔ケアが大切です。
嚥下機能が低下している方は、誤嚥性肺炎を起こすかもしれません。うがいをする際の水さえも誤嚥につながる可能性があるため注意しましょう。
その方にあった口腔ケアの方法や、使用する器具等は主治医や言語聴覚士と相談しておきましょう。
口腔ケアは、口から食べるリハビリへの準備としても有効です。些細な変化も診察時に医師へ伝え、自宅での生活の安定につなげましょう。
③嘔吐しないための適切な投与速度
胃ろうは、経管栄養チューブのローラークランプと呼ばれる器具で注入速度を調節します。点滴にもついている器具なので見た記憶がある方は多いのではないでしょうか。
点滴同様、胃ろうもゆっくりと胃に栄養剤を流していきます。注入速度には注意が必要です。注入開始後は、速度確認と注入されている方の様子観察を行います。注入する速度が速いと、下痢につながる可能性があります。
また、消化管の運動機能低下時や胃にガスがたまっている場合は嘔吐のリスクもあります。嚥下状態が悪くて胃ろうになっている方の場合、嘔吐はとても危険です。
適正な速度で栄養剤が注入できているか、確認をしましょう。
④感染予防のための入浴
胃ろうカテーテルは、内部ストッパーと外部ストッパーで造設されています。胃ろうの知識のない方は、お湯が入ってしまうかもしれないから入浴は難しいと感じるかもしれませんが、入浴は可能です。
注意点を守れば、シャワーだけではなく、湯船につかっての入浴も可能です。入浴は、清潔保持や精神衛生のためにとても大切です。
入浴前に必ず主治医の許可をもらい、説明を受けましょう。これは、胃ろう造設手術後の入院期間に確認できます。入浴時は、胃ろうカテーテルのキャップが閉まっている状態を
確認すれば、ろう孔をフィルムでカバーする必要はありません。栄養剤の残りが、ろう孔に付着している場合もあるためシャワーできれいに洗い流しましょう。
⑤皮膚トラブルの対処法
胃ろうカテーテルは、体外と体内をつないでいます。胃ろう造設術後時間が経過していても、粘液が体内から出る可能性があります。
胃ろうカテーテルはプラスティック製なので、角度がずれたり動いたりすると粘液排出や栄養剤の漏れを誘発する場合もあります。胃ろうカテーテルの問題であれば、すぐに通院し改善が必要です。
些細な粘液の排出や栄養剤の漏れは日々のスキンケアで清潔に保ちます。スキンケアの方法は、ガーゼや綿棒を微温のお湯で湿らせて拭き取ります。胃ろうカテーテルは、体内に穴をあけ直接挿入しているため、感染症になっていないかスキンケア時に確認しなければなりません。皮膚の赤み・発疹・出血があれば早急に医療機関を受診しましょう。
胃ろうの方の寿命
厚生労働省の「平成28年6月15日第二回医療計画の見直し等に関する検討会」によると、入院した高齢者の肺炎の原因の7割以上が誤嚥性肺炎でした。80歳以上では8割以上、90歳以上では9割以上が誤嚥性肺炎を起こしています。
また、厚生労働省の「令和3年人口動態統計月報年計の概況によると、65歳から84歳の死因」で肺炎が3位となっています。
厚生労働省の調査によると胃ろう造設者の1年以内の死亡率が30%以下、3年以上の生存率が35%以上と分かっており、胃ろう造設が延命の効果があると分かっています。
胃ろうは、延命と言われている治療法です。口から食べ物を食べられない方や食べるのが難しい方への栄養補給の方法です。患者ご本人の尊厳にもかかわるため、日々コミュニケーションを図りご本人の意思を確認しておきたいものです。
胃ろうの手術をすると、この先口から食べられない?
嚥下障害が出て、食べるのが困難になった方に胃ろう造設手術が行われます。
しかし、胃ろうを造設したすべての方は一生胃ろう造設したままとなってしまう訳ではありません。
リハビリをおこなうことで、口から食べる機能を取り戻した方もいます。口から食べる行為は、人間本来の楽しみや喜びにつながります。栄養面でも精神衛生面でも健康に向かいます。胃ろうを中止する場合は、胃ろうの閉鎖手術を行います。
しかし、リハビリは辛いものです。患者ご本人のためと思いすぎてプレッシャーをかけたり、本人自身が焦ったりしてしまうと機能の後退や誤嚥性肺炎になってしまう恐れもあるため、本人の意思を尊重しながら丁寧に行いましょう。
胃ろう以外の3つの栄養注入方法
胃ろうでの栄養剤注入以外にも口から食べられない方への経管栄養法があります。以下の3つの方法です。
- 腸に直接注入する腸ろう
- 鼻から管を入れて行う経鼻経管栄養
- 不足する栄養を補う間歇的口腔食道経管栄養
胃や腸に直接栄養剤を注入する方法に変わりはありませんが、患者の方の状態に合わせて方法が検討されます。これから、それぞれの経管栄養法の種類を紹介します。
腸に直接注入する腸ろう
腸ろうは、胃ろうと同じように腸に直接あけた穴へカテーテルを通して栄養剤を注入する方法です。
胃を切除した方や胃の機能が低下した方、胃ろう増設後に嘔吐が続いた方などが対象です。造設には、胃ろう同様手術が必要です。
栄養剤はさまざまあり、患者の方の腸の消化吸収能力に応じて選択されます。栄養剤として、半固形化栄養剤が使われる場合もあり、液状栄養剤により注入時間の短縮や逆流がしにくいです。
カテーテルを通した経管栄養法のため、胃ろうと同様に固定版にはバンパー型とバルーン型があります。
鼻から管を入れ行う経鼻経管栄養
経鼻経管栄養は、胃や腸に穴をあけて行う胃ろうや腸ろうとは違い、鼻の穴からカテーテルを挿入し胃に栄養剤を注入する方法です。
胃ろうや腸ろうは、長期間の栄養注入が必要な方への栄養法です。経鼻経管栄養は一時的に経管栄養が必要な方へ行われます。
手術も必要ではなく、経管栄養法の始めの選択肢として使用される機会が多いです。
一般的に4週間以上の経管栄養が必要な方は、胃ろうを選択します。手術が必要なく、カテーテルを入れやすい一方、穴をあけて固定していないため抜けやすいデメリットもあります。
一方で穴をあけてカテーテルを固定していないため、スキンケア等の管理は必要ありませんが鼻の穴にカテーテルの擦れが生じる恐れはあります。
不足する栄養を補う間歇的口腔食道経管栄養
間歇とは、一定の時間をおいて物事が起こったりやんだりする様子の状態を言います。言葉の意味通り、間歇的経管栄養は栄養剤を注入するときのみカテーテルを一時的に飲み込み、栄養剤を注入します。手術の必要はありません。不足する栄養を補うために使用されます。
栄養剤注入時のみのカテーテル挿入のため、注入時以外はカテーテルが挿入されていなく日常生活に支障はありません。カテーテルを飲み込む状況自体が嚥下訓練です。嚥下反射が強くて、飲み込むと吐き出しそうになる方には向いていません。
間歇的口腔食道経管栄養は、食道の動きも保たれるため消化器の動きの活性化につながります。そのため、逆流や下痢の発生が減るメリットもあります。
胃ろう手術費用を知り、手術後も尊厳のある暮らしを目指しましょう
胃ろうの手術を受ける方は多くの不安を抱えているでしょう。手術自体の不安だけではなく、管理方法や費用について不安を感じている方もいます。
胃ろうの管理は医療的ケアですが、主治医の指示を遵守できれば決して難しい管理ではありません。急に何かあった時や、分からない点があった時のために主治医・看護師・言語聴覚士・ケアマネジャー等のチームが患者の方やご家族を支えてくれます。
さまざまな専門職の支援を受けながら、手術後も尊厳のある暮らしを送りましょう。
栄養剤が漏れる原因は瘻孔の広がりや投与時の姿勢などが原因となっています。姿勢を整えて注入しやすい角度にしたり、おなかの張り具合を確認し時間をおいて投与するようにしましょう。それでも漏れが続く場合は病院を受診するようにしましょう。詳しくはこちらをご覧ください。
下痢をする原因には栄養剤が濃い・冷たい、注入速度が速い、細菌感染が起こっているなどの原因が考えられます。注入速度を調整したり、人肌に温めてみましょう。下痢が続く場合は病院を受診し対応しましょう。詳しくはこちらをご覧ください。