「最近、親が怒りっぽくなった」「元々怒りっぽかったけど、さらに悪化している」
そんな悩みを持つ方も少なくはありません。親が怒りっぽくなり、認知症かもしれないと考える方も多くいます。
本記事では、「怒りっぽい」のが認知症の症状なのか見分ける方法を解説します。認知症で怒りっぽくなる理由や落ち着かせる方法を知りたい方はぜひご覧ください。
認知症の症状に「怒りっぽい」はある?
「物忘れなら認知症かもしれないけど、怒りっぽいのは性格じゃない?」と感じる方もいるかもしれません。
実は、認知症には怒りっぽくなる症状があります。医学用語でいうと易怒性です。
認知症患者の多くを占める認知症にアルツハイマー型認知症がありますが、この認知症の行動・心理症状(BPSD)に怒りっぽくなる症状、易怒性が挙げられています。
アルツハイマー型認知症の行動・心理症状(BPSD)は以下の通りです。
- 初期の抑うつ
- アパシー
- 易怒性
- 暴言暴力
- 焦燥興奮
- 拒絶
- 幻覚
- せん妄
- 不眠
- 徘徊
- 歩行障害
- 失禁
- ミオクローヌス
- パーキンソニズム
- けいれん
この暴言暴力や焦燥興奮も、怒りっぽい症状の一つといえるでしょう。
参照:『一般社団法人 日本神経学会「認知症疾患診療ガイドライン2017」』
認知症の症状によって「怒りっぽい」のか見分ける方法
認知症の症状の一つに、「怒りっぽい(易怒性)」があると紹介しました。しかし、怒ること自体は人間が持つ正常な反応です。
もともと怒りっぽい方もいるため、怒りっぽいこと自体が必ずしも認知症の症状とは言い切れません。そこで、「怒りっぽい」のが認知症によって引き起こされる症状なのかどうか見分ける方法を紹介します。
認知症かどうか不安になったときなど、ぜひ参考にしてください。
今まで怒っていたかどうか
もともと怒りっぽい方なら、認知症の症状か区別しにくいですが、そうでない方が急に怒りっぽくなった場合、認知症の可能性が高いです。
初期の認知症の場合は、怒るときに「誰かのせいにする」傾向が見られます。
認知症になると、本人も失敗が多くなったことや理解力が低下したことを内面で感じています。そのため、無意識に自分自身の尊厳を守ろうと、怒りっぽくなるのです。
怒りっぽくなるのは自信喪失や不安の表れです。認知症になると、自分自身の尊厳を守るために誰かのせいにしてしまう場合が多く見られます。今まで怒りっぽくなかったのに、急に怒りっぽくなった場合は認知症を疑いましょう。
外出時でも怒るようになったか
外出時でも怒るようになったら、認知症が疑われます。怒ること自体は認知症ではない方でも当然に起こり得ますが、外出時、誰が見ているかわからない環境で怒りを外面に出すのは普通の状態ではありません。脳や精神に障害がなければ、通常抑えられるからです。
しかしその一方で、認知症になると感情を制御する機能が低下してしまうため、外出時であっても周囲の状況を把握せず、怒ってしまう場合があります。
性格や人格が変わったとまで感じるようであれば、さらに認知症の疑いが強くなるでしょう。
継続し頻度が増えているか
認知症の種類によって異なるものの、怒りっぽい状態が継続し、かつ頻度が増えていればアルツハイマー型認知症かもしれません。
アルツハイマー型認知症は「潜行性に発症し、緩徐に進行する」といわれています。「潜行性」とは症状に気づきにくく病気が進行してしまう性質のことで、「緩徐に進行する」とは、ゆっくり障害が進行してしまうことです。
そのため、もともと怒りっぽかったけど、最近さらに怒りっぽくなったと感じる場合には注意が必要です。
一口に認知症といっても種類は一つだけでなく、症状や進行のしかたには個人差が現れます。最近怒りっぽくなったと感じたら、早めに医師の診察にかかるとよいでしょう。

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認知症で怒りっぽくなる理由
認知症で怒りっぽくなる傾向があるのはわかりましたが、なぜ怒りっぽくなってしまうのでしょうか。
認知症の方に対する適切なケアのためには、怒りっぽくなる理由をしっかり理解するのも重要です。そこで、認知症が原因で怒りっぽくなる理由を紹介していきます。
- 自分の気持ちや状態をうまく伝えられない
- 周囲の状況が理解できずイライラしやすい
- 感情の制御(コントロール)ができなくなる
- プライド(自尊心)が傷ついた
- 否定的な言葉からストレスを受ける
認知症の方を気持ちや状態を理解し、適切にケアできるよう、ぜひ参考にしてください。
自分の気持ちや状態をうまく伝えられない
認知症になると、自分自身の気持ちや状態をうまく伝えられなくなってしまいます。喉が渇いても、感覚機能が低下しているため、本人は喉が渇いたこと自体気づかない場合があるのです。
この傾向は高齢者一般に見られる傾向ですが、認知症の場合は特に強くなります。また、失語により、不調に気づいていても言葉が出てこないケースもあります。
そのため、何か思うことがあったり体調が悪かったりしても、周囲の方にうまく伝えられません。そのもどかしさからストレスがたまり、周囲の方にぶつけてしまう場合もあるのです。また、体調を悪くしてしまうことにもつながります。
ケアにあたる方は、認知症の方の心情や状態に配慮し、必要に応じてサポートをする姿勢が望まれます。
周囲の状況が理解できずイライラしやすい
認知症になると、従来よりも周囲の状況を理解しにくくなります。そのため、買い物や通院など何か目的があって外出しても、目的を途中で忘れてしまったり、なぜ今ここにいるのか理解できなかったりしてしまいす。
その結果、不安や苛立ちを感じ、周囲の人間にあたりやすくなってしまうのです。
例えば、「外出することに強い抵抗はあるけど歯医者に行かなくてはいけない」方がいたとしましょう。家族と出かけた、その道中で歯医者に行く目的を忘れてしまった場合、「外出するのが嫌」という感情だけが残ります。
そのため、「嫌なところに無理やり連れて行かれている」と感じて「ひどいことするな!」と家族に怒る場合があるのです。
認知機能の一つである「計算」も障害されるため、お釣りの計算ができずもらったお釣りが少ないと思うと「お店に騙されている」と感じ、怒ってしまう場合も考えられるでしょう。
感情の制御(コントロール)ができなくなる
認知症で怒りっぽくなる直接的な理由は、感情の制御(コントロール)が難しくなる点です。
認知症でない方でも、当然ながらストレスや不安を感じ、イライラする場面もあるでしょう。しかし、どのようなタイミングでも怒りをあらわにするのではなく、怒っていることを表面化させないのが一般的といえます。
しかしその一方で、一部の認知症の方は大脳の前頭葉が萎縮しているなどの理由で、感情を制御(コントロール)するのが難しくなっています。前頭葉の機能は次のとおりです。
- 新しいことを始める
- 字を書いたり楽器を演奏したりなど、習得した動作を制御(コントロール)する
- 話す・考える・集中する・問題を解く・計画を立てるなど複雑な知的過程を制御(コントロール)する
- 顔の表情や手、腕の動きを制御(コントロール)する
- 気分や感情に合わせて表情や身振り・手振りを変える
そのため怒りを抑えられず、つい怒ってしまう場合があるのです。
参照:『部位別にみた脳の機能障害 – 09. 脳、脊髄、末梢神経の病気 – MSDマニュアル家庭版』
プライド(自尊心)が傷ついた
認知症ではない方でも同じですが、プライド(自尊心)を傷つけられると誰しも怒りを覚えます。
認知症になると、今までできていた作業ができなる一方です。特に初期の認知症の場合、できなくなった事実を自覚し、自尊心が傷つけられてしまいます。
うまく日常生活を送れなくなったことなどを受け入れきれず、必死に隠そうとして怒る傾向が見られるのです。具体的な例として以下のようなものが挙げられます。
- 周囲の方から過剰に心配されていることに怒る
- 物をなくしたことや部屋を片付けていないことなどを周囲のせいにして怒る
- 理解できないときは自分のせいにするのを避けるため、相手の説明が悪いと怒る
やがて周囲の方への不信感や被害感が確信(妄想)に変わり、自分を守るために先に相手を攻撃する場合もあります。
否定的な言葉からストレスを受ける
周囲の方が否定的な態度を取り、適切な対応をできていないために怒り出す場合もあります。具体的には以下のような発言が当てはまります。
- 「最近おかしい」
- 「なんでできないの?」
- 「それは違う」
- 「さっきも言ったでしょ!」
考えてみれば、誰であってもイライラしたりストレスを感じたりする言葉でしょう。認知症の方であれば尚更です。認知症の方が、ストレスを感じると、さらに認知症が進行する恐れもあります。
ケアにあたる方としては、否定的な言葉を発してしまわないよう十分に気をつけましょう。
認知症の怒りっぽい症状を落ち着かせる方法とは?
「怒りっぽくなる理由はわかったけど、どう対応していいかわからない……」と感じる方も多いかもしれません。
そんな方のために、認知症の怒りっぽい症状を落ち着かせる方法を紹介します。
- プライド(自尊心)を傷つけない
- 否定せず寄り添う意識を持つ
- 怒っている理由は聞かない
- 暴力や暴言の場合は落ち着くまで距離を置く
- 医師やケアマネなどの専門家に相談する
必ず落ち着かせられるとは限りませんが、意識するだけで認知症の方のストレスは抑えられるでしょう。ぜひできる方法から意識して実践してください。

プライド(自尊心)を傷つけない
まず気をつけたいポイントが、プライド(自尊心)を傷つけないように意識する点です。
認知症の方は、今までできていた作業ができなくなり、大きなショックを受けています。そんなときに、プライド(自尊心)を傷つけられてしまうと、更なるショックを受けてしまいます。
認知症の方は、ショックから自分を守ろうと、怒りっぽくなってしまうのです。認知症になっても感情がまったくなくなっているわけではありません。ネガティブな感情を抱えきれず、暴言や暴力に進展してしまう場合もあります。
ケアにあたる方がよかれと思って「わかる?」「大丈夫?」と何度も聞いてしまう場合もあります。ケアをしている方は積極的に認知症の方のプライド(自尊心)を傷つけようとして接しているわけではないでしょう。
しかし、結果として認知症の方を傷つけてしまう場合もあります。本人の尊厳を守りながら接するよう心がけましょう。
否定せず寄り添う意識を持つ
認知症のケアでは、否定せず寄り添う意識を持つことが重要です。
怒りっぽくなった認知症の方に寄り添った対応を行うのは、ときに難しい場合もあります。しかし、認知症の方が怒りっぽくなるのには不安やストレスなどの理由があるのです。
また、場合によっては認知症の方が訂正できないほど強い思い込み、すなわち妄想をしている場合もあります。怒りっぽくなった認知症の方に否定や訂正をしようとすればするほど、自分を守る意識やストレスによって悪化が早まる場合もあるのです。
本人の言っている内容を否定せず、寄り添う意識を持って対応していきましょう。
怒っている理由は聞かない
認知症が疑われる方に対し、怒っている理由は聞かないようにしましょう。理由は本人にもわからないため、説明を求めるのには無理があるからです。
否定や訂正もせず、怒っている理由も聞かないのであれば、具体的にどう寄り添うのかと疑問を感じる方も多いでしょう。
最適な対応方法はその方によってさまざまですが、一例としてオウム返しする方法を紹介します。オウム返しとは、オウムのように相手の言った通りに返答することを意味します。これは、介護や相談の場でも利用されるコミュニケーション技法です。
本人が「無理やり連れてこられた」と話したら、「無理やり連れてこられたの?」と返すことで、否定も訂正もせず、会話を続けられます。
また、「病院になんて来たくなかったのに」と話が続けば「病院には来たくなかったんだね」と返し、共感も示せます。この際、話を要約したり、言い換えたりして返すとより効果的です。
怒っていた本人も、やり取りを続けるうちに、どうして怒っているか追及ができず、次第に怒りがおさまる可能性もあります。必ずしもうまくいくとは限りませんが、一度試してみるのもよいでしょう。
暴力や暴言の場合は落ち着くまで距離を置く
暴力や暴言につながるおそれがある場合は、落ち着くまで距離を置くのがポイントです。興奮状態にある場合は、否定や訂正をせず寄り添おうとしてもやり取りするうちに怒りを助長してしまう場合があります。
暴力や暴言は、必ずしもケアにあたる方を傷つけようとしているわけではありません。
暴力や暴言を受け入れようとする方もいますが、実際に相手を傷つけてしまった自責の念が本人のストレスにつながるおそれがあります。
そのため、一度距離と時間を置いて様子をみるとよいでしょう。

医師やケアマネなどの専門家に相談する
認知症の怒りっぽい症状は、本人の環境や生活習慣、周囲の方の対応などによって、悪化してしまう場合があります。
すでに暴力や暴言が見られる場合はもちろん、悪化を防ぐためにも早めに医師やケアマネなどの専門家に相談しましょう。
専門的な知見から、現状に適切な対応策などアドバイスをもらえます。また、薬物療法と非薬物療法によって、症状が改善する可能性もあります。
ケアにあたる方もストレスをためこまないよう、早めに相談にいきましょう。
怒りっぽいのは認知症の症状かも!適切な対処方法を実践しましょう
急に怒りっぽくなった、外でも怒るようになった、怒る頻度が増えている、このような怒りっぽい症状は、認知症の症状の場合があります。怒りっぽい症状を落ち着けるには、本人のプライド(自尊心)を傷つけないために、否定や訂正をせず、怒っている理由も聞かずに寄り添う意識を持つのが重要です。
また、怒りっぽい症状が認知症からくるものかもしれないと感じたら、早めに医師の診察にかかりましょう。適切な治療だけでなく対処法のアドバイスももらえます。暴力や暴言に至る前に、早めに適切な対処方法を実践しましょう。
必ずしも認知症の症状によって怒りっぽくなったとは限りません。従来怒らなかったことに怒るようになった、外出時でも怒るようになった、継続して怒り、頻度が増えてきた状況であれば認知症が疑われます。詳しくはこちらをご覧ください。
まず、プライド(自尊心)を傷つけて怒りを助長してしまわないよう、否定せずに寄り添う意識を持ちましょう。そのうえで、怒る理由をむやみに追及せず、穏やかに対応するのが望まれます。また、早めに医師の診察を受けたり、ケアマネに相談したりなど専門家を頼るのも検討しましょう。詳しくはこちらで解説しています。