和洋女子大学 看護学部 看護学科
看護師、介護支援専門員
日本看護科学学会 日本看護学教育学会 日本公衆衛生看護学会 日本死の臨床研究会
セコム医療システム株式会社、公益財団法人日本訪問看護財団で訪問看護師として勤務。同財団の研修事業部では、訪問看護師の現任教育に従事した。了德寺大学助手、日本大学大学院総合社会情報研究科博士前期課程修了後、和洋女子大学着任、現職に至る。大学では地域・在宅看護学関連の授業や実習を担当し、看護師を目指す学生の教育を行っている。
■高齢者の見守り支援の重要性
・世帯の高齢化と増加する高齢者の一人暮らし
世帯主が65歳以上の世帯が全体に占める割合は、令和 2(2020)年の 37.6%から令和32(2050)年には 45.7%へ上昇すると推計されています。また世帯主65歳以上の世帯のうち、単独世帯の割合は令和2(2020)年の35.2%から令和32(2050)年の45.1%へと大きく上昇すると見通されています。今後、世帯の高齢化と単独化が一層進むことが予測されます1。
・約7割の子どもが65歳以上の高齢の親と別居
65歳以上の高齢者について、子との同居率(親と未婚の子のみの世帯と三世代世帯を含む)は、昭和61(1986)年の55.9%から、令和4(2022)年には27.2%を下回り、子と同居の割合は大幅に減少しています2。また、高齢者の8割以上が一人暮らしに不安を感じており3、離れて暮らす子の8割以上が親の暮らしについて不安に感じています4。
・増加する孤立死・認知症高齢者・介護離職
一人暮らしの高齢者の孤立死や認知症高齢者の増加、介護離職は社会問題となっており、高齢者の見守り支援の重要性は増しています5,6,7。見守り支援の体制を整えることは、孤立死をはじめ、介護者の就労継続と介護離職を減らす効果も期待できます。しかし、仕事や育児に忙しい子ども世代は、離れて暮らす高齢の家族へ対して、十分な見守り体制を整え、緊急時や異変にすぐに駆けつけることは難しい現状にあります。
■在宅におけるIoTを活用した遠隔見守り
・IoT(Internet of Things)を活用した遠隔見守りとは?
IoTとは、これまでインターネット等のネットワークに接続していなかった「モノ」が通信機能をもち、ネットワークに接続して動作することです8。現在、在宅においてIoTを活用した遠隔見守りが急速に普及しています。通信装置が内蔵された様々な「モノ」がネットワークを介して、離れて暮らす高齢の家族を遠隔で見守ることができます。
・IoTを活用した遠隔見守りの活用例
実際にIoTを活用したサービスをご紹介します。
1.『ライフラインを活用する見守り』は、ガス会社や水道局などが提供するサービスです。高齢者が長時間ガスや水道を使用していない、または連続して使用している場合に、家族へメールや電話で連絡をします9。
2.『家電を活用する見守り』は、通信装置が内蔵された家電を活用したサービスです。テレビの電源や電気ポットの使用、LEDライトの点灯や消灯、冷蔵庫の開閉などの状況を検知し、家族にメールなどで通知します10。
3.『生体情報を活用した見守り』は睡眠、呼吸、心拍などの生体情報をモニタリングできるサービスです。「シート型の非装着・非侵襲の見守りセンサー」をベッドや布団の下に設置することで、就寝時に無理なく見守りができます。睡眠中の寝返り、呼吸、心拍などを検出して、睡眠状態を判定します。また、「見守りアプリをインストールしたスマートウォッチ」を装着することで家族に歩数、心拍数、位置情報などのデータが自動的に送られ、いつでも離れて暮らす高齢の家族の様子を確認できます。これらの機器は事前に設定した心拍数などに達した際、家族へメールや電話で連絡が届きます。普段の見守りをはじめ、体調管理にも有効です。
■IoTを利用する上で大事にしたいこと
・IoTを活用することで、お互いの負担を減らし、さりげなく見守る
柏村(2023)は、見守りサービスが単なる監視にならないよう高齢者への配慮も必要であり、見守られる立場の高齢者の気持ちに沿った利用を心がける点も大事となると述べています11。カメラやセンサー等の見守り機器を設置場所が目立ちにくいIoT機器にすることで、ストレスやプライバシーに配慮した工夫のひとつになります。
・IoTをきっかけに家族とのコミュニケーションを増やそう
ご紹介した以外も自治体や民間企業が提供する様々な見守りサービスがあります。まずは、お住まいの自治体のサービスを確認することをお勧めします。見守りサービスで得られた情報をきっかけに電話や対面でのコミュニケーションが増えれば、変化の兆候に気付くことが出来るかもしれません。また、いざという時のために、近所の方や民生委員、地域の介護事業者や地域包括支援センターなどとも連携が取れるようにしておくことが望ましいでしょう。
1国立社会保障・人口問題研究所.“日本の世帯数の将来推計(全国推計)(令和 6(2024)年推計).” https://www.ipss.go.jp/pp-ajsetai/j/HPRJ2024/hprj2024_gaiyo_20240412.pdf, (参照2024.4.19).
2厚生労働省.“2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況.”https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/dl/14.pdf, (参照2024.4.19).
3厚生労働省.“高齢社会に関する意識調査.”https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/001_2.pdf, (参照2024.4.19).
4セコム株式会社.“離れて暮らす親に関する意識調査.(参照2024.4.19).
5厚生労働省.“孤立死防止対策.”https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12000000-Shakaiengokyoku-Shakai/0000034190.pdf, (参照2024.4.19).
6国立研究開発法人国立長寿医療研究センター.“市町村における認知症予防の取組推進の手引
7内閣府.“介護離職の現状と課題.”https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/suishin/meeting/wg/hoiku/20190109/190109hoikukoyo01.pdf,(参照2024.4.19).
8IoT 推進コンソーシアム総務省経済産業省.“IoT セキュリティガイドラインver 1.0.(参照2024.4.19).
9,10,11柏村祐.活用が進む IoT 高齢者見守りサービス~離れて暮らす高齢の家族をそっと見守るテクノロジー~.第一生命経済研究所LIFE DESIGN REPORT.2023,p.1-4.