今回は、介護の仕事に従事している介護職がどのように実践力を磨いているのかについて、お伝えしたいと思います。介護の現場では介護福祉士や初任者研修修了者などの資格を持つ様々な年齢の人々が介護職として働いています。
現在は熟練者として介護の仕事をされている方も、介護の仕事について間もない新人のころは、熟練者のように介護の仕事をこなせたわけではありません。では、介護職は、どのような方法で熟練者となっていくのでしょうか。
岩手県立大学 社会福祉学部
博士(社会福祉学)/介護福祉士/社会福祉士/精神保健福祉士 など
介護福祉学会/介護福祉教育学会/社会福祉学会 など
日本社会事業大学大学院博士後期課程修了。特別養護老人ホームで介護職員として約10年間勤務の後、介護福祉士養成専門学校教員を経て現職。専門は介護福祉。
現在は、高齢者介護分野での介護福祉職の実践を通した学習と成長をテーマに研究を行っている。
実践からの経験学習
熟練者となるための方法には、介護実践を通して学習していくという方法があります。この方法は、経験学習と呼ばれ、主に知識や技術の獲得を目的とした学校や研修会・講習会での学習とは異なります。異なる点は自身の実践の「経験」から学習していくという部分です。
介護職は、様々な介護ニーズを抱えた方々に出会い、介護サービスを提供します。そして、その方々の介護を行う中で経験した「その時の状況」、「感触や力の入れ具合、温度などの感覚」、「自分がどのように考え行動し、結果どうなったか」という実践経験を知として自身の中に蓄積します。これを「実践知」と呼びます。
この実践知の蓄積の結果、状況の把握や最善な対処方法の選択と結果の予測が見通せるようになるのです。そのため、長い実践経験を持つ介護職は、実践知の蓄積が多くあるため、たとえ初めて出会う利用者さん・状況であっても100%ではないにしても対処が可能となるのです。
職場が学習の場
では、黙々と実践経験を積んでいけば熟練者になっていくのかと言うと、そうではありません。熟練者になっていくための経験学習には先輩や同期、後輩といった職場の同僚の存在が必要となります。職場での実践を通した学習では、実践共同体というキーワードでよく説明されます。
実践共同体とは、職場において職場の人々が仕事を通して互いに学んでいく非公式な学習集団と説明できます。非公式というと、職場でサークルのような団体が組織されているように想像しますが、そうではありません。職場自体を学習の場と捉え、職場の人たちとの業務での協働を通して業務に必要なことを学び、ステップアップしていく。これを実践共同体と言うのです。もちろん介護の職場においても実践共同体は存在します。
雑談からの学び
みなさんは、ハンガートークというものをご存じでしょうか。飛行機パイロットが格納庫で飛行の待ち時間に他のパイロットと何気ない会話の中で、飛行に関する他者の経験を聞きながら学習していくというものです。介護職も同じように、ちょっとした業務の隙間時間や休憩時間での短い雑談を通して、同僚自身の「経験」を教えたり・伝えたりします。
そこで、介護職は自分の経験だけではなく、同僚の経験を聞くことで業務に必要なことを学習しているのです。一般的に業務中の雑談は「おしゃべり」として捉えられ、否定される傾向にあります。また、休憩中の雑談も生産性があると思っている人はそう多くはないと思いますが、雑談には学習機能があるのです。
まとめ
さて、これまで実践経験、雑談を通して介護実践に必要となる実践知の獲得を行いながら実践力を磨いていくことについて述べてきました。介護職は、力仕事のようなイメージを持たれていますが、実際は、瞬時に利用者さんの状況や周囲の環境を分析・把握し適切な対処方法を選択していくことが求められます。
それには実践知が必要となります。この実践知について、介護職は職場での経験学習によって獲得しながら実践力を磨いているのです。