食欲不振となった高齢者への対応や向き合い方について

食欲不振となった高齢者への対応や向き合い方について
健康な状態を維持するためには適切に栄養を摂ることが必要です。今回は食欲不振となってしまった高齢者への対応や向き合い方について解説します。

杉本 研
川崎医科大学総合老年医学 主任教授、川崎医科大学高齢者医療センター 副院長
1996年 大阪大学医学部卒業
2004年 米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校医療センターに留学
2013年 大阪大学医学部老年・腎臓内科学 講師
2020年 川崎医科大学総合老年医学 主任教
所属学会:日本内科学会、日本老年医学会、日本糖尿病学会、日本サルコペニア・フレイル学会など

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高齢者の食欲不振

高齢者はしばしば「食欲不振」、すなわち食欲がなくなったり、食事が摂れなくなったりします。食べられなくなるのは病気が原因だ、と考えがちですが、高齢者の場合はいわゆる「○○病」といった病気がなくても食べられなくなることがあります。

また高齢者は食欲不振だけでなく、ふらふらする、だるい、眠れない、夜中に尿で何度も起きる、転びやすい、いろんなところが痛くなる、など「それは○○病が原因だ」と言えないような症状や訴えが多くなります。このような高齢者に多い症状や訴えのことを「老年症候群」と呼びます。「老年症候群」は年のせいとか気のせい、死にはしないから、といって周りから軽くみられることが多いですが、症状を抱えている高齢者自身にとっては生活の質に影響する大きな問題です。ですので、病気が原因でなさそうだから大丈夫、気にするな、というのではなく、なぜその症状や訴えが起こっているのかを明らかにすることが重要となるのです。

高齢者の「食べる意欲」が低下する原因を図に示します。食べる意欲にはさまざまな要因が関連しており、図に示すように脳や認知の問題、消化管の問題、からだの状況、食環境、心理・社会的な要因、個人の背景に大きく分けられます。

脳や認知の問題としては脳卒中などによる高次脳機能の障害や認知機能の低下などが、消化管の問題としては消化管の病気による吸収障害や下痢や便秘などが、からだの状況としては持病の影響、嚥下機能の障害、活動性の低下、痛み、歯や入れ歯の不具合、薬の副作用、サルコペニア(加齢による筋肉量の低下)などが、食環境としては孤食(ひとりきりでの食事)、テーブルや食具の不備、不適切な食べ物の形態、変化のない食事などが、心理・社会的な要因としては社会的交流の不足、不安感やストレスなどが、個人の背景としては生活習慣、食べ物の嗜好、育った環境などが、それぞれあげられます。

「食べる意欲」に関わる要因

これらに当てはまるものが一つでもあれば、それを解決することが食欲不振の解消につながるわけです。なかでも抱えている病気との関連や薬の副作用については、かかりつけ医を含め、かかっている医療機関すべてにそのことを相談し、食欲低下との関連がないかどうかを確認することが重要となります。特に薬については、睡眠薬精神安定剤鎮痛薬などに加え、一部の生活習慣病治療薬などによっても食欲が低下する場合があるので注意が必要です。

食欲不振への気づきかた

食欲不振は本人と一緒に食べていればもちろん気づくかと思いますが、本人と離れて暮らしている、あるいは一緒に食べる機会が少ない場合は気づきにくいです。急激な食欲の低下であれば高齢者本人が訴えられるはずなので、かかりつけ医などに相談すれば良いです。しかしそうでない場合、多くの高齢者は「若い頃よりは食べる量は減ったけれど、自分では食べているつもり」と考えている場合が多いことに注意しなければなりません。すなわち、こちらが「ちゃんと食べている?」と聞いたとき、本人が「食べているよ」と言っても、それを鵜呑みにしてはいけないということです。そのため、食欲が低下してきていることに本人以外が気づいてあげる必要があります。

体重が以前より減ってきていないか、3食食べていたのが2食になっていないか、食べる品目が減っていないか、外出したり友人などと会うことが減って家にいることが多くなっていないか、便秘や下痢になっていないか、夜は寝られているか、などを聞き出すことにより気づくことができます。

体重が減るのは十分に食べられていないからであり、活動量が減ると必要なカロリーも減るために食べなくなります。また、便秘や下痢も食事を意識的に減らすことに繋がりますし、寝られていないのはストレスによることも多く、何か悩みや問題を抱えていると食欲は低下します。これらのことに該当する場合には、それが食欲不振の原因になっている可能性があるので、対応が必要となります。

食欲不振への対応と向き合いかた

さきほどの図で示したように、食べる意欲に関連する要因は、血液検査や画像検査などだけでは特定しきれないことがわかります。ですので、「原因となっている病気はないので安心してください」と言われても安心してはいけません。病気以外の要因である、認知機能や心理・社会的な問題、環境の問題などを見つけて対処することが大切です。そのためには総合診療科や老年科の専門医に相談するのがベストですが、これらの専門医がいない病院やクリニックも多いので、その場合は地域包括支援センターの相談窓口を利用することも可能です。また、病気が原因でない場合には食欲改善作用を持つ、体への負担が少ない薬や漢方薬などもありますので、かかりつけ医などに相談してみましょう。

食欲が出始めるまでに栄養状態を良くする、または維持する方法として、病院では点滴が良く使用されますが、これはあまり良くありません。できる限り口から摂取することが大切です。そのためには栄養バランスが適切に調整された飲料やゼリーなどが有効です。これらは経口栄養補助食品(ONS)と呼ばれており、ドラッグストアなどで入手できます。経口栄養補助食品は「美味しくない」、「こんなものに頼りたくない」と思われている方もいるかもしれませんが、最近の商品は味も良く、種類も豊富ですので、決めつけるのではなく一度試してもらうことをお勧めします。どうしても気が進まない場合は栄養士さんの指導を受けてみると良いでしょう。また歯が悪い場合は歯科医に相談し、歯の状態を良くすることを優先しましょう。

これらのことで再び食事が摂れるようになって元気になられた患者さまを私は多く見てきているので、是非参考にしていただければと思います。

まとめ

高齢者の食欲不振の捉え方や対処法が正しく理解できたでしょうか?一番してはいけないことは、「年だから少しは食欲がなくても仕方ないよね」と何もしないで放置することです。そのことがさらに状態を悪化させ、人の手を借りないといけない状態や寝たきりになってしまうことにつながります。食欲が落ちる原因をはっきりさせ、しっかり食べてしっかり動くようにすれば、健康長寿は達成できます!

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