超高齢化社会にともない、認知症を発症する方も増え続けています。「家族が認知症になったけど関わり方がわからない……」「困った行動ばかりで疲れた……」と悩む方も少なくはありません。しかし、その困った行動にもちゃんと理由があります。
この記事では、認知症の方との関わり方について具体的に解説します。さまざまな状況に応じた対処法も紹介しているため、ぜひ参考にしてください。
認知症の基礎を知ると関わり方がわかる?
認知症の方と関わると、困った行動が多く、対応の仕方に悩む方も多いでしょう。しかし、その行動には意味があります。認知症の基礎は、行動の意味や理由を知る大きな手掛かりです。どのような症状があるのか、本人はどう感じているのかを正しく理解し、本人の心に寄り添った対応を行う必要があります。
認知症は、さまざまな原因により認知機能が低下した状態です。具体的には以下の症状があります。
- もの忘れが多くなる(記憶障害)
- 時間や場所、人がわからなくなる(見当識障害)
- 理解力や判断力が低下する
- 仕事や家事ができなくなる(実行機能障害)
- 言葉がわからない、出てこなくなる(失語)
- 服を着られない、スプーンの使い方がわからない(失行)
- 右もしくは左どちらかのものを認識できない(失認)
この認知機能の低下により日常生活が困難になると、本人は戸惑いや不安を感じます。その結果、以下のような二次的な症状にも繋がってしまうのです。
- 誰もいないのに、誰かがいると主張する(幻視)
- 自分のものを誰かに盗まれたと疑う(もの盗られ妄想)
- あてもなくうろうろと歩き回る(徘徊)
- 眠れなくなってしまう(睡眠障害)
この二次的な症状は、本人の性格や心理状況によって現れます。精神的な安定が得られると症状が落ち着きやすい特徴があります。
認知症の種類と症状
認知症には種類があり、それぞれ症状が異なります。
アルツハイマー型認知症 | 記憶障害、失語、失認、失行、物盗られ妄想など |
---|---|
レビー小体型認知症 | 記憶障害、パーキンソン症状、幻視など |
脳血管性認知症 | 脳がダメージを受けた部位により症状が異なる |
前頭側頭型認知症 | 人格の変化、行動障害、失語など |
アルツハイマー型認知症は、認知症患者全体の60%以上を占めています。数年かけてゆっくりと症状が進行していくのが特徴です。記憶障害から始まり、失語や失認、失行などできない行為が徐々に増えて行きます。
レビー小体型認知症は、手の震えや足が前に出にくいなどのパーキンソン病の症状や幻視が強く現れやすいです。日や時間によって調子に波があり、調子のよい時と悪い時を繰り返しながら徐々に進行して行きます。
脳血管性認知症は、脳梗塞や脳出血などにより脳にダメージを受け、発症する認知症です。そのため、脳のどの部位がどれほどダメージを受けたかによって症状は異なります。身体に麻痺が起きる可能性も高いです。
前頭側頭型認知症は、感情のコントロールを担う前頭葉と、言語能力を担う側頭葉が萎縮し、発症します。そのため、人格の変化や言葉が出なくなるなどの症状が特徴的です。
認知症の方の考え方や感じ方
認知症を発症した本人は、自身に対して違和感や不安、焦燥感などを抱えています。そのため、認知症の方の心はとても繊細な状態です。物盗られ妄想や徘徊などはネガティブな気持ちの表れと言われています。
認知症を発症すると、理解しがたい行動が増え、人が変わってしまったように感じる方も多いです。しかし、認知症であっても、感じ方や考え方に大きな変化はありません。本人の不安に寄り添い、受け入れていく気持ちが大切です。
さまざまな不安や疑問を抱えているのは、認知症と診断された本人だけでなく、介護をする家族も同じです。自身の思いも否定せず、受け止めて一緒に歩いていきましょう。
認知症の方との関わり方のポイント
認知症の方と関わるうえで、大切なポイントは以下の3つです。
- 信頼関係を築く
- 本人のペースに合わせる
- 笑顔で接する
特に大切なのは「信頼関係を築く」点です。認知症によりできない物事が増えると、不安感、恐怖心などを抱きます。信頼関係を築くと、不安や恐怖を緩和でき、安心感を得られます。その結果、問題行動も減り、お互いに安心して毎日を過ごせる可能性が高くなります。
また、認知症の方のペースに合わせて動くよう心がけましょう。認知症になるとどうしても、動作が遅くなり、判断も鈍くなってしまいます。つい、急かすような行動をとってしまう方も少なくはありません。しかし、認知症の方を急かしてしまうと、本人も焦ってしまい、失敗に繋がります。失敗を繰り返すと、無気力、抑うつ状態になるかもしれません。焦らずゆっくり付き合ってあげましょう。
そして、信頼関係を築くうえで、「笑顔」が非常に重要です。すぐに怒ったり、焦らせたりと、嫌な感情を抱かせてしまう接し方では、信頼関係を築けません。できる限り、笑顔で接するように心がけましょう。
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認知症の方にやってはいけない関わり方
認知症の方は今まで出来ていた物事ができなくなり、不安と戸惑いを抱えています。これを踏まえて、認知症の方に、絶対にやってはいけない関わり方が4つあります。
以下のような関わり方は認知症の症状を悪化させる危険性もあるため、しないよう心がけましょう。
- 頭ごなしに叱り注意する
- 細かくミスを指摘する
- 家や部屋に閉じ込める
- ストレスを与える
なぜこれらをしてはいけないのか、それぞれについて解説します。
頭ごなしに叱り注意する
認知症の方の介護をしていると、なかなか心に余裕を保てない方も多いです。つい感情的に叱りつけてしまうケースも少なくはありません。
叱られる行為は、誰でも嫌なものですが、理由を理解できれば納得できるケースもあります。しかし、認知症の方は、叱られた理由が理解できません。そのため、頭ごなしに叱っても、「急に怒られた」「怖い」といった感情だけが残り、症状が悪化してしまう可能性が高いです。
認知症の方自身もできない劣等感やもどかしさを感じています。まずは、認知症の方の気持ちや行動を受けとめたうえで対応していきましょう。本人の行動を直そうとするのではなく、環境面を整えることで状況が改善する場合もあります。
細かくミスを指摘する
認知症の方は、視野が狭くなっています。そのため、ミスをしてしまうケースも多いでしょう。しかし、ミスを指摘するときは責める言い方をしてはいけません。「なんでするの?」「それは違うよ」と細かく注意したり、指示をされたりすると、認知症の方は戸惑ってしまいます。相手のペースに合わせた伝え方が大切です。
また、「蛇がいる」「仕事に行ってきた」など、本人が事実と違う内容を話しても否定しないよう気をつけましょう。認知症の方本人からすると紛れもない事実です。否定してしまうと、どれが現実なのかわからなくなり、精神的に不安定になってしまいます。
家や部屋に閉じ込める
認知症の症状により、徘徊をしたり、多動的になったりする場合も多いです。目を離したすきに家を出てしまうような方は、家の中に閉じ込めたくなるかもしれません。しかし、このような対応は恐怖心につながり、逃げ出したくなる気持ちを助長する可能性があります。
部屋に閉じ込めても、認知症の方はなぜそのような制限を受けているのか理解できません。ストレスばかりが募っていき、最終的には大声で叫んだり、暴力的に訴えたりと、症状が著しく悪化していきます。
閉じ込めるのではなく、徘徊などの行動の理由を突き止めたり、一緒に散歩してあげたりといったサポートが必要です。
ストレスを与える
認知症の方に、ストレスを与えてしまうと、症状の悪化を招く恐れがあります。中でも、強要する行為は、強いストレスになるため、注意が必要です。ストレスが溜まると、徘徊や物盗られ妄想が悪化したり、自分を守ろうと暴力的になったりする可能性があります。
ストレスにならないように、できる限り認知症の方の話を聞くよう心がけましょう。そのうえで、目を合わせながら頷いて聞いたり、相槌を打ってあげたりすると、安心感が得られ、ストレスの緩和につながります。
認知症の方へのケース別の関わり方
認知症の方と関わる時、認知症の症状と分かっていても、対応に困る場面は多く存在します。ここでは、以下のケース別にどのように対応したらよいのか、具体的に解説していきます。
- 食事が難しい方の場合
- 物を盗まれたと言う方の場合
- 感情が変化しやすい方の場合
- 幻覚や幻聴がある方の場合
- トイレが難しい方の場合
ぜひ参考にしてください。
食事が難しい方の場合
食事の時間になったのに「もう食べた」といったり、食べたのに「食べてない」と訴えたりするケースは多くあります。また、食べ物以外を口に入れる異食がみられる場合もあるかもしれません。これらは認知症の症状である記憶障害や失認によって引き起こされます。
食べてないと話す場合は、「今、準備しているから待っていてね」とフルーツや飲み物を差し出し、空腹感を紛らわせる対応が効果的です。また、食べたと話す場合は、「お腹すいていない?」「私はお腹すいたから一緒に食べない?」とさりげなく食事を促しましょう。
異食を防ぐためには、環境の整備が重要です。口に入れてしまいそうなものは片づけたり、お菓子など別の物を用意しておいたりしましょう。
物を盗まれたと言う方の場合
お金などの貴重品や大切な物を盗まれたと訴えてくるケースもあります。この症状は物盗られ妄想と呼ばれ、身近な方が対象になりやすいです。
物盗られ妄想は、記憶障害や怒り、不安などの精神的な不調から起きる症状です。まずは「大切なものがなくなって困っている」といった気持ちを受け入れるようにしましょう。「大変だったね。一緒に探そうか?」と不安な気持ちに寄り添った対応が重要です。叱ったり、否定したりすると逆効果となってしまいます。話を聞いてあげながら気持ちを落ち着かせるために、お茶やお菓子など気分転換を持ちかけてあげましょう。
感情が変化しやすい方の場合
突然大きな声を出したり、暴力的になったりする場合もあります。感情変化が起きる原因は、不安や焦りなどネガティブな感情を上手に表現できないためです。ネガティブな感情が募った結果、大声や暴言、暴力などの行為に繋がってしまいます。また、認知症の方は変化が苦手です。見慣れない場所や人を不安に思い、感情がコントロールできなくなるケースもあります。
感情を穏やかに保つためには、本人が安心できる関係性、環境が重要です。相手の言葉に耳を傾け、安心感の得られる環境を作っていきましょう。
幻覚や幻聴がある方の場合
認知症の症状により、幻覚や幻聴が起きる場合があります。これらも、本人の負の感情により、悪化してしまう可能性が高いです。
幻覚や幻聴があるときは、本人の話を否定しないよう気をつけましょう。蛇が見えて怯えている場合は、「私が追い出してあげるから、隣の部屋で休んでて」と環境を変えてあげてください。また、幻覚で知らない人物が見える場合は、「さっき、宅配便の方が来ていたよ」と話を合わせつつ、安心できる声かけを行いましょう。幻聴が聞こえた場合は、「さっき音楽をかけていたからかもしれない。一緒に聞いてみる?」と別のものへ意識を向けるよう促すのも一つの方法です。
辻褄を無理やり合わせる必要はありません。受けとめてあげる気持ちが大切です。
トイレが難しい方の場合
排泄の失敗は、認知症の方、家族ともにショックが大きいケースの一つです。認知機能の低下により、トイレ以外の場所で粗相をしたり、排泄物を触ったりする可能性があります。また、トイレの場所がわからなかったり、ズボンなどの脱ぎ履きが大変だったりするために、間に合わないケースも多いです。
トイレのドアにわかりやすく張り紙を貼ったり、夜間、廊下やトイレまわりを明るくしたりすると、効果的です。また、ポータブルトイレやおむつを利用する方法もあります。
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認知症の方を介護するポイント
認知症の方を介護すると、さまざまな不安や悩みがつきません。不安や悩みを抱えたまま、無理して介護を続け、体調を崩す方も多いです。介護は、心身ともに疲弊しやすいため、うつを発症する危険性もあります。そうならないために、早くから外部に相談することが重要です。地域包括支援センターへ相談をしたり、認知症疾患医療センターを受診したりしましょう。
介護疲れをしないようにするため、次の点を心がけましょう。
- 抱え込み過ぎない
- 弱音を吐く
- まわりと比べない
それぞれについて解説していきます。
抱え込みすぎない
悩みを相談できる相手を見つけ、抱え込まないよう気をつけましょう。
「自分以外が関わるのは難しい」「認知症の家族がいるのをまわりに知られたくない」「自分一人でも大丈夫」こう考えている方は特に注意が必要です。
一人で抱え込み過ぎず、まずは身近な家族に協力をしてもらいましょう。
また、かかりつけ医や認知症を専門的に扱っている病院、地域包括支援センターを頼るなど、外部のサポートを得ることも大切です。
弱音を吐く
認知症の方との関わりの中で、嫌な思いや弱音が出てくることもあるかと思います。辛い気持ちを抱えたままでは、いずれ限界が来てしまいます。そうならないためにも、自分の正直な気持ちを伝えられる相手や話しやすい環境を整えるようにしましょう。
「介護がつらい」「もう辞めたい」など辛い気持ちを抱えている方は、「認知症カフェ(オレンジカフェ)」に参加してみるといいかもしれません。認知症カフェは、認知症当事者の方やその家族、地域住民の方、介護の専門職の方が参加する交流の場です。介護や認知症に関わる専門職の方がいるため、認知症にまつわる情報交換や相談ができます。興味のある方は、いつ、どこで開催されるか、地域包括支援センターに確認してみましょう。
参照:『厚生労働省|認知症に関する相談先』
参照:『認知症カフェ』
まわりと比べない
認知症の進行は人それぞれです。確かに、環境や対応によって症状が悪化してしまうケースはあります。しかし、認知症の進行が早いからといって、介護者の対応が悪いと決まっているわけではありません。
「同じ時期に発症したのに、私の家族の方が進行が早い」と悩む時もあるかと思います。しかし、まわりと比べても本人の状態が変わるわけではありません。今の姿を、ありのまま受け入れていきましょう。
認知症の方と関わる時は、相手を受け入れる準備が大切
認知症の方との関わり方で一番重要なのは「受け入れてあげる」ことです。目を見て頷きながら、時折相槌を打って話を聞いてあげてください。そして、信頼関係を構築しながら、認知症の方がありのまま生きていけるよう支えていきましょう。
また、自分の心も労わっていきましょう。誰かに心の中のモヤモヤを打ち明け、苦しい時は外部のサポートを借りることが大切です。まずは、認知症カフェに参加したり、地域包括支援センターに相談したりしてはいかがでしょうか。
認知症の方は心がとても敏感な状態です。「信頼関係を築く」「ご本人のペースに合わせる」「笑顔で接する」この3つを意識し、相手の思いを受けとめながら支援していく必要があります。どうしても苛立ってしまう場面などあるかもしれませんが、認知症の方が理解できない物事を強く押し付けたり、責め立てたりしても事態は好転しません。症状が悪化してしまう可能性もあるため注意しましょう。詳しくはこちらをご覧ください。
相談窓口として、地域包括支援センターや市区町村などがあります。そのほか、認知症当事者とその家族、地域住民の方、介護の専門職の方が気軽に交流できる「認知症カフェ」もあります。月1回程度の頻度で開催されているため、興味のある方はぜひ参加ください。詳しくは、こちらをご覧ください。