今の老人ホームから別の施設へ移りたいと考えても、何から手をつければよいか分からず、施設と揉めないかも気になるものです。
老人ホームの入居契約には、入居者から解約するときの決まりを定めておくことになっています。住み替えは、契約の中で想定された手続きです。
そこで本記事では、書類の確認から退去の立ち会いまでを6つのステップに分け、施設への伝え方の例とともに詳しくご紹介していきます。
老人ホーム住み替えの流れ
老人ホームの住み替えは、次の6つのステップの順に進めるとスムーズかつトラブルを避けやすくなります。
- 重要事項説明書で退去のルールを確認する
- ケアマネジャー・生活相談員に「相談」として切り出す
- 次の施設と契約してから退去日を伝える
- 退去日・費用・引き継ぎ書類を話し合って決める
- 退去に立ち会い、スタッフにあいさつする
- 話がこじれたら外部の相談先を頼る
重要事項説明書で退去のルールを確認する
施設に住み替えを切り出す前に、重要事項説明書と入居契約書で退去のルールを確かめておきましょう。
(出典:有料老人ホームの設置運営標準指導指針の重要事項説明書の様式をもとに作成)
解約予告期間を知らずに退去を伝えると、次の施設に移ったあとも予告期間が終わるまで今の施設の月額費用がかかる場合があります。
入居後3か月以内に契約を解除した場合は、短期解約特例により、前払金から住んだ日数分の家賃などを差し引いた額が返ります。返還金と原状回復の注意点は「退去費用がかかる」で解説していますのでご覧ください。
手元に書類が見当たらない場合は、施設に重要事項説明書をもう一度もらえるか頼みましょう。有料老人ホームは、求めがあれば重要事項説明書を渡すことになっています。
ケアマネジャー・生活相談員に「相談」として切り出す
住み替えの意向は、施設の生活相談員か施設のケアマネジャーに「相談」として伝えると、角が立ちにくくなるでしょう。
不満をそのまま伝えると、退去までの期間を気まずい関係のまま過ごすことになりかねません。本人の状態や家族の事情を軸に話せば、施設側も次の施設探しに協力しやすくなります。
サービスへの不満が理由の場合は、住み替えを切り出す前に改善できるかを相談する方法もあります。状況に応じて検討してみてください。
次の施設と契約してから退去日を伝える
今の施設に退去日を伝えるのは、次の施設と契約して入居日が決まってからにしましょう。
・次の施設の入居審査に通っている
・次の施設と契約を結び、入居日が決まっている
・今の施設の解約予告期間と、次の施設の入居日の重なりを確認している
先に退去を伝えると、次の施設が決まらないまま退去日を迎え、本人の住む場所がなくなるおそれがあります。
反対に、次の施設の入居日が決まってから退去を伝えても、解約予告期間の分だけ両方の費用がかかってしまうので注意が必要です。入居日を決める段階で予告期間を逆算し、重なる日数をできるだけ短くしましょう。
なお、施設への申し込みには、利用申込書・各種保険証(健康保険証、介護保険被保険者証など)・印鑑が必要です。健康診断書や服薬の情報を求める施設もあります。
書類の提出などが終わると入居審査があります。施設の担当者と本人・家族で面談をするのが一般的です。空きが出ると施設から連絡が来るため、急ぎ場合は複数の施設に申し込みましょう。
次の施設の探し方と見学で確かめることは「住み替え先の老人ホームを探すポイント」で解説しています。
介護老人保健施設(老健)からグループホームへ住み替えた佐藤さんも、次の施設を先に決めてから退去しました。
【インタビュー情報】
・お名前:佐藤さん
・性別:女性
・年齢:50代
・職業:自営業・フリーランス
・状況:80代で認知症の父が介護老人保健施設(老健)に約18か月入所。施設への不信感から、グループホームへ住み替えた
佐藤さん:退去を決める2か月ほど前から、次の施設を探し始めました。次が決まらないと怖かったので、移り先を決めてから老健を退去しました。
「次が決まらないとちょっと怖いんで」(もっと読む)
■ 住み替えを考えたきっかけ
老健では外部との接触が厳しく制限されていて、父の居室がある3階にも上がらせてもらえませんでした。
面会は月に2回、15分だけです。
面会のたびに父が歩けなくなり、認知症も進んでいくのを見て、不信感が募りました。
■ 次の施設の探し方
ネットで10軒ほど調べて2軒ほどを見に行き、そのうち1軒は父と一緒に見学しました。
老健に外出の届けを出して、父を連れ出しています。
一緒に見学すると、父は「3階以上のところには住みたくない」と言いました。
グループホームは共同生活の場なので、父には無理だと思い込んでいました。
入居前に担当していたケアマネジャーに電話で聞くと、身の回りのことができない人でも住めると教えてもらい、見学に行きました。
■ 決め手
散歩が好きな父を外に出してあげたいと考え、自宅から1キロ圏内で探しました。
決めたグループホームには中庭があります。
鍵の開け閉めに関係なく自由に外へ出られる点が、父に合うと思いました。
■ 住み替えてみて
グループホームのスタッフは、父のことをとても細かく理解してくれています。
入居者の人数が少ないので、朝に洗った服を夕方には父が着られます。
あちこち検討してから決めたので、入居前の不安はほとんどありませんでした。

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退去日・費用・引き継ぎ書類を話し合って決める
退去を伝えたら、退去日・費用の精算・引き継ぎ書類の3つを今の施設と話し合って決めます。
費用の内訳は口頭で済ませず、書面でもらいましょう。退去後に金額の食い違いが出たとき、手元の書面が確認の材料になります。
住み替えに合わせて、住民票と介護保険の手続きも必要です。
受給資格証明書の提出が14日を過ぎると、要介護認定の審査を受け直すことになります。退去日が決まった段階で、手続きの日程も決めておきましょう。
退去に立ち会い、スタッフにあいさつする
退去日は居室の確認に立ち会い、部屋の状態を写真に残しておきましょう。
・居室の確認に立ち会い、壁・床・設備の状態を写真に残す
・私物を搬出する(家具の搬出・搬入にかかる料金は自己負担)
・介護タクシーなど、本人の移動手段を予約しておく
・お世話になったスタッフにあいさつする
原状回復費用は、経年劣化や通常の使用による傷みかどうかで負担する側が分かれます。誤って破損させた物などがあれば、その修復費用として実費が請求される可能性があリます。
住み替え先に持ち込めるものは施設によって異なり、火器類・刃物・貴金属類は持ち込めないのが一般的です。家具を持ち込めるかどうかも、事前に次の施設に確認しましょう。
あいさつのときに菓子折りなどを渡したい場合は、品物を受け取らない方針の施設もあるため、事前に相談員に確認しておきましょう。
話がこじれたら外部の相談先を頼る
施設との話し合いで解決しないときは、揉めごとの内容に合った外部の窓口に相談しましょう。
外部に相談する前に、まずは重要事項説明書に書かれている施設の苦情窓口に申し出ましょう。
相談するときは、重要事項説明書・入居契約書・費用の内訳の書面・居室の写真を手元にそろえておくと、状況を正確に伝えられます。
老人ホーム住み替えにおける2つの注意点
老人ホームの住み替えは簡単ではありません。老人ホームの住み替え時に、トラブルが起きるケースも少なくはないからです。
老人ホームを探しながら、トラブルを対処するのは本人や家族に大きな負担がかかります。できることならトラブルを避けたいとほとんどの方が考えるでしょう。
そんな方々のために、住み替えでトラブルになりやすい2つの注意点を解説していきます。
退去費用がかかる
住み替えには退去費用がかかります。敷金や入居一時金を支払って入居した場合には、それらの費用がどれだけ返還されるのか、原状回復費用の支払いが必要かの2点を必ず老人ホームに確認しましょう。
なぜなら、入所していた日数や、入居一時金として支払った金額、部屋の状態によって、一人一人金額が異なるからです。
これらは、重要事項説明書や管理規程に記載されているため、再度確認するとよいでしょう。入居後90日以内に退去と契約解除が決まっている方は、クーリングオフ制度を利用できる場合もあります。
ただし、平成18年4月以降に開設したホームは、入居一時金が全額戻って来ない場合があるため注意が必要です。500万円と返還債務残高のうち、額の低いほうが支払われるため、500万円以上の入所一時金は全額返金とはなりません。
原状回復費用を入所者と老人ホームのどちらが費用負担するかは、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(平成23年国土交通省住宅局)を用いて判断します。
例えば、壁紙の経年劣化や通常使用の消耗などは老人ホーム側の負担であり、支払う必要がありません。
クーリングオフの制度や原状回復のガイドラインは、すべての有料老人ホームに適用されます。しかし、返金の金額や適用にならないケースなどの相談件数は全国的に増えているようです。
気になる点がある方は、お住まいの地域の消費生活センター・消費者センターなどに確認してみましょう。
参照:『有料老人ホームの前払金に係る契約の問題に関する建議』
参照:『現状回復をめぐるトラブルとガイドライン (再改訂版)』
他市区町村からの住み替えには要注意
家族が他県や他市町村に住んでおり、近くの老人ホームに住み替えを行う方も少なくはありません。
しかし、特定の老人ホームに他市区町村から住み替えた場合、「住所地特例」が適用され、入所後の選択肢が少なくなってしまう可能性があります。対象となる施設は以下の8つです。
- 介護付有料老人ホーム
- 住宅型有料老人ホーム
- サービス付き高齢者向け住宅
- 特別養護老人ホーム
- 養護老人ホーム
- 介護老人保健施設
- 介護療養型医療施設
- ケアハウス
「住所地特例」とは、施設のある市区町村の財政負担が集中するのを防ぐ目的で設けられた制度です。
介護保険制度は、原則、居住している市区町村を保険者として介護保険に加入する仕組みになっています。
しかし、介護保険施設等への入所等、すべての場合に原則を貫くと、施設が多く建設されている市区町村の介護保険給付が増加し、財政上の負担が大きくなってしまいます。
住所地特例はこういった状態を起こさないための制度です。介護保険のほかに国民健康保険、後期高齢者医療制度に設けられています。
この住所地特例が適用されると、市区町村に住所のある方だけが利用できる「地域密着型サービス」を利用できません。
そのため、介護施設が少ない、もしくは地域密着型の施設が多い地域の場合、入所したいと思った施設に入れないといったケースが出てしまいます。
「住みたい地域に入れる施設がない」「サービスが使えなくなってしまう」そんな方は、住所地特例対象外の施設に入所するか、家族のもとで在宅介護を行い、住所変更すると住所地特例の対象ではなくなります。
住み替え先の老人ホームを探すポイント
住み替え先の探し方は、最初に老人ホームを探した時と同様です。しかし、以下のような、住み替えならではといえる老人ホーム探しのポイントもあります。
- 住み替えの原因を解消できる施設を選ぶ
- 老人ホームに求めるものを明確にする
- いろんな視点で確認する
次は、上記3つのポイントを詳しく解説していきます。
住み替えの原因を解消できる施設を選ぶ
次の老人ホームを探す際は、今回住み替えの原因となった点を解消できる施設を探しましょう。
介護度が重くなったのであれば、今後もっと重くなっても問題ない施設を探しましょう。他者とのトラブルが原因の場合は、次のトラブルを完全には防げません。しかし、その原因はなんだったのか、どのような環境であれば防げるかを考えると、再発の可能性は低くなります。
今回はどのような理由で住み替えるのかを見つめ直し、その部分を改善できる施設を探していきましょう。
老人ホームに求めるものを明確にする
最初に老人ホーム探しをした時とは状況も変わっているはずです。改めて、老人ホームに求めるものを改めて明確にしましょう。
なぜなら、次の老人ホームはどこがよいか、自分達にはどこまでできるかが明確になり、より本人にあった施設を見つけやすくなるからです。特に以下の項目を明確にする必要があります。
- 料金はいくらまでなら許容できるか
- 場所はどのあたりがよいか
- どのような設備が欲しいか
- どのような介護サービスを使いたいか
- 医療ケアはどこまで求めるか
- 看取りは老人ホームで行うか
そのほかにも、前の老人ホームで気になった点を洗い出すと、自分達はどのような点を重要視しているのかを再認識しやすくなります。
いろんな視点で確認する
多くの施設を見学する、体験入居を行う、専門家に相談するなど、いろんな視点で新しい住み替え先を探しましょう。
そうすると、より具体的に入所後の生活を想像できたり、細かな点もチェックしやすくなったりします。
具体的には、職員の対応、設備の使いやすさ、環境衛生、施設長の考え、職員の働きやすさや離職率などをチェックしましょう。
施設長の考えや職員の働きやすさをチェックすると、表面的な対応だけではなく、日常を過ごす場としての心地よさを推し量れます。
このように、2度目の老人ホーム探しは、以前よりもずっと広い視点で細かい部分も確認できるはずです。
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老人ホーム住み替え理由
「やっと老人ホームに入所できたのに、どうして住み替えを行う必要があるの?」そう感じる方も多いでしょう。住み替えの理由はさまざまですが、大きく分けて3つの理由があります。
- 本人の状態の変化
- 経済的な理由
- サービスの不満
特に本人の状態変化と経済的な理由の2つは、対処が非常に難しいです。そのため、問題解決ができず、住み替えに至るケースが多くあります。では、なぜ問題解決が難しいのでしょうか。それぞれの理由を具体的に説明していきます。
本人の状態変化
ほとんどの老人ホームでは、明確な入所基準が設けられています。その基準を逸脱してしまうと退所せざるを得なくなるのです。
「少し基準を超えたくらいなら入所し続けてもいいんじゃない?」と考える方もいるかもしれませんが、そうもいきません。なぜなら、入所基準は法令によって定められたものだからです。
特別養護老人ホームは要介護3以上、グループホームは認知症の方限定など、それぞれの老人ホームの目的にあった基準が定められています。
介護が必要な状態の程度が全く変わらない方はいません。要介護度が変化したり、認知症が悪化したりなどで、これらの基準を超える、もしくは下回ると退所となります。
経済的な理由
老人ホームの料金はその施設によってさまざまです。料金の支払いが難しくなった場合は、住み替えせざるを得ません。
老人ホームには、自治体が計画的に整備する特養などの公的な性格の施設、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅などのその他の施設の2種類があります。その他の施設は、設備やサービスが多種多様であり、安価な施設から高額な施設まで差が大きい特徴があります。
安価な施設のなかには、特養などよりも安いところもあります。(特養利用時に減免を受けていない場合)
そのため、入所基準を満たした時点で、より安価な公的施設に住み替えを行う方も少なくありません。
ほかにも、「経済的に頼っていた家族が体調を崩した」「貯金が尽きてしまった」「介護保険適用外のサービスが多くなってしまった」などの理由で支払いが難しくなるケースがあります。
このように、介護と経済的な不安は切り離せない問題です。無理のない範囲で支払いできる老人ホームを選ぶ必要があります。
サービスの不満
施設によってサービス内容や設備は違います。必要なサービスが受けられない場合、サービスを受けられる施設に住み替える必要が出てきます。
特に終身入所するために必要な「看取り」や、在宅酸素や胃ろうなどに対応する「医療行為」を行えるかが住み替えの大きな原因となりやすいです。なぜなら、これらのサービスは本人が最期まで老人ホームに住み続けるために必要不可欠だからです。
また、老人ホームによってはナースコールを押すだけで料金がかかる、介護を全く行わない施設などもあります。
このように、将来の住み替えを前提としている施設も少なくはありません。必要なサービスを受けられなくなった場合は、住み替えの決断が必要です。
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老人ホーム住み替えをして本人にあった環境を提供しよう
老人ホームの住み替えは、次の施設が決まってから退去を伝える順番を守ると、施設との揉めごとを避けやすくなります。
・切り出す前に、重要事項説明書で解約予告期間と返還金の条件を確かめる
・住み替えの意向は、不満ではなく本人の状態や家族の事情を軸に「相談」として伝える
・次の施設と契約して入居日が決まってから、今の施設に退去日を伝える
・費用の内訳は書面でもらい、退去日は居室の写真を残す
一度入居した老人ホームに、ずっと住み続ける必要はありません。
本人の状態や暮らし方に合う施設へ移ることも選択肢に入れて、次の住まいを考えましょう。
老人ホームの住み替えに関するよくある質問
Q 住み替え先の施設をどうやって探せばいいの?
A 自分達の求める条件を明確にし、地域包括支援センターに相談しましょう。市区町村のホームページや施設紹介サービスも活用すると、より選択の幅が広がります。ケアスル 介護では簡単に近隣の施設を検索する事ができます。
Q 他市区町村から住み替えをしたいけど、気をつけたほうがいい点はある?
A 住所地特例に注意が必要です。地域密着型サービスの利用ができなくなるため、選べる施設やサービスが減ってしまいます。