今回は、無縁社会で老後を豊かに生きていくためのコツについてお伝えします。
駒澤大学 文学部 社会学科
社会福祉士・防災士
日本社会福祉学会、日本地域福祉学会、ほか
1990年同志社大学文学部卒業、岡山県社会福祉協議会、広島県社会福祉協議会、日本社会事業大学、川﨑医療福祉大学勤務を経て2009年より現職。その間、1994年日本社会事業大学大学院修士課程修了、2008年日本社会事業大学院博士後期課程満期退学。
2016年度米国バージニア州立ジョージ・メイソン大学にて1年間在外研究。現在、岡山・東京の両方に拠点を置き活動。
少子高齢人口減少社会、無縁社会を迎え、介護不足、健康寿命、孤独死・孤立死、経済的問題など不安が多い老後ですが、老後を豊かに生き抜くには、「できるだけ健康であり続けるために趣味や仕事などの生きがいを持つこと、そして仕事や地域や趣味の仲間と豊かなネットワークを構築しておくこと」に尽きます。
このことは、高齢者世代の皆さんにはもちろん取り組んでもらいたいことですが、現役世代の皆さんにも早くから取り組んでおいてもらいたいことです。そして、現役世代の方は高齢期の親世代にぜひ伝えて欲しいことなのです。
高齢期の最大の不安は、病気や介護でしょう。自身の体の自由が利かないばかりでなく家族などに迷惑や負担を掛けてしまうという負い目、看護者・介護者がいないという孤立の不安もあるかもしれません。
そのために、健康寿命を少しでも長く、健康に過ごすためには、体力づくり、食事への気遣いが大切です。
自治体では65歳を過ぎた肩を対象に介護予防の取り組みを様々行っていますが、高齢期に入ってから思いついたように始めても効果は不十分です。もちろん、何もしないよりは良いのですが、健康や体力は一朝一夕に獲得できるものではないですし、「十年前に食べていたものが体を作る」ともいわれるように、壮年期や若年期からの食習慣、運動習慣、生活習慣が高齢期の生活や健康に大きく関連しています。
とはいえ、トレーニングジムに通ったりジョギングをするといった「健康増進・体力づくりのための運動」というのはなかなか動機も高まらないですし、継続するのも難しいのではないでしょうか。
そこで大切なのが「生きがい」や「楽しみ」につながる健康増進・体力づくりです。趣味やサークル活動等を楽しみながら、そのことが生きがいや目標にもなっていて、さらには体力づくりにもつながる・・・・そうしたものを人生の早い時期から見つけ、生涯を通じて継続することが大切なのだと思います。
登山、スキー、ゴルフなどに行くと70歳代や80歳代でも元気で溌溂と遊んでいる高齢者によく出会いますし、自分もそう老いたいと感心させられます。このような、生きがいや目標を持て、向上心もくすぐられるような生涯の趣味やスポーツを持つことは大切でしょう。
しかし、こうした趣味やスポーツにはお金が掛かり、年金生活者が継続するのは困難だという方も当然いらっしゃるでしょう。そういった方は、何かしら仕事を持ち働くことでも健康づくり体力づくりにもなり、やりがいや目標を持て向上心もくすぐられるような暮らし方や生き方をできるのではないでしょうか。
ここで誤解していただきたくないのは、決してお金持ちは趣味やスポーツに遊び、低所得者は働き続けなさいと主張しているのではありません。所得や貯蓄に関わらず人は働き続けられる限り働くべきだと思います。
動物は自力で餌を捕食できなくなることが死に直結するように、人間も受け入れられる場や役割がある限り、社会や他者のために活動し役立ち続けるべきだと考えます。仕事を持つことは経済的メリットに加え、所属欲求や承認欲求も満たすことができます。
何よりも、仕事をする中でいろいろ考えることや人と出会うことが、認知症予防にもつながります。また、満腹状態の人がいくら高級料理を食べても美味しいと感じないように、日頃働いていれば休日の趣味やスポーツや外出や諸活動が一層引立ち楽しくなるのだと思います。
さて、仕事というと「被雇用者としての仕事」とのイメージを持たれるかもしれませんが、それだけではなく、町内会・自治会や地区社協の活動、民生児童委員活動、NPOのお手伝い、ちょっとしたボランティアやお世話など「社会的役割」や「生きがい・やりがい」をもって「人とつながり」、「あちこちに出かけて体を動かす」ことも同等の効果があると思います。
趣味でも仕事でも地域活動でも、「人とのつながり」を持ち、そのことが所属感情や承認欲求を満たすというプラス面だけでなく、人間関係の難しさや悩みに直面したりストレスを感じることも含めて認知症予防にも繋がります。そして、「人とのつながり」のもう一つの意義は孤立防止です。
少し古い話になりますが、2021.07.11に放送されたNNNドキュメント‘(4ch.)『ご近所さんと私。母ちゃん防災士の信念』という番組の中で、金沢市の防災士竹川操枝さんが以下のようなことを訴えていました。
「もしも大災害があったら救急車も消防車も来ません。助けてくれるのは隣近所です。日頃から、町会活動、各種行事、サークル、趣味の会、ボランティアにも参加し、近所づきあいを大切にしましょう。そのことであなたの顔を地区のみんなが知り、知り合いだからこそ災害時に「一緒に逃げるよ」って手を引っ張ってくれたり、避難所で配給を「半分あげるよ」って分けてくれることになるのです」と。
仕事でも、地域活動でも、趣味やスポーツを通じてでも、気にかけ心配してくれる人がいれば、自身の命を救ってくれたり困難な時に支えてくれるのだと思います。
なんだか『養生訓』のような内容になってしまいましたが、国の社会保障がいくら手厚くなろうとも、ゆりかごに任せきりにしまうのではなく、自身の人生を積極的に切り開き作っていく意欲を持ち続けることが、高齢期を豊かに健康で過ごすコツではないでしょうか。