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  • 【公開日】2024-04-23
  • 【更新日】2024-04-23

高いパフォーマンスを発揮できる、介護従事者のコンピテンシーとは

高いパフォーマンスを発揮できる、介護従事者のコンピテンシーとは
皆さんはコンピテンシーという言葉をご存知でしょうか。本コラムでは介護従事者におけるコンピテンシーについて解説します。
井上 祐子 准教授
鹿児島純心大学 人間教育学部 教育・心理学科
社会福祉士 精神保健福祉士 保育士
日本社会福祉学会 日本子ども学会
同志社大学大学院社会学研究科社会福祉学専攻博士後期課程修了。社会福祉士、介護福祉士、保育士を養成する専門学校に勤務したのち、鹿児島純心女子大学国際人間学部こども学科に入職し、改組により現在に至る。福祉人材の職務体制の継続的サポートを主な研究テーマとしている。
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1.コンピテンシーについて

コンピテンシーとは、「高業績者の成果達成の行動特性」のことで、高い業績を上げる人物の具体的な行動をモデル化したものとされています(厚生労働省 2021:32)。

例えば、介護において、体位交換の場面で、スタッフが声をかけず突然利用者の体に触れると、利用者はびっくりしてしまいます。良質な介護サービスを提供するスタッフは、利用者の状態・状況を把握するとともに、利用者に不安や緊張を抱かせないように、「これから、ベッドが動きますね。」と利用者に声をかけて心構えをしてもらったり、「これから、仰向けから横向き(介助者の方向)になりますね。」と利用者に協力を求めるといった行動特性が見られます。このような行動特性が、コンピテンシーにあたります。

2.コンピテンシーが注目された背景

心理学の概念であったコンピテンシーは、1970年代、マクレランドによってビジネス界に応用され、その後、スペンサーらが、コンピテンシーの特徴を見えない潜在的特性(動因、特性、自己イメージ)と見える顕在的特性(知識、スキル)から捉え、コンピテンシーの氷山モデルを提唱しました(Spencerら=2011:14)。この見えない潜在的特性と見える顕在的特性からなるコンピテンシーを評価するために、マクレランドとスペンサーらは、グラウンディッド・セオリー・アプローチを応用した「職務コンピテンシー評価法」を開発し、外交官を対象として「行動結果面接」を実施しました(Spencerら=2011:8-9)。この行動結果面接は、その後、数多くのコンピテンシー研究につながったとされています(武村 2014:3-4)。

日本においても、コンピテンシー概念は、企業の採用・人事の面において導入されています。この流れを受けて、産業界は、若年労働者を供給する中心的な役割を担うようになった大学(とりわけ学士課程)に対し、職業人としての基礎能力の育成を求めるようになりました(文部科学省 2008:12)。

3.「コンピテンシー」と「職業能力評価基準」の関係

この職業人としての基礎能力の育成は、厚生労働省も着目しており、職業能力が適正に評価されることをねらいとして、職業能力を客観的に評価する仕組みとして、職業能力評価基準の策定に取り組んでいます。厚生労働省(2002)は、「職業能力評価基準」として、仕事をこなすために必要な「知識」と「技術・技能」に加えて、業種別、職種・職務別に、「成果につながる職務行動例(職務遂行能力)」を整理しています。この職業能力評価基準は、コンピテンシー評価に使用することもできるとしています(厚生労働省 2021:32)。

4.介護サービスの担い手となるスタッフの意欲と能力を高め、キャリアアップにつなげる、コンピテンシーの重要性について

職業能力評価基準を、コンピテンシー評価に活用することによって、労働者は、自身の能力を客観的に把握でき、目標を設定することや、キャリアアップにつなげることができます。

例えば、在宅介護業における職業能力評価基準において、利用者の安全衛生の確保では、会社・法人の業務マニュアルに従って、衛生面での対応を日々確実に実施すること(レベル1)、スタッフへの指導(レベル2~3)、保健所等に報告・連絡・相談し、衛生管理面での指導を仰ぐこと(レベル4)が、スタッフの能力要件として取りまとめられています(厚生労働省 2012)。つまり、自分の業務に取り組むこと(レベル1)から現場を牽引していくこと(レベル2~3)、他職種・機関との連携(レベル4)へと経験を積むことによって職業能力を高め、ひいては、利用者と家族、スタッフの安全や健康を守っていくことが示されています。

しかし、人材が不足していると、その育成は途絶えがちになり、進みにくくなってしまいます。近年、少子高齢化による生産年齢人口の減少が見込まれる中で、人手不足の緩和に向けた取り組みが急務となっています。この一助として、今後、介護サービスの担い手となるスタッフの意欲と能力を高め、キャリアアップにつなげることができるよう、職業能力評価基準を活用した、コンピテンシー評価の重要性が一層高まると考えられます。

5.まとめ

・ コンピテンシーとは、「高業績者の成果達成の行動特性」のこと。
・ 日本においても、コンピテンシー概念は、企業の採用・人事の面において導入されている。
・ 職業能力を客観的に評価する仕組みとして、職業能力評価基準がある。
・ 職業能力評価基準は、コンピテンシー評価に使用することもできる。
・ 職業能力評価基準を、コンピテンシー評価に活用することによって、労働者は、自身の能力を客観的に把握でき、目標を設定することや、キャリアアップにつなげることができる。
・ 職業能力を高めることは、利用者と家族、スタッフの安全や健康を守っていくことにつながる。
・ 介護サービスの担い手となるスタッフの意欲と能力を高め、キャリアアップにつなげることができるよう、職業能力評価基準を活用した、コンピテンシー評価の重要性が、今後一層高まると考えられる。

【引用・参考文献】
井上祐子・姜民護・高橋順一・黒木保博(2023)「育みたい資質・能力に関する保育者のコンピテンシー測定尺度の開発」『チャイルド・サイエンス』25:29-35.
厚生労働省(2002)「職業能力評価基準」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/ability_skill/syokunou/index.html#h1_free1, 2024.4.14)
厚生労働省(2012)「25_在宅介護業」(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_09294.html, 2024.4.14)
厚生労働省(2021)「職業能力評価基準導入マニュアル」(https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000766887.pdf, 2024.4.14)
文部科学省(2008)「学士課程教育の構築に向けて(審議のまとめ)」(https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/houkoku/080410/001.pdf,2020.6.9)
Spencer, Jr.L.M., and Spencer, Signe M.(1993)Competence at work : models for superior performance. John Wiley & Sons, Inc.(=2011, 梅津祐良・成田攻・横山哲夫訳『コンピテンシー・マネジメントの展開 : 導入・構築・活用』生産性出版.)
武村雪絵編(2014)『看護管理に活かすコンピテンシー―成果につながる『看護管理力』の開発』メヂカルフレンド社.
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