至学館大学 健康科学部 栄養科学科
管理栄養士、在宅訪問管理栄養士、介護支援専門員、教員
日本在宅栄養管理学会、日本栄養改善学会、日本透析医学会、日本腎栄養代謝研究会
最終学歴:椙山女学園大学大学院生活科学研究科博士後期課程修了 博士 (人間生活科学)
職歴:医療法人名古屋記念病院 臨床栄養科長、医療法人新生会 第一病院 臨床栄養科長を経て平成22年4月より至学館大学 健康科学部 栄養科学科 教授。
専門は、慢性腎臓病の各ステージ別の栄養管理と高齢者の栄養状態と低栄養改善。在宅訪問管理栄養士認定制度の運営委員長。
高齢期の食生活の特徴
令和5年度高齢者白書によると65歳以上の者のいる世帯は、全世帯の49.7%(令和3年)と約半数で、65歳以上の一人暮らしの者は男女ともに増加傾向にあり、男性15.0%、女性22.1%(令和2年)と増加しています。
このように高齢者の世帯が増加すると独居だけでなく高齢者だけの世帯も増え、「買い物に行けない」、「調理が面倒になる・できなくなる」、「好きなもの(同じもの)ばかり食べる」、「食事への関心がなくなる」、「食べる量が少なくなる」、「食事を抜く」など食生活上の問題を抱えやすくなります。また、加齢に伴う生理的、社会的、経済的問題も加わり、健康状態、栄養状態に影響を与え、こういった食生活が長く続くと低栄養状態に陥ることになります。
高齢期に維持したい体重
高齢期の体重減少は「筋肉の減少」に繋がりますので、体重はタイミング(時間)を決めて、習慣として測定していきましょう。体重の変動では、特に減少、体重が減り続けていないかに注意を払います。
目標とする体重には個人差がありますので、体格指数(Body Mass Index:BMI)で判定します。
BMIの求め方は、体重(kg)÷身長(m)の2乗です。日本人食事摂取基準2020では18歳以上で目標とするBMIの範囲を年齢ごとに定めています。65歳以上の高齢者では、フレイル(虚弱)の予防及び生活習慣病予防の両方に配慮する必要があることも踏まえ、表1に示すように21.5~24.9 kg/m2と成人より高めが目標値となっています。
表1 年齢ごとの目標とするBMIの範囲
年齢(歳) | 目標とするBMI kg/m2 |
18~49 | 18.5~24.9 |
50~64 | 20.0~24.9 |
65以上 | 21.5~24.9 |
成人ではBMI 18.5 kg/m2未満は「やせ」とされていますが、国民健康・栄養調査では65歳以上はBMI 20 kg/m2以下を低栄養傾向としていますので、BMIは20 kg/m2以下ならないようにエネルギーを十分に摂取することが必要です。
また、体重は6か月間に10%以上の減少がある場合や短期間に2~3kgの体重減少が見られる場合は低栄養状態のリスクが高い状態となりますので、体重を減らさない食べ方が必要です。
「低栄養」にならないための食生活の工夫
食事はただ食べるためのものではなく、楽しく、美味しく食べることで生きがいにもつながり、食べた内容で身体・栄養状態を変えることができます。毎日食べる食事に少し工夫を加えることで、不足しがちな栄養を補うこともできます。ぜひ以下の内容を実践してみてください。
①主食をしっかり食べる
毎食食べるごはんに発芽玄米や強化米を加えると、同じ量の主食をとっていてもビタミンや食物繊維を増やすことができます。ごはんの量が食べられないときは、チャーハンや炊き込みごはん、おにぎりなどにして主食を一定量とるようにします。パンや麺類も手軽ですので、パンをマーガリン入りのパンに変える、ソーセージなどの入った調理パンにする、麺類は、うどんやそばより、焼きそばやスパゲッティのように油を使った麺の頻度も増やすなどするとエネルギーが多く取れます。主食は重要なエネルギー源ですので、不足させないようにとっていきます。
②いつもの食事にプラスアルファ
毎日食べている食品があれば、それにプラスアルファします。白いご飯に生卵や納豆をかける、みそ汁に豆腐や油揚げを入れる、牛乳にきなこやスキムミルクを加えるなど、いつも食べているものに良質なたんぱく質を豊富に含む食品をプラスして食べる工夫をしてみましょう。
③たんぱく質の食品を欠かさないで食べる
たんぱく質を多く含む食品には、魚類、肉類、卵、牛乳、豆類・大豆製品があります。魚や肉はさまざま種類がありますので、同じものにばかりにならないようさまざまな食品を摂取しましょう。たんぱく質の不足も免疫力を低下させますので、毎食たんぱく質の食品がある食べ方をしましょう。
④市販の総菜、冷凍食品、缶詰などを活用する
から揚げ、豚カツ、焼き鳥、焼き魚などはどこの総菜売り場でも購入が可能ですので、これらに野菜料理を加えて摂取しましょう。冷凍のから揚げ、ハンバーグ、肉団子などに、冷凍のブロッコリー、ほうれん草、おくらなどの野菜を加え、一緒にレンジで加熱するとたんぱく質と野菜が同時にとれます。冷凍中華丼や牛丼もおすすめです。
シーチキン、さばの味噌煮缶、いわしのかば焼き缶などは、手軽にたんぱく質が取れますので、いつもストックしておき、たんぱく質食品が少ない時に活用しましょう。
⑤間食もエネルギー補給には欠かせない
1回の食事で不足する栄養素は、間食をとるようにします。とくに牛乳、ヨーグルト、チーズなどの乳製品、ケーキ、バームクーヘン、プリンなどの洋菓子、饅頭、ようかんなどの和菓子などを積極的にとるようにします。
⑥「食べやすさ」を工夫する
高齢になると「噛みにくいから」「飲み込みにくいから」などの理由により食事量が減少することもあります。うまく噛めなかったら歯科に相談する、飲み込みにくかったら嚥下体操を行い、飲み込みやすい食事にします。コツは、食材に切れ目を入れる、柔らかく煮る、とろみをつけるなどの工夫がありますので、管理栄養士に相談しましょう。
⑦配食サービスなどを利用する
高齢者向けのお弁当配食サービスでは、栄養バランスの良いメニューが提供され、食べやすさも工夫されています。配食を毎食頼むのは経済的な負担が大きくなりますが、食事をつくるのが大変な時や1日のうち1食だけお弁当にしてみるなど、できる範囲で活用するのもおすすめです。
まとめ
「歳をとったから食事は少なくてもよい」ことはありません。高齢期は低栄養に陥りやすいことを本人や家族が知っておくことが大切です。毎日の食事内容の善し悪しが健康状態に大きく影響すること、私たちの身体は食べたものによって作られていますので、「食事は身体(細胞)づくり」であることを再確認して、栄養状態を悪化させないための”工夫“を重ねてください。