梅花女子大学 情報メディア学科
社会福祉士・介護福祉士・教員
日本ケアマネジメント学会、日本介護福祉学会、日本在宅ケア学会
施設および在宅ケアや成年後見人の実践を経験。おおさか介護サービス相談センター専門相談員。研究テーマは、ケアマネジメント(障がい者・要支援要介護高齢者・生活保護等の低所得者・8050問題等複合的課題)、都市部の単身高齢者支援、介護の人材育成、チームアプローチや連携に関する研究。
低所得高齢者の一般的な定義
低所得高齢者とは、明確は定義はありません。生活保護を受給されている高齢者と生活保護を受給していないが生活保護水準に近い高齢者になります。
令和5年度の高齢者白書によると、高齢者世帯(65歳以上の者のみで構成するか、又はこれに18歳未満の未婚の者が加わった世帯)は他の世帯に比べ所得が低いデータ結果となっています。また、生活保護受給者数に関して、保護率(総人口に占める生活保護受給者数の割合を示す数値)でみると、全体の保護率より65歳以上の保護率が高くなっています。
(内閣府https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2023/html/zenbun/s1_2_1.html)
受けられる支援とその受け方
低所得の高齢者が受けられる主な支援として、生活保護法、生活困窮者自立支援法、生活福祉資金貸付制度、日常生活自立支援事業、成年後見制度等があります。
生活保護法
まず、生活保護法について、我が国で昭和25年に制定された他の法律のなかでも歴史のある法律です。日本国憲法のなかの生存権(第25条)があります。生存権は、国民に健康で文化的な最低限度の生活を保障することについて国の義務としたものです。生活保護法はその生存権の理念を基に実現をするための法律、つまり、国民の生活を守るための1つの法律です。生活保護法で支援できる内容(本法では支援を保護や扶助と表現しています)は、生活扶助(衣食や日常生活費用、移送)、教育扶助(義務教育に必要な教科書、学用品、通学用品、学校給食等)、住宅扶助(住居、補修や住宅維持のために必要なもの)、医療扶助(薬剤、治療材料、医学的な処置や手術、地用、施術、在宅での療養上の管理や入院、看護、移送))、介護扶助(介護保険法のサービス)、出産扶助(分娩の介助や分娩前後の処置、衛星材料)、生業扶助(生業に必要な資金や器具、資料、技能の修得、就労のため必要なもの)、葬祭扶助(検案、死体の運搬、火葬や埋葬、納骨や葬祭で必要なもの)の8種類です。高齢者で受ける扶助で多いのが、生活扶助、住宅扶助、医療扶助、介護扶助等になります。申込等窓口は、居住地の役所の生活保護を担当する窓口になります。
生活困窮者自立支援法
次に生活困窮者自立支援法です。生活困窮者自立支援法は、現在生活保護を受給していないが、生活保護に至る可能性のある人で、自立が見込まれる人を支援する法律です。この法律には生活困窮への予防と自立支援の観点が含まれています。支援の内容としては、自立相談支援、住宅確保給付金、就労準備支援、一時生活支援、家計改善支援、子どもの学習・生活支援・自立促進、就労訓練があります。申込等は、居住地の地方自治体相談窓口になります。
生活福祉資金貸付制度
生活福祉資金貸付制度について、生活資金に困ったときに資金を低利子で貸し付けてくれる制度です。貸し付けしてもらえる資金の種類には、総合支援基金(生活支援費、住宅入居費、一時生活再建費)、福祉資金(福祉費、緊急小口資金)、教育支援基金、不動産担保型生活資金があります。申込は、社会福祉協議会が相談窓口になります。
低所得になる原因の1つに、さまざまな理由で高齢者自身がお金の管理ができない(収支のバランスがとれない)ことがあげられます。例えば生活保護を受給しても使いこんでしまえば、再び経済的に不安定な状況に陥ります。お金の管理を支援する法律として、日常生活自立支援事業や成年後見制度があります。
日常生活自立支援事業
日常生活自立支援事業とは、判断能力が不十分で(認知症高齢者、知的障害者、精神障害者等で、日常生活に必要なサービスを利用するための情報の入手、理解、判断、意思表示を本人のみでは適切に行うことが困難な方)かつ本事業の契約内容を判断し得る能力を有していると認められる人に対して支援を行うものです。支援内容のなかには、預金の解約、預金の預け入れの手続等利用者の日常生活費の管理(日常的金銭管理)が含まれています。申込は、社会福祉協議会が相談窓口になります。
成年後見制度
成年後見制度とは、判断能力が不十分な人(認知症高齢者、知的障害者、精神障害者等)に対して、さまざまな契約等の手続きや管理を支援する法律になります。支援の内容としては、財産管理(預貯金や不動産等の管理、相続手続き等)や身上監護(福祉や介護サービスの利用契約や施設入所・入院の契約締結等)法律です。この法律は、不利益な契約にならないよう消費者被害防止の視点も含まれております。本人の判断能力の状態に応じてできない部分を後見人が上記の支援でサポートします。後見人は、本人の意思を尊重しながら一緒に支援の具体的な内容を考えていきます。申込に関する相談窓口には、居住地の社会福祉協議会や地域包括支援センター等があります。
厚生労働省のホームページ(「相談窓口のご案内 | 成年後見はやわかり」https://guardianship.mhlw.go.jp/consultation)は最寄りの相談窓口が検索できるようになっています。
他にも自治体独自の支援もありますので、居住地の地域の役所のホームページで紹介されていないか確認をしてみましょう。ホームページから探しにくい場合は、地域包括支援センターに問い合わせてみることも1つの方法です。地域包括支援センターは、高齢者支援に関する総合相談窓口でさまざまな情報を提供しています。
まとめ
頼れる家族がおらず一人暮らしの高齢者で今後の自分の身体状態を気にされている方、家族がいる高齢者で家族が仕事の減少、失業とともに収入が減り、親への経済的な支援が難しく、介護サービス利用控えや医療受診の利用控えがあることも現場で支援する機関からお聞きすることがあります。利用料の節約でサービスを控えたために、その後身体の機能等が悪化し、かえって費用(介護や医療サービスの出費)がかかってしまうことになる場合もあります。支援をしている専門職、高齢者分野では、地域包括支援センターやケアマネジャー、身体機能であればリハビリの専門職、行政窓口等の関係者と相談しながら、サービス利用について一緒に考えていくとよいでしょう。自身の身体の状態と利用するサービス利用料でかかるお金の両者をバランスよく考えていくことが大切です。
自身のお金に関することを他者(専門職等の支援者)に話すことについて、抵抗がある人もいるでしょう。また、家族によっては、自分自身の健康状態も悪く自分の事もいっぱいななかで高齢の親のことの余裕がないと言われる人もいます。困っている、助けてほしいといった声をあげにくい等、問題が表面化しにくく、潜在的であるという特徴もあることも現場で支援機関から聞きます。最初から専門職にお金の件で相談しにくい人もいると思います。その場合、(緊急に対応してほしい場合は除き)専門職の人との相談していくなかで、「このタイミングで自分のお金のことについて話を出してもよいかな」という時に話をしてもよいかと思います。支援機関で専門職のなかに「この人なら話を出しても大丈夫」という人をみつけることも大切です。また、専門職でなくでも信頼できる地域の町会長や民生委員がいれば最初に相談してみるのも方法の1つです。専門職や民生委員は、相談内容について守秘義務をもつことなっています。地域の町会長や役員の方でも相談の中身の秘密を守ることについて理解してくださる方もいます。
相談者しやすい方、信頼できる方(自分の話した内容の秘密を守り、支援の事をよくわかっていて、しかるべき機関につないでくれる人)を探してみましょう。そのためにもまずは相談窓口で相談(利用できそうな制度やサービスの情報を得ること)してみることが第一歩になります。
また、知り合いや友人等経済的に困っており、今後の事が心配といった相談があった場合、上記であげた相談窓口を紹介するとよいでしょう。