• くらし
  • 【公開日】2024-03-01
  • 【更新日】2024-04-19

噛む力が弱まった方への食事はどうする?介護食の種類と家庭での作り方について解説

噛む力が弱まった方への食事はどうする?介護食の種類と家庭での作り方について解説

噛む力(咀嚼力)や 飲み込む力(嚥下力)が衰えてしまった方々にとって誤嚥を防いだり、食欲を維持するための工夫を行った食事である介護食。介護食の種類や普及への取り組み、家庭での介護食の作り方について解説します。

片山直美 教授
学校法人 越原学園 名古屋女子大学 健康科学部 健康栄養学科
学士(工学)・修士(農学)・博士(医学)・管理栄養士・調理師・製菓衛生師・健康運動指導士・健康運動実践指導者・MBA、名古屋女子大学教授、NPO法人宇宙農業サロン代表
COSPAR、日本めまい平衡医学会、日本栄養改善学会、日本給食経営管理学会、日本生物環境工学会、日本宇宙生物科学会、日本宇宙航空環境医学会、日本味と匂い学会、日本食育学術会議、名古屋市環境影響審査会委員、愛知県環境影響審査会委員
北見工業大学工学部環境工学科卒業(工学学士)、東京工業大学工学部研究生終了、栗田工業研究所研究員、東京女子医科大学内分泌研究室研究助手、米国カリフォルニア大学デービス校コンカレント学生(栄養学)終了、岐阜大学農学部修士課程修了(修士号)名古屋大学大学院医学系研究科博士課程修了(博士号)後、3年間の4大学(名古屋大学、名城大学、椙山女学園大学、桜花学園大学)非常勤講師を経て、名古屋女子大学常勤講師、准教授となり現在教授として勤務
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介護食とその種類

介護食と聞いて皆様はどのような食事を思い浮かべるのでしょうか? 毎日の食事として当たり前のように何気なく食べている食事とは違い、噛む力(咀嚼力)や 飲み込む力(嚥下力)が衰えてしまった方々(高齢者の方々のみではありません)にとって、これまで食べてきた食事が食べにくく、食欲がわかなくなり、場合によっては間違って気管に入ってしまい(誤嚥)、そのことが原因で肺炎(誤嚥性肺炎)を発症してしまう場合もあるため、誤嚥を防いだり、食欲を維持するための工夫を行った食事のことを介護食というのです。

介護食は大きく4種類に分かれています。それは、噛む力や飲み込む力によって食べやすい食べ物が異なるためです。摂食嚥下リハビリテーション学会や日本介護食品協議会で介護食の分類が示されています。既に多くの薬局やスーパーで販売されている「ユニバーサルデザインフード:UDF」では、噛む力と飲み込む力に合わせた4段階の製品に区分されて多くの種類の食品が販売されています。

区分①「容易にかめる:硬い物や大きいものでなければ噛むことも飲み込む事もできる人向けの食べ物」
区分②「歯茎でつぶせる:噛む力はあっても歯がない・飲み込めるものが限られている人向けの食べ物」
区分③「舌でつぶせる:噛む力が無く、細かく柔らかい物は食べられる人向けの食べ物」
区分④「かまなくてよい:小さく柔らかい固形物でも食べにくく、水やお茶も飲み込みづらい人向けの食べ物」

区分①「刻み食:容易にかめる」

家庭でも作成可能な区分1「容易にかめる」にあたる食事が「刻み食」です。いつもの食事を刻むことで、硬い物や大きい物を食べやすくすることができます。食べる人のその日の体調に合わせて食べやすい大きさに調整することが可能です。また大きさによっては食感を楽しむこともできます。しかし、刻みの大きさによってはかえって誤嚥を招く可能背の有るため、とろみ調整剤を用いてとろみを加えて嚥下しやすくする工夫も必要となる場合があります。食べる人の体調に合わせて、工夫をしましょう。

区分②③「ソフト食:歯茎でつぶせる、舌でつぶせる」

介護施設などで提供されている「軟菜食」は区分2~3にあたる食事です。このごろは「ソフト食」の名称を用いることが多いかもしれません。「舌でつぶせる」「歯茎でつぶせる」くらい軟らかい食事です。飲み込むための食塊となっている場合が多いため、スムーズに飲み込める食事で、歯の無い人や入れ歯の人にとって食べやすい食事です。ミキサー食や流動食と違い、固形ですので、見た目や盛り付けなどの工夫を凝らして、食欲を誘い、維持することも可能となります。

区分④「ミキサー食:かまなくてよい」

ミキサー食は区分4の「かまなくてよい」に分類される介護食で、噛まずに飲み込むことができ、消化吸収が早く、消化管への負担が少ない食事となります。嚥下障害のある方や、噛む事ができない方、寝たきりの方などに向いている食事ではありますが、液状ですので粘度によっては誤嚥しやすくなる場合があるので注意が必要です。

そこで、誤嚥防止のために、市販されているとろみ調整用食品(増粘剤)を用いて、とろみをつけることで「安全で見た目も美しく、美味しく食べることができる介護食」の工夫が、病院や福祉施設で行われています。もちろん一般家庭でも同様に行えるように指導並びに啓発活動が行われています。

区分④「とろみ調整用食品:誤嚥防止のための工夫」

とろみ調整用食品(特別用途食品制度)に関しては消費者庁食品表示規格課、特別用途食品担当によって許可基準の概要が示されています。概要は、液体に添加することでその物性を調整し、医学的、栄養学的見地から見て嚥下困難者に適当な食品であること、使用方法が簡明であること、適正な試験方法によって特性が確認されるものであることが挙げられています。

また、性能要件として、とろみ調整用食品を冷たい液体や温かい液体に溶かした際の4つの性能、1)溶解性・分散性(5㎜以上の塊(ダマ)ができないか)2)持続的安定性(30分後でも一定の粘度が保たれるか)、3)唾液抵抗性(アミラーゼ添加後でも一定の粘度が保たれるか)、4)温度安定性(温度によって粘度が大幅に変動しないか)の確認が必要とされています。

とろみ調整食品は現在薬局で購入が可能です。大きく分けて3世代に分かれています。第一世代とは、主成分がデンプンでとろみを出すために加熱処理が必要となり、ダマになりやすく、唾液でとろみが無くなり、とろみを強くするために加える量を多くすると粉っぽくなる特徴があります。

第二世代とは、第一世代と同様にデンプンが用いられていますが、増粘多糖類(キサンタンガムやグアーガムなど)が加えられています。冷たいものにとろみがつけにくく、ダマになりやすく、唾液でとろみが弱くなる特徴があります。またとろみを強くしようとすると第一世代同様に粉っぽさが出やすいのです。

第三世代とは、主成分がデキストリン増粘多糖類を含むとろみ調整剤です。特徴は常温のままでもとろみをつけることが可能で、ダマになりにくく、唾液の影響を受けにくい事や、無味無臭であるため食品の味や香りに影響しにくいことで汎用性が高い事が挙げられます。そのため現在では多くの場合、病院や福祉施設でこの第三世代が利用されています。デキストリンはデンプンを加水分解したものです。また増粘多糖類とはペクチン、グアーガム、キサンタンガム、タマリンドガム、カラギーナン、プロピレングリコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)などです。

とろみ調整用食品として必ず表示されている重要な項目に、

●1回の使用量、喫食の目安となる温度及び喫食温度による粘度の違いに関する注意項目
●一包当たりの重量
●一回の資料量又は一包装当たりの熱量、たんぱく質、脂質、炭水化物及びナトリウム(食塩相当量に換算したもの)の量
●医師、歯科医師、管理栄養士、薬剤師、言語聴覚士等の相談指導を得て使用することが適当である旨
●とろみをつける食品に関する注意事項
●とろみ調整用食品を加える際の手順
●摂取する際の注意事項

などがあり、そのほかにアレルゲン、賞味期限、原材料、保存方法などについても表示をよく見て使用するとろみ調整用食品を選択することが必要です。

介護食品の普及のための活動「スマイルケア食」

現在、農林水産省からスマイルケア食の取り組みについて情報提供がなされています。なぜならば、65歳以上の在宅療養患者の内その多く(7割以上)が低栄養又は低栄養の恐れがあること、更に食事を噛むことに制限がある場合(3割程度)が示され、飲み込みに問題がある人(5割程度)がいるため、硬いものを噛むことが出来ない場合や誤嚥がある人はBMIが低くなることが国立長寿医療研究センターの調査で報告(平成24年)されているためです。

この様なエビデンスから介護食品指導は今後ますます拡大することが予想され、福祉施設や病院だけではなく、一般家庭でも介護食品の認知度が高まっているのです。しかし、介護食品の利用度に関してはまだまだ少なく、介護食品の普及に向けた検討が2013年に農林水産省で行われ、スマイルケア食が誕生しました。

日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2013、嚥下食ピラミッド(2004年:金谷節子管理栄養士)、高齢者ソフト食(1994年:黒田留美子管理栄養士)、ユニバーサルデザインフード(UDF)(2003年:日本介護食品協議会)の内容に関して2015年の「スマイルケア食普及推進会議」において民間規格を統一的に分類して、「そしゃく配慮食品の日本農林規格」(JAS)が規定されました。

このそしゃく配慮食品のJASの特徴は固さの定義だけではなく、外観や食味等についても規定があることが特徴で、青(食欲がでてこない、最近痩せてきたときの食事)黄(噛むたびに痛い、食事が楽しくないときの食事)赤(飲み込むのがつらい、たべるとよくむせる時の食事)、の3色で分類されています。

このような市販されている食品を上手に利用して、無理なく、介護する人も、介護される人も「笑顔で継続的に食事を楽しむことが出来る環境を整えること」が介護の現場で求められています。

家庭での介護食の作り方

今後ますます増えることが予想されている「在宅介護」のために、一般家庭でも行える介護食の普及が必要です。市販されている食品ととろみ調整用食品だけではなく、家族と同じ食事を利用した介護食作成も今後の課題となります。経済的なことを考えると市販品だけに頼ることが出来ないからです。

バラエティーに富んだ食事の提供は「介護される人」にとって生きる喜びや生活の質の向上(QOLの向上)につながります。そこで、医師、歯科医師、管理栄養士、薬剤師、言語聴覚士等の相談指導を得て、簡易とろみ測定板(サラヤ社製)などを用いて、濃厚流動食や家庭で作成した食事をミキサーにかけて均一な液状にして、市販されているトロミ調整用食品でとろみをつけて提供することも今後さらに行われて行くと思います。

タンパク質の含有量が多い食品の場合、とろみ調整用食品の種類によっては大量に必要となる場合やとろみがつくのに時間がかかる場合があります。その場合には「二度混ぜ法」(日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニック提唱やとろみ調整食品のい・ろ・は:東京医科歯科大学戸原玄教授監修)を用いて、水分以外の成分がとろみ調整用食品が水分を含み膨らんで溶けることを妨げることでとろみがつくスピードが遅くなることを想定して、とろみ調整用食品が水分を抱きこみ十分に膨らむのを待つ時間を作ることで、とろみの付くスピードが遅い液状の食品のとろみを早く付けることが出来る混ぜ方を利用します。

作り方は以下の工程です。

1)とろみ調整用食品を入れて、30秒~60秒ほどかき混ぜます
2)10分ほど置きます
3)再度良くかき混ぜます(30秒~60秒ほど)

この方法であれば、一般家庭で作成した食品をミキサーにかけて均一な液状にした食事(水以外の成分が様々に組み合わされている)に対して、とろみをつけることも可能となります。

今後ますます必要とされる介護食です。多くの研究成果が「より安全で食べやすくおいしい介護食の作成」のために役立てられていくことを願っております。

 

【参考資料】

老人ホームの
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