高齢になると一日中寝てばかりいる方も少なくはありません。「親が寝てばかりいる……」「もしかして認知症になったのかも……」と不安に感じる方も多いのではないでしょうか。
本記事では、一日中寝てばかりになる状態と認知症の関係性について解説します。単なる居眠りとの見分け方や原因、注意すべき点、対処方法も紹介していますので、興味のある方はぜひ最後までご覧ください。
認知症になると寝てばかりになる?
「認知症と寝てばかりなのは関係があるの?」と疑問に思う方もいるかもしれませんが、実は認知症になると、寝てばかりになる可能性があります。
実際、アルツハイマー型認知症の症状として睡眠障害が挙げられており、初期では不眠、進行すれば一日中寝ている過眠が多くなります。
不眠が見られる状況であっても、不眠によって昼夜逆転している場合、周囲の方にとっては「昼間に寝てばかり」といった印象を抱く場合もあるでしょう。レビー小体型認知症でも特徴の1つとして過眠が挙げられています。
また、「無気力」が原因となっている場合も考えられます。認知症になると、周囲にも自分にも興味関心がなくなり、無気力になる場合も多いです。どの認知症でも起きる可能性はありますが、脳血管性認知症がより発症しやすい傾向にあります。
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認知症の方が寝てばかりなのは軽度の意識障害
認知症と意識障害自体は別のものですが、認知症の方が寝てばかりな症状は、意識障害の一種である傾眠に該当する場合があります。意識障害と聞くと大変な病気のようにも聞こえますが、集中できない、うまく思考できない状態も意識レベルが低下しているといえます。問題なのは、どのような原因によって意識が障害されているかといえるでしょう。
ここでは、意識障害の程度を分類する意識レベルについて解説します。
意識清明
意識清明とは、意識がはっきりしている状態を指します。外部からの刺激がなくても起きている、覚醒している状態です。意識清明であれば、何ら問題なく他人からの呼びかけに応じたり、判断をしたりなど、意思の疎通ができます。
緊急時の意識レベル測定に使用されているジャパン・コーマ・スケール(JCS)では、「覚醒している」状態にも以下のように段階づけされています。
- 意識清明
- 見当識は保たれているが意識清明ではない
- 見当識障害(場所・時間・人がわからない症状)がある
- 自分の名前・生年月日が言えない
認知症になると、見当識障害がみられるため、場合によっては意識清明と判断されないかも知れません。
傾眠
傾眠とは、意識がはっきりはしていないものの、外部から刺激があれば簡単に起きる状態です。肩をたたくほか、体をゆすったり手を握ったりするだけで、簡単に覚醒します。
日常的な例を挙げれば、周囲から見てうつらうつらと眠りかけているような状態です。一度起きても、すぐに眠ってしまう場合もあります。
まさに周囲の方からすると寝てばかりの状態に該当します。ただし、意識障害における傾眠はただの居眠りとは異なる点は把握しておきましょう。
昏迷
昏迷とは、体を強くゆすったり大きな声で呼びかけたりしなければ起きない、覚醒しない状態です。肩をたたいたり手を握ったりしても起きない状態であり、傾眠よりさらに意識障害の程度が高くなります。
覚醒した場合でも、今どこにいるのか、今何時なのかわからなくなるケースも少なくはありません。また、以前の出来事を忘れてしまう健忘が起こる可能性もあります。
昏睡
昏睡は、強い刺激を与えても反応がない状態です。呼吸や循環、体温調節などの機能にも変化が起こります。
昏睡まで意識レベルが低下すると、日常生活において「最近寝てばかりになった」といえる程度の状態ではありません。もし、急に昏睡状態になった場合はすぐに救急車を呼びましょう。
意識段階は意識清明・傾眠・昏迷・昏睡の4段階で分けられる場合が多いですが、昏迷と昏睡の間に半昏迷が追加される場合もあります。刺激に対して少しでも手足を動かしたり顔をしかめたりする場合は、半昏睡です。
認知症に見られる意識障害と居眠りの見分け方とは?
認知症や意識障害で、寝てばかりといえる状態になる点は解説してきました。しかし、認知症ではない方の日常生活においても甲状腺機能の低下などにより「ウトウトしている」「居眠りが多い」などの状態になることがあります。
いつも眠たそうにしている高齢者を見たとき、単にウトウトして居眠りしているのか、それとも意識障害なのか、見分けるのは非常に困難です。しかし、覚醒後の反応によって見分けられる場合もあります。
意識障害である場合、起こされた時の時間帯や場所がわからなくなる場合も多いです。覚醒前の出来事を覚えていない、健忘が生じる点でも居眠りとは異なった症状が現れます。
いつもと違う様子に気づいた場合は、些細な内容でも医師に相談するようにしましょう。
寝てばかりになる原因とは
寝てばかりなのは意識障害の一種の可能性もありますが、原因によっては違う場合もあります。寝てばかりになる原因として、以下のようなものが挙げられます。
- 認知症
- 脱水症
- 加齢にともなう体力の減少
- 飲んだ薬による副作用
- 食事性低血圧
- 内科系疾患
- 慢性硬膜下血腫
なぜこれらが寝てばかりになる原因となるのか、どのような特徴があるのか、1つずつ確認していきましょう。
認知症
認知症の症状には、睡眠障害や無気力などがあります。
アルツハイマー型認知症の場合、進行初期は不眠で昼夜逆転し、進行すると一日中寝ている過眠状況になるケースも多いです。そのほか、レビー小体型認知症にも過眠の症状があります。
また、認知症の薬物療法が進められている場合、薬の副作用として強い眠気が生じている場合も考えられるでしょう。
昼間に寝てばかりになった、ある日を境に寝てばかりになったなど、異変に気づいた場合はこまめに医師に相談することが大切です。
脱水症
脱水症に陥ると意識がぼんやりする症状が現れ、寝てばかりと捉えられるケースがあります。脳のはたらきに必要な水分が不足するのが原因です。
意識レベルが低下し、日中の強い眠気に至る場合があります。また、重度の脱水症では意識障害を及ぼす場合もあるため注意が必要です。
特に高齢者は喉の渇きを感じにくかったり、喉が渇いたと伝えられなかったりするため脱水症に陥りやすいのが特徴です。なかなか水分を取ろうとしない方には、周囲がこまめに水分摂取を促す必要があります。
加齢にともなう体力の減少
加齢にともなう体力の減少によって寝てばかりの状態になるケースも多いです。
高齢になればなるほど、神経伝達機能が低下していきます。神経伝達機能が低下すると、体内時計が狂い、睡眠時間もずれ込んでしまうため、寝てばかりになる可能性が高くなってしまいます。
また、体力が低下したために日中の活動量が少なくなり、良質な睡眠を確保できにくい点も寝てばかりになる原因の一つです。
飲んだ薬による副作用
薬の副作用で強い眠気を引き起こしている場合も考えられます。副作用として眠気を引き起こす可能性のある薬は次のとおりです。
- 花粉症の治療薬(抗ヒスタミン薬)
- かぜ薬(抗ヒスタミン薬)
- 解熱鎮痛薬
- 催眠鎮静薬
- 乗り物の酔い止め
- 胃痛や腹痛の痛み止め
- 下痢止め
- 鼻炎用の点鼻薬
代表的なのは、かぜ薬に含まれている抗ヒスタミン薬と呼ばれる成分です。ヒスタミンは神経伝達物質であり、花粉症や蕁麻疹、喘息などの症状を引き起こす原因になる場合があります。抗ヒスタミン薬にはヒスタミンのはたらきを抑える作用が認められているため、花粉症の治療薬などに使われているのです。
一方、ヒスタミンのはたらきが抑えられると脳の活動も低下し、眠気に至る場合があります。
食事性低血圧
食事性低血圧も眠気の原因です。食事性低血圧とは、食事をしたあとに急激に血圧が下がる症状を指します。
食後には内蔵の血管が拡張して多くの血液が流入するため、脳の血液が減るとともに低血圧となります。脳の血圧が低下し酸素不足になるため、眠くなりやすいのです。
軽度の場合はふらつきを起こす程度であるものの、重度では強い立ちくらみによって気を失う場合もあるため注意が必要です。
内科系疾患
内科系疾患も眠気の原因になる場合があります。なお内科とは、次のような一般的で頻度の高い症状に一次的に対応する診療科です。
- 風邪
- インフルエンザ
- 発熱
- 頭痛
- 腹痛
- 胃腸炎
- 咳
- 発疹
- 関節痛
- アレルギー疾患
人間は何らかの異常が生じたときに体を休ませようと作用する場合があり、眠気につながります。
内科系疾患の場合は、薬物療法を通じて眠気が次第に収まるのが一般的です。
慢性硬膜下血腫
慢性硬膜下血腫は、硬膜と脳の間に血液(血腫)が貯まってしまう疾患です。
血腫が大きくなるにつれて、認知機能の低下や意欲・活動性の低下が生じます。周囲の方からすると、寝てばかりになったと見られる場合もあるでしょう。
高齢者の血管はもろいため、軽く頭部に衝撃があっただけでも硬膜下血腫を起こす可能性があります。治療には手術を要するため、早期発見が非常に重要です。
女性より男性に多い疾患のため、特に2週間以上前に頭部に外傷を受けた男性は注意すべきでしょう。
認知症で寝てばかりになるとどのような問題が生じる?
もし、自分の家族が認知症で寝てばかりになっても、「病気が原因じゃないなら大丈夫」そう感じる方も多いかも知れません。しかし、認知症で寝てばかりになると、次のような問題が生じる可能性があります。
- 誤嚥してしまう
- 転倒や転落などにつながる可能性がある
なぜこのようなリスクが高まるのか、どのようなサポートが必要なのか、詳しい内容も紹介しますので、ぜひ確認してください。
誤嚥してしまう
認知症で寝てばかりになると、食事中に誤嚥してしまう危険性が高くなります。寝てばかりになるのと同時に意識の清明度・注意力が低下しているため、よく噛まずに食べ物を飲み込み、誤嚥のリスクが高くなってしまうのです。
また、飲み込む力が弱くなるほか、姿勢が悪くなりがちであるのも原因の一つです。
飲食物や唾液が気道に入り込むと、通常はむせたり咳をしたりするなどの反射によって排出しようとします。しかし、高齢になるほど気道から排出しようとするはたらきが弱くなり、誤嚥をしやすくなります。その結果、誤嚥性肺炎に至る可能性もあるため注意しましょう。
周囲の方は、認知症の方に対してよく噛んで食べるよう促したり、ベッドで食べる場合は適切な環境を作ったりすることが大切です。ベッド上で、自力摂取する場合は背もたれを45~60度程度、介助の場合は30度程度に調整しましょう。
転倒や転落などにつながる可能性がある
認知症で寝てばかりになると、筋力や集中力の低下に繋がります。その結果、転倒や転落をしてしまう場合も少なくはありません。
うとうとしながら椅子から立ちあがろうとして、そのまま転倒してしまうケースも多く見られます。立ち上がりや階段の上り下りをする場合などは、特に注意しましょう。
できる限り目を離さず、事前に覚醒を促すなどの対応が必要です。「気をつけてね」などの注意喚起をしながら、介助するのもよいでしょう。
認知症で寝てばかりになったらどう対処する?
認知症で寝てばかりになった場合、病気が隠れていたり、誤嚥や転倒などのリスクが高まったりすると説明しました。認知症で寝てばかりになった場合、どのように対処すればよいのか、悩む方も多いと思います。
具体的な対処方法は次のとおりです。
- 病院で医師の診断を受ける
- こまめに水分をとってもらう
- 活動量を増やす
それぞれ詳しく解説していきます。
病院で医師の診察を受ける
気になった点があれば病院で医師の診察を受けましょう。寝てばかりになる背景には、さまざまな疾患が隠れています。そのため、実際に問診をした結果得られる医師のアドバイスが何よりも重要なのは言うまでもありません。
問診の際には、生活をしているうえで気づいた些細な点も医師に伝えるようにしましょう。些細な変化が、医師による適切な判断のきっかけとなる場合も少なくありません。
こまめに水分をとってもらう
水分が不足すると、脳のはたらきが低下する場合があります。そのため、少しでも認知機能の低下を防ぐために、こまめに水分をとってもらうようにしましょう。
特に高齢者は喉の渇きを感じにくくなるほか、周囲に伝えられにくくなります。
具体的には、次のタイミングでコップ1杯(200ml)ほどの水分を飲むのが理想的です。
- 起床時
- 食事中
- 入浴前
- 就寝前
- そのほか1~2時間ごと
ただし、飲み過ぎると胃腸に負担がかかるため注意しましょう。
活動量を増やす
日中に寝てばかりになったら、日中の活動量を増やすよう心がけましょう。具体的には次のような方法が挙げられます。
- 積極的にコミュニケーションをとる
- 散歩をする
- ストレッチをする
- 趣味活動を行う
テレビを見るなど受け身な活動ではなく、自ら体を動かしたり、他者と関わったりするような活動が理想的です。活動量を増やすと良質な眠りを期待できるだけでなく、脳を刺激して認知症の進行を抑える効果も期待できます。
寝てばかりで認知症かなと思ったら病院で診察を受けてみよう
寝てばかりで認知症かなと思ったら、病院で医師の診察にかかりましょう。もちろん、認知症とは関係がなく加齢が原因の場合もあります。しかし、認知症かどうかの診断や適切なアドバイスができるのは、医師だけです。認知症ではなく、そのほかの疾患が隠れている場合もあります。
そのため、少しでもいつもと様子が違うと気づいたら、早めに病院に受診することが大切です。早め早めの行動が、本人へのリスク軽減につながります。
アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症の症状の一つに睡眠障害が挙げられています。初期は不眠で昼夜逆転してしまう例もありますが、進行すると一日中寝ている過眠が多くなります。また、血管性認知症の症状として無気力が挙げられており、無気力が原因の場合も考えられるでしょう。詳しくはこちらをご覧ください。
気になる点があれば、病院に行って医師の診察を受けましょう。寝てばかりになる背景には、さまざまな疾患が隠れている可能性もあります。こまめに水分をとったり、散歩やストレッチ、趣味活動など活動量を増やしたりすることも重要です。詳しくは、こちらをご覧ください。