親の通院に付き添い、買い物や掃除を引き受けていると、ガソリン代や立て替えた日用品費が積み重なります。
実費を返してもらうだけでよいのか、介護という労働の分も対価として受け取ってよいのかで迷う人は少なくありません。
結論として、実費も労働の対価も、親から受け取ることに法律上の問題はありません。
この記事では、担っている介護が月いくらに換算できるのかを早見表で示し、金額の決め方と受け取るときの注意点まで説明します。
親の介護でお金をもらうのは問題ない
親の介護をしてお金を受け取ることは、法律でも道義でも認められています。
理由は以下の3つです。
- 民法に、介護を担った子が対価を受け取ることを禁じる規定がない
- 同じ介護をプロに頼めば有償であり、家族がやる場合だけ無償になる根拠がない
- 主に介護を担っている人に負担が偏ったまま放置するほうが、家族関係を壊しやすい
実際、介護保険では食事や排泄の介助に1回あたり387単位(約3,870円)という公定価格がついています。
結論:法的にも道義的にも問題ない
親子のあいだにあるのは扶養義務です。
民法第877条第1項は「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と定めています。
ここでいう扶養は、生活を経済的に支える義務です。
子が無償で介護労働を提供しなければならない、という意味ではありません。
親の介護を担った子がその対価を受け取ることを禁じる条文は、民法にも他の法律にも置かれていません。
国税庁も、扶養義務者どうしが生活費をやり取りすることを前提に非課税の取り扱いを設けています。
やり取り自体が制度上想定されている、ということです。
もらってよい3つの理由
「法律上は問題ない」と言われても、気持ちの面で引っかかる人は少なくありません。
受け取ってよい理由を、負担の実態から3つに整理します。
・介護は時間と労力を大きく奪う労働で、同居の主な介護者の15.8%が「ほとんど終日」を費やしている
・同じ内容をプロに頼めば有償で、身体介護は1回387単位(約3,870円)の公定価格がついている
・負担とお金の偏りを放置するほうが、あとから家族間の不満や相続トラブルにつながりやすい
1つめは、介護が実際に重い労働だという事実です。
厚生労働省の2025(令和7)年国民生活基礎調査によると、要介護度が上がるほど介護時間は長くなります。
出典:厚生労働省「2025(令和7)年国民生活基礎調査の概況」図27をもとに作成
2つめは、同じ仕事に値段がついているという事実です。
介護保険では身体介護30分以上1時間未満が387単位、生活援助45分以上が220単位と決められています。
プロがやれば有償の作業を、家族がやったときだけ0円と評価する理由はありません。
3つめは、偏りを放置するリスクです。
出ていくお金を1人が抱えたままにすると、あとから不満や相続の争いに発展しやすくなります。
兄弟間の不公平感については、以下の記事で詳しく解説しています。

主に介護を担うなら対価は自然
介護は、家族のなかの誰か1人に集中しやすい仕事です。
2025年国民生活基礎調査では、「ほとんど終日」介護している人の28.9%が要介護者の子でした。
配偶者が64.6%で最も多く、次に多いのが子という構造です。
つまり、親を終日介護している子が全国に一定数いる、という前提で制度も統計もできあがっています。
一人っ子であれば、担い手はほかにいません。
兄弟がいる場合でも、実際に手を動かしているのが自分なら、その労力に対価がつくのは自然な考え方です。
誰がどれだけ費用を負担するかという分担の話や、一人っ子で介護を抱えている場合の考え方は、以下の記事で整理しています。


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親の介護でもらうお金はいくらが妥当?目安と決め方
介護の対価には、公的に定められた相場がありません。
そこでこの記事では、「同じ介護を外部に頼んだらいくらか」を計算根拠に金額を決めます。
具体的には以下の順で進めます。
- 担っている介護の内容と回数から、外部委託した場合の月額を早見表で確認する
- 換算のもとになる介護保険と家事代行の実際の料金を押さえる
- 立て替えた実費を下限、換算額を上限として、親の家計に収まる額に調整する
- 単発の送迎や泊まり込みは、日当・時給の考え方で単価を出す
週4回・1回45分の身体介護を担っている場合、外部委託すると月およそ6万2,000円になります。
【早見表】介護内容・頻度別の金額目安
下の早見表は、介護保険の訪問介護の公定価格と家事代行の料金をもとに、担っている介護を月額へ換算したものです。
実費だけを返してもらうなら下限、労働の分まで対価として受け取るなら上限に近づきます。
実際の金額は、その幅のなかで親の家計に合わせて決めます。
上限額の内訳は次のとおりです。
通院の送迎は、通院等乗降介助97単位の往復分に、付き添い3時間分を家事代行の時間単価で足しています。
家事は生活援助45分以上の220単位、食事や排泄の介助は身体介護30分以上1時間未満の387単位で換算しました。
終日の介護は、身体介護1時間以上1時間30分未満の567単位に30分ごと82単位を加える計算で、1日6時間なら1,305単位です。
終日の介護をすべて外注すると月39万円規模になります。
親の年金だけで払える額ではないため、実際には親の家計に収まる範囲へ落とし込みます。
根拠はプロに頼んだ場合の料金
早見表の換算に使った単価をまとめます。
介護保険のサービスには国が決めた公定価格があり、保険を使わない家事代行にも各社の公表料金があります。
出典:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」、CaSy公式サイト、ダスキン メリーメイド公式サイト(いずれも2026年9月確認)
単位数に地域ごとの単価を掛けたものが実際の料金です。
訪問介護の1単位は10円が基本で、都市部では最大11.40円まで上がります。
ここで押さえておきたいのは、上の金額が1割負担後の自己負担額ではなく、サービスの全額だという点です。
利用者が窓口で払うのは1割から3割ですが、残りは介護保険から事業者へ支払われます。
つまり387円ではなく3,870円が、その介護の社会的な値段ということになります。
訪問介護の料金の詳しい仕組みは、以下の記事で解説しています。

自分の金額を決める3ステップ
早見表はあくまで平均的なケースです。
自分の場合の金額は、次の3ステップで出します。
・ステップ1:直近1か月に担った介護を、内容と回数と所要時間で書き出す
・ステップ2:書き出した内容を前項の単価表に当てはめ、月額に換算する
・ステップ3:親の年金と預貯金から無理なく出せる額まで下げ、実費との幅で決める
ステップ1では、感覚ではなく事実を並べます。
「通院の送迎が月2回」「買い物が週2回で1回1時間」のように、回数と時間を数字で書き出してください。
ステップ2は単価を掛けるだけの作業です。
食事や排泄の介助が入るなら身体介護の387単位、家事だけなら生活援助の220単位を使います。
ステップ3が、実際の金額を決める工程です。
親の年金月額が、渡せる金額の天井になります。
厚生労働省の「令和8年度の年金額改定について」によると、老齢基礎年金の満額は1人分で月7万608円です。
厚生年金の加入期間が20年以上ある男性の平均は月17万6,793円、女性の平均は月13万4,640円でした。
親の年金から、親自身の生活費と医療費、介護保険サービスの自己負担を引いた残りが原資になります。
換算額をそのまま請求できる家庭は多くありません。
日当・時給で決める場合の考え方
毎月定額ではなく、単発の送迎や泊まり込みごとに受け取る方法もあります。
この場合は時給と日当に換算して単価を決めると、根拠を示しやすくなります。
時給の目安は、身体介護30分以上1時間未満の387単位から約3,900円です。
家事だけなら家事代行の定期料金にならって1時間2,790〜3,190円が目安になります。
日当は、身体介護の時間区分を積み上げて計算します。
1時間以上1時間30分未満が567単位で、以降は30分ごとに82単位が加わる仕組みです。
この計算で1日6時間なら1,305単位、金額にして約1万3,000円が上限の目安になります。
泊まり込みで夜間の対応がある場合、介護報酬では夜間・早朝が25%増、深夜が50%増と設定されています。
単発の通院送迎だけなら、乗り降りの介助が片道970円、往復で約1,940円です。
往復1,940円に付き添い時間分とガソリン代などの実費を足した額が、1回あたりの目安になります。
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親の介護でお金をもらうときの注意点
金額が決まったら、受け取り方でつまずかないように3点を確認します。
押さえるべき注意点は以下のとおりです。
- 生活費として必要な都度受け取る分には贈与税がかからないが、貯金に回すと課税されうる
- 親の同意なく預貯金を引き出すと、刑事罰は免れても民事上の返還義務や相続トラブルが残る
- 受け取った記録を残しておくと、相続で寄与分を主張するときの材料になる
特に贈与税は、年間110万円の基礎控除と「都度直接充てる」という条件の2つを押さえれば判断できます。
贈与税は基本かからない
親からお金を受け取っても、生活費として使う分には贈与税がかかりません。
国税庁のタックスアンサーNo.4405「贈与税がかからない場合」に定めがあります。
非課税になるのは、扶養義務者から生活費や教育費として受け取る財産のうち「通常必要と認められるもの」です。
ここでいう生活費には、治療費や養育費など日常生活に必要な費用が含まれます。
ただし条件があります。
「生活費や教育費として必要な都度直接これらに充てるためのもの」に限られるという点です。
出典:国税庁タックスアンサーNo.4405、No.4402(いずれも令和7年4月1日現在法令等)
謝礼として受け取る分についても、暦年課税の基礎控除があります。
国税庁のタックスアンサーNo.4402によると、1月1日から12月31日までの1年間に受け取った財産の合計額から110万円を差し引きます。
月3万円なら年36万円、月9万円でも年108万円で基礎控除の範囲に収まります。
月10万円を超える設定にする場合は、年間の合計額を確認してください。
親の預貯金を勝手に使うのはNG
親の口座からお金を引き出すときは、必ず親の同意を得てください。
同意のない引き出しは、後から「使い込み」として問題になります。
刑事罰の面では、親族間に特例があります。
刑法第244条第1項は、配偶者・直系血族・同居の親族との間の窃盗について「その刑を免除する」と定めています。
ただし刑が免除されるだけで、問題が消えるわけではありません。
無断で引き出した分には民事上の返還義務が生じ、相続の場面では使途不明金として争いになります。
親の判断能力が下がってきた場合、口頭の同意だけでは後から立証できません。
成年後見制度や任意後見契約など、正式に代理権を得る方法をケアマネジャーや専門家に相談してください。
記録を残して相続トラブルを防ぐ
受け取った記録は、将来の自分を守る材料になります。
記録がないと、相続のときに「いくら受け取ったのか」を説明できません。
・立て替えた費用のレシートと領収書(日付・金額・用途がわかるもの)
・親から受け取った金額と日付を記した出納メモ、または振込履歴
・担った介護の内容と時間の記録(月ごとの回数と所要時間)
・金額の決め方について家族と合意した内容のメモ
記録は相続で寄与分を主張するときの証拠にもなります。
民法第904条の2は、被相続人の療養看護で財産の維持や増加に特別の寄与をした相続人の寄与分を定めています。
相続人でない親族には、民法第1050条の特別寄与料という制度があります。
被相続人に対して無償で療養看護をした親族が、相続人に金銭を請求できる仕組みです。
特別寄与料には期限があります。
相続の開始と相続人を知った時から6か月、または相続開始から1年を過ぎると請求できません。
まとめ:親の介護でもらうお金は堂々と受け取ろう
親の介護でお金をもらうことに、法律上の問題はありません。
迷いの本体は金額のほうで、公的な相場が存在しないぶん、自分で根拠を作る必要があります。
まずは直近1か月に担った介護を、回数と時間で書き出すところから始めてください。
数字にすると、親に切り出すときも担っている介護の量を事実で説明できます。
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※本記事の介護報酬の単位数は令和6年度改定後のもの、年金額は令和8年度のものです。制度改定により変更される場合があります。