研究室ではリハビリや介護用の機器を開発していますが,取り回し性能を高めるために電力消費に関して気を使って設計を進めています.今回は介護ロボットが人間に比べて,現時点でどの程度の能力を有しているのかについて考えます.
大阪工業大学・工学部・機械工学科
日本機械学会
大阪大学大学院工学研究科にて博士(工学)取得.2013年より大学教員となり,脳卒中患者や高齢者用の福祉介護機器の研究開発に従事.開発中の機器としては,手指リハビリ用装具,腕振り歩行器,起立動作訓練機,体重免荷式アシストスーツ,階段昇降機能付き車いす,上肢リハビリ装置など.製品化を目指して製作を進めている.
表1に人間と各種機械を比較してみました.さらに,表2にはそれぞれがどの程度のエネルギーを扱うことができるのかをまとめてみました.
表1 比較表
種別 | エネルギー源 | 運動機関 | 家庭内での安全性 |
Ⅰ)ガソリンで動く機械 | ガソリン | エンジン | × |
Ⅱ)人間 | 食品 | 筋肉 | 〇 |
Ⅲ)電池で動く機械 | リチウムイオン電池 | モータ | △ |
表2 エネルギー密度
種別 | A)エネルギー密度 [Wh/kg] | B)効率 | C)出力 [Wh/kg] | D)出力 (比率) |
Ⅰ)ガソリンで動く機械 | 12,000 | 0.15 | 1,800 | 12.5 |
Ⅱ)人間 | 1,800 | 0.16 | 288 | 2 |
Ⅲ)電池で動く機械 | 180 | 0.8 | 144 | 1 |
A)エネルギー密度はエネルギー源が1kgあたりにどの程度のエネルギーを蓄えているかを表します.食品のエネルギー密度は日本人の主食である,ご飯を元にしました. B)効率に関して,人間に関する効率については「消化吸収率(0.8)×筋肉の活動に使われる割合(0.5)×筋肉の効率(0.4)」から算出しています(※この数値については諸説あるので,誤差はあります).C)出力はA)エネルギー密度×B)効率です.D)出力(比率)は電池で動く機械の出力を1とした場合の値です.
重要なのはD)出力(比率)です.ガソリン機関の出力が一番ですが,家庭内での安全性に問題があるので,ここからは人間vs.電気で動くロボットの構図で見ていきます.問題なのは,電池で動く機械が半人前の仕事しかできないということです.これはモータに問題がある訳ではなく,電池に問題があります.蓄えられるエネルギーが非常に低いのです.電池を使うということは,例えるならば人間を毎食お粥1杯で働かせるようなことかもしれません.
数百万年かけて生成される化石燃料や1年かけて作り出される米と違って,数時間でエネルギーを貯めることができる電池は素晴らしい発明です.しかし,エネルギー密度が低いという電池の欠点がゆえに,介護ロボットは人並みの仕事ができません.
ここで,4時間働いた後で食事を1時間とる働き方を考えます(2回繰り返すと標準的な1日の仕事になります).これを介護ロボットの能力に換算すると下記の働き方が考えられます(※充電は急速充電とします).
A) 2時間働いた後に,1時間食事をとる B) 30分働き30分休憩する,を繰り返して4時間後に食事をとる C) 5分働き5分休憩する,を繰り返して4時間後に食事をとる D) 移乗や荷物運びなどの力仕事は一切行わないで4時間働く |
B)~D)は省エネな働き方です.なお,2足歩行は効率が悪いので,段差がない床での移動手段は車輪型がよいです(例えば人間は自転車を使えば徒歩よりもずっと遠くに移動できます).電池を使わずに有線で電力を常に供給する方法もあります.その場合,下記の方式になります.
E) 24時間365日働き続けることができる.ただし常に定位置に座ったままであり,手の届く範囲であれば各種の仕事ができる F) 体は一切動かさないが,脳みそと目・耳・口をフル稼働させて情報処理系の仕事をすることができる |
電池は1個しかないものとしていますが,2つ用意して片方を充電しておき,取り換えるという使い方もあります.しかし1日に何度も充電する手間や,充電し損じがあると大変ですね.自分で充電するロボットは既にありますが,自分で電池を外して充電してくれるシステムを備えたロボットを構成できるのが理想です(小分けした電池を食べ,使用済みの電池を排出するというシステムも面白いです).一方で,人数を増やすという手段もあります.厳正な面接を行わないでも,ひ弱でありますが不平不満を言わずキチンと仕事をこなす介護ロボットが何人も来てくれます.
以上,現状の介護ロボットは少なくとも電池が重すぎるという欠点があるので人間並みの働き方はできません.何をロボットに任せて,何の仕事を電気不要な道具を活用しながら人間単体で行うかが重要となってきます.