入居前の状況
母は一人暮らしをしていましたが、だんだんと物忘れが目立つようになりました。一番心配だったのは火の始末です。住んでいたのがガスコンロの家で、アンペア数が低くてIHコンロにも交換できなかったんです。それで、鍋を焦がすことが何度かありました。一度は味噌汁が真っ黒焦げになるくらい長時間火にかけっぱなしになっていて、本当に火事の一歩手前で…。集合住宅だったので、もしものことがあったらと考えると、気が気ではありませんでした。
買い物も、私が時々連れて行っていたのですが、買ってきたものを冷蔵庫に入れずにおかしな場所にしまっていたり、前日に買ったばかりの食パンを次の日も買ってきて山積みになっていたり。「こんなに食パンどうするの?」と聞いても、本人はあまり気にしていない様子でした。
施設探しを始めたきっかけ
そういったことが続く中で、まずは介護認定を受けてみようということになりました。私自身は、すぐに施設に入れようと思っていたわけではなく、母がどんな状況なのか客観的に把握したかったんです。少し騙すような形にはなってしまいましたが、認定を受けさせたら「要介護」の結果が出ました。母自身も「私ってそんなに変なのかな?」と少しは自覚したようでした。
私は仕事が不規則で、朝早くから夜遅くまで家を空けることも多く、母に何かあってもすぐに駆けつけられないという状況も、施設探しを本格的に考えるきっかけの一つになりましたね。火の不始末が一番怖かったですから。
入居決断時の葛藤・罪悪感
母を施設に入れるということに対して、やはり複雑な思いはありました。最初に見学したグループホームが母には全く合わず、露骨に嫌な顔をしていたのを見た時は、「このままではいけない」と焦る気持ちと同時に、母に申し訳ないという気持ちも感じました。
今の施設を見つけ、母が「ここならいい」と言ってくれた時は本当にホッとしました。ただ、空きが一つしかないと聞き、その場で入居を決めなければなりませんでした。「もうここを逃したら、またあのグループホームのようなところを探さないといけなくなるかもしれない。あなたの年金で入れる良いところは、そうそう見つからないよ」と、少し強引に聞こえるかもしれませんが、母の目の前で「ここに決めるからね」と手続きを進めました。本当はもっと時間をかけて、母の気持ちを丁寧に聞きながら進めたかったのですが、火事の危険性を考えると一刻も早く安全な場所を確保したいという思いが勝ってしまったんです。その時は、これで本当に良かったのだろうかという葛藤も少なからずありました。
見学時の施設に対する不安
最初に見学したグループホームでは、母が認知症の進んだ方が多い環境や、部屋にトイレがない点などを非常に嫌がったため、次の施設を探す上では「母が納得してくれるか」という点が一番の不安でした。
今の施設は「住居型」というタイプで、見学の際に各部屋にトイレ、小さな冷蔵庫、流し台があると説明を受けました。トイレがカーテンのような仕切りだった点は少し気になりましたが、母自身が「自分の部屋にあるからいい」「これなら一人暮らしと変わらない」と気に入った様子だったので、そこは大きな問題にはなりませんでした。むしろ、日中もリビングにいても自室にいても良いという自由度の高さが、母にとっては魅力的に映ったようです。
見学時には、スタッフの方々が母の様子をよく見て、丁寧に説明してくださったので、私自身の不安は徐々に解消されていきました。ただ、実際に生活を始めてみないと分からないことも多いだろうという点は、やはり少し心配でしたね。