高齢の方が「転倒して寝たきりになったらどうしよう」「高齢者ができる歩行訓練メニューには何があるのだろう」と不安に思っている方も多いのではないでしょうか。
自分の足が動く限り、買い物や旅行などに出かけたいと思う方もいるでしょう。
この記事では、高齢者の歩行訓練メニューや効果、歩行訓練の必要性について解説していきます。この記事を参考にして、日常生活動作の向上を目指し、健康的な暮らしを実現してください。
高齢者の歩行訓練メニューにはどんなものがある?
高齢者の歩行訓練メニューは、主に以下の6つです。
- 前歩き
- 横歩き
- 後ろ歩き
- 大股歩き
- 縦足歩き
- ニーヴェントウォーク
このように歩行訓練といっても、ただ単に歩く練習をするわけではありません。この訓練を行う目的は、筋力やバランス能力を鍛えることです。
トレーニングメニューによって鍛えられる筋肉の箇所が異なるため、正しい訓練を行って効率よく筋力アップにつなげましょう。
ここからは、歩行訓練メニューごとに鍛えられる箇所や、訓練のポイントを解説していきます。
前歩き
前歩きとは、日常で行っている歩行です。部分的なアプローチではなく全体的にバランスよく筋力アップができます。
前歩きは長時間の歩行で効果が得られるため、普段からお出かけや散歩に出かけるなどして、日常の動作から歩くことを意識していきましょう。
歩行訓練を行う場合は、正しい姿勢を保ちながら歩行ができているかを確認しながら訓練を行ってください。効率的かつスムーズな歩行を意識して訓練する必要があります。
前歩きでは、特に注意するポイントはありませんが、普通の歩き方と異なる場合は、歩き方の特性を知り歩行訓練をしていきましょう。
横歩き
横歩きとはカニ歩きともいわれており、横方向に進む歩き方です。股関節外転筋(中殿筋など)の筋肉を強化する効果があります。
膝や足の痛みを抱えている方の中には、痛みが出ている場所を庇うように歩いた経験があるのではないでしょうか。
庇うような歩き方を長く続けてしまうと、股関節外転筋の筋力が低下してしまいます。その影響で骨盤が前に倒れるため、前傾姿勢になってしまう方も少なくありません。
横歩は、股関節を広げたときに太ももの外側の筋肉を意識して動かすのがポイントです。横歩きをしていると前かがみになりやすく、本来筋力をつけたい股関節外転筋へのアプローチが低くなってしまいます。
横の動きに必死になると姿勢が崩れやすくなるので、初めはゆっくりと姿勢を確認しながら進めていきましょう。動きに慣れてきた段階で、テンポを速くしたり、動きに強弱をつけたりしてください。
どこに効いているかを確認しながら訓練を行えば、正しい姿勢でトレーニングができるため、効率よく筋力アップができるでしょう。
また、横歩きの歩行訓練は、地面に足をつけて行う運動である「CKCトレーニング」としても効果的です。
より中殿筋の強化を目指した横歩きの歩行訓練は、ゴム製のトレーニング用品であるセラバンドを利用して行います。肩幅に両足を開いて、セラバンドを両足が一周するように巻き、横歩きをします。バンドの強度を上げることで負荷を増やせるため、効率よく鍛えられます。
負荷をつけて効率よく鍛えたい方は、横歩きの歩行トレーニングを取り入れてみてください。
後ろ歩き
後方に向かって歩くトレーニングが後ろ歩きです。体は前を向いたまま後ろ方向に進むため、前歩きでは使わない筋力を鍛えられます。
後ろ歩きは、おもに足のつま先を上げる動きと足指を伸ばす動き、スネ前側の筋肉を収縮させる動きの3つに効果的です。3つの筋肉を鍛えると、しゃがみ動作ができるようになるため、立ったり座ったりの動作がスムーズに行えるようになるでしょう。
前歩きに比べると後ろ歩きは筋活動量が増えるため、効率よく筋力アップが狙えます。股関節の伸展を促し、後方へ転倒する際の反応を高めることもできます。
ただし、後ろ歩きの訓練の際には転倒に注意しなければいけません。進行方向が見えないため、どうしても振り向いてしまいます。
振り向くと同時にバランスを崩して転倒してしまう可能性があるため、訓練をする際はすぐ近くで見守りましょう。転倒しそうになった際は、受け止められるように常に構えておいてください。
転倒に注意しながら、無理のない範囲で歩行訓練を進めましょう。
高齢者の中には転倒リスクを考えて、後ろ歩きの歩行訓練を拒否する方もいるかもしれません。拒否反応が見られた場合は無理に訓練をさせるのではなく、まずは後ろ歩きによって得られる効果を伝えていきましょう。
例えば内開きのドアを開ける際に、後ろに下がりながら開けると思います。または、床にあるものを拾う場合は、しゃがみ動作をしなければいけません。
このように実際に日常で利用できる動作だと認識してもらえれば、意欲的に取り組んでくれる可能性が高くなるでしょう。
大股歩き
大股歩きとは、普通の歩幅より大きく大股で歩くことです。
広い歩幅だと蹴り出す力が強くなるため、下肢の関節可動域が広がります。可動域が広がれば、下半身全体の筋肉を大きく使うため、足腰が鍛えられ歩行能力が高められるといわれています。
小刻みに歩行してしまうパーキンソン病の方にも効果的で、大股歩きを意識して歩いてもらうと、歩き方が改善されます。普段から小股で歩きがちな方は、大股歩きを心がけて下半身の筋力アップを目指しましょう。
続いて、大股歩きの歩行訓練の方法を紹介します。
「大股歩きを意識してください」と本人に伝えて、はじめは意識して大幅で歩いていても、徐々にいつもの歩幅で歩いてしまうことが多く、目印をつけて訓練を行いましょう。
例えば、床に等間隔でテープを貼って、線を超えるように歩いてもらいます。目印があれば自然と大股で歩きやすいでしょう。
大股歩きの効果をより実感したいのであれば、以下の2点を意識してください。
- ゆっくりと進める
- 両足に体重をかけながら重心を前にする
早く歩こうとしたり、ふらつきながら進めたりしても、思ったような効果が現れづらくなります。きちんと効果を得たい方は、焦らずていねいに実践してください。
縦足歩き
縦足歩きとは、平均台の上を歩くように片方の足の爪先に、もう片方の足のかかとをつけて、交互に前に足を出しながら歩くことです。歩幅が小さく、体重を支えるのに必要な床面積が狭くなるため、バランス力が重要になります。
継ぎ足歩行や、タンデム歩行とも呼ばれている歩行訓練です。
縦足歩きの歩行訓練を行えば、股関節や骨盤の周辺の筋肉、体幹が鍛えられます。腰回りが安定すると、バランスが取りやすくなるため、縦足歩きがスムーズにできるでしょう。
実際のトレーニング方法ですが、初めから縦足歩きをするのはハードルが高いので、段階を踏んで進めていきます。
まずは、平行棒を利用してバランスを取りながら歩行訓練をしましょう。両手で支えながら歩くため、転倒リスクが軽減します。
平行棒の間には平均台をイメージして、テープを真っ直ぐに貼ってください。その上を歩きながら進むように声かけをすると、歩きやすくなります。
少しずつバランスが取れるようになれば、片側を外しましょう。最終的には平行棒なしで、縦足歩きができるように訓練を行ってください。
ただし平行棒なしでの縦足歩きは、転倒リスクが高まります。万が一のことも考えて、必ず近くで見守るようにしましょう。
つま先とかかとを付ける継ぎ足が難しい方は、つま先とかかとの間を少し開けてもかまいません。間隔を開けるとバランスが取りやすくなるため、歩行トレーニングがスムーズにできます。
少しずつ継ぎ足の体勢が取れるように、リハビリをしていきましょう。
ニーヴェントウォーク
ニーウェントウォークとは、膝を曲げて重心を下げて、両手を前に突き出しながら進む歩行訓練のことです。
背筋を伸ばした状態で膝を曲げ、かかとから下ろすイメージで、つま先を上げて足を出します。膝の角度は90度が好ましいですが、難しい場合は無理のない範囲で曲げましょう。
繰り返し訓練をすれば、徐々に角度をつけて膝を曲げられるようになります。
ニーヴェントウォークは難易度が高い歩行訓練のため、下半身の筋力が必要です。無理をするとケガにつながる可能性があるので、訓練の際は十分注意しながら行ってください。
筋力やバランス力に自信のない方は、前歩きや後ろ歩き、横歩きなどから始めましょう。筋力がついてきたころにニーヴェントウォークを導入をすると、トレーニングがスムーズに進むはずです。
ニーヴェントウォークのあとは、前ももと膝抱えのストレッチをして、使った筋肉をほぐしてあげましょう。
ピッタリの施設を提案します
高齢者の歩行訓練メニューは歩くだけではない
高齢者の歩行訓練メニューは歩く以外にも方法があります。
例えば、以下のようなトレーニングです。
- イスに座って足上げ運動
- タオルを使った運動
- その場で足踏み運動
- 太ももの内側と股関節まわりのストレッチ
歩行訓練と併用して、下半身を中心とした筋トレを行うとより効果的なので、ぜひ今から紹介するトレーニングにも挑戦してください。
イスに座って脚上げ運動
イスに座って脚上げ運動をすると、太ももの前側の筋肉や体幹と下半身をつないでいる筋肉である腸腰筋が鍛えられます。
脚上げ運動を行えばイスからの立ち上がりや、階段の上り下りがスムーズになるでしょう。
脚上げ運動のやり方は、以下のとおりです。
- 背もたれに寄りかからず、背筋を伸ばしてイスに座る
- 少し膝を伸ばした状態で膝の角度をキープしながらゆっくりと上げ下ろしをする
この動きを、左右10回ずつ行いましょう。上げ下ろしの際に、床にかかとがつかないようにして、呼吸は止めないように注意してください。
タオルを使った運動
タオルを使った運動は、太ももにある体の中で1番大きな筋肉を鍛えられます。タオルを持ちながらの運動になるため、同時に握る力や引く力の筋力アップが期待できます。
タオルを使った運動のやり方は、以下のとおりです。
- タオルを縦半分に折り、細長い状態にする
- かかとにタオルを引っ掛け、膝と肘を少し曲げて足を持ち上げる
- 引っ張り合いをするように、足を持ち上げて腕を引きながら足でタオルを押す
- 力を入れた状態で5秒間キープ→力を緩める→5秒間キープを繰り返す
この運動を10回3セット行いましょう。
引っ張り合いの状態になっているときは、かかとでタオルをグッと押すのがポイントです。
その場で足踏み運動
その場で足踏み運動は、足の付け根にある腸腰筋を鍛えられます。有酸素運動としての効果もあり、筋肉への負担が少ないため、高齢者でも取り組みやすいでしょう。
その場で足踏み運動のやり方は、以下のとおりです。
- 背筋を伸ばして、少し浅くイスに座る
- 腕を振りながら、その場で足踏み
約3分間行ってください。
腕振りは前に動かすのではなく、後ろに引くように意識するのがポイントです。
太ももの内側と股関節まわりのストレッチ
歩行訓練において、太ももの内側と股関節まわりのストレッチは重要です。
太ももの内側や股関節まわりが硬い方は、股関節の可動域が狭くなっています。股関節まわりのストレッチをして、柔軟性を高めてください。
太ももの内側と股関節まわりのストレッチには、血流を良くする効果も得られます。
以下の手順で行うと、座ったまま太ももの内側のストレッチが可能です。
- イスに浅く座る
- 両足を大きく開き、両手を両足の膝の近くに置く
- 右の手のひらで右の膝を外側に押す(左も同様)
手で膝を押すのと同時に、膝は内側へ力を入れるとより効果的です。
高齢者の歩行訓練はなぜ必要?
高齢者の歩行訓練がなぜ必要なのかというと、歩くことは心身ともに健康に生活するために重要な運動機能だからです。
「歩行能力の低下=日常生活動作レベルの低下」といわれているほど、歩行と健康には深い関係があります。
普段から歩かなくなってしまうと、筋力が低下して歩けなくなったり、精神的に落ち込みやすくなるためうつ状態になる方も少なくありません。
つまり、心身ともに健康的に長生きするためにも、歩行訓練は重要なトレーニングです。
高齢者の歩行の特徴
高齢者の歩行の特徴は、主に以下のとおりです。
- 歩行速度が遅くなる
- 歩幅が狭くなる
- 一定時間に進んだ歩数の減少
- 体幹が前傾する、円背になる
- 股関節や膝関節、足関節の可動域が狭くなる
- 筋力の低下が原因で足が上がりにくくなる
- 床に足底が着いて身体を支える時間が少なくなる
どれか1つでも思い当たる節があれば、歩行訓練を開始しましょう。
元気に歩けている状態から始めれば、機能低下が緩やかになるはずです。
歩行訓練による効果
歩行訓練によって得られる効果は、主に以下のとおりです。
- 運動不足解消
- 生活習慣病予防
- 肩こりや冷えの解消
- ストレス解消
- ケガ防止
- 便秘改善
- 睡眠改善
- 血圧や血糖を下げる
歩行訓練を行うと肩こりや冷え性を改善でき、血圧や血糖を下げられるため、健康的な暮らしが実現します。
また体の健康だけでなく、人との関わりを持つことでストレス発散にもなります。認知症予防にもなるため、歩行で得られる効果は大きいでしょう。
ピッタリの施設を提案します
歩行訓練に加えて生活環境も整えよう
高齢者が行う歩行訓練には、さまざまなものがあります。歩行訓練の効果は下半身の大きな筋肉と体幹が鍛えられます。
また歩行訓練は歩くだけでなく、下半身の筋力を鍛える運動もあります。テレビを見ながらでもできるトレーニングなので、ぜひすきま時間にチャレンジしてください。
歩行能力の低下は、高齢者の日常生活動作に関連しているといわれており、歩行訓練の重要性が分かります。個々に合わせた訓練を行い、健康的な生活を送りましょう。
高齢の方が転倒する場所の多くは自宅です。転倒予防のためには、在宅の生活環境を整えることも大切です。
高齢者では、下肢の筋力を強化しながら身体の活動向上が大切です。各自が自分に合った運動をして身体活動の維持が高齢者の転倒予防につながるでしょう。また、転倒の危険因子を一つでも減らし、危険な生活環境を改善することも重要です。詳しくはこちらをご覧ください。
高齢者の場合、何らかの疾患を抱えていたり、不意に体調を崩したりしてしまいます。本人の体調に合わせて、無理のないよう続けていきましょう。詳しくはこちらをご覧ください。