ADLとは?分類から評価方法や実際に行っている訓練内容を解説

ADLとは?分類から評価方法や実際に行っている訓練内容を解説

ADLとは、トイレや着替え、掃除など日常生活において欠かせない動作のことです。患者さんの身体の状態把握や、リハビリテーションでは改善度の指標にもなります。

今回は「ADLとは」に併せて、実際に専門家がADLをどう評価しているのか、ADLの低下を防ぐ方法などを解説していきます。皆さんもADLについて知っておくと、医師や看護師の話を理解できるようになるためご家族の状態を把握でき、介護の役に立てられるはずです。ぜひ最後までご覧ください。

東京都健康長寿医療センター 脳神経内科 部長
監修岩田 淳
所有資格:総合内科専門医,日本内科学会認定医,日本神経学会認定神経内科専門医・指導医.日本脳卒中学会認定脳卒中専門医・指導医,日本認知症学会専門医・指導医
専門分野:脳神経内科
職業: 医師
出身組織: 東京大学大学院医学系研究科

東京大学医学部附属病院神経内科の専門外来「メモリークリニック」にてアルツハイマー病(AD)やレビー小体病、前頭側頭葉型萎縮症等の疾患の診断、治療に従事。早期段階のAD、レビー小体型認知症の診療が専門。2020年4年より東京都健康長寿医療センターの脳神経内科部長として赴任。詳しくはこちら

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ADL(日常生活動作)とは?

ADLとは日常生活動作のことです。日常生活を送るうえで必要不可欠な動作になります。具体的な項目は次の通りです。

  • ベッドや床から起き上がる(起居)動作
  • ベッドやトイレに乗り移る(移乗)動作
  • 移動(車いすや歩行)動作
  • トイレ(排泄)動作
  • 更衣動作
  • 入浴動作
  • 整容動作
  • 掃除機をかける
  • 買い物に行く
  • 洗濯をするなど

生活動作ごとの評価によって、一人ひとりのできる動作、できない動作の把握に役立ちます。リハビリテーションにおいては改善度の指標にもなる重要な要素です。

ADLの分類

ADLは、BADL(基本的日常生活動作)とIADL(手段的日常生活動作)の2つに分類されています。具体的にBADLとIADLがどういったものか、詳しく見ていきましょう。

BADL(基本的日常生活動作)

BADL(基本的日常生活動作)は、生活において基本的な生活動作で「起居動作」「トイレ動作」「更衣動作」などを含みます

医療現場ではADLと述べると、基本的にBADLを指す場合が多いです。つまり、医師やリハビリの先生、看護師と面談を行う際に「ADL」の言葉が登場したら、起居動作やトイレ動作について話していると考えて問題ありません。

BADLのリハビリは、理学療法士が役割を担っています。しかし、実際には作業療法士もBADLのリハビリを行う場合も多いです。

IADL(手段的日常生活動作)

IADL(手段的日常生活動作)は、BADLよりも応用的な日常生活動作を指します

「掃除機をかける」「買い物に行く」「洗濯をする」は、IADLに分類され、複雑な動作が必要です。例えば、掃除機をかける場合を考えると、歩いて移動しながら、バランスを保ち、掃除機を動かす必要があります。このようにさまざまな動きが組み合わさっているものがIADLに分類されています。

IADLのリハビリは、作業療法士や言語聴覚士が役割を担っています。しかし、こちらも理学療法士が行う場合があるため、一概には言えないのが実情です。

ADLの主な評価方法は?専門家視点で解説

ここでは、BADL(基本的日常生活動作)の評価方法を紹介していきます。医師やリハビリの先生がどういった視点で評価しているかを知っておくと、面談でご家族の現状について離す際に理解しやすくなるでしょう。ここでは「FIM」と「BI」といった評価方法を解説します。ADLの評価で重要になるのは「FIM」になります。BIに関しても知っておくといいですが、お時間のない方は「FIM」を中心にご覧ください。

FIM(フィム)

FIMは、BADLを細かく分け「しているADL」を評価する方法です

「しているADL」は、何気ない生活の中で行えている動作を指します。リハビリの中ではなく、実際に日常生活(入院生活含む)で、その動作を行えているかの評価を行います。定期的なFIMでの評価によって、リハビリの経過を追え、患者さんの状態把握にもつながる重要なADLの評価です。

FIMの評価結果は、病気やケガごとの将来的なADLの改善度を予測するのにも用いられています。次項から、どのような評価項目があり、どのような評価の仕方をしているかについて詳しく見ていきましょう。

FIMの評価項目

FIMの評価項目には「運動項目」と「認知項目」があります。すべて1〜7点で評価を行い、問題なく行えている場合は7点となります。それぞれ表にまとめましたので、1つずつ確認していきましょう。

「FIMの運動項目」

セルフケア 食事
整容
清拭
更衣(上半身)
更衣(下半身)
トイレ動作
排泄 排尿コントロール
排便コントロール
移乗 ベッド・椅子・車いす
トイレ
浴槽・シャワー
移動 歩行・車いす
階段

参照:『FIMによる評価マニュアル

表に記載しているように、動作を項目ごとに分類して評価を行っていきます。運動項目がすべて満点であれば、点数は91点となり、どれも全介助が必要であれば13点となります。

「FIMの認知項目」

コミュニケーション 理解(視覚・聴覚)
表出(音声・非音声)
社会認識 社会的交流
問題解決
記憶

参照:『FIMによる評価マニュアル

認知項目も「コミュニケーション」と「社会認識」に分類して評価を行っていきます。認知項目が満点の場合は、合計35点となり、どれも全介助が必要であれば5点となります。詳しい評価の仕方は、次項をご覧ください。

点数の付け方

細かな点数の付け方は、項目ごとに異なりますが共通した「基準」があります。FIMでは、項目ごとに必要動作が細分化されており、「割合(%)」を算出して点数を付けます。

表にまとめましたので、ご参照ください。

点数 介助が必要な程度
7点 自立(介助が不要)
6点 時間がかかる、補助具が必要、投薬が必要など
5点 見守りや準備、声かけが必要
4点 自分で行えるのが75~90%未満
3点 自分で行えるのが50~75%未満
2点 自分で行えるのが25~50%未満
1点 自分で行えるのが25%未満

参照:『FIMによる評価マニュアル

トイレ動作の評価を考えてみます。トイレ動作では次の3つの動作が必要です。

  1. ズボンや下着などを降ろす
  2. お尻などを拭く
  3. ズボンや下着などを上げる

これらのうち、1のみができた場合には「33%」で、「2点」の評価になります。

BI(バーセル・インデックス)

BIはBADLを10項目に分け「できるADL」を評価するものです。リハビリの中で最大限できる生活動作を点数化します。

BIのメリットは、患者さんの生活動作の状況を、簡易的に把握できる点です。しかし、FIMと異なり細かい評価方法になっていないため、BIのみでは患者さんの力を見定めるのはできません。

あくまでスクリーニングとして、BIを用いた評価が行われ、リハビリテーションの指標とするのが目的です。また、リハビリテーションの中でできる生活動作を評価するため、患者さんが自然に行っている動作とは異なってきます。「努力的に行えばできる」ADLを評価するものになるため、自宅復帰を目指している方だとFIMの方が重要となります。

BIの評価項目

BIの評価項目と点数を次の表にまとめました。

「0~15点の項目」

車いすとベッド間の移乗 15 ブレーキやフットレストの操作も含み自立
10 一部介助または見守りで可能
5 車いす上やベッド上で座れるが移乗はほとんど介助が必要
0 全介助または不可
歩行 15 45m以上の歩行ができる

補装具の使用下でも可

10 45m以上の介助歩行ができる

杖や歩行器の使用下でも可

5 歩行困難

車いすにて45m以上の移動が可能

0 上記以外

参照:『バーセルインデックスとは ADLの評価表

「0~10点の項目」

食事 10 自立(時間内に食べられる)

自助具の使用下でも可

5 部分介助
0 全介助
トイレ動作 10 自立
5 部分介助(身体を支えるなど)
0 全介助または不可
階段昇降 10 自立

手すりの使用下でも可

5 介助または見守り
0 不可
更衣 10 自立(靴の着脱も含む)
5 部分介助

標準的な時間以内に終えられる

0 上記以外
排便コントロール 10 失禁なし

浣腸や座薬の取り扱いもできる

5 ときおり失禁あり

浣腸や座薬の取り扱いに介助を要する

0 上記以外
排尿コントロール 10 失禁なし

集尿器の取り扱いができる

5 ときおり失禁あり

集尿器の取り扱いに介助を要する

0 上記以外

参照:『バーセルインデックスとは ADLの評価表

「0~5点の項目」

入浴 5 自立
0 部分介助または不可
整容 5 自立
0 部分介助または不可

参照:『バーセルインデックスとは ADLの評価表

次項にて、具体的なBIの評価の仕方について見ていきます。

点数の付け方

BIは、すべての項目が満点だと「100点」となり、わかりやすい評価方法です。FIMと異なり点数の付け方も非常にシンプルで、満点は「自立」、0点は「全介助」、中間の点数であれば「部分介助」となっています。

見守りで行える場合は、自立とはみなさず、部分介助とみなします。部分介助がない評価項目であれば「0点」です。見守りで行えても、項目によっては0点になるため、点数の結果を見ただけでは患者さんの能力は把握できないのが欠点です。

BIを評価するにあたって、必ずしも実際の生活動作を見る必要はありません。患者さんの認知機能が問題なければ、直接聞き取りでの評価も可能です。

ADLの低下が起こる原因

ADLの低下は、さまざまな原因で起こります。

  • 老化:筋力低下や認知機能の低下などが起こる
  • 病気による麻痺:身体の不自由が起こる
  • ケガによる痛み:痛みによる手足を動かせる範囲が制限される
  • 認知機能の低下:判断力や問題解決能力などが低下する
  • 高次機能障害(注意や空間認識の障害など):障害部位によっては認識自体が難しくなる

ADLの低下は、身体障害だけでなく脳機能の低下でも起こる場合も少なくありません。「着替え」1つにしても衣服だと認識し、着方を思い出し、手または足などどこから着るのかなどの判断が必要です。ADLの低下を防ぐには、身体機能と脳機能ともにできるだけ早い対策を行うことが大切になります。

ADLの低下を防ぐ方法

ADLの低下予防で最も大切なのは、できるだけ早い対策の実施です。病気やケガをしたのち、時間が経過するほどADLが低下していく可能性が高くなります。しかし、実際にどのような対策をとるべきかわからない方も多いでしょう。そこでADLの低下を防ぐ具体的な方法を解説していきます。

個人に合ったリハビリ

病気やケガを生じたのち、できるだけ早くリハビリを開始した方が後々のADL改善度が良くなるとされていますそのため、私たちができるのは、病気やケガをしたあとにそれを放置しないように注意し、早めの受診を心掛けることです。

しかし、すぐに専門家に診てもらっても、個人によってはリハビリを進められない場合もあります。疾患により血圧が安定せず、積極的にリハビリができないなどのケースです。その場合は、さらなる病状悪化によってADL低下の可能性があるため、積極的なリハビリを行わないようにするのが重要となります。専門家の指示に従い、個人に合ったリハビリや治療を行ってもらいましょう。

メンタル面のサポート

メンタルの低下は、ADLに大きく影響を与えます。一見、影響がないように感じますが、メンタルが落ちてしまうと、リハビリや治療に対して意欲が低下してしまうのです。そして結果的に、ADLの低下につながってしまいます。

しかし、メンタル面の自己解決は難しいため、周囲がサポートしながら一緒に解決を目指すのが大切です。病気やケガをした直後は、それらを受け入れる辛さから始まります。特に、今まで自立して生活できていたのにもかかわらず、全介助が必要になった場合はメンタル面への影響は凄まじいはずです。「話を聞く」「声をかける」などサポートを行うようにしましょう。

実際に行っているADLの訓練内容

獲得したい日常生活動作に合わせて、機能訓練や動作訓練を行います。BADLの「トイレ動作」を獲得したい場合だと、立ち上がり動作や座る動作の反復訓練。立ち上がり動作や座る動作に必要な筋力訓練。ズボンを降ろす際の腕の使い方の訓練などを実施しています。

ほかにも、IADLの「料理」を獲得したい場合だと、立つのを持続するために体力や筋力の訓練。移動を想定した横歩きの訓練。料理の工程を記憶したり、思い出したりする訓練などを実施しています。

以上のように、リハビリの専門家は、獲得したい生活動作によって必要な動作や機能の訓練を行っているのです。

ADLの維持や低下の予防だけでなくQOLの改善が大切

QOLとは生活の質のことです。ADLが低下していれば、自由な生活ができないためQOLは下がるでしょう。

しかし、ADLが自立していたとしてもQOLが低ければ、生活の満足度は低くなってしまいます。例えば、自立した生活をしていても、「将来的に介護してもらわなくてはいけない」といった不安からQOLが下がる可能性があります。つまり、心の健康が損なわれてしまうのです。そうならないように、相談できる環境を整えるなどの対策が必要となります。

いくらADLの低下を予防したり、向上したりしてもQOLが低ければ意味がないため、QOLの改善も大切なわけです。ADLとQOLのバランスを大切にしながら、ADLの低下予防を実践しましょう。

普段のADLをよく観察しよう

ご家族のADLを普段からよく見ておくのは2つのメリットがあります。

1つ目は、リハビリや時間を重ねていくうえでの変化に気づきやすい点です。リハビリを重ねていくうえで、ADLに改善が見られた場合に、ご家族に伝えられます。伝えられたご家族はリハビリに対して意欲が増し、さらにADL改善や低下予防につながるでしょう。

2つ目は、どのような動作ができて、どのような動作はできないのかを把握でき、自宅に復帰した際に向けて備えられる点です。住宅の環境を整えるのにも役立ち、大きなメリットがあります。

ADLについて知っておくと、ご家族のADLの低下予防や状態の把握につながるなど、数々のメリットを得られます。本記事が少しでも介護の役に立てれば幸いです。

ADLに関するよくある質問

Q1:ADLとは何ですか?

日常生活において欠かせない動作のことです。具体的にはトイレや着替え、食事、洗濯、調理などが挙げられます。

Q2:ADLの評価方法にはどんなものがありますか?

主なADLの評価方法は、「FIM(フィム)」と「BI(バーセルインデックス)」があります。

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