大切な家族の延命治療について悩んでいませんか?治療をするか、拒否をするかを医者や看護師に伝える際は、口頭でいいのか、それとも何かしらの書類が必要なのか迷う方は多いはずです。
この記事では、延命治療のメリット・デメリットを知った上で、延命治療について考えていただくきっかけとなるような情報をお伝えします。また、延命治療にはどのようなものがあるのかについても紹介します。
本人の意思を書き残すリビングウィルと尊厳死宣言公正証書についても解説するので、参考にしてください。患者本人が元気で判断力があるうちに、理想の最期を迎えるためにはどうすればいいのか、意思を尊重するとはどういうことなのかについて考えてみましょう。
延命治療を拒否する意味と必要な書類
延命治療を拒否する際、本人の意識がない場合は、意思を伝えるための書類が必要です。
準備に時間がかかるため、元気なうちに揃えるようにしましょう。ここでは、本人の意思を伝えるためのリビングウィルと尊厳死宣言公正証書について、それぞれの書き方や相談窓口について紹介します。
また、この2つの書類の違いについてもお伝えします。
リビングウィルとは?
リビングウィルは、本人が元気なうちに自分の最期をどのようにしたいかの意思表示しておくものです。
日本では回復の見込みが立たなくても心臓が動いている間は、人工呼吸器を装着したり、胃に穴をあけて胃ろうを作り栄養を送ったりして延命措置がとられます。
家族にとっては1日でも長く生きてもらいたいため、そのような延命措置を希望する傾向にあります。しかし、本人にとってはあちこちチューブで繋がれた状態を好まず、尊厳死や自然死を希望する方も多いのです。
そんな意思を伝えるものがリビングウィルです。
家族の決断を導くための書類
突然の事故や病気で意識がなくなったとき、さらには回復の見込みがつかないと判断された時、患者本人には意思を伝える術がありません。
しかし、リビングウィルがあれば自分の意思を尊重してもらえ、延命治療を希望するかしないかを決定してもらえます。
家族にとっては回復しないと分かっていても本人の意思が確認できない以上、諦められないケースも少なくないはずです。
また、家族と本人の希望が同じとも限りません。リビングウィルで自分の意思表示をはっきりと書き残しておけば、家族が尊厳死を判断する上での手助けにもなります。
いつ使えばいいか知りたい
リビングウィルは、病気や事故などが原因で本人の意識がなくなり、医師から延命治療をするのか止めるのかを問われたときに使います。
たいていの場合は、家族に決断が委ねられ、多くの家族はその判断を下しかねるケースが多く見られます。
しかし、延命治療は一刻を争い、迷っている時間はありません。家族にとってはゆっくり考えたいところですが、すぐに回答を求められます。そんな時、リビングウィルを準備しておけば本人の意思を尊重できます。本人が尊厳死を希望している以上、家族にとっては悲しい決断をしなくてはなりません。
書き方が知りたい
リビングウィルの重要性がわかったところで、では、どのようにして書けばいいのか迷う方は多いはずです。
実は、リビングウィルの書き方に決まりはありません。自由に書き残して、気持ちが変われば再度書き直しが可能です。書く内容としては、以下の通りです。
- 人工呼吸器はつけない
- 無理に水を飲ませない
- 無理に栄養を摂らせない
- 人工透析を行わない
- 輸血をしない
- 昇圧薬や脳圧低下薬を使わない
家族と話し合い、医師から提案される延命治療の内容を考えながら、拒否する内容を詳しく記しておきましょう。手書きでも構いませんが、できればパソコンに保存をしてください。また、最後には必ず本人と家族の署名・捺印が必要です。
尊厳死宣言公正証書とは?
尊厳死宣言公正証書は、リビングウィルのように患者本人が意識があるうちに、延命治療を望まず自然な死を希望する旨を書き記しておく書類です。
ここでは、証書を作成することについての相談窓口や、作成に必要な書類や費用について紹介します。
また、リビングウィルとはどのような違いがあるのかについてもご覧いただけますので、ご自分ではどちらの書類の方がいいのかを判断する参考になります。
自分らしい最期を伝えるための書類
尊厳死宣言公正証書は法的な意味をもつため、本人が自由に書き残せません。
かならず公証役場で公証人へ作成を依頼する必要があります。ここで注意したいのは、いきなり公証人と打ち合わせをしながら作成するのは難しいものがあるというわけです。
また、法的に効力を持たせなければならないため、まずは法律の専門家に相談しましょう。誰もが自分の死に関する尊厳死宣言公正証書を作るのは不慣れなはずです。従って、専門家に的確なアドバイスを仰ぎ、その後公証人との作成に臨んだ方がスムーズに進むことは間違いありません。
必要な書類と費用は?
証書を作成するためには、本人確認のための書類が必要です。本人確認書類は一般的なもので構いません。以下の項目のうち1点を用意してください。
- 印鑑証明書と実印
- 運転免許証と認印
- パスポートと認印
- マイナンバーカードと認印
- その他の写真付き身分証明書と認印
これらの書類は公証人との打ち合わせの際はなくても構いませんが、完成日には必ず持参しましょう。
また、書類の作成には費用が必要です。目安として紹介します。
- 基本手数料:11,000円
- 正本・謄本正本:1,000円〜2,000円
自宅や病院まで公証人に出張を依頼する場合は、別途出張費がかかります。日当として20,000円、半日では10,000円です。
リビングウィルとの違いは?
延命治療を希望するかしないかを書き記しておく書類としては、リビングウィルと性質が似ていると感じる方も少なくないはずです。
しかし、この2つには大きな違いがあります。それは、リビングウィルは自分で作成できますが、尊厳死宣言公正証書は、かならず公証役場にて公証人に作成を依頼しなければならないという点です。
また、公証人との打ち合わせにも法的な知識が必要であるため、一旦法律の専門家にアドバイスを求めておくことが理想です。面倒ではありますが、このステップを入れておくことで、公証人との打ち合わせもスムーズに進み、法的に有効性のある文章の作成ができます。
自分らしい最期を決める人生会議の注意点
人生会議とはアドバンス・ケア・プランニングの愛称で、万が一の場合に備えて家族や親しい人たち、医療ケアチームと自分の治療法や希望について話し合うことです。
人生の最期を迎えるにあたり、自分の大切にしていることを明確にし、大切な人たちに伝えておけば、もしもの事態も安心して迎えられます。
特に治療に関しては、自分の意思をはっきりさせておけば、家族の心の負担を減らせるかもしれません。ここでは、人生会議を行う際の注意点について紹介します。
人生会議をするタイミング
人生会議は特別な場所を用意して、任意の人たちに召集をかけてまでする必要はありません。
家族や親しい友人などが見舞いに来てくれたタイミングで十分です。ベッドで横になりながら現況を報告したり、世間話をしているときに、少しずつこれからのことを話せばいいでしょう。
厚生省のHPでは、医療ケアチームと何度も話し合いを重ねるなどの記載がありますが、そこまではハードルが高いと感じる方も多いはずです。
まずは、家族や身近な人たちと談笑しながら、万が一の話についても聞いてもらいましょう。また、人生会議は一度きりではありません。気持ちが変われば、再度話を聞いてもらってください。
人生会議の議題
人生会議での議題というと難しく感じる人も多いかもしれません。話をする内容としては、主に延命治療のための人工呼吸器の装着や人工栄養を取り入れるかどうかなどといった今後の治療方法についてが中心です。
これは医者や看護師といった医療チームを交えて行うより前に、ごく近しい人と何度も話し合うといいでしょう。
点滴はしたくないと本人が言っていても、家族がもう少し頑張ろうと説得し、それに応じた場合はそれも人生会議が行われたということになります。常にしてほしくないこと、希望することについての話し合いが大切です。
身寄りのない人には「任意後見制度」がおすすめ
今後の延命治療や財産管理についての話し合いは、本来は家族や親族など近しい人と一緒に行います。
しかし、身寄りがなかったり、家族はいても連絡が取れなかったりする場合は、任意後見制度が利用できます。
任意後見制度とは、本人の判断力がある間に、さまざまな事案について決定を委ねられる人物を選出しておくことを言います。依頼する人物は判断力がある成人であればどなたでも可能ですが、一般的には利害関係のない弁護士に頼る例が多く見られます。
選出した人物を選出した後は、家庭裁判所が選定する任意後見監督人の立ち会いのもと、任意後見契約を結びます。契約後は本人の財産管理はすべて後見人に委ねられます。
任意後見制度のメリット
この制度の最大のメリットは、契約内容のすべてにおいて本人の希望が自由に盛り込める点にあります。後見人の選出も自由ですし、契約内容に関しても特に制限はありません。そのため、本人の希望が叶えられ、満足度の高い契約が結べます。
さらに、選出された後見人には毎月報酬が支払われますので、この点でも大きなメリットといえるでしょう。契約書には後見人の法的な地位が証明される旨が記載されていますので、本人の代理として役所や銀行で手続きが必要になった際も、不安なくスムーズに行えます。
任意後見制度のデメリット
任意後見人のデメリットは、本人が死亡すると同時に契約が終了する点です。
そのため、死亡後の葬儀・お墓の準備や遺品整理、財産管理などは依頼できません。これらの依頼をするには、別途に死後事務委任契約を結ぶ必要があります。
また、利用開始の時期が曖昧であることもデメリットです。本人の判断能力が低下し、家庭裁判所に申し立てをしたタイミングで契約が行使されますが、判断能力の浮き沈みにはムラがあり、常時見守りが必要になります。したがって、後見人が同居人でない限り、適切なタイミングを測るのは非常に難しいでしょう。
命を伸ばすための3つ治療法とは
命を伸ばすための治療法は、人工呼吸・人工栄養・人工透析の3つです。ここでは、これらの治療内容について詳しく紹介します。延命治療は始めてしまうと中断は難しいと言われています。
また、治療しているからといって確実に延命ができるとは限りません。命を引き伸ばして、本人に苦痛を与えることにつながる可能性もあります。
そのため、それぞれの治療内容をしっかり理解しておきたいものです。治療について理解を深めておけば、冷静かつ客観的に治療を行うのか拒否するのか判断するためにも役立つかもしれません。
人工呼吸
昏睡状態に陥り自力で呼吸ができなくなった場合、人工呼吸器を装着し呼吸を確保します。この装置を装着すると呼吸をするための力を必要とせず、必要な酸素濃度の空気を肺に送り込むことができます。
そのため心肺機能が維持され、血液に酸素が送り込まれることで延命が可能になるわけです。
しかし、気管に管を通すため苦しさを感じたり、誤嚥の可能性が高まるのがこの治療法のデメリットです。また、話ができなくなり、食事も摂れない状態になってしまうため、家族にとっては、患者本人が人間らしさを失っていく姿を目の当たりにするのも辛いところでしょう。
人工栄養
意識がなくなっている状態が長く続くと、食事が摂れなくなり、栄養面が心配になります。
延命するためには人工的に栄養を取り込むわけですが、体内に栄養を送る方法としては経管栄養と胃ろうの2つがあります。経管栄養とは鼻、または口から胃まで管を通し、栄養を送り込む方法です。一方、胃ろうとは腹部に穴を開け、そこから管を挿入する方法です。
必要な栄養を効率的に摂取できる方法ですが、それぞれにデメリットもあります。経管栄養は違和感から管を引き抜いてしまう恐れがありますし、胃ろうは胃に穴を開ける手術が必要です。
人工透析
糖尿病の治療法として知られている人工透析ですが、実はこれも延命治療の一つです。腎不全に陥り、尿毒症をひき起こすと命の危険があるため、外科的措置を行い血液中の老廃物を除去します。
こうすることで電解質と水分量を維持し、腎機能の低下と廃絶を防ぐため、延命治療と位置付けられるわけです。
人工透析は毎回2本の注射針を指しますが、人によってはその痛みから治療が辛いと感じる方も少なくありません。その痛みは麻酔薬を必要とするくらいですので、たとえ本人に意識がなくても、できれば拒否したいと思う方もいるはずです。
本人の意思を尊重し延命治療の拒否を決めましょう
延命治療を行う段階では、多くの場合、本人には意識がありません。家族はそのことを理解しているうえで、命を引き伸ばすかどうかの判断をする必要があるのです。
治療を継続するのも一つですし、本人がリビングウィルや尊厳死宣言公正証書などで延命治療を希望していない場合は、その意思を尊重してあげるべきでしょう。
望み通りの最期が迎えられるように、判断力がある間に家族でしっかりと話し合いを持っておいてください。
本人の意識がなくなった時にどのようなケアを受けたいかを話し合う。治療内容だけでなく、大切にしていることや優先したいことなどについても身近な人と共有しておくといいでしょう。その際、延命治療を希望するかどうかも確認しておく必要があります。詳しくはこちらをご覧ください。
リビングウィルは家族と話し合いをしながら制作するもので、事前指示書とも呼ばれています。項目から自分が希望することを選択し、署名捺印が必要です。一方、尊厳死宣言公正証書は、自由に自分の意思を伝えられ、終末期に関しても具体的に希望が残せます。制作は任意後見人が行います。詳しくはこちらをご覧ください。